誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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友達を勇気づける方法を教えてくれ

 夜の体育館。電気が点いておらず窓から差し込む光だけが光源となっているそこは、今まさに戦闘の舞台と化していた。

 

「“ナナシ、二歩下がってから右前方にフラッシュ”」

「はいっ!」

 

 先生の指示を受け、タタっと後ろに下がってからフラッシュを焚く。バンッ!という音と共に放たれた光は、油断していたのだろうアリウス生徒の目を焼いた。瞬間、俺の真横で風切り音が鳴る。俺の後方に居るヒフミとアズサの撃った銃弾だ。吸い込まれるように隙だらけのアリウス生徒たちへ当たったそれは確かな効力を発揮したらしく、バタバタと相手が倒れていく。

 

「クソっ!怯むな!相手はたった五人だ、数で押し切れ!」

「“コハル、5m前方に手榴弾”」

 

 前線を上げようと走り出したアリウス生徒たちの前に独特なデザインの手榴弾が転がり、爆発。体育館の床板をえぐりながら起爆したそれは、数名のアリウス生徒を吹き飛ばして足を止めさせた。

 

「落ち着け!手榴弾にも限りが……ぐぁっ!?」

「隊長!?」

 

 それでも前線を上げようと声を張り上げる指揮官──どうやら隊長だったらしい──を、コハルの狙撃が撃ちぬいた。急所を捉えたらしいそれは指揮官の意識を刈り取り、彼女は地に倒れ伏す。あれだけ居たアリウスも、既に残りわずかだ。

 

「“ナナシ、前に出てフラッシュを焚く()()をして”」

「了解です!」

 

 ダッと駆け出し、引き金に指をかけて残ったアリウスへと構える。フラッシュを警戒した彼らは目を覆ったり俺を撃とうとして……俺に注目した。隙をさらした。

 

「“ヒフミ、アズサ、今!!”」

 

 先生の声と共に、アリウスの()()の土煙からヒフミとアズサが飛び出す。前方()に注目しているアリウスはそれに気付けない。先ほどの手榴弾がおこした土煙に紛れて背後へ移動していた二人は、その銃口をアリウスへと向け……。

 

「がぁっ!?」

「ぐっ!?」

 

 連続した銃声が響き、戦闘は終了した。

 

 

 

 

「か、勝った……?」

 

 アリウスが全員倒れたのを見て、照準から目を外しそう呟くコハル。えっと、うん。たぶん勝ったんだよな?めちゃくちゃ人数差エグかったと思うんだけど、先生の指揮ってやっぱりすごいな。途中からは無我夢中で指示に従ってただけだから、ちょっと実感が薄いけど。まあ俺も緊張の糸が切れてへたりこんじゃってるんだけどね、体育館の板張りの床が素足にあたってちょっと冷たい。あといったんインカム外そうかな、ちょっと耳痛いし。サイズが統一されてるから、今の俺には少し大きいんだよね、このインカム。

 

「えぇ、ひとまずは難所をひとつ乗り越えたと言っていいでしょう」

「あ、ハナコ」

「はい、ハナコですよ♡まだアリウスの増援が来るまで余裕があるはずですから、怪我をした方は治療しちゃいますね」

 

 後方から支援してくれていたハナコも俺たちのところに戻って来たらしい。一人一人に近づいて怪我の有無なんかを確認している。ゲーム内でヒーラーをやっていただけのことはあって、みんなの負った怪我(といっても軽い打撲とか擦過傷ばかりだけど)を手際よく治療してくれている。

 あ、コハルに手を引っ叩かれてら。またなんかやったのかな、ハナコは懲りないからなぁ。そんなことを考えていると、いつのまにかハナコがこちらにやってきているのに気がつく。

 

「さ、次はナナシちゃんですよ」

「え?俺?」

 

 「次」っていうのはたぶん治療のことだと思うんだけど……いや、俺はいいよ。なんか謎に硬いから特に怪我とかしてないし。一番大きいダメージもちょっと赤くなってる程度で、どう考えても治療の必要とかないし。そう伝えてみるけれど、ハナコは首を振って否定した。

