誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
「……暇だ」
のどかな春っぽい風に吹かれながら、俺は今、顔はおろか、名前も性別さえわからない人間の出待ちをしていた。理由は簡単で、シャーレに着いたはいいもののアポ無し突撃を敢行した俺(住所不定・無職)が会えるほど先生は暇じゃないからだ。思い返せば原作でもシャーレにはセキュリティがあって認められた生徒しか入れないって話があったような。そりゃあ偉い人のところにいきなり押しかけて「話があるんです!」と言っても取り合ってもらえるわけがない。しかも住所不定無職の不審者だ、つまみ出されるどころか留置所送りもやむなし。どこの生徒か聞かれなかったのは幸運だった、なにせ答えられない。出まかせを言おうにも存在しない学校の名前はすぐにバレるだろうし。
で、俺なりに先生に会う方法を考えてみた。考えてみたがニートの俺はアポなんてとったことがないもので、取り方がわからないしなにより連絡手段が何ひとつとして存在しない。結果、出待ちという行動に至ったのだ。ストーカーじみているとか言わないでほしい。方法はこれしかないのだ、たぶん。少なくとも俺じゃ思いつかなかった。
そういうわけで俺はシャーレに程近いとある場所のベンチに座って先生らしき人が出てくるのを待っている。シャーレのすぐ前で待つのが本当は一番いいのだが、それはいくらなんでも怪しすぎる。それに、先生が出てくるならばこの道を通る可能性が高いのだ。というか、この道以外はほとんど通っていないかもしれない。なぜかって、先生はとても忙しいから。それはもう、帰宅なんてする暇がないほどに。というか、ゲームだと自宅の描写なんてなかったからその存在も怪しいし、シャーレにはおあつらえ向きに居住区まで存在する。死ぬほど忙しい先生は、恐らくシャーレで寝泊まりし、ほとんど出てこないことだろう。この情報だけでは出待ちが無駄に終わりかねないというだけだけれど、一応勝算はあるから安心してほしい。
そんな忙しすぎる先生がシャーレから出てくる瞬間が少なくとも3つある。それが仕事の用事、生徒からの呼び出し、買い物だ。仕事の用事と生徒からの呼び出しは把握しようがないから無視するとして、ここで重要なのは最後の「買い物」。いかに聖人だの妖怪だの果てにはゲマトリアだと言われようとも、先生だって人間。当然、食事をとる必要はある。では、先生がどこで食事を購入するのか、その答えが今俺の目の前にあるコンビニ、「エンジェル24」だ。
先生はほとんどの食事をコンビニ飯やカロリーバーなどで済ましているという描写がある。そして、先生が使うコンビニといえばこのエンジェル24をおいてほかに存在しないだろう。ゲーム内で先生としてプレイしたときもほとんど毎日お世話になったコンビニだし、ストーリー内では常連になっていると思しき描写もあった。
そういうわけで、俺は今エンジェル24の前で張り込んでいる。中には入っていないものの、遠目かつガラス越しながらネームドキャラのソラちゃんが働く姿を見ることが出来るので目にもいい効果がありそうだ。……いよいよストーカー染みてきたが、ブルアカのいちファンとしては嬉しいのも事実。このままのんびりと待っていよう。そう思っていたのだが……。
「さすがに暇すぎる……」
すでに日は傾きはじめており、少し離れた場所に設置された時計を見れば時刻は15:00。すでにここに来てから4時間が経過していた。ソラちゃんが働く様子にも流石に飽きがきたし、なによりも喉が渇いた。しかし近くに水道らしきものはなく、ここを離れるわけにもいかない。自販機くらいならあるものの、入れるお金は一銭たりとも持ち合わせていない。長時間座っていたものだからお尻も痛くなってきた。暇だ。
もう何度目かもわからないが、エンジェル24に目を向けてボーっと眺める。ゲームでは「ショップ」という名前で強化素材を売っていたものの、遠目に見える商品は俺がよく知る普通のコンビニと変わらな……いや、よく見ると銃弾が売ってるな。流石は治安GTA。
「しかし、本当に人が来ないな、あのコンビニ」
原作でも「ここに来るのは先生くらい」という発言があったが、こんなに人通りのないコンビニというのも珍しい。いや、俺の常識がここで通用するはずもないか。ぼけ~っとアホ面をさらしていると、足音が近づいてくる。また通行人が来たようだ。今度はロボだろうか、犬だろうか。変わった動物なら面白いな、と期待しながら目を向けるとそこにはごく普通の男性が歩いているだけだった。20代後半ほどの、取り立てて特徴がないスーツの男性。
「“こんにちは”」
「あ、どうも」
挨拶をしてきたので、軽く返す。彼はそのままコンビニに入っていった。なんというか、優しくて落ち着く声色だったな。ヘイローもなかったし見慣れたなんの不思議もない姿だったけれど、どこか雰囲気のある……ん?俺にとって見慣れたなんの不思議もない姿?
