誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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詰んでる状況の崩し方を教えてくれ

「はぁ……はぁ……」

 

 夜の体育館、そのステージの上。俺はそこに開いた大きな穴の縁で、膝に手を付いて荒い呼吸を整えていた。正直、かなりギリギリだったと思う。ミカさんが俺を投げた先がステージ脇の倉庫じゃなかったらここまで誘導するのは不可能だったし、『パーフェクトガーディアン』をフラッシュ機能だけの銃だと勘違いしてくれたのもよかった。なにかひとつ間違えていれば、彼女を止めることはできなかったと思う。

 そう。ミカさんは、なんとかテーザーガンの電気ショックで気絶してくれた。そりゃ物を焦がすレベルの電撃なんだから気絶くらいしてもらわないと困るんだけど、原作の彼女が持つタフネスを知っているとどうやっても耐えられるんじゃないかって不安があったから。

 目を閉じて、作戦を軽く振り返る。落とし穴に落として隙を作り、テーザーガンで気絶させる。それが俺たちの考えたミカさんを倒すための策だった。電撃の威力は美食研究会との戦いで実証済みというか、オーバースペックを疑うレベルのものだったから、それをなんとかして当てようとして、結果このトラップに行き着いたのだ。ちなみにトラップの内容はアズサと一緒に詰めた。

 

「『トラップの基本は予測』、だったっけ」

 

 アズサの言葉を思い出す。ミカさんが持つ驚異的なフィジカルを知っている俺は、彼女が距離を詰めるときには強く踏み込む必要があるんじゃないかと考えた。だから限定的に、ステージ上にある一部の床材だけを脆くしたのだ。そして、それだけだと致命的な隙は作れないからと周りに遠隔で起爆できる即席爆発装置(IED)を仕掛け、即席の落とし穴にした。本当は舞台袖に誘導したあとステージの反対側に桐藤ナギサがいると誤解させて罠に嵌める作戦だったんだけど、それはまあいいや。結果としてミカさんを止められたのだから良しとしよう。

 

「さて、と。俺もみんなの方に合流しないとな」

 

 考えているうちに息が整ったので、そろそろ移動することにする。あとはアリウス相手に時間稼ぎをすればいいだけだ。そろそろこっちの()()も到着するはずだし、あとはもう消化試合と言ってもいいだろう。

 俺はステージの端まで歩いて飛び降り、飛び降り……なんか思ったより高くない?地面との距離が予想の三倍あるんだけど。飛び降りたら足をグネってやっちゃうやつじゃん、この高さ。階段も設置されてないから舞台袖を通って降りるしかないか。はぁ、と俺はため息をひとつ吐いて――瞬間、背後から聞こえる大きな爆発音にすべての音がかき消された。バッと背後を振り向くと、ステージに開いた落とし穴から土煙が噴き上がっている。数瞬前にそこから打ち上げられたのだろう床材の破片が、ガラガラと音を立てて落ちてきていた。俺は、金縛りにあったかのようにその場から動けない。緩んでいた空気が一瞬にして張り詰める。目を凝らすと、土煙の奥に人影が見えた。その人影の腕が振るわれたかと思うと、ゴウッと風切り音がして土煙が払われ……。

 

「痛たた、まだちょっと痺れてるかも?」

 

 そこに立っていたのは、服のところどころを焦がし、わずかに髪が乱れた()()の、ミカさんだった。ありえない、と思った。確認したとき確かに彼女のヘイローは消えていて、気絶したフリなんかじゃなかった。あまりにも、あまりにも復活が早すぎる。

 

「気絶、してたんじゃ……」

 

 口をついて出た言葉だった。ミカさんは目を見開いている俺に向けて鷹揚に頷く。

 

「うん、確かに()()()()気絶しちゃった。すごい威力だね。ああいうの、テーザーガンって言うんだっけ?」

 

 見て、こことか焦げちゃってるよ。そう言ってスカートの裾を指し示すミカさんは、しかし先ほどまでとは様子が違った。一言で言えば、隙が無い。さっきまでのがお遊びだったかのように、いや、事実遊ぶ程度だったんだろう。素人の俺にでもわかるくらい、彼女からは一切の油断が消失していた。

 

「あ~、でも油断したな。一瞬とはいえ気絶させられちゃうなんて思ってなかった。まぁ、だから……」

 

 ここからは、ちょっとだけ真面目に相手するね。そう言ってこちらを見つめる金の瞳は、猛禽のように鋭い。俺は慌てて『パーフェクトガーディアン』を構え

 

「……ぇ?」

 

 気が付いたら、身体が宙を舞っていた。状況を理解する前に身体を衝撃が襲い、肺の空気が全て抜ける。背中を強烈に打ち付けたらしい。

 