 

「いえいえ、見えないところに傷があるかもしれません。運動した後でアドレナリンも出ていますし、気付いていないだけという可能性もありますから」

「う~ん……」

 

 本当に大丈夫だと思うんだけど……まぁ、本職(ヒーラー)のハナコが言うことなんだし従っておこうかな。この世界に来る前、お医者さんの言うこと聞かなかったせいで大事になったことあったし。いや、別に虫歯を放置しただけなんだけどね。なんか怖くない?歯医者って。

 

「じゃあお願いしようかな。どうすればいい?」

「はい、まずは下着を脱いでいただいて……」

 

 ふむふむ、下着を脱げばいい……下着を!?服じゃなくて!?困惑する俺の方にじりじりと近づきながら「さ、早く早く♡」と急かしてくるハナコ。

 

「え、いやなんで下着……」

「ナナシちゃん、これは医療行為ですので早くしていただけると……」

「で、でも……」

「あ、服はそのままでお願いしますね♡」

「えっ?えっ?」

 

 こ、これって俺がおかしいのかな。下着脱ぐのってキヴォトスの医療だと普通なの?いや絶対おかしい、よね?なぜか服はそのままって言われてるし……でも本職のハナコが言ってることだし脱いだ方がいいのかな?なんか脱いだ方がいい気もしてきた。俺がパンツに手をかけるか迷っていると、タタッと誰かが走る音が聞こえた。そちらに目を向けると、猫目のコハルがこちらに向かって走ってきている。えっ、なに?

 

「待て待て待て!なんで下着を脱ぐ必要があるの!?」

「コハルちゃん、これは真面目な医療行為なんですよ?」

「いや騙されないから!だったら普通服を脱がすでしょ!なんでまず下着なの!?」

 

 あっ、そうだよね!やっぱりこれ俺おかしくないよね!?丸め込まれかけてたけど冷静に考えるとハナコがおかしいよね!?人の前でパンツ脱ぐのは流石に恥ずかしいから普通に助かった。ありがとうコハル。

 おいハナコ、「バレましたか」じゃないぞ。苦笑いで許されると思うなよ、お前なに友達のパンツ脱がそうとしてるんだ。ジト目で睨めつけてやるも、なぜかハナコは不敵に笑っている。

 

「ですがコハルちゃん、これは美学の問題なんですよ」

「何言ってるの……?」

 

 あ、なんか語りだした。いつのまにやってきていたのかヒフミとアズサも近くまで来ていて、「美学?」と聞き返しながら頭上に疑問符を浮かべている。なんでみんな聞く姿勢なの?いいよそんな真面目に聞かなくて。原作にはなかったけど流石に分かるもん、どうせしょうもない猥談だよこれ。

 

「はい。ただの裸と下着を着用していない状態でのスカート、果たしてどちらが煽情的な……」

「本当に何言ってるの!?」

 

 噛みつくコハル、苦笑いするヒフミ、疑問符を浮かべたままのアズサ。なんだかいつもの雰囲気って感じだ。いや、アズサだけが癒しだよ本当に。というかちょっと待ってほしいんだけど、ハナコ俺でそれ実践しようとしたの?俺も詳しくないけど友達ってそういう感じの関係じゃないよね?しかもここからが正念場って時にやろうとしたの?なんで?

 

「まあそれは冗談として♡」

「俺ちょっと冗談で流しづらいんだけど」

「これからアリウスの増援部隊が来るはずです。……それから、黒幕も」

「え?無視?」

 

 なんかみんな表情を引き締めてるけど、俺まだついていけてないよ?しかも特に怪我の確認とかしてないし、まさかこれ本当に俺をノーパンにしようとしただけなの?……いや、ハナコはみんなの緊張を解そうとしたんだよね。そうに決まってる。そういうことにしておかないといけない。

 そんなことを考えているうちにも説明は進み、おおよその作戦とみんなの配置が説明されていた。いや、俺はもう知ってるから良いと言えばいいんだけど……でもこれ流石にどうなの?俺ほったらかしなんだけど。

 

「──とします。ではコハルちゃん、作戦通りにお願いしますね」

「わ、わかってる!」

 

