誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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愛銃の直し方を教えてくれ 下

「パーフェクトガーディアンが故障した、と」

「えっと……はい」

 

 難しそうな顔をしたウタハさんの言葉に頷く。結局あのあと三十分くらい餌付け(おやつ)タイムは続いた。というか、正確には俺が満腹になって終わった。途中から羞恥心の全てをかなぐり捨ててお菓子を味わってたのもあって別に苦ではなかったんだけど……いや、やっぱり割と恥ずかしかったな。何が悲しくて年下の女の子に餌付けされなきゃいけないんだ。美味しかったけどさ。ともかく、謎のおやつタイムはひとまず終わったから良しとしよう。今日の本題はここからだ。

 

「ふむ……見せてもらってもいいかな?」

「あっ、はいもちろんです!」

 

 慌てて腰のホルスターから愛銃(パーフェクトガーディアン)を取り出し、ウタハさんに手渡す。彼女はいくつか動作を確認して「確かに故障しているね」と呟いた。それからまた難しそうな顔で顎に手を当てて何やら考え出してしまう。どうしよう、改めて対面するとかなり気まずい。だって俺いただき物の銃を壊しちゃってるんだもん。ウタハさんから大事にしてくれるだろうからと貰ったのに、1か月も経たず故障させるってどういう了見なんだ俺は。気まずさに耐えかねてチラとウタハさんたちの方を見れば、何やら全員で意見交換しながらパーフェクトガーディアンを観察していた。

 

「フロントサイトとリアサイト、銃体に歪みは……ないね」

「これといった傷や歪みは見当たりませんし、一度解体(オーバーホール)してみないことにはなんとも言えません!」

「やっぱりそうか。でも、外部からの衝撃が原因というわけではないみたいだね」

 

 ふむ、と再び顎に手を当てたウタハさんは、今度はこちらに視線を向けた。

 

「ナナシ、故障した原因に心当たりはあるかい?」

「あ、えっと……」

 

 言われて、少し返答に窮する。故障の原因はどう考えてもミカさんと戦った時に撃ったあのビームなんだけど、どう話そう。ミカさんのことはたぶん伏せた方がいいよなぁ。仮にもトリニティを揺るがす大事件なわけだし、一応は緘口令みたいなものも敷かれてる状態らしいし。うん、誰と戦ったかは伏せよう。あとはビームの方だけど……こっちはそのまま報告した方がいいと思う。どう考えても直接的な原因はこっちだから、原因不明のまま修理するよりはずっといいはず。

 

「その、シャーレで出張に行ったとき、戦闘が発生して。そのとき、えっと、よくわからないんですけど……ビームみたいなのが出て」

「ビーム!?」

 

 一斉に身を乗り出すウタハさんたちに驚いて、俺も少しのけぞる。び、ビックリした。いきなり全員が身を乗り出してきたから結構迫力というか圧力というかがある。そして身を乗り出した態勢のままギラギラした目で俺の方を見てきてるから正直ちょっと怖い。しばらくそのまま固まっていると、ハッとした表情になったウタハさんが深呼吸をひとつして席に座りなおしてくれた。あ、よかった。落ち着いてくれたみたいだ。

 

「す、すまない。今……ビームが出たと言ったね?」

「は、はい」

 

 困惑気味に頷いた瞬間、ガタン!と大きな音を立てながらヒビキさんとコトリさんが部屋の奥へと走っていった。なんなら「は」を発音した段階ですっ飛んでいってた。気づけばウタハさんも椅子から立ち上がっていて……え?なになに落ち着いたんじゃなかったのこれどういう状況!?

 

「コトリ、パーフェクトガーディアンに類似の機能は!?」

「強いてあげるならフラッシュですがビームのような破壊力はありません!まず間違えることはないかと!」

 

 ウタハさんの問いにガチャガチャとパソコンのキーボードを打ちながら答えるコトリさん。さっきまでの牧歌的な雰囲気はどこへやら、完全に変なスイッチが入ったらしくキラキラを通り越してギラギラという表現がふさわしい眼光でパソコンに何かを打ち込んでいる。正直だいぶ怖い。

 

「ヒビキ、オーバーホールして痕跡を……」

「もうやってる。銃身に強いパワーと……高温にさらされたらしき痕跡あり……!」

「なるほど、つまりビームかそれに準ずるものが発射された可能性はおおいにある、と」

 