「今のが先生じゃん!?」
俺の前にいたスズメが声に驚いたのか飛び立っていく。キヴォトスでヘイローを持たない人間の姿をした生命体といえば先生以外ありえないだろうが!流石にボーっとしすぎだろ俺!?
「ぬるっと登場するなよ……主人公だろ……?」
どう考えても理不尽な恨み言だけど。別にスポットライトを受けてたり背景が爆発しながら出てくるとは思ってないけど……!!もうちょいオーラとかあってもいいんじゃないか先生……!!
いや、今はそんな場合じゃない。せっかく会えたのだから話をしなくては。これを逃したらまた何時間も……最悪明日の夜明けをこのベンチで見ることになる!えっと、どう話しかけるべきだ?まずはこんにちはか?いや、さっきもう挨拶は済ませたし……。
そうこう考えているうちに先生(推定)がコンビニから出てきた。なにか買ったらしく手には白いレジ袋をさげている。悩んでいる暇はないし、もう失礼だけはないように行くしかない!
「あ、あの!」
「“あれ、さっきの。どうかしたの?” 」
「えっと、あなたは先生……ですよね?」
そうだけど……と言いながら不思議そうな顔を浮かべる先生(確定)。よかった、とりあえず人違いではないみたいだ。
「えっと、俺は……」
と、自分の名前を言おうとして詰まる。この身体の名前がわからない。俺の名前を言ってしまうべきか一瞬悩んで、やめた。たぶん言わない方が早い。詰まった俺に不思議そうな顔を向ける先生に言葉を続ける。
「わけあって、名前がわからないんです」
「“それは……” 」
「ひとまずナナシと呼んでください。呼び止めたのは、そう。相談があるんです」
心配そうな顔になった先生へそう告げて、頭の中を整理する。なにを言うべきで、どう言えば話を聞いてもらえるのか。この言い方でいいのか、少しだけ逡巡して口を開く。
「もしかすると、生徒の命が失われているかもしれません」
「“……穏やかじゃないね” 」
詳しくきかせてもらえる?と、さっきまでのゆるい雰囲気を一転させた先生が言う。はい、と返して口を開こうとすると、先生が手を前に出して遮った。不思議に思って先生の顔を見る。
「“ここで話すのもなんだし、場所を変えない?” 」
「……そう、ですね」
天下の往来で話すような内容じゃないのは確かだ。知らず知らず焦っていたのかもしれない。
「“シャーレに案内するから、ついておいで”」
「はい。……あっ、それなんですけど」
今度は私が先生を止める。いや、申し訳ないのだけれどこれだけは聞いておかなければ。
「学籍とかなくても入れますかね?」
「“……うん?” 」
忘れちゃいけない、俺は自分がわからない状態なのだ。
〇
ひとまず俺はシャーレのなかに入ることができた。考えてみればゲームではアリウススクワッドという学籍がないお尋ね者も当番として入ることが出来るのだから、そんなに心配することでもなかったかもしれない。先生がなにか手続きはしていたから、誰でも入れるというわけではないのだろうけど。
今はシャーレの中、応接室らしき場所に座っている。先生は飲み物をとってくると言って出て行ったけれど、すぐに戻って来るだろう。部屋の扉が開いて先生が入ってくる。思ったより早く戻ってきた。
「“おまたせ。麦茶でよかったかな?” 」
「はい、ありがとうございます」
