誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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長いです


ゲームの楽しい遊び方を教えてくれ 中

 十数分後。お互いにパーティを揃えた俺たちは、勝負の舞台に上がっていた。といってもソファの上に向かい合って座っているだけだけど、それでもここは勝負の舞台。今の俺たちはポケ……フトモントレーナー。目と目が合うどころか煽り倒されてしまった今、勝負を避けては通れない。

 

「ふふん、せいぜい足掻きなよナナシ!」

「吠え面かかせてやるよモモイぃ……!」

 

 俺を見下ろすように挑発するモモイに対し、こちらもできるだけ強気に吠える。用意した策がハマるかどうか、勝てるかどうかの緊張感。これこそポケ……フトモンバトルだ。もうなんか言い直すのめんどくさいな。ポ〇モンでよくない?ダメ?そっかぁ。

 

「すごい闘気を感じます……!」

「白熱してるね」

 

 ちなみにアリスちゃん達は既に格ゲー勝負を終えていて、すっかり俺たちの勝負を観戦する態勢に入っていた。なんか白い机を挟んだ向こう側でお菓子を食べながら実況解説みたいなことやってる。あのマイクとかディスプレイとか、いつのまに引っ張り出してきたんだろ、すごいノリ良いな。

 ちょっとあっちの様子も気になるけど、まずはモモイをぶちのめ、わからせ……倒すのが先決。二人で決めたパスワードを入力し、マッチングが完了する。すでにレギュレーションは取り決めた。あとはAボタンを押せば、対戦がスタートする。

 顔を上げ、モモイの方を見る。あっちもゲーム画面から視線を外してこちらを見ていた。同時、お互い、不敵に笑う。

 

「ナナシ!」

「モモイ……!」

 

 勝負!そう同時に叫び、Aボタンを強く押し込んだ。ゲーム機の画面が切り替わり、お互いのパーティー……六体ずつのフトモンたちが表示される。モモイのパーティは対面構築か。

 

「ミドリ、どうして二人はお互いのパーティを見て悩んでいるのですか?」

「あぁ、アリスちゃんはまだフトモンやってなかったっけ。フトモンのシングルバトル……一匹ずつフトモンを出して戦うルールでは、六体で構成されるパーティの中から三体を選んで戦うんだよ。見せ合い画面っていう、要するに今の画面で相手のパーティを見ながら選出できるの。この選出で有利不利が大きく変わるから、二人とも悩んでるんだと思う」

 

 ミドリの解説を聞き流しながら、どう戦っていくかを考える。といっても俺の方はモモイのパーティを見た瞬間に選出するフトモンも、なんならその順番まで決まったからそこはサクッと選んでしまう。大丈夫、相手のパーティを見る限り対抗策はない。俺の策は確実にハマる。

 

「モモイがすごく悩んでます!」

「見た感じナナシちゃんのパーティは戦えそうなフトモンが四体しか居ない。他は明らかに数合わせだから、確実に勝てるフトモンを選びたいんだろうね」

 

 ミドリの言葉に、アリスちゃんが不思議そうな顔をした。机の上に置かれたディスプレイ……俺とモモイのゲーム画面が映されているそれを見て、再度首を傾げる。

 

「ナナシはどうしてそんなパーティを作ったのですか?」

「うーん、私もちゃんとはわからないけど。単純に育成時間が足りなかったか、もしくは……」

 

 この四体によほど自信があるか、だね。ミドリがゲンドウポーズで言い放った一言が部屋の中に響き渡る。次いで、誰かが生唾を飲み込む音が響いた。緊張感が張り詰める中、モモイが静かに顔を上げこちらを見つめる。

 

「進化前どころか一度も進化してないフトモンがいるけど、数合わせ?」

「どうかな、モモイはこのフトモンたちに負けるかもよ?」

 

 互いに軽口を叩きあう。さっきも言ったけど、すでに俺の選出は決まっている。なんなら初めからひとつの行動しか狙っていないパーティだ。モモイは俺の言葉を聞いて額に青筋を浮かべ、ゲーム機を操作する。瞬間、俺の方のゲーム画面も動いてバトル画面へと移行した。

 

「強気な発言だけどさ……負けても言い訳しないでよね!」

 

 フトモントレーナーのモモイが しょうぶを しかけてきた!