 次にウタハさんが目を向けたのは作業台らしき場所でパーフェクトガーディアンを弄っているヒビキさんの方。手元のパーフェクトガーディアンは既に解体(オーバーホール)されており、その故障原因を探っているようだった。解体したパーツが整然と並んでいるのは流石なんだけど……ちょっとテンションの乱高下についていけない。

 いくらエンジニア部がロマン主義者だとは言っても『ビーム』の一言でここまで豹変してしまうのは予想外だった。というか予想しろという方が無理だと思う。だっていきなり「銃からビームが出ました」なんて言っても普通に与太話の類いとして処理されるだろうし、むしろその方が自然だとさえ思う。なのにまさか一発でハイテンションに切り替わるなんて。

 俺がそんなことを考えて、というより若干の現実逃避をしている間にもウタハさんたちは何やらカタカタがちゃがちゃと作業をしていた。かちゃ、ガチャ、カタカタ、と色んな音が鳴るのをぼんやり聞いていると……突然。ピタリとすべての動きが止まった。コトリさんとヒビキさんはさっきまで作業していた姿勢のまま固まっているから、俯きがちだったり角度が悪かったりでその顔は見えない。ウタハさんは俺の前からさして動いてはいないけど、こちらに背を向けた状態で立っているからやっぱりその表情はうかがえない。え?な、なんで急に止まったの?流石に怖いんだけど。いやさっきまでのも十分怖かったけどその比じゃないんだけど!?

 

「あ、あの……ひっ!?」

 

 俺がなにか話しかけようと声を発した瞬間、三人が一斉にこちらを振り向いた。それはもう、グリン、という効果音が相応しいような速度で。思わず怯えの声を漏らした俺の方へ、ウタハさんがゆっくり近寄ってくる。え?これヤバいやつ?逃げた方がいいやつ?俺何かやらかした?瞬間的にそう思い逃げようとするも、身体が竦んで動かない。そんなことをしている間にウタハさんはすぐ目の前まで来ていて……ガッと俺の肩を掴んだ。

 

「ナナシ!詳しい状況と再現を!!!」

「……へ?」

 

 そして、キラキラと子どものような瞳でそう叫んだ。さ、再現?再現って、ビームを撃った時のってこと?

 

「パーフェクトガーディアンに類似のハンドガン、用意できました!」

「的の用意、ヨシ……!」

「計器は!?」

「もちろん準備完了です!」

「ナナシ、できるかい!?」

「え、えっと……たぶんできます?」

 

 俺がぽかんとしている間にもとんとん拍子に準備が進んでいるようで、いつのまにかコトリさんとヒビキさんもキラキラした目で機敏に動いている。そっかぁ、普通にビームが見られるかもしれない状況に興奮してるだけかぁ。さっきまでのホラーでしかない挙動もそれなら説明がつ……いやつかないよね!?いくらなんでもテンション上がりすぎだよね!?

 

「よしナナシ!こっちに着いてきてくれ!」

「えっちょ、ちょっと待っ……」

「ビームだなんてロマンの塊を前に待てるわけがないだろう!?」

 

 俺の手をひっつかんで半ば引きずるように進むウタハさんがキラッキラの瞳でそう言うので、俺は「アッハイ」と返すことしかできなかった。たぶんこの状態だと俺の言葉じゃ止まらない。止まるわけがない。うん、もういいや。恩もあるし普通に頑張ろう。というか冷静に考えると再現するだけだから大したことじゃないし、三人からめちゃくちゃ注目された状態で銃を撃つっていうだけの……あ、ダメだ言語化すると緊張する。え?あぁ、もう試射用のレーンについたんですか、早いですね。色々兵器を作ったりもするから部室内に試射場がある?そっかぁ。

 

「こちらが代わりのハンドガンです!あとは引き金を引くだけの状態ですので!説明や解説が必要ならばご質問を!手短に解説します!」

「アリガトウゴザイマス、ダイジョブデス」

「はい、ここに立ってあれを狙ってね」

「ワカリマシタ」

 

 ハンドガンを握りこまされ、猫のように抱っこされて射撃場の定位置に運ばれた俺。たぶん鏡を見たら目が死んでいると思う。キラキラした目のウタハさんたちとは対照的に。いや別にめちゃくちゃ嫌とかではないんだけど、ちょっと頭がついていかない。ウタハさんたち豹変しちゃったし、注目されるのあんま得意じゃないし。

 

