誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
side:ナギサ
なにも、わかりませんでした。悪い夢を見ているようでした。足元がぐらつくような錯覚さえ覚えます。月明りに照らされ、厭になるほど幻想的なステージが。体育館に残る破壊痕が。なにより、鋭い目で私と、その隣に立つ先生を射抜くミカさんが。そのどれもが非日常的で、現実感が無くて。本当に、ただの悪い夢のように思えました。
「ねえ先生、どういうつもり?」
鋭い金の双眸で、私を支えて下さる先生を射抜きながら。ミカさんはそう問いました。どういうつもりで私を……
地下倉庫で起こされたかと思えばシャーレ特製だというインカムを渡され……その時には混乱させるための罠なのではないかとさえ思いました。困惑して、疑って、知りたくなくて。けれど結局、私はそれを使ってこの合宿所で起きた一部始終をずっと聞いていました。だから、知っています。ミカさんが本当の『トリニティの裏切り者』であることも、私のことを狙っていることも。
「“ごめんねミカ、ナギサも。でも、二人は今話すべきだと思ったから”」
私の隣でそう言った先生は、ハナコさんを手招きして舞台袖に消えていきました。ハナコさんも溜息をひとつ吐いてそれに続き、ステージの上には私とミカさんだけが残されました。実は、彼女と……ミカさんと話したいと言ったのは私です。インカムが先生に繋がっていると信じて、先生に頼み込んだのです。
だって、私は知っているのですから。わかっているのですから。ミカさんが『トリニティの裏切り者』だとか、私を狙っているだとか、それ以前に。私の大切な友達で、幼馴染の彼女のことを、私は知っているのですから。あの小さなヒーローが届かなかった手を、きっと私なら繋げるのですから。
「ミカさん。どうしてこんなことをしたのか、とか。本当に裏切ってしまったのか、とか。聞きたいことはたくさんあります」
私は静かに口を開きます。ふらつく足元に倒れてしまわないように、感情を込め過ぎないように、スカートの裾を強く握りしめながら、俯きながら。そう、聞きたいことは山ほどあるのです。なんで、どうして。浮かんでは消えていく感情に、なにひとつ整理なんてついていません。ですが。
「ですが、それを聞いても、きっと本当のことは教えてくださらないんでしょう……?」
きっと彼女はそれを教えてはくれません。はぐらかして、揶揄って、うやむやにしてしまう。ずっとそれに騙されてきた私が、そんなことは一番知っています。
「やだな~ナギちゃん、人聞きの悪い事言わないでよ。そもそも私は嘘を吐けるほど頭良くないって知って……」
「ですから、ひとつだけ」
ミカさんの言葉を遮るように、よく通る声を意識して畳みかけます。今、一番聞きたいことを聞くために。ただひとつ、本当に聞きたいことから、お互いに逃げられないように。
「な、ナギちゃん。人の話は遮らないよう、に、って……」
それでも誤魔化そうとするミカさんを、顔を上げて見つめます。ミカさんは、それだけで言葉を止めてくれました。今、私がどんな顔をしているのかはわかりません。ですが、きっと酷い顔なのでしょう。インカムから聞こえる
「ひとつだけ、教えてくださいませんか?」
ただ、ひとつだけ聞ければいいのです。教えていただければそれでいいのです。ミカさんの言葉の中で、どんな真実よりも見過ごせない言葉があったから。
「私は。私は……」
震える唇が、怯える心が、言葉を紡ぎます。
「あなたの居場所になれていないのですか……?」
「っ!」
ミカさんの息を呑む音が、嫌にはっきりと聞こえました。そう、私が聞きたい唯一は、ただひとつの質問はこれです。「居場所なんてない」と言った、その言葉だけは見過ごせませんでした。幼馴染の、友達の私が、ミカさんの居場所になれていないなんて。ミカさんの支えになれないなんて、そんなことは受け入れられませんでした。
「……あははっ、裏切り者に肩入れしちゃだめだよ、ナギちゃん。ただでさえティーパーティーの権力は危うくなるのに。そんなこと言ったらどうなるか、わからないわけじゃないでしょ?」
そう言うミカさんの表情は、俯いていてよく見えませんでした。弧を描く口許が無理をしているようで、少し震えた声がなにかを堪えているようでした。
ミカさんは、「それに良かったじゃん」と言って言葉を続けます。自嘲気に、ぱっと両手を大きく広げながら。
「トリニティの裏切り者は私で、もうほとんど詰んでる状態。ほら、これでハッピーエンドだよ」
