誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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愛銃の直し方を教えてくれ 上

 ユウカさんと一緒にスマホを購入してから2日。先生がネクタイピンを毎日欠かさず磨いているのを見て照れくさくなったり、ユウカさんがボールペンを厳重に保管しているのを知って困惑したり。そういった細々した出来事はあれど、俺は平和な日々を過ごしていた。あっ、あとアレだ。先生を通じて補習授業部のみんなともモモトークを交換した。昨日。

 うん、通話するのめちゃくちゃ楽しかった。友達と通話するなんて初めての経験だったし、一緒に居たのが長いから会えないのはちょっと寂しいしで……いや、ちょっとだけだけどね?本当だよ。別に寝落ちするまで通話とかしてないよ。合宿から一週間も経ってないもん。あ、そういえばふと思い出したけど、ハナコにユウカさんの話をしたときの反応が良くなかったな。ハナコにしては珍しく「よかったですね」の一言だけだった。まぁ、そのあとはいつものハナコだったし特に気にしなくても大丈夫だと思う。

 で、今日からはまたシャーレのお仕事だ。昨日と一昨日でだいぶリフレッシュできたし、今日は先生の負担を少しでも減らせるように頑張ろうと思う。俺はふんすと意気込んで、気持ち強めに執務室のドアを開けた。

 

「“おはようナナシ”」

「あ、おはようございます」

 

 自分のデスクに向かう途中先生に挨拶されたので、しっかり立ち止まって頭を下げてから挨拶を返す。今の立場が学生であろうとも俺は立派な成人男性、挨拶をおろそかにするのは良くない。先生が「うん、今日もよろしくね」と言うのを聞いてから自分のデスクにつき、いつも先生が書類を置いてくれる位置に手を伸ばす。けれど、その手は空を切ってしまった。不思議に思ってそちらを見ると、本来ならばあるはずの書類がない。……なんで?いつもなら結構な量の書類がここに置いてあるのに。

 

「あの、先生。俺のぶんの書類が見当たらないんですが……」

「“あれ、言ってなかったっけ。ナナシは今日もお休みだよ”」

 

 先生はそう言うと、ひらひらと手を振ってから自分のデスクに目線を戻した。俺はなんだそうだったのかと胸を撫で下ろ……え?ちょっと待って。先生いま休みって言った?なんで?

 俺先生に見限られるレベルで無能だった?もしかしてこれ「明日から来なくていいよ」とかそういう系のやつ?そこに思考が至った瞬間サッと顔から血の気が引くのを感じ、バタバタとデスクから転がり落ちるようにして先生のもとへ走る。

 

「せ、先生!あの、俺っ、もっと頑張って働くので……!」

「“えっ?”」

 

 先生に縋りつく俺と、困惑した様子の先生。なんで急に見限られたのかわかんないけど捨てられたら本当に行く宛ないし土下座でも靴舐めでもして許してもらわないと……!

 

「土下座します!土下座しますから捨てないでぇ!」

「“な、ナナシ落ち着いて……”」

 

 ど、土下座がダメならもう靴舐めしかない!膝立ち状態で先生の腰辺りに縋りつく俺はもう必死だ。冷静な思考とか知らない!先生に捨てられたらもう本当に終わりだ!

 

「先生、約束通りナナシちゃんのお迎え、に……なにやってるんですか?」

「“あ、ユウカ!”」

 

 執務室のドアが開いて、ユウカさんが入ってきた。なぜかものすごく驚いた顔をしているけれど正直挨拶するような余裕はないので、俺は先生へと縋りつき続ける。

 

「捨てないでください!舐めます!舐めますから!」

 

 瞬間、ピシリと空気が凍る音を聞いた。ものすごく気まずい静寂が流れているのを感じて顔を上げれば、先生が冷や汗を滝のようにかいているのが見える。え?なんで?不思議に思ってユウカさんの方を見ると、顔を真っ赤にしながら口をパクパクと動かしていた。……あれ、もしかして俺なんかやっちゃった?

 

「“ゆ、ユウカ。たぶん誤解して……”」

「なにが誤解なんですかっ!ナナシちゃんに手を出して、そっ、その上、な、舐めさせようだなんて……!」

 

 ユウカさんは信じられないくらいの速さで先生から俺を引きはがすと、庇うように抱きしめた。困惑する俺は特になにも出来ずフリーズ状態だ。ユウカさんは俺に「もう大丈夫よ」とか「ミレニアムで引き取るから心配しないで」など優しく声をかけてくれて……本当にどういう状態?

