誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
「ナナシを連れてきました!」
「げほっ!あ、アリスちゃっ、ちょっ、ちょっと止まって……っ」
息も絶え絶えな俺の前でバーン!と勢いよくドアを開くアリスちゃん。本当に元気溌剌といった様子で……エンジニア部の部室からここまで結構な距離走ったのに息切れひとつしてないよこの子。俺もう本当に瀕死なんだけど。パーティメンバー扱いなのは正直ちょっと嬉しいけど、次からは馬車に入れておいてくれないかな。最悪棺桶に入れて引きずるのでもいいから。
「お、アリスお帰り~!ナナシも!久しぶりだね!」
「まずナナシちゃんを休ませた方がいいんじゃ……?」
俺が膝に手を突いてゼェハァやっていると、アリスちゃんが開け放った扉の中からモモイとミドリが飛び出してきた。モモイは弾けるような笑顔で俺の手をとって部屋の中へと招き入れ、ミドリは少し心配そうにしながらその横を歩いている。ちょっと待ってほしい、ミドリの提案に乗っからせてほしい。まずこの呼吸を整えないとマジでマトモに喋れるかさえ怪しいもん。というかもう立ってるの限界……部屋の中には入ったしちょっと適当なとこに座らせてもらおう。あっ、アリスちゃんありがとう。これメロンソーd……うん、回復ポーションだね、ありがとう。
一息ついて、ぼんやりと部屋の中を見渡す。なんというか、その。言葉を選ばずに言えばだいぶ散らかった部屋だ。窓のカーテンは雑に半分くらい開けられてて、そのせいか昼間なのにちょっと薄暗い。壁の一面を埋め尽くすように飾り気のない棚が並んでいて、中にはゲーム機やゲームソフトが収められている。で、そこから溢れ出すかのように部屋の床にもゲーム関連の物品が散乱していた。部屋の真ん中にはソファが置かれていて、その少し前あたりに白くて丈の低い机、さらにその向こう側には小さめのテレビが置かれている。机の上にはお菓子やそのゴミが散らかっていて……うん、やっぱり汚い。
「いや〜、それにしても久しぶり、というか初めて会ったとき以来だね」
「そういえばそうかも……?」
部屋の状況、というか惨状を眺めながらジュース……じゃなくて回復ポーションを飲んで息を整えていると、モモイがそう話しかけてきたのでちょっと思い返しつつ返事をする。確かにゲーム開発部のみんなとは初めて会った日、要するに俺がこの世界へとやってきた日に少し話しただけでそれからは全く会っていなかったような気がする。
「そうかもじゃなくてそうなの!あのあと遊ぼうと思ったら先生がナナシは帰ったって言うし、しかも連絡先は聞いてなかったしで、もう会えないかと思ったんだよ!?」
「連絡先を聞いてなかったのはお姉ちゃんのミスでしょ」
「うぐっ……と、とにかく!相談事で来たって言ってたし心配してたんだよ!」
「ご、ごめん。あの時は色々事情があって……」
ぷんすこと擬音がなりそうなくらいコミカルに怒っているモモイに謝りながら、そういえばそうだったと思い出す。うん、正直申し訳ない。なんせあの時の俺は原作に関わらないように色々苦心していたから、そのままフェードアウトするつもりだったのだ。というか、俺にしてみればたったあれだけの会話で1か月半近く経っても覚えてくれていることに驚きだ。忘れないどころか心配までしてくれてたみたいだし。あのときは色々と状況がよくわかってなかったけど……ってあれ?よく考えたら今もよくわからない状況だな?エンジニア部からしょっぴかれてきてこの部屋が何なのかも確定してないわけだし。いや十中八九ゲーム開発部の部室だけど。まぁうん、とりあえず聞いてみよう。
「それで、結局俺はなんでここに?というかここってどこ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってないもなにも、まだナナシちゃん部屋に入ったばっかりでしょ」
「それもそっか」
じゃあ説明してあげる!と声を張り上げたモモイ曰く。実はゲーム開発部のこの3人は前々から先生に対して「また
「つまり、ナナシはここで私たちと遊べばいいってこと!」
そういうことになる。ちょっと身構えて聞いて損したかも。いや別に俺だって意味もなく身構えたりはしないよ?ただゲーム開発部って原作だと色々事件に巻き込まれて大活躍してるイメージが強いから、ワンチャン厄介ごとなんじゃないかって少しは思っちゃうじゃん。俺はアリスちゃんに引きずられながらここに来たわけだし。まぁ、結局は遊ぶだけってことだからとても気が楽だ。要はいつも通りに……あれ?俺友達と遊んだ経験なんてほぼないんだけど。
いや落ち着け俺。今の俺は友達ゼロ人のクソ雑魚じゃない、補習授業部のみんなという友達がいるじゃないか。思い出せ、みんなと過ごした日々を。えっと、確か合宿だとまず朝ごはん食べて、勉強して、それから休憩して勉強してまた休憩挟んで勉強を……ほとんど勉強しかしてない!?いやそりゃそうだ、考えるまでもなくあの合宿は勉強のための合宿なんだから勉強がメインになるのは当然。大事なのは休み時間に何をしていたかだ。……うん、お喋りしてたな。めちゃくちゃ楽しくお喋りしてた。俺のコミュ力でいけるか?いや違う。いけるかじゃない、やるしかないだろ!