 本当にどんどん作戦の説明が進んでる。いいよいいよ、どうせ俺は知ってるから。そのへんに座って地面に「の」の字でも書いてるよ。ちょっと隅に移動して、体育座りで床に座り込む。……これ余計にみじめな気分になるなぁ。最悪どこにいるのかわからん先生でもいいから相手してくれないかな。そう思って先生のところに行こうとその姿を探して、どこにもその姿がないことに気が付く。

 

「あれ?先生は?」

「“呼んだ?”」

「ひえっ」

 

 俺のすぐ後ろで先生の声がした。慌てて振り向くと、そこには妖か……じゃなかった、先生がにこにこしながら立っていた。マジでこういうところが無ければ尊敬できるのに、妖怪要素(こういうところ)があるからこの人は本当に!!

 

「きゅ、急に後ろに立たないでください!!」

「“ごめん。それで、なにか用があったの?”」

 

 さらっとごめんで流されたけど、この人毎度毎度どうやってワープしてんの?確かにさっきまで俺の後ろには誰もいなかったはずなんだけど。いや、これ気にしたら負けのやつか。聞いたところでマトモな答えが返って来るとは思えないし。考え込む俺を不思議そうな顔でのぞき込んでくる先生。俺からすれば不思議なのは先生の方なんだけど、そういえば用件聞かれたんだったな。

 

「いえ、用ってほどじゃないんですけど……その、ちょっとだけ暇で」

「“仲間外れは寂しいもんね”」

「そんなんじゃないです!」

 

 俺の否定にも、先生は微笑ましいものでも見るような感じで笑っている。いやマジでそういうのじゃないから。生憎と寂しいとかそういう感情は持ち合わせてないから。本当に。……経験的にたぶんこれ以上否定しても無駄だし、ここは話題を逸らすことにしよう、うん、そうしよう。

 

「そ、それより先生はどこに行ってたんですか?」

 

 そう聞くと、先生は少しだけ悩む素振りを見せてから「ちょっとナギサの様子が気になっちゃって」と言った。ああ、なるほど。桐藤ナギサの様子を見に行ってたのか。確かに結構大きいタンコブが出来てたし、余裕があるなら定期的に様子を見た方がいいのかもしれない。この人本当に生徒のためなら何でもしてくれるからなぁ、と呆れ気味に先生を見上げる。そこで、ふと違和感に気が付いた。

 

「あれ、先生イヤホンにしたんですか?」

 

 そう、先生の耳にはイヤホンが付いていたのだ。それだけなら別に変ってほどじゃないんだけど、いつも戦闘するときにはさっき俺が外したのと同じシャーレ特製のインカムを装備していたはず。指揮のチャンネル操作とかはいつも持ってるタブレット端末、というかシッテムの箱を使っているらしいからイヤホンでも出来ないことはないと思うけど……やっぱり少し違和感がある。

 不思議そうに見上げていると、先生は「ナナシはよく見てるね」と言って頭を撫でた。ちょっと嬉しいけど、今はそれより説明がほしいです先生。

 

「“ところでナナシ、もうみんな持ち場に着いてるみたいだけど大丈夫?”」

「えっ!?」

 

 先生にそう言われてみんなが居た方向を振り向くと、そこには誰もいなかった。お、俺本当に置いてかれたの?いや別にぜんぜん大丈夫なんだけど、なんか一言声かけるとかあってもよくない?遠くの方で既に持ち場に着いているみんなの影が見える。一人分シルエットが足りないけど、それはハナコが作戦準備のために別の場所に居るからだと思う。

 

「あ、アハハ。俺たち置いてかれちゃいましたね先せ……っていない!?」

 

 置いてけぼり仲間の先生と傷を舐め合うため後ろを振り返るも、またしてもそこに人影はなかった。慌ててみんなの居る方を見れば、少し背の高い人影が増えている。あ、あの妖怪……!自分だけさっさと持ち場に行きやがった……!仮にも生徒をほっぽって自分だけ合流しやがった……!というか本当にどうやってんだよそのワープじみた移動!?

