誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
さて、俺はこの世界に来てから……というか来る前も含めて初めての戦闘をしたわけだけども、先生からは「悪くなかったよ」という評価をいただいた。確かにテーザーガンの威力頼りとはいえ獅子堂イズミを気絶させたわけだし(ちょっと威力高すぎやしないかと思った)初戦闘の戦果としては悪くないのかもしれない。途中からもうほとんど覚えてない上にテーザーガンは完全なラッキーパンチではあったけど。しかも後から狙撃手の射線塞いでたよって言われて泣きそうになったし、なんなら戦闘中に泣いて逃げ出したけど。
……ともかく、改めて戦闘を振り返ると不思議だったのは俺の
結果、俺が行きついた結論は「俺の『神秘』かなり強い説」だ。そもそも神秘ってなんやねんって話なんだけど、これはブルアカの世界においてはとりあえず『不思議パワー』って認識でいいと思う。なんか神秘的なことを起こせるエネルギー、くらいな認識で。で、この『神秘』なんだけど、実は生徒にも宿っている。というか、生徒に宿ってるのが基本なのかもしれない。とにかくブルアカにおける『生徒』は神秘を持っているわけで、そのエネルギーのお陰で銃に撃たれても平気なくらいの耐久力だとか、重い物を簡単に持ち上げられる細腕に見合わない膂力だとかを得られている……って、考察されてた。前の世界のネットで見た。俺は考察勢じゃないからよくわかんない。
重要なのはここからで、その神秘には生徒によって強弱、というか量の多寡がある。原作だと小鳥遊ホシノというキャラが「アビドス最高の神秘」って呼ばれてたし、もしかしたら質とかもあるのかも知れないけど……今ここで大事なのは神秘が強いほどその生徒は硬くなるっぽいってことだ。今挙げた小鳥遊ホシノというキャラは地面を溶かすような熱線を喰らってもかすり傷程度だったし、ゲヘナ学園の最高戦力である風紀委員長空崎ヒナもネームドキャラの狙撃を頭に受けて余裕、巡航ミサイルの直撃を喰らってなお活動可能など異次元の硬さを見せつけていた。
つまり、俺も黒舘ハルナの攻撃受けて無傷ってことは空崎ヒナくらいの硬さはありそうだし、神秘が強いんじゃないかなって。なんで強いのかは全くわかんないけど。でも、この『神秘』って攻撃力にも関わって来るんだよな。エンジニア部で試射したときはそこまで威力すごいみたいな話にはならなかったし……上手く攻撃に『神秘』を乗せられていないとかかな。某休載漫画で言うところの流とか周ができてないみたいな。
「ナナシちゃん、朝ですよ。そろそろ布団から出ましょう?」
「やだぁ、外怖いぃ」
真面目な考察をしている俺の頭上からハナコの声が降ってきた。え?今何してるのかって?籠城戦ぅ……ですかねぇ。いやだって仕方なくない?俺昨日銃で撃たれたんだよ?しかも頭だよ頭!!本来だったら汚ねぇ花火になって柘榴パッカーンってなってるんだよ!?外も怖くなるってもんでしょ!?なぁ!?
「あ、あはは……こ、困りましたね」
「昨日の戦闘で前線を張っていたし仕方ない……のか?」
「あ、アズサちゃん、そこは言い切ってあげた方が……」
ヒフミとアズサがなにやら話しているのが聞こえる。そうですよ俺はどうせチキンですよ、ちょっと痛いくらいの銃弾にビビり散らかす鶏野郎ですよ。
「ナナシ、大丈夫だ」
「……?」
「あ、ナナシちゃんが顔を出しました!」
大丈夫ってどういうことだろう。もしかして守ってくれたりするのかな、と期待を込めて布団から顔を出す。あ、コハルが静かだと思ったらまだ寝てるのね。周囲の状況を確認して怖い物がなさそうだと思った俺は、アズサの言葉を聞く姿勢になる。
「私と一緒に訓練しよう。すぐに恐怖はなくなるはずだ」
「……ひん」
「あぁっ、また布団の中に……」
なぜだ、と不思議そうなアズサの声が聞こえる。なぜだじゃないよぉ、訓練なんてやだよぉ、辛いのも苦しいのもやだよぉ。一生ここでヌクヌク過ごすんだい!もうこの布団から出ないことにしよう。ここが俺の居場所だ。俺の城だ。あ、扉開いた音したな。
「“えっと、どういう状況?”」
「あ、先生。実は……」
今回はちゃんと入室してきたらしい先生に、かくかくしかじかと説明を始めるヒフミ。ふん、いかに先生であろうともこの俺の鉄壁の守りを崩すことは敵うまい。というか昨日結果的にとはいえ前線に立たせたの許してないからな!俺ちゃんとやだって言ったのに!
