誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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秘密の語り方を教えてくれ

「は、初めから知ってたってどういうこと?」

 

 痛いほどの静寂を破ったのは、困惑した様子のコハルだった。本当に意味がわからないといった様子で……まあ、そりゃそうだ。普通に考えて未来を知っているなんて、ましてや物語として知っているだなんて結論に行きつくわけがない。ちゃんと一から説明しなくちゃな。

 

「そのままの意味。俺は、この世界の人間じゃないんだ」

「は、はい……?」

 

 今度はヒフミが困惑の声を上げた。俺は、それを半ば無視するように言葉を続ける。

 

「俺は別の世界で暮らしてた。そこには、ブルーアーカイブってゲームがあった」

「いきなりなに言って……」

「そのゲームのストーリーに、エデン条約編ってのがあった」

 

 ハッと、アズサが息を呑む音が響く。彼女の雰囲気に意味のない話でないことを察したらしく、ヒフミとコハルも真面目な顔に変わった。そう、これはゲームの(ストーリー)だった。俺が好きな、ファンだという、言ってしまえばそれだけの。単なるソシャゲの話だった。でも、今の俺にはそう思えない。ストーリーを思い返しながら、みんなで過ごした思い出(アーカイブ)を振り返りながら、俺は言葉を吐きだす。

 

「補習授業部ってところに放り込まれた()()()少女たちが陰謀に翻弄されて、最後はハッピーエンドを迎える物語」

 

 ヒフミが「それって」と呟いたのをどこか遠く聞く。気付いたらしい。その()()に、俺が居ないだろうことに。俺がどういう存在なのかということに。

 

「俺は、その物語を知ってる。ファンだった」

 

 そうだ、俺は未来を知らない(知っている)。あのゲームを、この現実を、俺は知っている(知らない)

 

「気付いたらそのゲームの中に居た」

 

 目が覚めたらこの世界に居たあの日。俺はきっと、ただ怯えていた。いきなり知らない場所に居たことにも、殺人の十字架を背負うんじゃないかという危惧にも、そして。

 

「その物語に関わらないでいようと思った」

 

 俺のせいで、この物語が崩れてしまうことにも。何度でも言う。俺は怯えていた。怖かった。恐ろしかった。

 

「ひとつボタンを掛け違えれば幸せに至れなくなるような、そんな物語に関わる勇気は俺にはなかったんだ」

 

 そう。だから、関わらないようにした。関わりたく()()()()。過去形に変じたその感情も、今だって無いと言えば嘘になる。

 

「でも、先生に拾われた。みんなと、関わってしまった」

 

 先生は、俺をよくわからない理屈で丸め込んで自分の生徒にした。逃げられないことを悟ったからその場に居た。始めは、本当にそれだけだった。補習授業部からだって、すぐにも逃げ出したかった。けれど、俺は知ってしまった。友だちの暖かさを、居場所があることの幸福を。もっと怖いことがあるってことに、気が付いてしまった。

 

「段々、許せなくなった。ストーリーの上で必要だった、悲劇の数々が」

「それじゃ、あの日一人で戦ってたのは……」

 

 ヒフミの言葉に「うん」とひとつ頷く。意識を過去から今へと戻す。

 

「本当は、あそこでみんなは試験用紙を紛失するはずだったんだ」

 

 それが、決められた展開(未来)だった。

 

「俺はそれが嫌で、手を出しちゃった」

 

 どうして、とアズサが目線で問いかけているように感じた。理由か、理由は単純だ。

 

「みんなの笑顔を壊したくなかったから」

 

 言って、少し足りないかもなと思う。一度首を傾げて、足りなかった言葉を見つけて付け足す。

 

「楽しい日々を、手放したくなかったから」

 

 結果は、間違いだらけだったけれど。それでも俺の一歩であることには変わりない。俺の動機は、きっと間違ってなんかいない。俺が犯した間違いは、最も大きな裏切りは。

 

「俺は、卑怯者だ。ずっと怖くて言えなかった。黙って見てればいいと思ってた」

 

 黙っていたことだ。騙していたことだ。みんなを、今日の今日まで信じられなかったことだ。だから俺は卑怯者なんだと思う。今になってようやく秘密を話すなんて、待たせすぎだと思う。けれど。