聞いて、カッと頭に血が上る感覚を覚えました。
「何も、何も良くありません!どうして相談してくださらなかったんですか!?」
「……ナギちゃん」
ミカさんは、止めるように、諫めるように、願うように。私の名前を呼びます。それでも私は言葉を止めません。止める気なんて、ありません。わかっています。正義実現委員会もシスターフッドもいるこの場所で、ミカさんを庇い立てすることがどんな意味を持つのか。私の立場が、どれだけ危うくなるのか。でも、
「話をしてくだされば、私だって……!」
「ナギちゃんっ!!」
「私はっ!!」
泣きそうに大きな声で、叫ぶように私の名を呼んだミカさんの声に被せるくらいの勢いで。私も言葉を叫びます。譲れない心を、都合の良い
「私は、あなたの幼馴染です!!友達なんです!!生徒会長になろうと、ミカさんが裏切者だろうと、それは変わりません!!」
ぼろぼろと大粒の涙を零しながら子どもの癇癪みたいに喚く私を、ミカさんは呆然とした表情で見つめていました。私は大声を出して乱れた呼吸をそのままに、ミカさんを見つめ返します。
どれだけそうして見つめ合っていたのかはわかりません。ですが、静寂を破ったのはミカさんでした。迷子の子どもが親を探すように、ふら、と。こちらにひとつ歩み寄ってくれました。
「ナギちゃん。私、裏切り者なんだよ……?」
「……知っています」
震えた声で縋る様に放たれた言葉を、私はただ受け止めます。
「セイアちゃんを殺そうとして……」
「聞きました」
徐々に震えが強くなるミカさんの声を、彼女の目から溢れそうになる感情を見ながら、きっと苦しかったのだろう、なんて想像してしまいます。
「ナギちゃんのことも、襲おうとして……」
「大丈夫です。全部聞いて、わかっていますから」
そうです、私はわかっています。悪気はあったかもしれません。許されないことなのかもしれません。それでも、ミカさんが本当に悪い人間じゃないなんてことは、私がわかっていますから。
「それでも、まだ……私なんかのことを友達だって思ってくれるの?」
「当たり前です。それに、ミカさんと友達になりたがってる人もいるでしょう?」
「……ふふっ、ナナシちゃんのこと?」
「あ~ぁ」、なんてぼやきながら、ミカさんはぺたんとその場で座り込みました。きっと、色々と安心したのでしょう。その姿は天井に開いた穴から月を望んでいるようにも、祈りを捧げるお姫様のようにも見えました。
「わかった、降参するよ」
「……え?」
誰かが、意外そうに声を漏らしたのが聞こえました。声のした方に──ステージから体育館の入口へと──目をやれば、既に戦闘は終わり、あとはミカさんを拘束するだけ……そんな状況のようでした。ステージの下には包囲するようにシスターフッドと正義実現委員会が展開されています。
「聞こえなかったかな、投降するって言ってるの。早く連れてった方がいいんじゃない?」
ミカさんはそれだけ言って、ふわりとステージから飛び降りました。包囲の中へ行くそれは、逃げるためではなく、捕まるための行動です。そうして、ステージの上には私だけ。ただ一人、私だけが、残されました。
「ミカさん」
だから。もうステージに立っているのは私しかいないから。この言葉は、きっと喧騒に紛れて聞こえないから。小さく、小さく、静かに。噛み殺しきれなかった言葉を、吐き出します。
「……どうして、こんなことをしたんですか」
私の
二週間以上投稿に間を空けておいて主人公の視点じゃないし3000字少しってマジ?
詫びアンケートです。エデン二章後の閑話の内容について。
エデン条約編2章の後の閑話は
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先生を出せ
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ユウカを出せ
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ゲーム開発部を出せ
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補習授業部を出せ
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ミカを出せ
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全部書いて♡