 

「“あの、ナナシ。誤解解くの手伝っ……”」

「ナナシちゃんに話しかけないでください!このロリコン教師!」

「“ご、誤解!!”」

 

 全員の誤解が解けるまでに一時間かかった。

 

 

 

 結局、俺はクビにならなかった。というか全面的に単なる俺の誤解だった。今日俺が休みなのは俺の愛銃『パーフェクトガーディアン』の修理のためで、別に見限られたとかでは全くなかった。いや、冷静に考えると先生が生徒のこと見限るわけないか。ちょっとだけ冷静じゃなかったかもしれない。

 あ、うん、そうなんだよね。一昨日判明したばっかりなんだけど、俺の愛銃(パーフェクトガーディアン)は絶賛故障中。たぶん合宿最終日、ミカさんの隕石を相殺したあの一撃で壊れちゃったんだと思う。防水・防塵・防汚……あと無駄にUVカット機能までついてるらしい高機能な一品でも、流石に内部からの強い力には耐えられなかったみたいで、どうもパーフェクトガーディアンはいくつかの機能が使えなくなってしまったみたいだった。具体的にはほとんど俺のメインウェポンになってるフラッシュ機能とかが使えなくなってる。これは流石によろしくないということで、先生に修理の打診をしたのが昨日だ。

 で、先生はすぐにエンジニア部に連絡。案内役が必要だろうとユウカさんが名乗り出て、俺の知らない間にミレニアムまで銃を直しに行く予定ができていた……というのが事の顛末だ。いや、先生は報連相をもっとしっかりしてほしい。切実に。合宿のときの反省活かしてないのかな……。

 

「すぅ~……はぁ~……」

 

 そんなわけで、俺が居るのはエンジニア部の部室前。え?何してるのかって?いや、別に。ただの深呼吸だけど。ちょっと気分転換というか肺の換気というか。その、心の準備というか。……いや、だって怖いじゃん知らない場所に入るの。ここまで案内してくれたユウカさんは自分の仕事があるとかでどっか行っちゃったし、正真正銘自分の力でドアを開けるしかないんだもん。そしてコミュ障の俺がそれをするためには多大なるチャージが必要。そういうわけで、この通算数十回目になる深呼吸はとても必要性の高い行為なのだ。……開ける前にもう一回くらいしとこうかな。

 

「すぅ~……」

「なにしてるんだい?」

「わひゃっ!?」

 

 深く息を吸った瞬間に話しかけられ、びっくりして変な声が出てしまった。振り返れば、俺のすぐ後ろに不思議そうな顔をしたウタハさんがなにやら大きな箱を抱えて立っている。俺の顔を認めたウタハさんは少しだけ目を見開いて、それからほころぶように笑顔になった。

 

「ナナシじゃないか、よくきたね」

「あっ、えっと……はい」

 

 たどたどしく返事を返す俺を見たウタハさんはひとつ苦笑してから箱に視線を落とし、それを軽くガチャガチャと揺らしてから俺へと視線を戻した。え?な、なんだろう。

 

「ナナシ、今はこの通り両手が塞がっていてね。すまないがドアを開けてもらえないかな?」

「あっはい、もちろんです!」

 

 言われて、慌てて背後にあるドアへと振り返る。そりゃそうだよな、いつまでもドアの前で話し込むわけにはいかないもんな。普通に俺の気が利かなすぎた。ウタハさん結構重そうなもの持ってるし。思考もそこそこにドアノブに手をかけて扉を開く。

 

「遅かったね、ウタハ先ぱ……って、あれ?」

「ヒビキ、どうかしまし……おや?」

 

 ドアを開けると、どうやら休憩中だったらしいヒビキさんとコトリさんがこちらを見て固まっていた。ドアからほど近い位置にあるテーブルを囲む二人の手元にはスナック菓子があり、コトリさんに至ってはポテチを手に持ったまま固まっている。こういう注目を集めるのやっぱり苦手だ……けど、いつまでも見つめ合ってるわけにもいかないし何か言わなくちゃだよなぁと、今度は自分から口を開く。

 