「っ、ぐっ……」

「もうその銃は構えさせないよ☆ほかにどんな機能があるかわからないもん」

 

 爛漫にそう言う彼女は、俺をステージの上から見下ろしていた。そこでようやく、俺がステージの下へと叩き捨てられたことに気が付く。つまりミカさんは俺が銃を構えるまでの一瞬で距離を詰めて、俺を投げ捨てたってことだ。冗談じゃない、目で追えないなんてレベルじゃなかった。目に映りもしなかった。

 運よく近くに落ちていた『パーフェクトガーディアン』を拾い、なんとか立ち上がる。強く床に叩きつけられたことで軽い脳震盪を起こしているらしく、身体がふらついた。

 

「ナナシちゃんって本当に硬いんだね。私が撃っても弾が無駄になるレベルって相当だよ?」

 

 ミカさんが呆れたように言った。俺は言葉を返すことができない。なぜって、彼女から放たれるプレッシャーが桁違いに増していたから。

 

「だから……」

 

 ミカさんが、右手を開いたまま上に高く伸ばした。

 

「本当は疲れるからやりたくないんだけど、特別に見せてあげる☆」

 

 ズッ……と音を立てて、ミカさんが掲げた右手、その直上に光が生じた。紫とピンクを混ぜ合わせたような独特の色をしたその光は、渦巻き、うねり、段々とひとつに収斂していく。エネルギーの奔流が、颶風となって吹き荒ぶ。轟轟と耳元で逆巻く風が、光が持つエネルギーの強さを物語っていた。

 

「隕石……!?」

 

 口から言葉がこぼれ出る。隕石。前の世界でゲーム上のミカさんが使う謎の攻撃で、前の世界では散々ネットでネタにされていた攻撃だ。ハルナさんがEXスキルによく似た銃撃をしていたから、可能性として全く考えていなかったわけじゃない。でも、まさか本当に使えるとは思っていなかった。

 ステージの上で、自らの呼び出した隕石の光に照らされながらミカさんは俺を見下ろした。彼女の淡いピンクの髪が風に揺れる。俺は再び銃を構えようとして、ミカさんに撃ちぬかれて失敗した。

 

「言ったじゃん。もうその銃は構えさせないって」

 

 見れば、ミカさんは左手一本で銃を持っていた。隕石の制御のためか頭上に上げた右手を微動だにせず、左手一本で銃の反動(リコイル)を制御しているらしい。こちらを射抜く金の瞳は冷静で……俺がこの状況で銃をしっかり構えるのはたぶん無理だ。構えた瞬間に撃ちぬかれて終わってしまう。冷や汗が流れる。銃を構えることもできず、これだけ遠いと望みの薄い肉弾戦すら仕掛けられない。そしてミカさんは強力な一撃を用意している。この状況は……。

 

「その顔、気付いたみたいだね。もう詰んでるってことにさ」

 

 からからと笑うミカさんは、それでも俺を見下ろす瞳に油断の色を浮かべない。冷徹に俺を射抜くその瞳は、妖しく金色に輝いていた。

 どうする?彼女の言う通り、状況はほぼ詰みだ。みんなはアリウス生徒を相手しているから助けはまず望めない。そもそも助けを呼ぶためのインカムはさっき投げられたときどこかへ吹っ飛んだらしく、今俺の耳元には存在しない。サイズが合っていないことがこんな形で問題になるとは思っていなかった。

 助けは呼べない。もう、自力でどうにかするしかない。でも、どうやって?

 

「それじゃ、バイバイ」

 

 考えがまとまる前に、俺の耳にミカさんの声が届いた。慌てて彼女の姿を確認すれば、頭上に掲げていた右手を軽く振るう姿が目に入る。ヤバイ、そう思う間もなくゴォっと音を立てて巨大な光の塊が動き……瞬間、()()()()()爆炎に包まれた。

 

「えっ?」

 

 理解できず思わず漏れた声は、大きく右に逸れた隕石が出す風切り音によってかき消されてしまった。なにが、と考えて気づく。そうだ、トラップだ。遠隔起動できる即席爆発装置(IED)は、なにもあれが全部ってわけじゃない。アズサの提案で、予備の爆弾をいくつか設置していたんだ。でも俺は合図をしていないし、合図で起爆してもらう爆弾の位置は決まっている。だから「どうやって」という疑問は残るけれど……それでも。誰が助けてくれたのかについては確信があった。

 

「……ありがと、ハナコ」

 

