誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
さて、そういうわけで俺たちは夜の
そして、今はスイーツショップに入っている。話題がハスミさんの話になってダイエットをしている云々がコハルによって暴露されたんだけど、ちょうどそのタイミングでこのお店が目に入ったから少し食べて行こうという話になったのだ。それでもって、噂をすれば影が差すという噂は本当だったらしく……。
「……あら?せ、先生……?それに、ナナシさんまで?」
「“ハスミ……!?”」
「あら、それが限定パフェですか?なにやらたくさん……」
なんと、スイーツショップの中にはハスミさんがいた。店内の机にパフェを3つ据えて、スプーンを持ったまま固まっている。俺は原作知識で知ってたけど、この量のパフェは予想外だった。今の俺だとたぶんひとつも食べきれないサイズ感だ。ダイエットしてるんだよねみたいな話を聞いた後にこれを見るのは、なんというか、その、気まずい。ハナコが即座にイジリに行ってる……すごいなお前、俺たち規則違反者だぞ?
というか、ハスミさんは背が高いから当然適正体重みたいなのも大きいだろうし、そこまで気にする必要ないと思うんだけどな。この量のパフェは、流石にちょっとあれだけど。
そんなことを考えている間にハナコとハスミさんの間でなにやら協定が結ばれていた。内容は要約すると「お互い見なかったことにしませんか」、だ。ハスミさんはダイエット中にパフェを食べていることを乙女として知られたくなくて、俺たちは普通に規則違反を知られたくない。お互いにwin-winな……本当にそうかな、ハスミさんは別にバレても問題ないけど俺たちの方はバレるとそこそこの問題な気はする。ともかくそういう協定が結ばれたので、だんだんと場は和やかなムードに移行していった。
「では、そういうことで。……こほん、コハル、お勉強頑張っていますか?」
「あ、えっと、その……」
「コハルは勉強頑張ってますよ、成績がどんどん上がってるんです」
流れるようにコハルへと話題を向けたハスミさん。コハルがちょっと困っている様子だったので、助け舟を出してやる。もしかして今の俺すごい年長者っぽいんじゃないか?
最後に「俺が保証します」、と付け加えると、ハスミさんは「そうでしたか」と言って湯気の出ている紙コップ──たぶんコーヒー──に口をつけた。
「それはなによりです。あのときも言ったではありませんか、コハルはやればできると」
ああ、そういえば俺はあのとき上の空だったけど、一緒に押収物管理室へ行ったときハスミさんはコハルを応援してたんだっけ。コハルにしてみれば憧れの先輩からの応援だし、思えばあれから勉強により積極的になっていたような気がする。
「は、はい。私、精いっぱい頑張ります。は、ハスミ先輩の期待を、裏切りたくないですから……!」
「はい、引き続き応援していますよ。そういえば、ナナシさんもお勉強をされてるとお聞きしましたが……」
「うぇっ!?」
急に俺の方に話題が飛んできてびっくりする。俺のことはどうでもいいよぉ、コハルの話だけしようよぉ。ケアレスミスのせいで未だに合格点取れてないのちょっと恥ずかしいんだよ。ハスミさんはコハルから見れば先輩だけど、俺から見ても職場の先輩なのだ。できればかっこ悪いところは見せたくない気持ちがあるんだよね。
「“ナナシもがんばってるよ。そろそろ合格点に届きそうなんだよね、ナナシ”」
「え、あ、はい……」
「そうですか、コハルも一緒に教え合う仲間ができて嬉しいと思います。これからもよろしくおねがいしますね?」
返答に窮していると、先生が助け舟を出してくれた。今の俺すごく年長者っぽくないんじゃないか?それにしても、「これからもよろしく」ね。たぶん、これからもコハルと仲良くしてねってことだろう。そんなのは当たり前だ。
「当たり前じゃないですか、友達なんですから」
「……ふふっ、そうですね。ナナシさんはそう言うと思いました」
今度シャーレに美味しい御菓子を送りますね、と言って笑うハスミさん。えぇ……?いや嬉しいけど、いいんだろうか。俺がコハルと友達で居たいのは俺の意思だし、別にそんなの送らなくてもいいのにな。御菓子は欲しいけどさ。ん?なんか頭の上に手を置かれた感触が……。
「わ、ハスミさん!?なんで頭撫でるんですか!?そういうのは俺じゃなくてコハルにやってあげてくださいよ!」
「ふぇ!?」
「……そうですね。コハルも頑張っているようですし。コハル、こっちに来なさい」
「は、はい……」