「あ、えっと……お久しぶり、です」

「うん。久しぶり、ナナシ」

「はい!お久しぶりです!」

 

 俺の挨拶に、ヒビキさんとコトリさんは微笑ましいものを見るような視線を向けながらも言葉を返してくれた。コトリさんが「よく来ましたね!」と元気よく言いながら俺を室内に迎え入れ、俺もそれに従うようにして入室する。

 とりあえず挨拶は成功でいいのかな。コトリさんに促されるままお菓子がたくさん乗っているテーブルにつく。なんか、なんか落ち着かないな。

 

「はい」

「……え?」

 

 慣れない場所への緊張から縮こまっていると、そんな言葉と共にヒビキさんが俺の前にお菓子を差し出してきた。見れば、クッキーをチョコで包んである割と一般的なやつだ。何事かと思ってそれを差し出してきた手の先を見れば、ヒビキさんが少し期待したような目でこちらを見ている。な、なんだろ。食べていいのかな。

 

「食べていいよ?」

「……いいんですか?」

 

 胸中を見透かされた様な言葉に少し驚きつつも、遠慮しなきゃという心理で半分反射的に言葉を返す。ヒビキさんは「うん」と言って頷いて、ずいとお菓子を俺の方へともう一段階押し出した。必然的に口のすぐそばにお菓子がきて、甘い香りが鼻をくすぐる。口の中に唾が溜まってきて……い、良いって言ってるし食べても大丈夫だよね?恐る恐る、そのまま差し出されたお菓子へとパクつくと、口の中にチョコとクッキーの甘さが広がった。あ、美味しい。

 

「……ふふ」

「あ、ヒビキずるいですよ!私もナナシに餌づ……お菓子あげたかったのに!」

 

 今コトリさん何か言いかけませんでした?お菓子をしっかり飲み込んでから顔を上げると、すぐ目の前に今度はポテチっぽいお菓子が。差し出している手の先を見れば、コトリさんがキラキラと期待した表情でこちらを見て……なんかちょっとデジャブだぞ!?

 

「こ、コトリさん?」

「はい!どうぞ!」

「えっ、と……」

 

 コトリさんは「さぁ!」という言葉と共に、もう一段階ポテチを俺の顔に近づけてくる。コトリさん、今こそ説明や解説が必要なんですけど。具体的にはなんで自分の手から俺に食べさせようとしてるのか気になるんですけど。……でもポテチ美味しそうだな。も、もう1回くらいなら甘えてもいいかな?俺は割ってしまわないように気を付けながら口でポテチを受け取って、そのままかみ砕いた。あ、こっちもおいしい。

 パリパリと音を立てながら、噛み砕いてポテチを飲み込む。そして顔を上げると、今度は目の前に2つお菓子が並んでいた。もう言うまでもなくコトリさんとヒビキさんが差し出しているお菓子だった。これどうしよう。俺ここで一生お菓子を食べるだけのマシーンになるのかな。それはそれで幸せそうだけど……。

 

「こら、二人とも。ナナシが困っているじゃないか」

 

 そんなことを考えつつ目の前のお菓子を見比べていると、ウタハさんが助け舟を出してくれた。声のする方へ目を向けると、ウタハさんが少し呆れたような表情でこちらに歩いてきている。

 

「それで、ナナシ。今日はどんな用で来たのかな?」

 

 その言葉を皮切りに、コトリさんとヒビキさんの表情が変わった。さっきまでのどこか緩い空気は霧散し、仕事人の……職人(マイスター)の顔つきに変わっている。俺も居住まいを正す。ウタハさんの問いに答えるために。職人(マイスター)に、敬意をもって接するために。そして口を開き……。

 

「今日は……むぐっ!?」

 

 瞬間、ウタハさんの手によって口に何かを押し込まれた。驚いてバタバタと手を動かしているうちにだんだんと口の中に甘さが広がり……これ、チョコレート?変なものじゃないとわかって落ち着きを取り戻した俺はウタハさんの方を見る。いやあの、マジでなに?今のって真面目な話する流れだったと思うんだけども。たぶん宇宙猫みたいな状態になっているだろう俺を見たウタハさんは、くすりと笑った。

 

「まぁ、まずはアイスブレイクと洒落こもう」

 

 ウタハさんがそう言って、今度は俺の前に3つお菓子が差し出された。……これ本題に入れるのいつになるんだろ。




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