 

『モモイは パクリアスを くりだした!』

『ゆけっ! カワズドン!』

 

 流れ出す戦闘BGMを聞きながら、まずは状況を確認する。対面は俺がカワズドン、モモイがパクリアス。パクリアスは調べた限り高速物理アタッカー、つまりは素早さが高く物理攻撃力のあるフトモンで、俺の繰り出したカワズドンは素早さが低い代わりに物理防御が高め。お互いのフトモンの『属性(タイプ)』的に考えても、普通なら有利とも不利とも言えない対面だ。

 

『カワズドンの「すなまき」』

 

 考えているうちに俺のフトモンのスキルが発動する。スキルの発動タイミングは種類によって違うけれど、『すなまき』は場に出た時発動するスキル。その効果は――

 

「『すなまき』は天候を『すなぼこり』にするスキルだね。天候がすなぼこりだと、特定の属性以外のフトモンはターンの最後にちょっとずつダメージを喰らっちゃうの」

「じゃあパクリアスもダメージを受けるのですか?」

「ううん、パクリアスはお姉ちゃんのパーティの中だと唯一すなぼこりのダメージを喰らわないフトモンだよ」

 

 ミドリの説明を聞きながら考える。今回の俺のパーティは変則的な砂パだ。アイテムやスキルでの食いしばりをすなぼこりのダメージで押し切って、相手のパーティを全員倒すというのが基本のコンセプト。だからすなぼこりの影響を受けないパクリアスはすごく邪魔な存在だと言える。もしこのパクリアスがカワズドンの攻撃を耐えたりしたら、高い素早さのせいでカワズドンは倒され、後続にダメージまで入ってしまうからだ。いや、下手をすればそのまま全抜きされる可能性まである……と、ここまでは選出画面の時点でわかっていた。故に、当然このカワズドンは持っている。パクリアスを屠るための策を!

 

「パクリアス!『げきこう』!」

 

 ゲーム画面でテキストが表示されると同時、モモイが技名を叫んだ。『げきこう』は竜属性の物理攻撃技、そして同時にパクリアスの最大打点だ。俺のカワズドンのHPが半分ほど削れて、HPバーの色が黄色に変わる。むぅ、火力アップアイテムを持ってるかは微妙なダメージだな。

 

「技のエフェクトがカッコいいです!ナナシのフトモンにダメージが入りました!」

「確定二発……次の攻撃で倒れるダメージ量だね。ここで何かしないとナナシちゃんのカワズドンはタダで突破されちゃうけど……」

 

 うん、その通り。このままだと俺のフトモンはタダで突破されてしまう。かといってカワズドンの火力だと普通の技でパクリアスを突破するのは難しい。だから。

 

「カワズドン!『こおりのツメ』!」

「うっそぉ!?」

 

 俺もモモイに習い、ゲーム上でテキストが表示されるのと同時に技名を叫ぶ。モモイが驚いているけれどそれも当然だ。なにせカワズドンの属性は地。フトモンの属性と同じ属性の技を使うと1.5倍のダメージボーナスが入るシステムだから、対戦環境が進んでいないなら氷属性の攻撃、それも威力が控えめな『こおりのツメ』なんてまず搭載しない。それでも俺がこの技を採用したのは、パクリアスという強いフトモンを意識したからだ。というかアニメで見た戦闘みたいで結構楽しいな、技名叫ぶの。

 

「氷技!パクリアスの弱点です!」

「それもただの弱点じゃない!四倍弱点!」

 

 モモイに一拍遅れて、アリスとミドリが反応する。そう、さっきも言った通りフトモンには属性があり、属性には相性がある。弱点を突けば通常の二倍ダメージが入るんだけど……フトモンの中には複数の属性を持っていて、その弱点が重なってるやつもいる。そういうフトモンは重なった弱点を突くことで通常の四倍もダメージを与えられるのだ。

 

「で、でも大丈夫!カワズドンの『こおりのツメ』はちゃんとダメージ計算してるもん!」

 