 

「それでも、俺はみんなと一緒にいたい」

 

 そう、思ってしまったから。

 

「みんなと、友達で居たい」

 

 俺は、みんなに頭を下げる。ただ、許してほしいと頭を下げる。

 

「ずっと黙ってて、ごめん」

 

 しん、と静寂が戻ってくる。俺は頭を下げたまま、ただみんなの言葉を待った。いつまでも待つつもりだった。いきなり異世界人です、未来知ってますなんて言われたんだから、まず間違いなく困惑しているだろう。ずっと知っていて黙っていたなんて、知っていたなんて言われて、憤りも覚えているかもしれない。気持ち悪いと思われているかも知れない。どんな言葉も受け入れる気ではいる。それでも少しだけ、怖い。

 

「ナナシちゃん、まずは顔を上げて下さい」

 

 静寂を破ったのはハナコだった。いつも通りの声色だった。いつも通り過ぎて、却ってそこから感情を伺うことはできなかった。ゆっくりと顔を上げる。みんな、ハナコの様子に驚いているようだった。ハナコは、今までに見たことが無い、なんの感情も読み取れない、無表情で居たから。

 

「ナナシちゃんは、ずっと黙っていた。ずっと、私たちを騙していた。この補習授業部を早々に終わらせることができたのに、それをしなかった。そういうことで合っていますか?」

「ハナコちゃん……!」

 

 俺を庇おうとしてくれたのだろうヒフミの言葉を手で制する。これは、俺が言われるべき言葉だ。聞かなくちゃいけない言葉だ。ざわつく胸を自覚しながら、それでも静かに頷いた。ハナコはそんな俺を見て、静かに、確かに、言葉を発する。

 

「虫のいい話です。関わらないつもりだったけど、関わると楽しいからやっぱり友達で居たい、だなんて」

「……うん、その通りだ」

 

 俺はハナコの言葉を肯定した。本当に、その通りだと思ったから。俺は一度自分がした『選択』を捻じ曲げている。もちろんそれが決定的に間違っているだなんて思わないけれど、虫がいい話だとは確かに思う。

 

「第2次試験のとき一人で戦ったのも、私たちのことを信じていないからなんですよね?」

 

 ハナコの言葉を咀嚼して、ちゃんと考えて答える。

 

「あの時は、きっとそうだったんだと思う。でも、今はそうじゃない」

 

 俺があのとき一人で突っ走ったのは、原作知識について話すのが……それで拒絶されるのが怖かったからだ。そういう意味で、俺はみんなのことを信じることが出来ていなかった。大事に思われているだなんて、そんなこと夢にも思っていなかったから。ハナコは俯いた。

 

「確信が無いから話せなかった。受け入れてもらえると思ったから話す。なるほど、確かにナナシちゃんは『卑怯者』です」

「ハナコちゃん、それ以上は……」

 

 またヒフミがハナコを宥めようとしたのを制しようとして、それより早くハナコが「ですが」と言葉を口にした。ヒフミに向けていた意識をハナコに戻す。ハナコは、俯いたままの姿勢で、なにかに耐えるようにしながら制服のスカートの裾を握りしめていた。爪を立てるように、強く、強く。

 

「……ですが、私も同じです」

 

 ハナコは俯いていた顔を上げて、ふっとどこか諦めたように笑った。あるいは、自嘲していたのかもしれない。スカートから手を離した彼女は、言葉を続けた。

 

「私とナナシちゃんは、同じです。私もきっと、『卑怯者』なんです」

 

 そこまで聞いて、ようやく気が付いた。彼女が、ハナコが自らの秘密を話そうとしていることに。まだ困惑しているみんなを他所に、憑き物が落ちたように、疲れたように笑うハナコは語る。自分の秘密を、俺とした約束を果たすために。

 

「私は、学校を辞めようとしていました」

 

 ハナコの言葉に、俺を除く全員が息を呑んだ。

 

「ヒフミちゃんは知ってますよね。私、なぜか昔から要領がよかったんです。なにをしても周りからおだてられてしまうようなタイプで……この学園は、そんな私を放っておいてはくれませんでした」

 

