誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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火蓋の切り方を教えてくれ

 トリニティ総合学園に数多あるセーフハウス、そのひとつに存在する隠された屋根裏部屋にて。一人の、否、独りの少女──桐藤ナギサは椅子に座り、ただ不安を感じていた。揺れる金の瞳は、伏し目がちに床を見ている。わずかな月明りが窓から差し込んで、少女の座っているフローリングの床を照らしていた。閉め切った灯りの無い部屋は、彼女の心情を表しているようだった。

 コンコン、とノックの音が響く。仕立ての良い木の扉から響くその音を聞き、ナギサは一度肩をビクっと震わせてから、落ち着いた声色で……恐らくは意識したそれで口を開いた。

 

「紅茶のお代わりならもう結構です」

 

 なるほど、確かに彼女の前にあるテーブルにはもう空のカップしか存在しなかった。紅茶好きの彼女を想った部下が──その目的がご機嫌取りであるにせよ──紅茶を持ってきてくれるというのはそうおかしな話でもないだろう。事実としてこの場所を知る人間は少なく、それ以外の目的というのは考えにくい。だからこそ、ナギサもそう判断したのだろうから。しかし、今回の訪問者は違った。呼んでいない部下などより、もっと招かれざる客であった。ギィ、と音を立てて扉は開いた。開いてしまった。

 

「可哀想に、眠れないのですね」

「っ!?」

 

 何とは無しに扉へ視線を向けたナギサは、その表情を驚愕に染めて硬直した。そこに居たのはトリニティの制服に身を包み、桃色のロングヘアをふわりとなびかせた少女……浦和ハナコであったからだ。彼女はナギサが『トリニティの裏切り者』、不安要素と目していた一人。それが知るはずのないこの部屋に現れたのだから驚愕も当然だろう。

 というか、それでなくても痴女(ハナコ)が夜半に部屋へと押し入って来るのはホラーだ。マトモな神経を持っている人間なら十人中九人は恐怖する。残りの一人は変態(お仲間)だ。

 

「それもそうですよね、今は身を守ってくれる正義実現委員会がほとんど手元に居ない状態」

 

 不安にもなりますよね、と。白々しくナギサを心配するように声をかけるハナコ。現在進行形で不安を加速させているのは他ならないハナコなのだが、彼女は「可哀想に」などと言いながら頬に手を当てている。ナギサは止まっていた思考を回し、なんとか言葉を発する。

 

「う、浦和ハナコさん……どうしてあなたがここに!?」

 

 ハナコは小首を傾げ、人差し指を自らの唇に当てる。

 

「それはどのようにしてこの場所を知ったのか、という意味でしょうか。そういう意味なら、もちろん()()()()()からですよ。合計87個のセーフハウス、そのローテーションまでしっかりと。確認も出来ましたから、迷う必要はありませんでした♡」

「なっ……!」

 

 なぜ、どうやって。その言葉がナギサの口から発されることはなかった。後頭部に硬いもの……銃口が突きつけられたからだ。

 

「動くな」

 

 銃口を突き付けられ身動きを取ることができなくなったナギサは、どうにか後ろを見てもうひとりの襲撃犯……白洲アズサの姿を確認する。前門の変態(ハナコ)、後門の不審者(アズサ)。ついでに言えば新たに不法侵入者の肩書を得た二人に挟まれたナギサは、それでも思考を回していた。

 

「まさか、『トリニティの裏切り者』はひとりではなく、ふたり……!?」

「単純な思考回路ですね……あまり情報を与えてもいけませんし、ひとつだけ質問をしたら眠ってもらいましょうか」

 

 ハナコはナギサの言葉に応えず、独り言でも言うようにそう呟いた。「質問?」と聞き返すナギサに「はい」と頷き、ハナコは口を開く。

 

「ナギサさん、ここまでやる必要はありましたか?」

「何の……」

「補習授業部のことです。最初から怪しかった私や、アズサちゃんはまだわかります。ですが、ヒフミちゃんとコハルちゃん……シャーレのナナシちゃんまで巻き込むのは、あんまりではありませんか?」

 

 その言葉に、ナギサは口をつぐむ。彼女にも、思うところがないわけではなかったからだ。

 

「特にヒフミちゃんとは、仲が良かったと聞きます。どうしてこんなことを?彼女がどれだけ傷つくか、考えなかったのですか?」

「そう、ですね」

 

 ナギサはハナコの言葉に、思ったままを答える。そう、思ったままを答えてしまったのだ。それが、己の行く末を分ける審判であると気付くことなく。

 

「ヒフミさん()()悪いことをしたかもしれません。確かに彼女との間柄()()は、守れればと考えていましたが……」

 

 1アウト。

 

「ですが、後悔はしていません。すべては大義のためですから。()()()()()は仕方のないことです」

 

 2アウト。

 

「では、すべては仕方のないことで、その過程で誰かが傷つくのも承知の上だったと?」

()()。それが、私の選んだ道ですから」

 

 3アウト。ナギサ様(バッター)アウッ!!