「“なるほど。じゃあ、コハルを起こして先に行ってようか”」
「え?で、ですが……」
「“大丈夫、大丈夫”」
え?俺放っておかれるの?い、いや全然いいけどね。ずっとここに居るためには普通に好都合だし。一人とかもうめちゃんこ慣れっこだし。先生の知略もしょせんはその程度、これは俺の初勝利来ちゃうかもな~。いいのかな~。
そんなことを考えている間にコハルの準備が終わったらしく、みんながゾロゾロと外に出て行く気配がする。バタン、と扉が閉まって……え?うそ、本当に置いてかれた?
「こ、このままだと俺の思い通りだな~」
布団に入ったままそう言ってみるけれど、どこからも反応が返ってこない。マジで部屋から人いなくなったの?本当に俺一人なの?あ、いや全然いいんだけどね?ただ大丈夫なのかな~って。
「い、いいのかな~!?俺の思い通りなんだけどな~!?」
ちょっと声を張り上げてみる。今度はたぶん部屋の外にも届いたと思うんだけど……もしかしてもうみんな教室の方行っちゃった感じ?え、俺置いてかれちゃった?本当に?
「……」
特に理由はないけどそろそろ起きようかな。いやマジで全然理由とかないんだけど、みんな俺が居ないと寂しいだろうし行ってあげようかな。俺これでも年長者だし、ここは俺が大人になるシーンだよな、やれやれ。仕方がないから折れてあげますかね。急いで着替えてからドアを開けて……。
「ほ、本当に出てきました……!」
「ナナシちゃんは意外と寂しがりやさんなんですね♡」
「なるほど、籠城作戦にはこういう対処法もあるのか。勉強になった」
「なんなの……?」
そこにはめちゃくちゃ皆が待ち構えていた。コハルだけ寝起きで状況をよく理解していない様子だけど。……え?まさかとは思うけど、俺ハメられた?呆然としていると、ポンと後ろから肩を叩かれる。そこにはさっきまでいなかったはずの先生が良い笑顔で立っていた。
「“自分から出てきていい子だね、ナナシ”」
……ちくしょう!
〇
あのあと復讐として朝食に出た先生の分のデザートを奪ってやった。微笑ましい顔をされるだけだったので効果のほどは定かじゃないけど、とりあえずプリンは美味しかったので許すことにする。さて、そんな朝の一幕もあったわけだけど俺たちは補習授業部だ。断じて水着で会話をする変態集団でも、正義実現委員会を手伝う戦闘集団でもない。学力試験の合格を目指す集団だ。なので、今日は当然のように勉強をしている。
そして今日の俺は気合の入れようが違う。今朝は忘れていたけれど、今日は第3次補習授業部模試の日。そう、ウェーブキャットさんを手に入れるチャンスがまた巡ってきたのだ。昨日の疲れこそあるものの、集中力が落ちるような状態じゃない。というかもう受けたんだけど、そこそこの手応えがあった。今度こそウェーブキャットさんを手に入れるんだ。ヒフミが教壇に立ち、声を張り上げる。
「では、結果を発表しますね!」
第3次補習授業部模試、結果──
ハナコ──69点
アズサ──78点
コハル──70点
ヒフミ──85点
ナナシ──78点
「や、やりました……!?」
「や、やったーっ!!」
「ほ、本当!?嘘ついてない!?」
「あらあら♡」
アズサは感極まった様子で、言葉にこそしていないけれど口角が上がっているし、みんなそれぞれ嬉しそうな反応だ。よし!俺もついに合格点を超えた……というか、ハナコ以外は軒並み原作より点数上がってない?ハナコはたぶん狙ってこの点数取ったんだろうからわかるけど、他のみんなはなんで点数上がってるんだろ。ヒフミは自分の勉強時間が取れたからなんだろうけど、コハルとアズサについては本当にわからない。
「アズサちゃんすごいです!60点どころか80点に迫る勢いじゃないですか!本当にすごいです!」
「……うん!」
ヒフミがアズサの手を取ってぴょんぴょん跳ねてる。わかる、教えた側としては嬉しいよな。俺も多少なりともアズサに教えた人間だから、この結果は素直に喜ばしい。もっとも、最近はお互いに教え合うって感じになってるけど。