「では私たちは少し離れたところから見ているよ!」

「うん、がんばって」

「では!」

 

 俺にそう声をかけたウタハさんたちはすたこらさっさとその場を去って、持ち場らしきスペースへと移動していった。安全のためかアクリル板が立てられていて、それ越しにこちらを観察している感じだ。すっごいワクワクした様子でこっち見てる。ヒーローショーを見る子どもみたいな、という比喩表現があそこまでぴったり当てはまる人たちも他にいないんじゃなかろうか。とはいえ、いま射撃場(ステージ)に立っているのは物語のヒーローじゃなくて俺だ。こうなっては仕方がないと、集中するために軽く深呼吸して、それから口を開く。

 

「えっと、じゃあ行きます……」

 

 ウタハさんの「いつでもいいよ!」という声を遠く聞いて、再び深く息をしながら目を瞑った。あの時と同じように、自分の内側を強く意識する。ゆらめくようなあの感覚は、さほど苦労することもなく見つかった。よかった、見つからなかったらどうしようかと思った。あとはこれをあの時みたいに動かして……うご、動かし……あれ?

 

「う、動かない……?」

 

 どうしよう。さっぱり動かないんだけど。そういえばあの時も始めは全く……それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()に動かなかったような。え、でも俺「やる」って言っちゃったんだけど。一度は出来たわけだしもう一回くらいできたりしない?

 

「んっ、ぐっ……!」

 

 力んだり、逆に力を抜いてみたり。色々試して動かそうとしてみるけど、やっぱり暫定『神秘』のエネルギーは少しも動く気配を見せない。ヤバイ、本当にどうしよう。全然できるつもりで居たから射撃場(ここ)に立ってるけど、これ普通に嘘だと思われるやつじゃない?そ、そうだ!前の世界で読んだ小説だとこういうのはイメージの力が重要らしいし、強くあのときのそれをイメージして……。

 

「むむむ……!」

 

 思い出せる限りの状況をイメージして唸るけど、暫定『神秘』のエネルギーはひとつも応えてくれない。祖父の代からこうでしたみたいな態度で寸分たりとも動かない。むむむ、と唸る声だけが虚しく響いている。ちょっと恥ずかしいのでいっかい唸るのをやめる。え、どうしよう。全然動かせる気しないんだけど。ビームどころか威力が増すかすら怪しいよこれ。なんか満月の日にしか撃てないとか、そういう縛りがあるんじゃないかってレベルで動かせる気がしない。別にあの日満月じゃなかったけど。なんとかビームを撃つための方策を考えようと頭を回して──ふと、思う。これで失望されてしまうのではないか、と。

 

「……そんなわけない」

 

 カラカラの喉から発された小さな声は、遠くにいるウタハさんたちには届かない。横目で確認すれば、少し不思議そうな顔をしながらも()()こちらに期待の目を向けてくれていた。集中するために目をつむる。瞬間、幻視する。その目が失望の色を宿して、こちらを見ている光景を。

 

「いやだ」

 

 間違っても聞こえることがないように、今度はわざと小さく呟いた。だんだん自分の呼吸が浅くなるのを感じながら、必死に揺らめく力を手繰り寄せる。動かない、動かない、動かない。『神秘』は変わらず、少したりとも動いてはくれない。呼吸が浅くなる。冷や汗が吹き出して止まらない。いやだ、期待を裏切って失望されるのは()()いやだ。ここに立っているのが自分じゃなければ、なんて考えが頭を過る。俺じゃなくて、完璧な主人公(ヒーロー)がここに立っていたらなら、なんて。きっとソイツはうまくやるんだろう。そんな現実逃避に、『神秘』が少しだけ揺れた気がした。わずかにでも動いたのならとその揺らいだ部分に集中して……。

 

「ナナシ!!」

「っ、ぁ……?」

 

 瞬間、誰かに腕を掴まれた感覚を覚える。深く自分の中に沈んでいた意識が一気に浮上して、目を開ける。手を掴んだ誰かの方を見れば、そこにはウタハさんが居て。見上げるほどの身長差があるせいでモロに照明の光を喰らい、少しくらっとした。

 

「ウタ、ハさ……?」

 

 いつのまにか呼吸を忘れていたらしく、息が荒くなった。そのせいか言葉が変なところで途切れる。そんな俺を見たウタハさんは、「すまない」と一言謝罪してから俺の手を引いた。俺は何かを言うのもウタハさんの目を見るのも怖くて、ただそれに従った。