 モモイが気を取り直すように言うのを聞いて、少し驚く。いや、うん。普通にビックリした。対戦環境進んでないだろうし、普通に知らないと思ってた。パクリアスは高い素早さと火力に目が行きがちだけど、実は最低限の耐久力もある。カワズドンの火力だと、『こおりのツメ』を使っても微妙に届かない。……とはいえ、前の世界の知識がある俺はそのくらい対策するわけで。

 

『こおりのジェムが わざのいりょくを つよめた!』

「えぇっ!?うそぉ!?」

 

 モモイがゲーム機に向かって身を乗り出すのを見て、内心ガッツポーズを決める。よかった、流石に火力アップアイテム耐えの調整まではしてないみたいだ。

 

「なにかアイテムが発動しました!あれは……」

「『こおりのジェム』!1回限りだけど氷技の威力を強めてくれるアイテム!」

 

 アリスとミドリの声を聞きながら、頭の中で俺の策が順調に進んでいることを確かめる。ちなみにこのカワズドン、すなぼこり状態でダメージを受けないポケモン相手ならだいたい殴り合えるように作ってあったりする。それでなくても氷技は範囲が優秀、しかも強いポケモンが多いドラゴンタイ……竜属性の弱点を突けるから腐りにくい技だ。わざ威力が控えめなのを対策するためのジェムだったんだけど、結構キレイに刺さった気がする。

 

『あいての パクリアスは たおれた!』

「ぐぬぬ……」

 

 そんなことを考えているうちにモモイのパクリアスは倒れた。うん、とてもいい展開だ。どうやらこの『フトモン陸/海』に対戦ギミックはないみたいだし、うまくいけばこのまま押し切れる。

 

「まだまだ!次はこの子だよ、がんばってウォーブシン!」

『モモイは ウォーブシンを 繰り出した!』

「ウォーブシン……」

 

 たぶんだけどロー〇シンと似た性能をしているんだろう。自分を状態異常にするアイテムを持っている可能性があるから相手を眠らせる『のび』は使えないし、裏のフトモンに交代しても交代際に受けるダメージが痛すぎる。……カワズドンは切るしかないか。

 

『あいてのウォーブシンの ドレインナックル!』

『カワズドンは たおれた!』

 

 適当な技を選択するとゲーム画面が動き、俺のカワズドンが倒れる。HPが半分残ってるからワンチャン耐えないかなと思ったけど、流石にダメだったみたいだ。心の中でカワズドンにお疲れさまを言う。うん、まだ大丈夫。正直パクリアスを倒してくれただけでも十分すぎる働きだし、なにより。

 

「ふふん、これで五分五分だよ!さっきは驚いたけど、ここから全抜きするから!」

 

 勝ち誇ったように言うモモイに向けて、俺は笑う。そして宣言する。――そう、なにより。

 

「いや、もう俺の勝ちだよ」

「!?」

 

 俺の勝利は確定しているのだから。俺は驚いた顔をするモモイに対して不敵な笑みを浮かべ、悠々と場に出すフトモンを選択する。ちなみに俺の勝利が確定したのはパクリアスが倒れたその瞬間。パクリアスが重いからこそ、その対策になるフトモンを作っておいたのだから。横目でアリスちゃんたちの方を確認すれば、モモイと同様、不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「ミドリ、どういうことですか?」

「……わからない。場にはすなぼこりが展開されてるから、確かにナナシちゃん有利の状況ではある。でも、勝利が確定する要素なんてどこにも……」

 

 ミドリの言葉を遮るようにして「ポン!」というSEが鳴って俺のフトモンが繰り出される。クックック、見て驚け!これが俺のパーティ最強最悪の害悪フトモン!対策のない相手を一方的に屠る悪夢のフトモン!

