誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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謎多き後輩について教えてほしい(ウタハ視点)

「さぁ行きましょうナナシ!」

「それじゃ、楽しんでおいで」

「力強っ!?ちょ、アリスちゃん待っ……」

 

 バタン、とドアが閉まりナナシの言葉が遮られた。そしてドアの向こうからはバタバタと走る音が聞こえて……廊下は走らないように言っておけばよかったかな。わざわざアリスを注意する子なんてほとんど居ないし、数少ない例外(ユウカ)もあの子たちには甘いから問題ないとは思うけれど。

 

「みんな、ちょっと来てくれないかな」

 

 やっぱり心配するほどでもないかと思考を打ち切って、作業をしているエンジニア部の後輩たち──ヒビキとコトリ──へと声を掛ける。呼んだ理由はパーフェクトガーディアンの修理と補強について、というのもあるけど。ひとつ、確認しなきゃいけないことがある。作業の手を止めてなんだなんだとこちらへやってくる後輩たちに席を勧め、ジュースを注いでから私は口を開いた。

 

「早速で悪いんだけど……まずコトリ、『神秘』という言葉について聞き覚えは?」

「はい!神秘とは人知では計り知れない不思議なことや普通の理論では説明できないことなど、とにかく『不可思議なもの』を指す言葉として知られていますね!ほかに思想としての神秘主義などは──」

 

 コトリがいつものように説明や解説(マシンガントーク)を始めるのを聞いて、やはりと思う。コトリの解説はとても長いが、それは下手な検索エンジンよりも高い正確性で情報を網羅するためだ。そのコトリの解説にも無いとなると、私が知らないだけというのは考えにくい。

 

「──です!ところで、どうしていきなりこんな質問を?」

 

 私が少し考えている間にコトリの解説が終わったらしく、質問が飛んできた。見れば、コトリの隣に座っているヒビキも不思議そうな目でこちらを見ている。うん、これで私たち三人の『神秘』という言葉に対する認識はおおよそ一致したと考えてもいいだろう。私は「少し確認がしたくてね」と言いながら、先ほどまでナナシが飲んでいたオレンジジュースへと目を向けた。

 

「ちょっと、ナナシが気になることを言っていたんだ」

「気になること?」

 

 聞き返すヒビキに頷きながら、机の真ん中あたりにあるホワイトボードを手元に寄せ、その中心に大きめの字で『神秘』と書く。文字の下に線を2本引いてから、向かい側に座る二人からも見えやすいよう、紙芝居を見せるようにして手に持った。

 

キヴォトスの生徒(わたしたち)は人によって銃の威力が違うだろう?それだけじゃない、同じ生徒でも体調や『どれだけのパワーで撃つか』という意識によって威力は変動する」

「それがどうかしたの?」

 

 私の言葉を聞いて、ヒビキが不思議そうな顔でそう聞いてきた。当然の疑問だ。こんな()()、キヴォトスに住む者なら誰だって知っている。でも、だからこそおかしい点がある。

 

「ヒビキ、君は()()()()()()()()()()()()()()

「どうしてって、それは……あれ?」

 

 少し呆れ気味に返事を返そうとしたヒビキがその途中で固まる。隣でコトリも驚いた顔をしていた。そう、そうだ。銃の威力を決定するのは基本的に弾速と弾丸の質量……弾丸の持つエネルギーによって定まる。当然それは銃と弾丸によって決まるから、誰が撃つかに関係なく、多少の誤差はあったとしても常に同じになる。にも関わらず、実際の威力は撃つ者によって変動する。これは明らかにおかしい。そしてもうひとつ、おかしな点がある。

 

「どうして気が付かなかったんでしょうか……」

 

 コトリが呟くのを聞いて、ひとつ大きく頷く。そうだ、私たちはこれに()()()()()()()()()()()()()。己惚れではなく事実として、私たちはプロだ。銃器専門というわけではなくても、銃の整備や作成に携わってきた人間だ。それが今の今までこんな簡単な疑問に気づけなかったというのはいくらなんでもおかしい。おかしすぎる。ミレニアムの特記戦力であるネルの銃を整備し、その異常なまでの火力を知っている私たちは気付いていなければおかしいんだ。そして。

 