 

 

 

 

「その『神秘』というエネルギーが動かせない、と?」

「はい。……その、ごめんなさい」

 

 俺の言葉を聞いたウタハさんは「責めてるわけじゃないよ」と笑って、それから頭を撫でてくれた。俺とウタハさんは再びさっきのテーブルで隣り合わせに座っていた。机の上のジュースにも口をつける気になれなくて、グラスの中の氷が溶けていくのをぼんやり眺める。氷の溶けた部分はジュースのオレンジ色に消えていった。

 そう、試射実験は中止になった。ウタハさんたちはその理由を計器の不備だと説明してくれたけれど、流石の俺でもわかる。この実験中止の原因は俺だ。俺が「できる」と言ったことをできなかったから、期待を裏切ってしまったから。だから、本当は……今回の実験は、『中止』じゃなくて『失敗』なんだ。

 

「むしろ私の方こそ無理を言ってしまって悪かったね」

「いえ……ウタハさんが謝ることじゃないです」

 

 本当にウタハさんが謝ることじゃない。俺は「できる」と思って、ウタハさんたちにそう伝えていたんだから。グラスをぼんやり眺め続ける。氷が溶けてバランスが崩れたのか、グラスがカランと音を立てた。ウタハさんが少しだけ息を吸った音が耳に届いて、彼女が何か喋ろうとしているのがわかった。

 

「ナナシ──」

 

 ウタハさんが俺の名前を呼んだところで足音が響いて、その声は遮られた。俺は何を言われるのか少し怖くて、聞こえなかったフリをして足音の方に目を向ける。目を向けた先では、ヒビキさんとコトリさんが少しだけ小走りになりながらこちらにやってきていた。二人とも両手になにか書類を持っている様子だ。

 

「ウタハ先輩、銃身からのデータ取り終わったよ。想定されてる銃弾よりもずっと高エネルギーの何かが射出されたのは間違いないと思う」

 

 ヒビキさんはそう言って、自分の持っている紙をウタハさんに手渡した。ウタハさんは「ありがとう」と言ってそれを受け取り、簡単に目を通してからテーブルの上に置いた。こっそり覗き込んで見てみれば、銃身内部の損傷画像らしきものと、よくわからないグラフがたくさん書かれている。なるほどね、さっぱりわからない。

 

「こっちも壊れている箇所の調査終わりました!一部の電子回路がショートしていたみたいです!これなら修理自体にはさほど時間を要さないかと!」

「電子回路のショート……原因はわかるかい?」

「恐らくは強いエネルギーにさらされたことによるものですが、それ以上は不明ですね!」

「十分だよ、コトリもありがとう」

 

 コトリさんが「こちらが詳細です!」と言って書類を差し出す。それを受け取ったウタハさんはお礼を言ってから顎に手を当てて読み始めた。横から覗き込めば、やっぱりよくわからないグラフと図のようなものが描かれているのが目に入る。一応自分の銃のことだし少しは理解しておかなきゃと思って必死に内容を読み取っていると、頭上からくすりと笑う声が降ってきた。反射的に見上げると、こちらを微笑ましそうに見るウタハさんと目が合う。ウタハさんの目は、俺に失望している様子ではなくて。それが不思議だった。そのまま見つめていると、「よいしょ」と言いながらウタハさんが席を立った。

 

「ナナシ、ちょっと着いてきてくれるかな?」

「えっ?は、はい」

 

 困惑しながらも返事をして立ち上がると、ウタハさんはさりげなく俺の手をとって歩き始めた。なんか最近手を取られることが多いなと考えながら、ぼんやりとそれに従う。ウタハさんはそんな俺を気遣うようにしながら、部屋の奥にある計器や機械がたくさん置かれている場所へと移動した。ウタハさんはそこで俺に「ちょっと待ってて」と言うと、積み上げられた機械たちをかき分けるようにしながらガシャガシャと何かを探し始めた。なんだろ、俺を連れてきたってことは俺に関係する何かを探してるんだとは思うけど、正直さっぱり見当がつかない。あ、なんか機械投げた。

 

「ふぅ、あったあった」

「えっと……?」

「うん?あぁ、連れてきたのに放置してしまってすまないね」

 

 ウタハさんは機械の山の中から掘り起こすようにして何かを取り出し、それをひらひらと振りながらこちらを向いた。それからまた機械をかき分けるようにしてこちらへ戻ってくると、その何か……金属製の筒にディスプレイが付いたような機械をこちらに差し出した。促されるまま受け取ると、ピッと音がして、機械のディスプレイにデジタルっぽい字体で『POWER』と表示される。なんだこれ、海外の狂ったボディソープのCM?