 

『ゆけっ! チビドラ!』

「……え?」

 

 トスン、と可愛らしい音を鳴らしながら着地したチビドラ。目を点にする俺以外の三人。うんそうだね、最初にモモイが言及した一度も進化してないフトモンだね。ちなみに進化してないのにステータスがめちゃくちゃ高いとかそんなことは一切なく、例えば素早さの実数値(ステータス)はさっき倒したパクリアスの三分の一以下だったりする。

 

「ちょ、ちょっとナナシ!なんでチビドラ選出してるの!?しかもレベル1じゃん!」

「ナナシちゃん、選出間違えたならやり直した方が……」

「いや、間違ってないから大丈夫」

 

 俺の言葉にモモイとミドリが驚いているけれど、実はこれ何も間違ってない。対策必須であることも、害悪フトモンであることも、何ひとつとして間違っていない。さて、いこうチビドラ。お前の脅威を知らしめてやろう。

 

「モモイ、俺はここから全抜きするよ」

「っ、言うじゃん……!」

 

 俺の宣言を聞いたモモイは表情を変え、ゲーム画面へと視線を戻した。たぶん向こうの画面にはチビドラのかわいいご尊顔が映っていることだろう。そのかわいさをトラウマにしてくれる!!俺も技コマンドを選択し、チビドラの行動を決定する。レベル1なので行動を間違えたら普通に即死だし、気持ち慎重に。

 

「いくよウォーブシン!『マッハナックル』!」

『あいての ウォーブシンの マッハナックル!』

 

 テキストが表示されると同時、モモイが声を張り上げた。マッハナックルは素早さ関係なく先に行動できる技……俗に先制技と呼ばれる技だ。何をしてくるかわからないから確実に先に動いて倒す魂胆なのだろう。先制技は威力が控えめに設定されているけれど、それもレベル1相手なら問題にならない。チビドラのHPバーはみるみるうちに削れ、そして……。

 

「えっ!?」

「チビドラが耐えました!」

「あれは……!」

 

 わずかに、HPを1だけ残して減少を止めた。そう、これがチビドラの強み。前の世界では有名過ぎて、進化前のポ〇モンの特性であったにも関わらずプレイヤーのほとんどが覚えていた特性。いや、別に固有のそれだったわけではないんだけど、この戦法があまりにも有名過ぎたのだ。

 

『チビドラの「がんけん」』

 

「ミドリ、あれもスキルの効果ですか?」

「うん。私も忘れてたけど、チビドラのスキルは『がんけん』。HPが満タンの状態から一撃で倒されるダメージを喰らったとき、1だけ残して耐えるスキル。チビドラはすなぼこりのダメージを受けないから、これでこのターンは生き残れる」

 

 ミドリの解説を遠く聞いて、ゲーム機を片手にモモイと向かい合う。モモイは冷や汗をかきながら、同様に俺の目を見ていた。一瞬の静寂を破る様に、ゲーム機がSEを発する。俺のチビドラの攻撃が放たれる。テキストの表示と同時、俺も叫んだ。

 

「チビドラ!『しゃにむに』!」

「なにその技!?」

 

 モモイが驚愕の声を出すが早いが、技エフェクトと共にウォーブシンのHPが削れていく。ほとんど満タンの状態から、残り1の状態まで一気に。モモイはゲーム画面にかじりつきながら口をあんぐりと開けている。ふっふっふ、やはり知らないかこの戦法を。この俺を煽った報いは受けてもらうぞモモイ!

 

「ミドリ、あの技は……!?」

「『しゃにむに』!相手のHPを自分のHPと同じになるまで削る技!……チビドラってこれ覚えるんだ」

 

 ミドリも驚いている様子だけれど、これは前の世界じゃかなり有名な戦法……通称『レベル1コ〇ドラ』だ。特性を利用しHP1で相手の攻撃を耐え、相手のHPを自分のHPと同じにする技を使う。そして天候ダメージ……この場合は『すなぼこり』で一方的に相手を倒す。とはいえ、これだけなら別にこの戦法は悪辣だの害悪だのは言われない。

 

「で、でもチビドラだってHP1じゃん!『しゃにむに』は先制技じゃないし、私のラスイチは倒せないよ!」

「クックック、その通り。()()()()だったら、ただのビックリ箱戦法で終わっちゃうよねぇ?」

 

 モモイの言う通り、場に残った残りHP1の遅いフトモンなんてどうにでもできる。だから、この戦法が最悪なのはここからだ。持たせたアイテム、その効果があって初めてこの戦法は確立される。