「へ、へへ。モモイ……本日はお日柄もよく……」
「
「わひゃっ!?」
俺が決死の覚悟でモモイに声をかけようとしたその瞬間、誰かがそこそこの声量で声をかけてきた。振り向けばゲームのコントローラーを持って、もう待ちきれないとばかりにこちらを見ているアリスちゃんの姿がそこにある。あ、うんそうだよね。ここゲーム開発部なんだからゲームたくさんあるもんね、それで遊ぶよね。
「ナナシ、今何か言いかけてなかった?」
「なんでもないです。マジで。マジでなんでもないです」
俺がクソみたいなトークを展開しようとしていた事実は一切ありません。あっミドリ、その苦笑いはなんだ!
〇
「やったーっ!また私の勝ち~!」
「ぐぬぬ……」
画面に表示される「WINNER MOMORIA」の文字を見ながら歯噛みする。これで10戦9敗だ。誘われるままに格ゲーを始めた俺だけど、余裕で全員に負け越していた。正直悔しい。いや、ゲーム開発部はほぼ毎日ゲームをしてるわけだし強いのは当然なんだけど、俺とて前の世界ではサブカルを食いつぶしていた身の上なのだ。原作描写的にゲーム開発部の中で実力が安定していないだろうモモイにここまで負け越すというのは正直予想外だった。
というか前の世界と微妙に仕様が違ってるのも困る。今やってるゲームはスチューデントファイターってゲームなんだけど、こんなのどう考えたってスト〇ートファイターのパロディだ。中身のキャラまで似通ってるのにコンボ内容とかが微妙に違ってて、前の世界での経験が足を引っ張っている気さえする。くそぉ、出来ることなら本家スト〇ートファイターの方で対戦したい……!
「ナナシ、交代です!アリスが仇を取って見せます!」
「うぅ、頼んだ……」
「はい!アリス、モモイを殴ります!」
聞いたことが無いのに聞き覚えのあるセリフを言い放ったアリスちゃんにコントローラーを手渡し、少し後ろにあるソファへと腰かける。あのセリフ、
「ナナシちゃん、待ってる間別のゲームしない?」
「んぇ?」
ぐで~っとソファの上で溶けていると、同じく交代待ちのミドリが声を掛けてきた。別のゲーム、別のゲームかぁ。確かにこの部屋割ととんでもない量のゲームが置いてあるし、格ゲーの待ち時間に別のゲームをするというのは退屈しなくていいかもしれない。そういうわけで「そうしよっか」と返事を返す。というか断る理由ゼロだし。
ミドリと一緒にゲームを選ぶべくソファから身を起こし、ゲームソフトが収まっている棚へと足を運ぶ。う~ん、レトロゲー中心ではあるけど色んな種類のゲームが置いてあるなぁ。どれも前の世界のゲームをもじったようなタイトルで、元ネタがわかりやすいのもあればわかりにくいのもある。この『ウルトラマリンシスターズ』はスーパーでマ〇オなブラザーズのことかな。
「うん?なんだろこれ」
ふと目に着いたパッケージを手に取る。表紙というか包装というかが剥がれてしまっているらしく真っ黒な状態のそれには、油性ペンで『フトモン ランド』と書かれていた。なんだろう、フトモンって。前の世界での元ネタが全然思いつかない。あと、失礼ながらちょっとだけユウカさんを思い出すネーミングだ。中身が気になるけど勝手に開いていいものかわからずパッケージを眺めていると、こちらに気付いたらしいミドリが歩いてきた。
「そのゲーム気になるの?」
「あ、うん。これ何かなって」
言いながら『フトモン』と書かれているパッケージを見せると、ミドリは「あぁ」と納得したような声を出した。
「それ、お姉ちゃんがパッケージにコーヒーこぼしちゃったから表紙が無くなっちゃってるんだよね。中身は『フトモン』の陸なんだけど……」
「『フトモン』……?」
聞き返すと、ミドリは「せっかくだしそれやろっか」と言って『フトモン シー』と書かれたパッケージを棚から抜き取った。ソフトと本体がそれぞれ2つ必要なタイプのゲームなのかな?と思いつつ、ミドリがたった今床から拾ったゲーム機を受け取ってお礼を言う。うん、見た目は3D機能が目玉なのに全く使われないことで有名なあのゲーム機とほとんど同じだ。ミドリが手慣れた様子でゲームソフトを入れるのを見て機能も前の世界のそれと変わらないことを確認しつつ、俺もゲームソフトを挿入する。
それから画面上で『フトモン』のソフトを選択し、起動させる。壮大なBGMと共に画面にキャラが表示された。白衣を着た博士っぽいキャラとモンスターっぽいかわいいキャラだ。ぼけっと眺めていると博士っぽいキャラから吹き出しが伸びてテキストが表示される。
『このせかいにいきる ふしぎなふしぎな いきもの』