呼ばれたコハルがおずおずとハスミさんのもとへ近付く。そうしてハスミさんがコハルの頭に手を置き……その瞬間、ヴヴヴヴ、という音が聞こえてきた。たぶんマナーモードの着信だと思う。誰のものかと思っていると、ハスミさんが怪訝な顔をしながらポケットに入れていたらしいスマホを取り出した。「失礼」、と断りを入れてから電話し始める。
「…………はい、イチカ?どうかしましたか?」
そのまま話し込み始めるハスミさん。あの、なんかコハルの表情伺えないけど怒ってるっぽいオーラ出てるんですが。ハナコ、あらあらじゃなくて。これ隣に居るの結構怖いんだけど。というかあの電話もマズイ。
今思い出したけど、原作通りの展開ならこの電話は美食研究会というゲヘナの部活(?)が起こした事件についてのはずだ。で、この美食研究会。一応部活とは言ったけどその実態はほとんどテロ組織に近い。『究極の味』というよくわからないものを求めてキヴォトス中の料理店に出没するんだけど、気に入らない、というかマズイ料理を出されれば即その店を爆破、爆破、爆破……。しかも炊き立てごはんじゃなく冷凍のごはんを出したからという理由で爆破された店もあるくらいには味にうるさい。
マズイ・即・爆の信条を掲げているかは知らないけれど、とにかく『美食』のためならなんでもする集団、それが美食研究会だ。とはいえ、彼らはゲヘナ学園所属。仲の悪いトリニティに出没する確率は(たぶん)低めなんだけど……今回は話が違う。トリニティの水族館で『ゴールドマグロ』という珍しい魚が展示されるということではるばる足を延ばしてきたのだ。迷惑な話だね。
で、これがどう俺にとってどうマズイのかって話なんだけど……。
「突然のことですみませんが、みなさんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」
この事件、ハスミさんが
「美食研究会、絶対に許さない……!!」
隣で怒りの炎をメラメラ燃やしてるコハルに任せちゃダメかなぁ。
〇
さて、「やりますか!」みたいな雰囲気になったので移動し始めた俺たちだけど……実を言えばこの事件、普段ならば正義実現委員会だけで解決する問題ではある。そりゃ仮にも治安維持組織、このくらいの事件に対処できないのではそれを名乗ってはいられない。ならどうして補習授業部の力が必要なのかといえば、その答えは政治的な問題になる。
難しいから俺もよくわかってないんだけど、要はゲヘナとトリニティの平和条約であるエデン条約の直前に
だからトリニティの公的武力でない補習授業部を、どの自治区の争いにでも介入できる
「“ナナシはその地点で待機。フラッシュの用意をしておいて”」
「……了解」
そんなことを考えているうちに待機地点へと着いたらしく、耳に着けたインカムから先生の声が聞こえる。このインカムはシャーレ特製のもので、移動中に渡されたものだ。これを通じて先生の指揮が聞こえるようになっている。こちらの声も聞こえるらしいんだけど、先生は同時に言われても聞き分けられるんだろうか、ちょっと不思議だ。
ともあれ、指示通り『パーフェクトガーディアン』のモードをフラッシュに切り替える。このモードはコトリさん曰くフラッシュグレネード並の光を一方向に照射するライトらしい。そう、俺の役割は目くらましだ。いろんな機能がある『パーフェクトガーディアン』を持つ俺だからこそできる役割だといえる。……はい、先生に正面戦闘は嫌ですと頼み込んだらこのポジションにしてくれました。というか人に銃を向けることにも抵抗があるくらいだから、俺に正面戦闘とか無理なんじゃないかな。
作戦としては待ち伏せ。アズサとヒフミが前線、ハナコと俺が後衛という配陣で、逃げる美食研究会を待ち伏せる形になっている。
「“ナナシ、10秒後にフラッシュお願い”」
先生の指示に軽く返事をして、引き金に指をかけて構える。足は肩幅に開き軽く膝を曲げ、重心を前めにして腕をまっすぐ伸ばす。エンジニア部の方々に教えてもらった
──9。車のエンジン音が聞こえる、恐らくは美食研究会のものだ。手汗がひどいので、軽くグリップを握りなおす。
──8。曲がり角の向こうからドリフトしつつ爆走している車が飛び出てきた。思わず引き金を引きそうになるのをぐっと堪え、落ち着くよう自分に言い聞かせる。
──7。車のヘッドライトが俺の方を向く。ハイビームにしているのかかなり眩しいけれど、俺は正確に狙いをつける必要はないから大丈夫。
──6。まだ俺のことを認識していないのか、銃撃はない。あるいは跳ね飛ばそうとしているのか。
──5。だんだんと車が近づいてきた。そこそこ大きい車両で、まっすぐ迫って来るのにはかなりの恐怖を感じる。
──4。いよいよ車の音が大きく聞こえる。
──3。俺に気付いたらしく、足元で銃弾が弾けて……もう無理限界!!こんなんほぼ前線じゃん!!!