 

『チビドラは かいがらのかねで すこし かいふく』

「むむ、またよくわからないアイテムを……って、ちょっと待って!?回復量ぜんぜん少しじゃないじゃん!?」

「チビドラが全回復してしまいました……」

 

 モモイの言う通り、ゲーム画面に映るチビドラの回復量は少しなんてものじゃなく、なんなら全回復している。うん、正直俺もこの『すこし』って表記は詐欺だと思う。いや本来はどう頑張っても少ししか回復量を得られないアイテムだから、この表記は正しいはずなんだけれども。……さて、これにてこの戦法はワンサイクルを終えた。すなぼこりのダメージでウォーブシンが倒れる瞬間、ミドリが「そういうことだったんだ」と呟く。

 

「『かいがらのかね』は与えたダメージの12.5%を回復するアイテム……レベル1のチビドラはHPの最大値が低いから、『しゃにむに』で与えたダメージで全回復できちゃう。そしてHPが満タンならスキルによる食いしばりが復活する。またHP1で耐えて『しゃにむに』で回復、残りHP1の相手は天候ダメージで倒れる……!」

「ど、どういうことですか……?」

「ナナシちゃんは、今の行動を繰り返してるだけで勝てるってこと!」

 

 ミドリがものすごく簡潔にまとめてくれたけど、実際その通り。俺はもうチビドラに『しゃにむに』を指示しているだけで勝てる状態だ。もはやこのチビドラは不死身要塞と化している……モモイにこの戦法を突き崩すことはできやしない!

 

「くっ、いったいどうすれば……!」

「無駄だよモモイぃ!この戦法の弱点は天候ダメージを受けない相手と接触時にダメージを与えてくる相手、あとは食いしばりを貫通してくる連続技くらい!モモイの手持ちにもうそんな技を覚えているフトモンはいない!俺の勝ちだァ!」

「ナナシ、すごく調子に乗ってます!」

「勝ちが確定した瞬間にすごい変わり身だね……」

 

 外野の二人が何か言ってくるけど聞こえないなぁ!俺の勝ちは既に確定事項!最初の対面(パクリアス)を制した時点でモモイに対抗策はないのだよ!ふははは!アイスとか奢ってもらっちゃおっかな~!何か一言モモイを煽ってやろうとそちらを見れば、まだゲーム画面に目を向けて悩んでいる様子だった。なんだ?サレンダーするなら今のうちだぞ。

 

「ねぇ、ナナシ」

「うん?」

「私も宣言するよ。『ここから全抜きする』って!」

 

 そう言いながら顔を上げたモモイの目は、いまだ死んでいなかった。不敵に口角を吊り上げる彼女を見てぶわっと冷や汗が吹き出すのを感じながら、思考を回す。記憶の中からモモイのパーティを引っ張り出し考える。いや、うん、大丈夫。すなぼこりのダメージを受けない相手は居ない。『しゃにむに』を属性相性で無効にしてくる相手も、連続技を使ってくるようなフトモンもいない。大丈夫だ。大丈夫なはずなのに……嫌な予感が、止まらない。

 

「お願い、レッカザル!」

『モモイは レッカザルを くりだした!』

 

 繰り出されたフトモンを見て、わずかに息を吐く。レッカザルは炎・闘属性の高速アタッカー。モモイの性格的にフルアタ構成だろうし、妙な事はしてこない……はず。嫌な予感は止まらないけれど、俺のすることは変わらない。というか、今更もう変えられないというのが正しい。生唾をひとつ飲み込んでから、『しゃにむに』の技コマンドを選ぶ。

 顔を上げる。モモイの顔は、その瞳はやはり死んでいない。満面の笑みを浮かべたモモイは、またもゲームテキストが表示されると同時に声を張り上げた。

 

「レッカザル!『さみだれひっかき』!」

「うっそだろ!?!?そんなお前、おま、お前!?!?」

 

 いや連続技だけど!そんな、嘘ぉ!?驚いているうちに連続技特有のエフェクトが発生し、俺のチビドラが倒れる。連続でダメージを与えてくる『さみだれひっかき』相手じゃ、食いしばりで残るなけなしのHPなんて意味を成さない。ば、馬鹿な。俺のレベル1戦法が破られただと……!?