 

「……ふふっ♡」

 

 ハナコは笑う。笑っていたが、ナギサにはなぜかその笑顔が酷く恐ろしく思えた。なにか、決定的に聞いてはいけないことを知らされるような、そんな直感を覚えた。

 

「では、質問に答えていただいたお礼に私からもひとつ……そうですね、伝言を知らせましょうか」

「伝言……?」

「はい、私たちの指揮官からの伝言を♡」

 

 未だ嫌な予感はしていたが、そう言われてはナギサも聞かざるを得ない。わずかにでも裏切り者の情報が欲しいゆえに、彼女は頭を回しながら聞き逃さぬよう耳に意識を集中させた。

 

「『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』……とのことです♡」

「っ!?ま、まさか、ということは……!?」

 

 瞬間、ダダダダダッ!と連続した銃声が響きナギサの身体が宙を舞う。ハナコの横をすり抜けるように吹っ飛んだ彼女は、朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止めて目を開く。そこにはガスマスクを付けたアズサがこちらに歩いてくる姿だけが映っていて……また連続した銃声が轟き、今度こそナギサは意識を手放した。

 

 

 

「ハナコ、ナナシにやり過ぎないでって言われたはず」

「許すか決めるのはハナコでいいけど、とも言われましたから♡」

 

 ナギサの意識が落ちた後、そんなやり取りがあったそうな。

 

 

 

 

「“そろそろ持ち場に着こうか”」

 

 遠くで爆発音が響くのを聞いて、先生がそう言った。俺たちは、アズサ除く全員で体育館に集合している状態だ。これだけ聞くと全校集会でもやるのかなみたいなイメージ持つけど、実際にはゴリゴリの戦闘行為が始まるのだからつくづくキヴォトスって感じだな。

 うん、ハナコが立てた作戦は細部に変更はあれど、ほぼ原作と同じものだった。桐藤ナギサを攫うことで確保・保護し、その異常事態によってアリウスの襲撃を早め、「ナギサを守る→試験を受ける」と、タスクを順番に処理できるよう調整する。

 つまり、これから始まるのはアリウスとの戦闘だ。アズサが合宿中せっせと設置したトラップや塹壕で数を削り、最後にこの体育館へ誘導して殲滅する。殲滅のための戦力が先生を含めても六人しかいないのはアレだけど……たぶんイケると思う。というか、原作ではイケてた。

 

「段々爆発音が近づいてきてますね……」

 

 ヒフミの言う通り、アズサの仕掛けたトラップ(実は一部俺が仕掛けたやつもある。何気にすごくない?)が発動したのだろう爆発音は段々と近づいてきていた。みんなの表情にも緊張が……なんかハナコは余裕そうというか、なぜかちょっとスッキリしましたみたいな笑顔してるけど、とにかくみんな不安はあるみたいだ。ここは俺が年長者として緊張をほぐしてやる場面かも知れない。よし「みんな大丈夫だ」って言おう。

 

「すぅ~はぁ~………」

「その、ナナシちゃん……大丈夫ですか?」

「ひょえっ!」

 

 言うぞ、言うぞ~と決意を固めて深呼吸していると、ヒフミが急に話しかけてきた。だ、だだだ大丈夫ってなにが?俺はもうめちゃんこリラックスしてるけど!?

 

「あ、あはは。色々と震えているように見えたので……」

「何が!?全っ然震えてないけどォ!?」

 

 え?膝が震えてるって?バカお前これはあれだよあれ、ほら、あの……アレ。このステップで敵を翻弄するための準備運動みたいな。ガチガチ歯を鳴らしてるのは……あの、威嚇ですよ、威嚇。

 

「ナナシちゃん、無理しないで下がっていてもいいんですよ?フラッシュだけでも十分助かりますから」

「うぐ……」

 

 ハナコにそう言われ、少し迷う。そう、今回俺は前衛を志願した。硬さを活かすには、タンクとして動くのが最適だと判断したからだ。実際ゲーム内でも補習授業部にタンク役は居なかったし、たぶん硬いだけの俺がする役割としては最適解だと思う。めちゃくちゃ怖いって問題点を除けばな!