──2。冷静にとか無理!!ヤバイヤバイヤバイ轢かれる!!轢かれるって!!これもう引き金ひくべきなんじゃない!?
──1。あ、やばい。恐怖で指うごかな……
「“ナナシ、今っ!!”」
「ひゃい!?」
先生の声が耳元で聞こえて、反射的に引き金を引く。バンッ!という何かが弾けたような音がして、目の前が真っ白になった。思わず目を瞑る。瞬間、甲高いブレーキ音となにかが衝突する音が聞こえ……恐る恐る目を開くと、そこには俺の前方10mほどで盛大に事故っている美食研究会の車が。俺がフラッシュを焚いたタイミングが遅かったのか、アズサたちの前線組よりこちらで事故っている。や、やったか……!?
「まだ前が見えないよ~!!今のなに~!?」
「フラッシュグレネードですかね~?迂闊でした☆」
「ジュンコさん!ゴールドマグロは無事ですか!?」
「たぶんまだ無事だけど、燃えはじめてる匂いがする!」
のろのろフラフラと車から這い出てきたかと思えば「急いで消しますわよ!」と大慌てで車の消火活動を始める美食研究会。しょ、食への執念がすごい。まだ視力が回復してないからって手探りで消火活動してるよあの人たち。火傷とか怖くないのかな。というか、ここ敵地のど真ん中なんだけどなんでそんな余裕なの?
「ふぅ、やっと見えるようになってきて……あら?」
で、消火活動をしている途中に黒舘ハルナが顔を上げ……ようやく状況に気付いたらしい。ここは先生が指揮した待ち伏せ作戦のランデブーポイント。つまり、完璧に敵の術中にはまっているわけで……。
「うーん、どうやら囲まれてしまったようですね★どうしましょう?」
そう、ここには既に補習授業部だけではなくハスミさん指揮下の正義実現委員会もそろっているのだ。完全な包囲網、もはや逃れることはできない!勝ったな、ガハハ!赤司ジュンコがなにやらバラバラに逃げるとか言ってるけど、そんな作戦が通るようなやわな感じじゃないぞ!たぶん!
「いえ、それよりも一点突破を狙いましょう」
「一点突破?」
「えぇ、私の目には、この包囲網の穴が見えていますので」
小声でなにやら話し合っている様子の美食研究会に向け、正義実現委員会が一斉に銃弾を撃ち込もうとして……瞬間、美食研究会が一斉に走り出した。こちらに向かって。……こちらに向かって!?
「えっ、わっ、わわっ」
「“ナナシ、落ち着いて!射撃モードに切り替えて!”」
「ひぇ……」
インカムから先生の声が聞こえるけど、何を言っているのか頭に入ってこない。もしかしなくても包囲網の穴って俺のこと!?あ、ヤバイ。どんどん突っ込んでくる。誰か!誰か助けて!!!
〇
side:ハルナ
「みなさん、いきますわよ!」
合図をかけ、一斉に一方向へと走り出す。向かう先は
「えっ、わっ、わわっ」
狼狽えるばかりで銃を構えなおす様子もない、きっと初の実戦なのでしょう。ですが、敗北の苦い味もまた確かな味。しっかり味わわせてさしあげますわ!