 

「なんでそんな技……!?威力も低いし属性一致でもないのに……!!」

 

 俺の呟きを聞いたモモイは「うん、そうだね」と言って笑う。

 

「威力は低い、属性一致じゃないから火力も出ない。弱い技だよ」

 

 モモイは「でも!」と大きく声を張り上げて俺に指を突きつけた。

 

「強い弱いなんてトレーナー(私たち)の勝手!この技のお陰で、私はあなたに勝てる!それがすべてだよ、ナナシ!」

「ッ!」

 

 何から何まで計算尽くだと言わんばかりの笑顔でそう言って、モモイはふんすと鼻を鳴らした。ぐ、ぐぬぬ。正直、まさかこの戦法が破られるとは思ってなかった。カワズドンとチビドラの二体で成立する戦法だから、他のフトモンは割とやっつけ気味の育成になっているし選出も雑だ。一応モモイのレッカザルに有利なフトモンではあるけど、あのアイテムを持っていた場合を考えると……なんで『さみだれひっかき』なんて覚えさせてんだよチクショウ!

 

「ミドリ、どうしてモモイはあの技を覚えさせていたのですか?」

「お姉ちゃん、いつも余った技スペースを雑に空けとくから……レベルで覚える『さみだれひっかき』がそのままになったんだと思う」

「そこ!うるさいよ!」

 

 あ、そういうことだったのね。普通にこういう戦法へのメタが流行ってる可能性まで考えたけどそんなことはないみたいだ。よかっ……いや良くはないな。状況はひとつも好転してないわけだし。さて、どうしようか、はっきり言って状況は五分五分。ここに来ても、まだ、勝負の行方はわからない。

 ふと、モモイが俺を見ていることに気が付いた。何かを期待しているような、それでいて楽し気で油断がない、キラキラした瞳だ。目がバチリと合った瞬間、モモイは弾けるように笑った。楽しくてたまらない、といった様子で。俺はそれを見て、思う。ああ、「楽しい」って。

 俺は視線をゲーム画面に落とした。最後の一体、そのステータスを確認するために。確実に、勝利を拾うために。

 

「モモイ」

 

 ゲーム画面に顔を向けたまま、俯いたまま、名前を呼ぶ。モモイは、挑戦的な態度を崩さないまま俺に目を向けた。そっちを見てはいないけど、きっとモモイはそうしている。

 

「俺は用意してた戦法を破られて、最後の一体にまで追い詰められた」

 

 実のところ。今、ゲームの中の俺に選択肢というのは存在しない。勝負の最中に相手に背中を見せることが出来ない以上、戦う選択肢しかない以上。俺がとる行動は最後の一体を繰り出すという、ただそれだけだ。でも。それでも。俺が生きているのは画面の向こう側じゃなくて現実だ。選択肢は一つじゃない、いくらでもある。なら、ここで俺がとるべき、いや、()()()()選択は。顔を上げ、モモイの顔を正視する。

 

「それでも……」

 

 さっき言った通り、まだ現時点ではどちらの勝ちも確定していない。どっちが勝つかなんてわからない。でも、けれど、だからこそ。俺は、この最高に楽しい勝負(ゲーム)に勝ちたいから。だから、それでも!

 

「勝つのは俺だ!」

『ゆけっ! ハリキッス!』

 

 俺が再びの勝利宣言を終えると同時、ゲーム画面に俺の最後の一体が繰り出される。ハリキッス。飛・無属性の中速特殊アタッカー。俺の、最後の一体だ。

 

「そうこなくっちゃ!私だって負けないよ!」

 

 俺の宣言を聞いたモモイは、にやりと笑いながらそう吠えた。俺も応えるように笑顔を作って……思考の海に沈む。勝ち筋はある。というか、ただ一筋の負け筋しかない状態だと言っていい。けれどその負け筋を引いたら、俺はなすすべなく負けるだろう。それは避けたい。というか、避けなくちゃいけない。俺はいま、この勝負(ゲーム)を楽しむために、モモイをぶっ倒してやりたいから。