 ハナコは目を閉じた。そして語る。次期ティーパーティーとして目され、期待のまなざしを向けられたこと。シスターフッドに、政治能力を期待されて誘われたこと。単なるクラスメイトですら、ハナコを『優等生』としか見なかったこと。

 

「誰も、本当の私を……私自身を見ようとはしてくれませんでした。そして私の周囲では、誰も本当の姿を見せようとしませんでした」

 

 ハナコはわずかに目を開き、伏し目がちに視線を落とした。きっと、その目は過去を見下ろしていた。

 

「私にとってトリニティ総合学園は、嘘と偽りに塗れた、欺瞞に満ちた空間だったんです」

 

 ハナコは視線を落としたまま、呟くように小さな声で独白(こくはく)する。

 

「誰にも本心を話せませんでした」

「誰にも本当の姿を見せることができませんでした」

「全ての事が、無意味に思えました」

 

 訥々と、水滴が落ちるようにハナコは語る。自分の苦しみを、秘密を。その言葉が過去のハナコの叫びだったからだろうか。小さな声だったのに、俺にはハナコが叫んでいるように思えた。

 

「だから、辞めようと思っていました。ずっと、辞めたかった」

 

 辞めたかったはずなんです。ハナコの声が部屋を満たす。呟くようだった声は、迷っているようだった声は確かな芯を取り戻していた。

 

「この合宿で、私には友達ができました」

 

 ハナコが静かに顔を上げた。

 

「常識外れなところもあるけれど、いつも頑張り屋さんなお友達ができました」

「……む」

 

 アズサを見ながら眩しい物を見るように目を細め、ハナコは静かにそう言った。

 

「ちょっぴりエッチで人見知りな、そして誰かのために涙を流せる、優しくて可愛らしいお友達ができました」

「え、エッチじゃないし!あ、あと人見知りでもないから!」

 

 コハルの方を見ながら温かい場所に居るように微笑み、ハナコは心底楽しそうにそう言った。

 

「平凡を自称しているのに実は誰より変わり者で、とっても仲間思いなお友達ができました」

「わ、私そんなに変わってますか……!?」

 

 ヒフミの方を見ながら誰かにお礼を言うような声色で、ハナコはどこか安心したようにそう言った。

 

「怖がりなのに、臆病なのに。それでも誰かのために頑張ることが出来てしまう、ヒーローみたいなのに助けたくなってしまう……とっても不思議な、不器用なお友達ができました」

 

 最後に俺の方を見て、ハナコは宝物を仕舞うように、大事そうにそう言った。じんわりと胸に響く言葉だった。ハナコがみんなのことを、俺のことを、心から大事に思っていると伝わる、とても温かい言葉だった。でも俺がヒーローみたいはジョークでしょ。いや、嬉しいけどさ。

 ちょっと緩んだ空気の中、ハナコは微笑みながら言葉(こくはく)を続ける。

 

「とても大切で、手放すことなんて考えられなくなりました。全ては無意味だと思っていたのに、最後にはきっと何も残らないのに。どうして手放したくないのか、不思議でした」

 

 ハナコは再びアズサの方を向いて微笑む。

 

「その答えは、アズサちゃんが教えてくれたんですよ?」

「私が……?」

 

 ハナコは不思議そうに聞き返すアズサへ、「はい」と頷きを返し……少しだけ悲しむように目を細めた。

 

「アズサちゃんは今回のことが終わったら、この学園での生活は終わってしまうんですよね?そもそも書類を偽装して入ったわけですから。それに、最後にはアリウスも裏切り、帰る場所も、戻る場所さえも無くなってしまう」

 

 ヒフミもその意味に気付いたらしく、小さくあっと声を漏らした。アズサも少し俯いている。そう、アズサは始めから、二重スパイになった時点から、帰る場所がないのだ。元の古巣に戻ることも、この新しい学園で暮らすこともできない。もしかすると、口封じのためアリウスに始末されたり、あるいは情報を引き出すため拷問にかけられるかもしれない。

 

「なのに、アズサちゃんはいつも一生懸命でした。……私は、試験をわざと台無しにしようとしていたのに」

 

 悔やむように言いながら、ハナコはアズサと目を合わせる。

 