銃身にチカラを集め、発射の準備。理屈はよくわかっていないのですが、こうすると銃の威力が上がるからやっていますわ。バチバチと銃口から火花に似た光が噴き出るのを確認し、照準を合わせ……撃ち放つ!
「やりましたね☆」
「直撃じゃん、エッグ……」
アカリさんとジュンコさんが私の撃った弾が新米ちゃんに当たったのを見てそう言いますが……いえ、手ごたえがおかしいですわ。ないのではなく、
「あれ?痛い、けど……」
「うそでしょ!?なんでハルナの直撃喰らって平気なの!?」
煙が晴れたそこには、不思議そうな顔で立ち尽くしている新米ちゃんの姿が。冗談でしょう!?これでもあの一発の火力には自信があったのですが……!?
「どうしますハルナさん、今からでも散りますか?」
「っ、いいえ、相手の動きは素人!このまま突破しますわ!」
「えぇ~!?あれ絶対ヤバいって~!!」
イズミさんが叫んでいますが、所作や動きは完全に素人のもの。このまま進めば倒さずとも最悪一人犠牲にするだけで突破できますわ!
「やばいやばいやばいこれどれが射撃モード!?わかんないもういいや喰らえ!!」
新米ちゃんはなにやらゴテゴテした拳銃らしきものを弄っていたかと思うと、いきなりこちらにその照準を合わせて……これは、テーザーガン!?
「あばばばばばば!?」
あ、イズミさんに当たりましたわ!危なかったです、とっさに彼女を盾にしていなければあそこで焦げていたのは私だったかもしれません。それにしても、変に多機能な拳銃ですわね。これだけの機能を盛り込んでいるならばきっとミレニアム製なのでしょうが……っと、そんなことを考えているうちにもう新米ちゃんとの距離がこんなに近く!!あれだけの硬さがあるならお互いに弾を外さない
「ご、ごめんなさいっ!!!」
「……え?」
「あら?」
「逃げちゃいましたね★」
……そういえば、所作は完全に新米のそれ。本当に新米だったのなら、実戦で敵三人に近づかれれば逃げ出すのも無理はありませんわね。あれだけの硬さを持っているのにもったいないとは思いますが、助かったのも確かです。このまま抜けさせてもらいましょう。
「“そうはいかないよ”」
瞬間、拡声器越しに誰か男性の声が聞こえたかと思うと銃声が聞こえ……っ!?
「がっ!?」
「くっ!?」
「えっ、二人とも!?」
……ここまで、ですわね。アカリさんともども綺麗に足を撃ちぬかれましたわ。降参の意を示すために両手を挙げると、いつのまにか追いついていた正義実現委員会の生徒たちが銃を下ろしてくださいました。ゲヘナならそのまま撃ちぬかれていましたが……今後はトリニティで探究するのもありかもしれません。手錠を掛けられ拘束された私たちに誰か男性が……ああ、この方が先程の声の主でしたか。
「……あなたが指揮を執られていたのでしょうか」
「“うん。私はシャーレの先生だよ。正義実現委員会と直接の関係はないんだけど、成り行きで”」
なるほど、シャーレの。ということは、私たちはかなり運が悪かったようですわね。
「まさかあの硬い新米ちゃんを囮に使うとは思っていませんでしたわ」
「“あの位置はナナシしか適任がいなくて。本当はコハルとハスミにもっと早く撃ちぬいてもらうつもりだったんだけど……”」
そう言って言葉を濁す先生。おそらくポジションが悪く、あの新米ちゃんが射線を塞いでしまっていたのでしょう。……ところで、私たちの処分ってどうなるのでしょうか。他の学校の自治区で、しかもトリニティで捕まったのは初めての経験ですから多少の不安はありますわ。こういうときはいつもジュンコさんが聴いてくださるのですけれど……。
「えっと、先生?私たちの処分って……」
「“風紀委員に引き渡されるらしいよ”」
あ、聞いて下さいましたわね。先生が言うにはゲヘナの風紀委員に引き渡されるとのこと。つまり、私たちの処遇はヒナさんに一任されるということですわね。……先生、今からでも入れるシャーレはあったりしないでしょうか?