『フトコロモンスター ちぢめて フトモン』
「いやポ〇モンじゃねぇか!!」
思わず大声で突っ込んでしまったけど許してほしい。あ、ごめんミドリ。なんでもないから、大丈夫だから。ちょっと不意打ち喰らっただけだから。すごいよく似たゲームを知ってるってだけで、うん。驚かせてごめん。
まあ、はい。冷静に考えるとそんな驚くことでもない。ポ〇モンってタイトルによっては普通にレトロゲーの括りだし、ゲーム開発部の部室にそれとよく似た作品が置いてあってもぜんぜん不思議じゃない。流石にOPそのまんま過ぎてビビったけど。うん、気を取り直そう。
「あ、ナナシちゃんごめん。たぶんSDカード間違えてデータが初めからになっちゃってる」
「あ、うん。大丈夫大丈夫」
むしろストーリーモードがどこまでポ〇モンそのまんまなのかちょっと気になるレベルかもしれない。サクっとSDカードを入れ替えてくれたミドリにお礼を言って、再びフトモンを起動する。うわ、マジでポ○モンそのまんまだ。すごい懐かしい。
とりあえず前の世界で言う何世代の対戦仕様なのか調べようとスマホを取り出した瞬間、「うわぁ~!負けた~!」とモモイの叫び声が聞こえてきた。アリスちゃんはしっかり俺の仇を取ってくれたらしい。
「あ、お姉ちゃん負けたみたい。私の番だから行かないと……」
「あ、説明は大丈夫。なぜかわかるから」
こちらを気遣うように見てきたミドリにそう言う。うん、軽く確認した限り完っ全にポ○モンだから説明は要らない。
「それならこっちで好きにアイテム使って、対戦用のフトモン作ってていいよ。わからないところがあったらお姉ちゃんに聞いてね」
そう言って俺に自分のゲーム機を渡したミドリはテレビの方へと移動していった。アイテムを使っていいのはめちゃくちゃありがたいな、そうでないと育成に結構な時間かかっちゃうし。あ、すごい。育成用アイテムの所持数とお金がカンストしてる。とりあえず使いやすいサイクルパを……。
「聞いたよナナシ!フトモンバトルするんだって!?」
「あ、うん」
パーティ構成を考えるべくソフトに入っているポケ……フトモンを確認していると、モモイがバタバタとこちらにやってきた。
「私の考えた最強パーティがあるからそれと戦おうよ!」
「いいよ、俺もちょっと考えるから少し待っててくれる?」
俺の言葉を聞いて「もちろん!」と笑ったモモイは自分のゲーム機を開いてぽちぽちと操作し始める。たぶんバトル用のチームを組んでいるんだろう、俺もあんまり待たせると悪いから早めに決めないとな、と思いつつポ……フトモンを確認していく。ふむふむ、だいたいのシステムはポ〇モンと同じだな。いわゆる『とく〇い』が『スキル』に変わってたり『タイプ』が『属性』に変わってたりするけど、それ以外はだいたい同じだ。これなら混乱なく戦える気がする。
仕様を確認しつつパーティを組んでいると、モモイがニヤニヤしながらこちらを見ていることに気が付いた。なんだろ、待ちきれないって感じではないし……本当になんでこっち見てるんだ?普通に聞いてみるか。
「どうかした?」
「いやぁ~?ナナシ、私に負けまくってるから手加減してあげよっかな~って」
「は、は?負けてないんだが?」
ぜんぜん負けてなんかいないんだが?虚勢を張るも、モモイはそれを意にも介さない様子でニヤニヤしながらこちらを見ている。こ、こいつ煽りに来やがった……っ!
い、いや落ち着け俺。相手はモモイだぞ、子ども相手だぞ。ちょっとばかり煽られたくらい、大人の余裕というやつで受け流すのが筋ってものだ。俺19歳だし、仮にも長男だし。このくらいの煽りは笑って流そうじゃないか。モモイ、俺が大人でよかったな!
「ふ、ふぅ。あのねモモイ、その程度で俺の精神的動揺が誘えると思ったら大間違いで……」
「そんな小細工しないよ!だってナナシちゃん……弱いもん」
「ぜっっったいに泣かす!!」
あーもー知らない知らない!大人とか子どもとか知らない!むしろここで鼻っ柱叩き折る方が教育的まであるし絶対にモモイを倒して煽り返してやる!ボコボコのメタメタにしてやる!
俺はさっきまで組もうとしていたパーティのメンツを戻し、代わりに確実にモモイを屠るためのパーティを組む。さっきスマホで軽く調べたけど、フトモンの戦術っていうのはまだ大して確立されてない。というかいわゆるランクマが無いせいで対戦人口が少なめらしい。つまり俺の前の世界の知識を使ってもモモイが対応できる可能性は低いってことだ。対策必須害悪ポ〇モンの恐ろしさってやつを見せてやるよぉモモイぃ……!!
毎分投稿です