「すべては無意味なはずなのに、すべては虚しいはずなのに」

 

 ハナコは不思議そうに唇に人差し指を這わせながら、詩の一節を読み上げるように言う。どうして必死になるのだろう、と。そこになんの意味があるのだろう、と。

 

「その答えは、いつもアズサちゃんが付け加える言葉にありました」

 

 そう。アズサが虚しさを口にしたとき。そのとき必ず付け加える言葉があった。『たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない』。虚しいとしても、無意味なのだとしても、それが諦める理由にはならないと、アズサはいつも言っていた。

 

「ようやく、ようやく私は気付けたんです。学園生活が、楽しいものなんだってことに」

 

 ハナコは、今度こそ笑った。張り付けた微笑みではない、心からの笑顔だ。

 

「下着姿でプール掃除をしたり、みんな水着で夜の散歩をしたり、裸で色々なことを打ち明け合ったり……誰にも見せられないような敏感なトコロを見せ合ったり。そういったよくあることを全力でするということが、こんなにも楽しかったんだと」

 

 ハナコは歌うように思い出を並べ……ってちょっと待て!?

 

「なんか語弊すごくない!?」

「散歩も水着ではありませんでしたが……」

「裸になったのはお風呂だけのはず」

「え、あれ下着だったの!?」

 

 プール掃除のときは知らんけど、散歩は普段着だっただろ!?お風呂場以外で裸になった覚えなんかないし!!なによりなんだその言い方!秘密を打ち明けたっていうだけだよな!?困惑して総ツッコミする俺たちを見て、ハナコは満足気なご様子だ。

 

「ふふっ。……いえ、やっぱり私とナナシちゃんは違いますね」

 

 え?こっからシリアスに戻るの?うそでしょ?みんなちょっと付いていけてないよ?そんなこと知らんとばかりにシリアスな感じを出しているので、仕方なく俺たちも真面目な顔を作る。

 

「ナナシちゃんはあの日みんなのために全力を尽くしていましたが、私は出来ていませんから」

 

 その言葉を聞いて、まるで全部終わったかのような言葉を聞いて、反射的に口が動いた。

 

「ハナコ、諦めるには早いよ。俺たちは──」

 

 『まだ間に合う』。俺の声に、ハナコの声が被せられた。同時に響いた声にびっくりして目を丸くする俺と、イタズラ気に微笑むハナコ。さては俺がこう言うって予想してたなコイツ。なんか悔しいのでジトっと睨んでみるけれど、ハナコは微笑むばかりだ。むむむ、なんか悔しい。

 

「ナナシちゃん。その言葉、私にも有効ですか?」

「……当たり前。まだ、何も終わってないだろ」

 

 ニコニコと笑顔のまま聞いてくるハナコに、少しぶっきらぼうに答える。いやだって、アイツがこの期に及んでイタズラしてくるんだもん。しかもちょっと心配したのに。不満げな俺を一瞥して、ハナコはそんなこと知らないとばかりに頷いた。

 

「えぇ、そうですね。『大事なのは、最後まで足掻き続けること』ですから♡」

 

 アズサが気づかされたようにハッとした。ハナコはそれを見てほほ笑むと、俺とアズサの方を見ながら頭を下げた。

 

「ナナシちゃん、アズサちゃん。私は二人を許します。ですから、私のことも許してくださいませんか?」

 

 アズサは面食らったように目を丸くして、それからふっとほほ笑んだ。

 

「もちろん」

「……俺も許すよ」

「ふふっ、ありがとうございます♡」

 

 顔を上げてそう言ったハナコは、いつもの調子に戻っていた。なんとなく和やかな空気になって、アズサとハナコと俺の三人で笑い合う。すると、ヒフミが「あのっ!」と声を上げた。え?なに?

 

「わっ、私も!私も、退学のことについて黙ってました!」

 

 いきなりよくわからないことを言われて首を傾げる俺とアズサ。ハナコだけが理解した様子で「あらあら」と笑っている。いや、どういうことなんです?「だから、その……」とよくわからない身振り手振りをするヒフミ。アズサと二人でハテナマークを量産していると、今度はコハルが「えっと」と言い出した。君も?