 

「よっ、と。その機械は銃弾の威力を測定するものだよ」

 

 俺がよくわからない機械とにらめっこしていると、ウタハさんが箱からハンドガンを取り出しながらそう教えてくれた。へ~、これで銃弾の威力を測定できるんだ。もしかしてこの機械、ちっちゃいけどかなりの優れものだったりする?だとしたら取り扱いに注意した方がいいのかな、というか絶対注意した方がいいよね。

 

「さてナナシ、ちょっと貸してくれるかな」

「あっ、はいもちろん!」

 

 俺が少し持ち方を調整しているとハンドガンを持ったウタハさんがそう声をかけてきたので、出来るだけ落としたりしないよう気を付けながら機械を返却する。卒業証書を渡すみたいな感じになったけど、俺これ以上丁寧な渡し方知らないから勘弁してほしい。

 苦笑いしながら機械を受け取ったウタハさんは「それじゃあ軽く実演してみようか」と言って少し歩くと、機械を無造作に台の上へと置いた。それからハンドガンの銃口を筒の片側……開いている方に押し当てて引き金を引く。パン!と乾いた銃声が響いて、横にくっついているディスプレイに数字が表示された。

 

「こんな風に、どれくらいの威力を持つか表示してくれるんだ」

 

 そう言ったウタハさんはハンドガンの様子を確認して、正確性は少し劣ってしまうのだけれど、と付け足した。やっぱりめちゃくちゃ優れものじゃん!アニメとかでたまに見る威力測定するやつそのまんまじゃん!……っとと、いけない。ちょっと興奮しちゃった。今はそれよりもなんでこの機械を持ってきたのか聞かなくちゃだ。

 

「そ、それで……どうしてこれを?」

「あ、そうだったね。ナナシの言ってた『神秘』について簡単な実験がしたかったんだ」

 

 俺の質問を聞いたウタハさんはそう言って、再びハンドガンを構えた。それから今度は目をつむり、どこか集中したような様子になる。な、なんだろう。俺ならともかく、キヴォトス(この世界)の人は銃器の扱いに慣れてるだろうから集中することなんてないと思うんだけど。俺が不思議に思っていると、ウタハさんは目を開いて引き金を引いた。再びパン!と乾いた銃声が響き、機械に数字が表示されて……あれ?なんかさっきよりも数字が大きいような。

 

「1.3倍か……」

「えっ、と……?」

 

 俺の声を聞いて視線を機械に表示された数字からこちらへと動かしたウタハさんは「説明がまだだったね」と笑ってから、機械を手で示した。

 

「さっきも言った通り、この機械は銃の威力を簡単に測定するためのものでね。気づいてるかもしれないけど、1回目と2回目で威力が変わっていただろう?」

「はい。あっ、1.3倍ってその差のことですか?」

 

 ウタハさんは俺の言葉を肯定すると、「これを見ればわかると思うんだけど……」と言いながら機械の側面についているボタンを操作した。すると画面の表示が切り替わって、より詳細なデータが表示される。……といっても、俺じゃ理解できないものばっかりだけど。うん、一応わかった感じで「ふむふむ」みたいな顔をしておこう。ここで質問すると話の腰を折っちゃいそうだし。

 

「この通り弾速や弾丸の種類に違いはないだろう?にも関わらず、威力は1.3倍に上昇している……恐らく、ナナシの言う『神秘』を込めたが故に」

 

 あ、なるほど。さっき集中してたのは『神秘』を込めてたからか。……俺ぜんぜん出来なかったけどウタハさんは一発成功かぁ。いや、ウタハさんは感覚的に扱ってただろうからアレだよ、うん。俺は一瞬逸れかけた思考を振り払って、ちゃんと話を聞こうとウタハさんの話に集中する。ウタハさんはそんな俺の様子をチラと確認してから、言葉を継いだ。

 

「当たり前のことだから気にしていなかったけれど、確かに今までも撃つ人によって威力が変動する例はあって……」

 