 

「お、俺も早く合流しないと……」

 

 慌てて歩き出そうとして、ポケットの中で何かが震えているのに気付いた。というか、これたぶんさっきポケットに仕舞ったインカムの呼び出し機能だ。ちょうどいいから先生に一言文句を言ってやろうとインカムを耳に着ける。

 

「先生!置いてくなんて酷いじゃないですか!」

『あ、繋がりましたね♡』

「……えっ?」

 

 え?なんでインカムからハナコの声がするの?このインカムは先生と通信するためのヤツだから基本的に先生としか繋がらないはずなんだけど。というかハナコっていま作戦の準備……というか仕掛けの最終確認をしてるんじゃなかったっけ。なんで通話を?

 

『ナナシちゃん?聞こえてますか?』

「あっ、ごめん」

 

 困惑のあまり固まっていたらしく、インカム越しのハナコの声で意識が戻ってくる。

 

「えっ、と……どうやって通話してるのこれ?」

『先生にお願いして私のインカムとナナシちゃんのそれを繋げてもらったんです。少しだけですが、二人っきりですよ♡』

 

 なるほど、どうやら先生が操作すればそういうことも出来るらしい。普通に知らなかった。というか、二人っきりとか言うのやめてほしい。なんでもないのに緊張してきちゃうから。

 

「う、うん。それで、どうしたの?作戦に変更とか、仕掛けにダメなところとかあった?」

『いえ、仕掛けの確認は終わりましたし、そういうわけではないのですが……』

 

 なぜか少し歯切れが悪い様子のハナコは、言いにくそうにしながらも言葉を続けた。

 

『ナナシちゃん、少しだけ……声を聞かせてもらえませんか?』

 

 インカム越しに聞こえた声は、意外なほどに弱弱しかった。不安気だった。

 

「ハナコ?」

 

 だから、つい名前を呼んでしまった。いつもなら「はい、ハナコですよ」なんて返って来るのにそれが無くて、ハナコの顔が見えないのをもどかしく思ってしまう。

 

『……少しだけで、いいんです。それで、いつも通りに戻れますから』

 

 名前を呼んだっきり黙り込んだ俺を不安に思ったのか、ハナコはそう付け加えた。俺は考える。ここまで聞いてハナコが不安になっているとわからないほど鈍くはない。どうしたんだろうと考えて、続けられたハナコの言葉がそれを遮った。

 

『きっと上手く行くって、そう思えるはずですから』

 

 聞いて、自分が見落としていたことに気が付いた。それは、この作戦が必ず成功するとは限らないってこと。いや、違う。俺が本当に見落としていたのは、忘れていたのは、ハナコのことだ。俺は忘れていた。そしてハナコは気づいていた。既に今のこの状況は、原作とは違うんだってことに。既に、確定した未来なんて存在しなくなってるんだってことに。

 俺がハナコに提示した条件は、たった六人で時間内に軍隊を相手するという無茶なものだ。いくらハナコでも、そんな条件を確実にクリアする作戦なんて立てられるわけがない。実際、俺が把握している範囲でも幾つか賭けの要素はあるんだから。それも、その賭けに負ければ作戦が失敗してしまうような危うい箇所が。

 不安にならないはずがない。自分の作戦でみんなの運命が決まってしまう状況で、不安にならないわけがない。俺だって、そんな当たり前のことを思い出して、今更になって怖くなってきた。俺はきっと、ハナコに一人でその重圧を背負わせてしまっていたんだ。

 

「ごめ……」

 

 謝罪を口にしようとして、ふと思う。本当に、謝るのが正解なんだろうか。ハナコがほしい言葉は、本当にそうなんだろうか。謝って、許してもらって。確かにそれで俺は楽になるかもしれない。でも、ハナコはどうだろう。不安に襲われている彼女に、「ごめん」だなんて。そんな言葉でいいんだろうか。

 

『ナナシちゃん……?』

 

 言葉を言いかけて黙った俺を不思議に思ったのだろうハナコが、俺の名前を呼ぶ。その声でさえ震えていた。そうだ、()()。俺がかけるべき言葉はそうじゃない。謝罪なんて後からでも出来る。共感して一緒に怯えるなんて論外だ。