 

「あの、私実は正義実現委員会からの監視役で……」

「……そうだったのか」

「あっ、いやっ、違う!そうじゃなくて……!」

 

 なんでこのタイミングでそんな嘘を?アズサが真に受けちゃってるじゃん。……でも、うん。なんとなくわかったわ。なんでいきなり二人がこんなこと言い出したのか。

 

「うん、じゃあみんなで許し合おっか。仲間外れは寂しいもんな~?」

「そ、そんなんじゃないし!」

 

 揶揄うように言ってやるとコハルがすぐに噛みついてきた。あれ?ヒフミは全然反応ないけどなんでだ?

 

「あ、あはは……ナナシちゃんに言われても……」

「どういう意味だ!!」

 

 あまりにも心外なことを言われたのでヒフミにうがーっと噛みつく。それだとまるで俺が寂しがりやみたいな反応じゃん!あ、おいコハルも「それもそっか」みたいな顔するな!俺別に寂しがりじゃないから!むしろ孤独耐性強い方だから!ちょ、ハナコは頭撫でんな!!

 

「あれ?でも状況は変わってないんじゃ……」

「えぇ。ですが、諦める必要はありません。そうですよね、ナナシちゃん?」

 

 バタバタし始めた空気をヒフミの一言が戻した。言いたいことはたくさん……そりゃもう恐ろしいくらいにたくさんあるんだけど、ここはぐっと飲み込んでハナコの言葉に応える。

 

「……うん。俺が見た物語だとみんなは無事に試験に合格してたから。まずは勝利条件を確認しよっか。俺たちは桐藤ナギサをアリウスから守り、そして試験を受けて全員で合格する」

「後からどんな文句も言えないように、かけられた罠はそのままにしておきましょう」

 

 俺の言葉にハナコが続く。作戦を既に知っている俺たちは余裕があるけど、みんなはそうも行かない様子だ。

 

「そ、そんなこと出来るんでしょうか……ほかの方たちに助けを求めでもしないと……」

「ヒフミの言う通り、やっぱり物理的に不可能だ。試験時間とアリウスの襲撃はほぼ同時刻。確実に守る為にはどちらかが犠牲になる」

 

 う~ん、やっぱりそういう反応になるよなぁ。改めて聞くと無理難題極まってるんだもの。でも、大丈夫だ。

 

「まぁまぁ、一度私に任せてください。……といっても、作戦は既に考えてあります」

 

 俺以外の全員が、先生でさえ面食らったような反応を見せた。そう、ハナコは既に作戦を立て終えている。なんせ未来を知っているのだから。

 

「まずは、私たちの方から動きましょう」

「えっ!?誰かに手伝ってもらうんじゃないんですか!?」

 

 ヒフミが驚く。うん、俺が何も知らない状態だったら同じ反応をしただろうなぁ。だって人間って同時に存在出来ないんだから、片方……ナギサ様の護衛を誰かにやってもらうっていうのは間違った判断じゃない。

 

「それも必要ですが……私たちが試験に合格するためにはそれだけじゃ足りません」

 

 不安気な顔になったヒフミとコハルを見て、ハナコは「大丈夫ですよ」とほほ笑んだ。

 

「今ここには正義実現委員会のエリートと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人……それから未来を知ってる異世界人まで居ます」

 

 ハナコは俺たちを順に見ながら言って、それから先生に視線を向けた。

 

「その上、ちょっとしたマスターキーのような『シャーレ』の先生もいるんです」

 

 ハナコは笑う。なんの障害もないかのように、臆病な彼女は、それでも怖い物なんかないみたいに、不敵に笑っていた。

 

「この組み合わせであれば、きっと……トリニティくらい、半日で転覆させられますよ♡」

 

 驚愕と困惑の表情を浮かべるみんなを見て、俺は苦笑いする。しながら、また覚悟を決めた。ぎゅっと拳を握る。一歩目は、ただ無我夢中だった。二歩目は自分の意思で動いて、けれど間違えた。この三歩目は、間違えられない。間違えたくない。

 兎にも角にも、幕開けは近い。信じられなかったが故に起きた悲劇を、互いを信じる者(俺たち)が打ち破る。ささやかで劇的な、俺の知らない英雄譚が――幕を開ける。

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