先生はおだやかな笑顔を浮かべてお盆に乗せた麦茶を渡してくる。俺はにこやかにそれを受け取って、カッと一気飲みした。いや、だって喉乾いてたし。苦笑しながらももう一杯注いでくれる先生。やっぱ聖人だな、こんな人が未成年の足を舐めるわけがない。ゲーム内の行動でしていた評価を改めつつ二杯目の麦茶を半分ほど飲んだ。俺が落ち着くのを待ってくれたのだろう、先生はそこで本題に踏み込んできた。
「“それで、相談があるって言ってたけど……” 」
「……はい。信じがたいことばかり話すとは思いますが、一度最後まで聞いていただけると嬉しいです」
そう前置きを置いてから、なにを話すか考える。無計画とか言わないでほしい、こっちだっていっぱいいっぱいなのだ。少し考えて、結局本題から入ることにした。無駄な時間を割くわけにもいかないし、なにより無駄な話をして興味を無くされると困るのは俺だ。
「まず、俺は恐らくこの世界の人間じゃありません」
先生が息を呑んだのがわかる。顎に手を当てて考えるような素振りをしている先生に、なにか疑問だろうかと少し言葉を止めた。
「“えっと……それは、キヴォトスの外から来たってこと?” 」
その言葉に、今度はこちらが考える。間違いや齟齬がないようにしっかり言葉を選んで、それから口を開いた。
「たぶん、そうだと思います」
「“たぶん?” 」
「はい、俺も状況を掴み切れていないんですが……俺が元居た世界に、キヴォトスは実在しなかったので」
先生はまた驚いたような素振りを見せた。
「“ちょっと待って。実在しなかったってことは……架空の存在だったってこと?” 」
「……はい。ブルーアーカイブという物語の舞台でした」
今の言葉からすぐにそれを導き出す思考力に少し驚きつつも、正直に言葉を返す。言ってしまっていいものか少し悩んだけれど、ゲマトリアの一人はこの世界を『物語』と定義して先生と会話していたし、そこまで問題はないだろう。
「“じゃあ、生徒の命が失われてるっていうのは……” 」
「あ、いえ。俺が知る限り、物語の中で生徒の命は失われませんでした」
危うかった場面やユメ先輩のことは、さすがに影響が大きいと考えて伏せる。ホッとした表情の先生を見ながら、少し申し訳なく思う。罪悪感と一緒に麦茶を飲み下していると、先生が顔に疑問の色を浮かべた。
「“あれ?でも生徒が危ないっていうのは……” 」
「命の危険があるかもしれないのは、俺の持ち主です」
「“……持ち主?” 」
聞き返す先生に、頷いて返す。震える手を机の下に隠し努めて平常心を保ちながら、俺は言う。
「俺は、もと居た世界ではこの身体じゃありませんでした」
「“……それは” 」
驚きか、焦燥か、とにかく言葉を詰まらせた先生に向けて俺は言葉を続ける。
「先生、俺の相談内容は……『俺が人殺しでないか調べてほしい』、です」
俺の身体の持ち主がもしも居たのならば、俺は彼女を乗っ取っていることになる。未来ある少女の未来を奪うそれは、人殺しとなんら変わりないのではないだろうか。けれど俺にはそれを確かめる手段も、どうにかする手腕もない。だから、先生を頼った。生徒のお願いではないそれに、それでも先生は首を縦に振ってくれた。
※エンジェル24はシャーレ居住区にあり、出待ちはできません。投稿後に気付いてしまったので、私のキヴォトスではこうなんだということにさせてください、申し訳ありません。オリ主と同じ状況になったら別の方法を模索していただきますようお願いいたします。