 

「ごめん、ハナコ。ちょっと考え事しちゃってた」

 

 謝罪する。ただし、急に黙ったことについてだけ。ハナコに一人重圧を背負わせてしまったことへの謝罪は、全部終わってからゆっくりすればいい。

 

「声が、聴きたいんだよね」

『……はい』

 

 少しだけ申し訳なさそうな声色のハナコに、かける言葉を探す。果たして、それはすぐに見つかった。

 

「ハナコ、大丈夫。きっと上手く行く」

 

 インカムの向こう側で、ハナコが息を呑む音が響いた。そうだ、俺が今言うべきなのはこの言葉だ。ハナコの手を引いて、大丈夫だって、そう勇気づけるための言葉だ。

 

「俺がついてるから。だから、きっと大丈夫」

 

 インカムの向こうで、ハナコが息を吸うのが聞こえた。

 

『どうして、そんな風に言えるんですか?失敗したら、みんな退学になってしまいます。私のせいで、みんなが退学になってしまうかもしれないんです』

 

 言われて、少しだけ考える。考えようとして、その前に口が動いていた。

 

「ハナコが居るから」

『え?』

 

 心底不思議そうに、意味が分からないとばかりに声を漏らしたハナコに、少し普段の仕返しができた気分になる。そうだよな、普通は「俺がいるから」って言うんだと思う。でも、ただの俺じゃ頼りないにも程がある。だから、ハナコが居てくれることが理由なんだ。

 

「俺をヒーローみたいだって、そう言ってくれたでしょ?」

『確かに言いましたが、それがどうして……』

 

 ハナコの言葉を遮って、俺は出来るだけ胸を張って言う。虚勢がバレないように、ハナコを勇気づけられるように。出来る限り得意げに、不敵に言う。

 

「ハナコ、いいこと教えてあげる。ヒーローは……最後に笑うんだよ」

 

 そう、俺はヒーローらしいから。ヒーローはなにもかも全部救って、ハッピーエンドを齎すものだから。だから、俺をヒーローだと思ってくれるハナコが居るならきっと大丈夫だ。

 ……うん、わかってる。これが、くだらない子供騙しだってことくらい。ヒーローは最後に笑う、なんて。世の中そんなことばかりじゃないと、現実にヒーローなんて居ないと、俺はちゃんと()()()()()。きっとハナコだって知っているはずだ。でも、それでも。ハナコは賢くたって子どもなんだ。そして、今は俺だって生徒(子ども)だ。二人して子ども騙しを信じたって、きっと罰は当たらない。

 

『ヒーロー、ですか』

 

 ハナコが小さくそう呟くのをインカム越しに聞く。少しして、噴き出すように笑う声が聞こてきた。

 

『ふふっ。そうですね、そうかもしれません』

「わ、笑わなくてもいいじゃん……!」

 

 くすくすと笑うハナコを口では責めながら、俺は安心していた。なんでって、ハナコが笑ってくれたから。きっと、ハナコを勇気づけることができたから。

 

『いえ、ごめんなさい。今のはちょっと……そうですね、安心してしまって』

 

 一拍空けてから、ハナコは少し声を小さくして、囁くように言葉を続けた。

 

『それじゃあ、お願いしますね。……私の、ヒーローさん』

 

 直後、インカムからブツッと音がした。たぶんハナコが通話を切ったんだと思う。だから、俺が今から言う言葉はもう届かない。それでも、なんとなく言わなきゃいけない気がした。きっと、ヒーローならこう言うから。

 

「任せて。全部、救っちゃおう」

 

 みんなと合流するために歩きながら、俺は低く、呟くように宣言した。今まで雲にでも隠れていたのか、体育館の窓から差し込む月光がいっそう強くなる。耳をすませば、体育館に続く廊下を歩く大量の足音が聞こえた。第二幕が、始まる。

 

 

 

 あっ、というかこれ急がないと間に合わないじゃん!走れ俺!




普通に考えて作戦立案者であるハナコの精神的重圧はすごいと思うんです。
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