 だってタンクって銃弾バシバシ受けるんでしょ?すごい怖くない?俺ドッヂボールですらボールめっちゃ怖かったからね?ましてや銃弾とか、普通に音速に迫るようなそれを当てられるとか普通にめちゃくちゃ怖い。……ただ、まぁ。

 

「い、いや。前線のままで大丈夫」

 

 ハナコが少し驚いたような顔をしたのが見えた。そ、そんなに意外?いやまあ、怖いよ前線。温泉開発部の時はなんか勢いでやってたけど、冷静に考えると痛いし苦しい。やりたいわけないよ。でもさ、俺が前に出ればみんなに当たる銃弾は減るわけでしょ?それは、俺が()()()()()()()ってことだ。

 もちろん無理はしない。みんなを悲しませたくないし、ちゃんと試験を受けるって先生と約束もしてるから。というか俺だと前線でフラッシュ焚いて隙を作るのが関の山、突っ込んでいってなにか出来るとも思えない。それに、なにより。

 

「俺も、ちゃんと最善を尽くしたいから」

「ナナシちゃん……無理は、しないでくださいね」

 

 俺の言葉に、ハナコがそう言って後方へと下がる。彼女の役目はヒーラーで、前線の俺とは持ち場がだいぶ違う。爆発音も近くなってきてるし、持ち場に向かったんだろう。

 

「“ナナシ、()()()()()()”」

「……はい!」

 

 耳に装着したインカムから聞こえる先生の声へそう返す。瞬間、ドンと音がして爆風が体育館の入口から吹き込んできた。ゴウっと耳元で風が鳴る。アズサが飛び込んできて、少しだけ前に出る俺とすれ違った。

 

「ナナシ、前は任せた」

 

 アズサはすれ違いざまにそう言って、俺が返事をする前に走り去っていった。俺も振り返らず、ただ真っすぐに愛銃……『パーフェクトガーディアン』を構える。

 

「……なるほど、逃げたのではなく待ち伏せだったと」

 

 アズサの入ってきた入口から後を追うようにガスマスクを付けた少女が出てきた。その後ろからもガスマスクを付けたアリウス生徒がゾロゾロと……えっ、こんな多いの?なんかハナコが「だいぶ減りましたね」みたいなこと言ってるけど、割と人数差あるよ?マジで減ってこれなの?

 

「だが、それだけか?たった五人で私たち相手に、何分耐えられると思っているのだ!」

 

 アリウスの指揮官が気炎を吐いた。ひぇっ、ちょ、怖すぎんだけど。温泉開発部とは比べ物にならない憎悪……悪意を感じる。俺の背後から、コハルとヒフミのひるむ声が聞こえた。情けない声ではあったけど……それでもコハルとヒフミの声は、俺が独りじゃないと思い出させてくれた。

 

「耐えるんじゃない。倒すんだよ」

「はっ、何を言って……」

 

 だから、俺は啖呵を切った。ガスマスクの少女──アリウス兵はそれを鼻で笑ったけれど。でも、俺をあざ笑う声が最後まで言い切られることはなかった。

 俺の後ろから、コツコツと靴の鳴る音が聞こえてきたから。銃を構えたアリウス兵たちは、警戒したのかその動きを止めている。そう、この世界の主人公(ヒーロー)は俺じゃない。

 

「“待ってたよ”」

 

 不敵に、なんの気負いもない声が響いた。先生の、落ち着いた低い声だ。

 

「誰だ」

「ご存じかはわかりませんが、私たち補習授業部の担当にして、『シャーレ』顧問の先生です♡」

 

 敵方の指揮官らしき少女の誰何に、後方から響くハナコの声が答えた。そう、彼は先生。この世界の主人公で、生徒たちのための先生(ヒーロー)

 

「“それじゃみんな、行こう!”」

 

 ここから始まるのは、少数対多数の戦いだ。でも、俺は()()()()()。この戦いに勝てることを。この戦いが、前哨戦に過ぎないことを。今度は、独りの戦いじゃないってことを。だから、だから。

 

「ひえぇ……」

 

 だから怖くないってわけじゃないけどな!!!一斉にこちらを向いた銃口に怯んだ俺の声で、戦いの火蓋は切っておとされてしまった。正直、第一声はもうちょっとカッコつけたかったです。




ナギサは回避ロールに失敗しました。残念ですね
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