 そこで不自然に言葉を切ったウタハさんはハッとした様子で顎に手を当てた。どうしたんだろう、何か気になることでもあったのかな。というかどうしよう、この状態でウタハさんが固まっちゃうと俺本当に何すればいいかわからないんだけど。声かけるべきかな、いやでも考え事の邪魔しちゃ悪いし。俺がまごまごしていると、ウタハさんはその様子に気づいたらしく「あぁ、すまない」と言ってポンと機械の上に手を置いた。

 

「データ量が足りないし感覚的なもので定量化が難しいから、理論としてまとめるには時間がかかりそうだけど……『神秘』。うん、『神秘仮説』は面白い仮説だ」

 

 神秘仮説。前の世界の考察を引っ張ってきただけなのになんだかカッコいい名前がついたなぁ、なんてぼんやり考えながら口の中でその単語を繰り返す。ウタハさん俺の様子を見てくすりと笑い、ハンドガンを台の上に置いてからこちらに歩み寄ってきた。それから俺の頭の上に手を乗せると、再び口を開く。

 

「ナナシがすごく硬いという話は聞いているから、その多くを込めて放った一撃が高いエネルギーを持つというのは理屈として納得できる。実際、パーフェクトガーディアンにはその痕跡が色濃く残っていたわけだからね」

「あ、ありがとうございます……?」

 

 なんで撫でられたのかはわからないけど、とりあえずお礼を言っておく。今の言葉はきっと俺のための……俺の言葉を疑っていないと、そう言ってくれた言葉だから。大人しくなでられている俺を見て「よし!」と一言仕切りなおすように言ったウタハさんは、俺と目線を合わせるために少し丸めていた背を伸ばし、ひとつ伸びをした。

 

「ナナシがさっきビームを撃てなかったのはどうしてなのか気になるところではあるけれど……私たちはエンジニア部。現場仕事が主でね。研究者とは少し肌が違う」

 

 ぐぐっ、と伸びをしながらそう言ったウタハさんは「それじゃあっちに戻ろうか」と言って歩き出した。そちらを見れば、すでに俺の愛銃(パーフェクトガーディアン)の修理に取り掛かってくれているらしいコトリさんたちの姿が目に入る。いやすごいな、仕事に取り掛かるまでがめちゃくちゃ早い。さっきのハイテンション状態に比べればだいぶゆっくりではあるけども。俺も置いて行かれないよう、ウタハさんの後に続く。

 

「そういうわけだから、今日はひとまずパーフェクトガーディアンを取得したデータをもとに安全なレベルまで補強……うん、頑丈にしておくよ」

 

 原因究明はまた今度だね、と言うウタハさんにお礼を言って……やっぱり申し訳ないな、と思う。俺のせいで実験は失敗してしまったし、俺は期待させるだけさせてそれに応えることができなかった。ウタハさんたちが俺に失望してないのが不思議なくらいだ。少しだけ、嫌なことを思い出しちゃったな。

 

「ナナシ、聞いてるかい?」

「えっ、あっ、なんです!?」

 

 突然肩を叩かれ、慌てて返事を返す。やばい全然聞いてなかった。な、なんです?

 

「いや、私たちが修理をしている間ナナシは暇になってしまうだろう?」

 

 そう言われて気づく。確かにいつまでもテーブルのお菓子を貪るというわけにもいかないし、いま俺のスマホにゲームの類いは入っていない。モモトークで時間を潰そうにも補習授業部(みんな)は今頃授業中だろうし……いや、別になにかしてなくてもいいか。俺の準備不足が原因だし、じっと待つのがそこまで苦手というわけでもないし。ここは「お構いなく」とでも言って……。

 

「だからその間の遊び相手を呼んでおいたよ。そろそろ来ると思うから、忘れ物が無いように確認しておこうか」

「へ?呼んだ?」

 

 呼んだって誰のことを?そう聞く前に、俺の背後の扉の向こうからバタバタと駆ける音が聞こえてきた。ウタハさんが「来たね」と言うが早いが、バン!と音を立てて勢いよく扉が開かれる。そこに立っていたのは引きずりそうなほどに長い黒髪と、銃と呼ぶにはあまりにも巨大な武器(レールガン)を携えた少女。

 

「ぱんぱかぱーん!アリスはナナシと再会を果たしました!」

 

 そう、俺がだいぶ前に会ったっきりだった友達。アリスちゃんが、そこには立っていた。アイエエエエエ!?勇者!?勇者ナンデ!?




更新エグ遅れてすいませんでしたァ!!!!しかも下なのにまた続く感じで終わってすいません!!!!
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