「コハルちゃんも!70点超えなんてすごいです!最初の点数からは考えられないような成長ですよ!」
「ゆ、夢とかじゃないよね……?ほ、本当に……!」
「ほっぺつねりましょうか?」
「い、いらない!これが私の実力よ!」
あ、ハナコがコハルのほっぺ抓ろうとした手を振り払われてる。でも、そっかぁ。コハルもこんなに成長したんだよな。
「コハルは本当にすごいなぁ」
「え?な、なによ急に!?当たり前でしょ!」
「ううん、当たり前じゃないよ。毎日頑張って、最初では考えられないような点数を出した。正義実現委員会とかエリートとか関係なく、コハルはすごい人だよ。素直に尊敬する」
「あ、あうぅ……」
コハルは照れた様子で、頭の羽根を使って顔を隠してしまった。でも、本当に、本当にすごいと思う。言ったら悪いけれど、たぶんコハルの地頭はこの中だと一番悪い。それは伸びが一番悪いってことで、焦燥感みたいなものもあったはずだ。なのに腐らずここまでひたむきに努力してきた。ずっと努力してるのはみんな同じだ。でも、比較するのがおかしいとわかっていてもコハルが一番すごいと思う。
「そ、それを言ったらナナシだってすごいじゃない!」
「……へ?」
いきなり言われて、少し面食らってしまう。
「そうですよナナシちゃ……なんで不思議そうな顔してるんですか!?」
「そうですね。ナナシちゃんはスタートラインが一番下だったのにもうこの点数を取れているんですから、誇っていいと思いますよ♡」
「でも、それはみんなが居てくれたからで……」
そうだ、俺の点数は俺がすごいわけじゃなくて、みんなが居てくれたおかげだ。ヒフミとハナコに教えてもらって、アズサとコハルには教え合う仲間でありライバルで居てもらった。俺一人だったら勉強を途中で投げ出して、こんな点数を取ることはできなかったと思う。
「それは私だってそうだ」
「アズサ……?」
「一人だったら途中で投げ出していたかもしれない。ナナシが、みんなが一緒に居てくれたから頑張れたんだと思う」
「そっ、か……」
俺、ちゃんと努力できてたのか。俺も、ちゃんとすごかったのか。実感みたいなものが湧いてきて、今まで以上に嬉しくなる。ニヤけた顔を見られたくなくて、バッと顔を逸らした。……なんだか生暖かい視線が背中に当たっている気がするけど、きっと気のせいだ。ああでも、そうだな。努力を認めてもらうことって、こんなに嬉しいのか。
「それに、ハナコちゃんも……」
ヒフミがハナコの方に水を向けた。そういえばハナコの点数は大幅に上がっていた。いつあったイベントかまでは覚えていないけれど、原作だと先生とヒフミとの『夜の密会』で合格しないと全員が退学になってしまうことを知って本気を出していたから、きっとそれが起きたのだろう。ハナコは「運が良かった」なんて笑っているけれど、お前間違いなく狙ってやっただろ。69点てお前。
「良かったです……ハナコちゃん、うぅ……」
「ひ、ヒフミちゃん……?」
あ、ヒフミが泣き出した。慌てた様子のハナコに、「ハナコちゃんがなにを抱えているのかは分からないけどよかった」と言うヒフミ。
「前の実力をすぐ取り戻せるよう、私もお手伝いしますね。本当に、本当に良かったです……」
「ごめんなさい。ご心配をおかけしてしまって。事情については……先日も言った通り、順番を守らないといけないので」
「はい、待ってますね……!」
俺もハナコの問題がちゃんと解決に向かっているようでよかったと安心して……ん?「順番を守る」?そんな会話原作にあったっけ。ハナコは事情については普通に「言わない」みたいなこと言ってた気がするんだけど。
「……ということで、約束通りモモフレンズグッズの授与式を始めますっ!」
「!」
「……っ!?」