 そう、ハナコだ。そもそもほぼ全員が戦闘行為を行っている今、こんなことが出来るのはハナコしかいない。でもそれ以上に、俺がピンチになったら助けてくれると約束してくれていた彼女だから。約束を果たしてくれたんだって、そんな確信があった。そうだ。だったら俺も、約束を果たさないといけない。諦観なんて許されない。そんな結末は、俺が許せない。

 

「なにもかも全部、救っちゃおう」

 

 同じ言葉(覚悟)を口にして、再び心に火が灯る。背後から、ミカさんの放った隕石によるものだろう爆風が吹き荒ぶ。追い風なんて幸先がいいと胸中で嘯いて、俺は後ろを振り返らない。ステージの方から響く風切り音を聞いて、そちらに目を向ける。ミカさんが腕を振るって土煙を払っているところだった。

 

「わからないなぁ。その場しのぎにしかならないのに、どうしてそんなに必死なの?」

 

 理解できない。そう言いながら、ミカさんは再び光の奔流を生み出した。俺は、今度は怯まない。まっすぐに彼女を見据えて、足を肩幅に開いて向かい合う。

 

「なんのつもり?」

 

 怪訝そうな顔で問うミカさんに、俺は答えを返す。

 

「なにも変わりません。ミカさんを、()()()止めるんです」

 

 最終目標は、救うこと。いま出来るのは、止めること。そうだ、状況は何も変わっていない。振り出しに戻るよりずっとマシだろう、たった1マス戻っただけなんだから。俺は、俺に出来る最善を尽くし続ける。

 ぐっと足に力を込めて、今いる場所を確かめるように踏み締める。二度目はない。ミカさんは爆発した場所から大して動いていないから、そこにもうトラップはない。かといって何もしなければ、俺はミカさんの放つ隕石に吹き飛ばされて気を失ってしまう。回避も無理だ。さっきは大きく逸れてくれたから被害が出なかったけど、振り返らずともわかるあの爆風。隕石の威力は直撃を回避した程度じゃロクに弱まってくれないだろう。だから。

 俺は『パーフェクトガーディアン』を握り直し、構えた。当然、ミカさんはそれを咎めるように銃を連射する。俺はその弾丸を身体で受け止めて、体勢を崩さないよう構えを維持することだけに全力を注ぐ。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 ミカさんが、わずかに目を見開いた。どうやら気合いで解決しに来るのは予想外だったらしい。そりゃそうだ。『神秘』が込められているからか、彼女の銃撃が与えるダメージと衝撃は割と洒落にならない。俺は謎に硬いから直接のダメージは喰らわないけど、それでも受ける衝撃に変わりはない。事実、俺の構えはグラグラだ。でも、それでもいい。撃つべき時に間に合えば、それでいい。ミカさんが、銃を撃つのをやめた。弾切れなのかはわからないけど、ひとまず息を衝くだけの余裕ができる。

 

「撃たないの?せっかく構えたのに」

 

 息を整えている俺に対し、ミカさんがそう問いかけた。確かに奇妙だろう。『パーフェクトガーディアン』が普通の銃としても使えることはさっきの合図でわかっているから、ミカさん視点では俺が彼女を撃つ方がずっと自然だ。

 でも、俺は撃たない。というか撃てない。フラッシュやテーザーガンならともかく、殺すための武器を人に向けて撃つとか怖くて仕方ない。本当は、こうしてミカさんに銃を向けるのさえ嫌だ。けれど、なにより強い理由は他にある。

 

(ヒーロー)は、敵を間違えちゃいけないんです」

 

 一度間違えたからこそ、今度は間違えない。ミカさんは少し動揺した様子だった。けれどすぐに取り繕って、「ふ~ん」と鼻を鳴らす。それから、再び口を開いた。

 

「ねぇ、そこまで言うなら教えてよ。私が敵じゃないなら……いったい何者なのか」

 

 ミカさんは問う。自分が何者なのか。敵でないなら、裏切り者でないならなんなのか。俺は考えようとして、考える前に口が動いていた。

 

「お姫様、とか……?」

「は……?」

 

 呆気に取られて固まった様子のミカさんと、やっちまった感が脳を埋め尽くす俺との間に気まずい沈黙が流れる。ミカさんの制御する隕石のエネルギーが渦巻く音だけが響いて、すごく気まずい。……いや、あの。違うくて。原作でお姫様って言われてたし、なんかミカさんそういうの似合いそうだし。なんかそういう雰囲気あるし。

 

「ふふっ、あははっ!」

 

 銃を構えたまま俯く俺の耳に、ミカさんの笑い声が響く。そ、そんな笑わなくても良くないですか?