「ナナシは、この銃の威力を作用するエネルギー……私たちがふだん感覚的に扱っているそれを『神秘』と呼んでいた。自分がビームを撃てなかったのは、その『神秘』を動かせないからだと説明していたよ」

「それって……」

 

 こちらを見るヒビキの言葉に「うん」と頷き、二人の目を見ながら言葉を続ける。

 

「ナナシは『神秘』を……その不可思議性を知っていた」

 

 私はそう言ってから、手に持っていたホワイトボードを使ってナナシの言う『神秘』の説明をする。私たちに宿っているエネルギーであること、その量や質に個人差があること、ヘイローと関連性があり耐久力にも関係があるだろうこと、何らかの特殊能力に発展している場合があること、そして銃の威力……攻撃力にも相関があるだろうこと。ヒビキとコトリは私の説明を真剣な表情で聞いていた。

 

「仮に『神秘仮説』と名付けたけれど、この仮説は矛盾なく私たちの銃の威力や耐久力を説明してくれている」

 

 説明をそう締めくくると、二人は俯いた状態でこくりと頷いた。目の前で項垂れる後輩たちを見ながら思う。酷く衝撃的な仮説だ、と。並の人間なら飲み下すのに時間を要するだろう。自分たちがそれに気づけなかったという事実も、それが明らかにおかしいことにも悔しさを覚えるかもしれない。

 ――だが、私の後輩たちは並の人間(そう)じゃない。

 

「それで、二人とも。これを聞いてどう思ったかな?」

 

 私は問う。その答えに対し半ば確信を持ちながらも。先ほどまでの自分と同じように、疑問と価値観の更新に埋め尽くされているだろう後輩たちに問う。「ここからどうする?」と。気付けば口角が上がっていた。私だけじゃない、二人もだ。ゆっくりと顔を上げた二人の顔は、幼い子どもの用にキラキラと輝いていた。

 

「『神秘』を利用した機械や装置を作りたいですね!今まで触れてこなかった題材(エネルギー)ですから、今まで出来なかったことがたくさんできるかもしれません!」

「うん。それに、その話が本当ならマンパワーだけをエネルギー源にしてビームが撃てるかもしれない……!」

 

 やる気に満ちた目でこちらを見る後輩二人に、やっぱりと思い私も笑みを深める。私たちはエンジニアだ、マイスターだ。新しい素材に心躍らないわけがない。この世界の誰よりも先に新しいエネルギーを研究開発するチャンスが巡って来たのだから、こんなに嬉しいこともない。ナナシについては疑問が残るけれど、彼女に関しては私たちの可愛い後輩(正確には違うけど)だということだけわかっていればそれで十分だ。

 

「それじゃ、『神秘』の細かい部分やナナシについては先生とヒマリあたりに共有しておくとして……早速『神秘』について色々確かめて行こう!」

「はい!」

「うん……!」

 

 元気よく返事をした後輩たちが駆け出していくのを見ながら、私は予算を申請するための書類を取るべく自分の机へと向かう。ユウカはなぜかここ数日びっくりするくらい機嫌が良くて、以前と比べるとザル同然なくらいに予算申請が通りやすい。あまりにも問題がある予算申請は当然のように叩き落とされているけど、ミレニアムの部活は「我々の春が来た」とお祭り騒ぎだ。とはいえこれがいつまで続くかはわからないので、早めに予算を申請しなきゃいけないね。

 

「……そういえば、ナナシはどうして『神秘』を動かせなかったのかな」

 

 机に向かう途中、試射場のレーンが目に入ってふと疑問に思う。私たちは当然のように、それこそ手足同然に『神秘』を動かすことが可能だ。銃によってその込めやすさに差はあれど、全く動かせないなんて聞いたことがない。それなのにナナシは「動かせるようにできていないみたいに動かせなかった」と説明していた。

 

「考えても仕方がない、か」

 

 頭を軽く振って思考を払い、止めていた歩みを再開する。微かに残った思考が、最後にひとつ疑問を残していった。それはあり得ないからと振り払った、きっと見間違いだろう光景。私が止めに入る前の一瞬、ほんの少しだけ。ナナシのヘイローが形を変えようとしていたような、そんな風に見えたというだけの……単なる見間違いだ。




早くゲーム開発部との絡みが見たい方のための
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