そこに思考を割こうとした瞬間、ヒフミの声が俺を現実へと引き戻す。見ればいつのまにか教壇の上にあの日と同じモモフレンズの群れが居た!そうじゃん、今日のメインイベントこれじゃん。なに忘れてんだ俺、アホなのか?……あ、ハナコとコハルが即座に辞退してる。判断が早い。じゃあ俺はウェーブキャットさんを……っと、あれ?アズサにくいと袖を掴まれた。なんだろう。
「ナナシ、その……私には決められそうもないんだ。どうすればいいだろうか」
そう言って眉をハの字に曲げるアズサ。ふむ、と少し考える。俺からすればウェーブキャットさん一択だと思うんだけど、アズサはモモフレンズ全般が気に入っている様子だ。となればヒフミに丸投げするのが良い気はするんだけど……でも、俺が聞かれてるんだよなぁ。なら、丸投げするのは違う気がする。うん、そうだ。
「じゃあ、一緒に考えよっか。まず、アズサはどの子が好きとかある?」
「え、えっと……あの黒くて角が生えたのと、メガネのカバが……」
「か、カバではなく、ペロロ様は鳥なのですが……」
ふむ、スカルマン様とペロロ博士か。どちらもレア度的にはそう変わらないし、設定で選ぶか?たしかペロロ博士は物知りで勉強もできたはずだから……あ、でもちょっとおかしくなってるみたいな設定あったな。え?なんで知ってるのかって?ヒフミに延々聞かされたからだよ。
「う~ん……ヒフミにも考えてもらおっか」
「え?わ、私ですか?」
なんで意外そうな顔してるんだよ。この場で、というかキヴォトス有数のモモフレンズマニアでしょうがあなたは。ヒフミに頼んで二人の設定を聞かせてもらう。
……やっぱりちょっとおかしくなってるのね、ペロロ博士。でも、そうだなぁ。スカルマン様よりは今のアズサに合った設定な気がする。
「──というわけなので、私はどちらかといえばこのインテリなペロロ博士の方がいいかと……」
「うん、俺もそっちの方がアズサに似合うと思うよ」
「……!よし、じゃあこの子だ!」
俺たち二人の紹介とオススメを聞いてペロロ博士を選んだアズサ。ニコニコしながら頬擦りをしている。うんうん、よかったよかった。──ふと、その感情に違和感を覚えた。
「うん、気に入った。本当に可愛い。好き。えへへ……」
「“よかったね、アズサ”」
先生の言葉に「うん」、と笑顔でうなずくアズサ。それから彼女は俺とヒフミの方を向いた。──嬉しい感情が強くなる。同時、違和感も強くなる。
「ありがとう、ヒフミ。これは一生、大切にする」
「そ、そこまで言っていただけるとちょっとびっくりしてしまいますね……!?」
そう言ってあわあわするヒフミだけれど、すぐに「ですが、私も嬉しいです」と笑顔になる。アズサがいっそう笑みを深くして──彼女がこのあとなにを言うのか
「それから、ナナシも。ヒフミとナナシに選んでもらった、友達からもらった初めてのプレゼントだから……だから、このカバを二人だと思って大事にする」
ふんす、と鼻を鳴らしてそう宣言したアズサ。ペロロ様はカバじゃなくて鳥なのですが、とツッコむヒフミ。俺は……どう答えればいいかわからなくて、黙り込んでしまう。俺は
仕方がないことだと知っている。ほかに手段がなかったことも知っている。でも、今の俺はこの展開がどうしようもなく気に入らない。ならば、だから。俺が言うべきは。急に黙った俺へと不思議そうな、心配そうな目を向ける二人に。宣言する。
「うん、俺が、ちゃんと大事に
俺の言葉にヒフミとアズサは疑問符を浮かべている。うん、そうだ。このまま、意味がわからないままにするのが良い。改めて決意して、俺は席に戻り……。
「あれ?ナナシちゃんは要らないんですか?」
……ウェーブキャットさんを手に取ってから席に戻った。今ちょっとカッコイイ感じだったんだけどな。ウェーブキャットさんは欲しいから仕方ない。
〇
その日の夜。俺は、みんなが寝ている部屋をそっと抜け出した。そのまま先生の部屋に行き、扉をノックする。
「先生、相談が……いえ、頼みたいことがあります」
この世界に来てから、初めての原作への干渉が。俺の第二歩目が──始まる。