 

「お姫様、お姫様って!ふふっ、それじゃナナシちゃんはヒーローじゃなくて王子様じゃん!」

「うぅ……」

 

 めっちゃ恥ずかしい。なんでお姫様なんて言ったんだよ俺は。あまりの羞恥に構えを崩して顔を抑えたい衝動に駆られるのを必死に耐える。いや、ちょっと俯くくらいは許してよ。流石にめちゃくちゃ揶揄ってくる相手を正視はできないです。そんなに笑わなくてもいいじゃん。

 

「でも、そっか。お姫様か」

 

 そうなれたらよかったのにな。俯いている俺の耳に届いたその声を、ミカさんが小さくそう呟いたのを。俺は聞き逃さなかった。聞き逃すなんてことはできなかった。その声は、確かに助けを求める響きだったから。

 

「ミカさ……」

「じゃ、お喋りはこのくらいにしよっか☆」

 

 顔を上げてミカさんの名前を呼ぼうとして、けれどそれは彼女の声に遮られてしまった。彼女は隕石を制御する右手をゆらりと動かす。轟轟と風が逆巻いて、緩んでいた空気が吹き飛んだ。

 

「ナナシちゃんが何をするつもりなのかは知らないけどさ。もう対抗手段なんてない。これで終わりだよ」

 

 ミカさんは、変わらず冷徹な金色の瞳で、温度のない声で静かに宣告する。既に詰み(チェックメイト)だと。俺も、そんなことはわかっている。ここからどう足掻いたところでミカさんの隕石は避けられない。避けられたとしても、その余波を受けるだけでひとたまりもない。今の俺に、対抗手段は存在しない。

 

「じゃあね、ナナシちゃん」

 

 ミカさんは、右手を大きく振るった。ミカさんの頭上にあった光体が、つまりは隕石が俺に向かってゆっくりと降って来る。実際には速いのだろうけれど、俺にはゆっくりと降ってきているように思えた。感覚が、引き延ばされている。

 俺は、肩幅に開いた足へともう一度力を込めた。後退はしない。回避もしない。だって意味がないから。だから、ここで俺がとる行動は『迎撃』だ。間違いなく無謀。無理で、無茶だ。でも、無駄じゃない。無駄にすることだけは、他でもない俺が許さない。

 こちらに迫りくる隕石へと『パーフェクトガーディアン』の照準を合わせる。サイトの中心に隕石が収まったのを見て、わずかに呼吸する。これで当てるのは簡単になった。けれど、当てるだけじゃ意味が無い事なんて明白だ。どう考えても威力で負ける。相殺なんて夢のまた夢だ。だから。

 意識する。自分の奥底を、前の世界では無かった感覚を、強く、強く意識する。自分の中に宿っているだろう、『神秘』を強く意識する。そうだ。俺が硬いのはきっと『神秘』という不思議エネルギーに由来している。そしてそれは、本来防御力だけじゃなく攻撃力にも作用する力のはずなんだ。俺の持つ膨大な神秘を、ぶっつけ本番で弾丸に込め、あの隕石を相殺する。俺が出来る最善は、それだ。

 意識しているうちに、たぶんこれが『神秘』なんじゃないかって感覚を見つけた。俺の身体の周りを、ふわふわと漂うように動いているエネルギー。きっとこれがそうだ。あとはこれを動かして弾に込めればいい。……どうやって?

 どれだけ念じても、動かそうとしても、『神秘』らしきエネルギーはうんともすんとも言わない。まるで、初めから動かせるようにできていないかのような感覚。ヤバイ。もうあまり猶予が無い。どうにかしてこのエネルギーを動かす方法がないかと必死に思考をまわして、しかし何も思いつかない。

 轟と音がして、顔に熱を感じる。見れば、隕石はもうすぐ目の前に迫っていた。死を、直感する。走馬灯のように、これまでの記憶が脳を駆け巡って。

 

『それじゃあ、お願いしますね。……私の、ヒーローさん』

 

 強く、鮮明に。ハナコの言葉が蘇る。瞬間、俺の周囲に金色の風が吹き荒れた。驚くのも束の間、さっきまでいくら動かそうとしてもダメだった暫定『神秘』のエネルギーが、手に取る様に動かせることに気付く。理屈はわからない。理由もわからない。でも、そんなことは今どうでもいい。これなら……いける!

 銃にチカラを込めて、再び狙いを合せる。目の前の隕石に向かって。

 

「絶対、止める」

 

 誓いを口にして撃ち放った弾丸は、金色に染まっていた。もはや弾丸と言うよりも光線(ビーム)と言った方が近い金の極光が撃ち放たれ、迫りくる隕石と衝突する。金の光は、わずかに拮抗したのち。隕石を、確かに打ち砕いた。




Q.ミカはどうして気絶から復活したの?
A.キングコングに電気が効くシーンってありましたっけ
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