 

「ミドリ、今はどっちが有利なのですか?」

「まだナナシちゃんが有利、かな」

 

 白熱する俺たちから少し離れた、実況席という名の白テーブルにて。ミドリが少し考えたような様子で、アリスちゃんの質問に答えた。

 

「お姉ちゃんのレッカザルは高速アタッカーだからハリキッスを上から叩くことができるけど、ハリキッスは一撃くらいなら耐える耐久力がある。しかもハリキッスはレッカザルに対して弱点を突けるから、普通に考えれば返しの一撃でナナシちゃんが勝つよ」

「なるほど……!」

 

 そうだ、普通に考えれば俺が勝つ局面。このターンを耐えさえすれば俺が勝てる。()()()()()()()、これはそういう局面。俺が選択するのは弱点を突ける飛属性の攻撃技でいい。でも。

 前の世界の対戦において、ある言葉(スラング)があった。それは『相手を信頼する』という言葉。重要な局面で選択を迫られたとき、相手の実力を信じて行動することを指すスラングだ。俺は、モモイを信じて……モモイに勝つ!

 

「レッカザル!『ファイアドライブ』!」

『あいての レッカザルの ファイアドライブ!』

 

 モモイの叫びと共に、ゲーム内のレッカザルが炎を纏う。『ファイアドライブ』……炎属性の物理技で、高い威力の代わりに反動ダメージを受ける技だ。俺のハリキッスは炎を纏った体当たりを受け、HPバーが削れていく。でも。

 

「ハリキッスが耐えました!」

 

 アリスちゃんのよく通る声が響く。HPバーは半分ほど削れたところで止まり、そのまま動かない。耐えた。なんとか急所(クリティカル)を引かずそのまま耐えたことに内心ホッとしつつ、俺も声を張るべく息を吸う。今度は俺のターンだから。

 

「ハリキッス!『でんじき』だ!」

『ハリキッスの でんじき!』

 

 俺が叫ぶのと同時、ゲーム内テキストが表示されてハリキッスが電気のようなエフェクトを発した。万が一にも技が当たらなかったらどうしようかと思ったけど、ひとまずは当たって良かった。

 

「あの技はなんですか!?」

「あれは『でんじき』。電属性のデバフ技で、相手を痺れ状態にする技……痺れ状態は一定確率で動けなくなる上に、素早さのステータスが半分になっちゃう状態異常。ナナシちゃん、手堅いね」

 

 ミドリが感心したように呟くのを聞きながら、俺は思考を回す。モモイのレッカザルは確かに高速アタッカーだけど、素早さが半分になった状態で俺のハリキッスの上を取れるほど早くはない。素早さ順は逆転した、今度は俺のターンが先に来る。今はさっきと真逆の構図、俺のハリキッスがモモイのレッカザルを倒せれば俺の勝ち、倒せなければ俺の負けだ。実況席ではミドリがほとんど同じ解説をしている。

 俺とモモイが、ほぼ同時に顔を上げてにらみ合う。「いくよ」「いくぞ」と、またも同時に声を上げて……互いのゲーム機のAボタンが押し込まれた。

 

「ハリキッス!『エアスラッガー』!」

『ハリキッスの エアスラッガー!』

 

 俺のハリキッスが風を纏い、その風を刃に変えて撃ちだす。『エアスラッガー』、飛属性の特殊攻撃技だ。レッカザルの弱点属性でもあるこの技は、外れることなくその身体を切り裂き――レッカザルの持つアイテムが、発動する。

 

「読めてたよナナシ!」

『ババコのみが いりょくを よわめた!』

 

 瞬間、レッカザルから白い光が放たれる。本来なら完全に削れてなくなるはずだったHPは赤ラインで減少を止める。あのHP、すなぼこりダメージじゃギリギリ倒れない!

 

「ミドリ、あのアイテムは……!?」

「『ババコのみ』、一度だけ飛属性技のダメージを半減してくれるアイテムだよ。ここまでうまく噛み合うのは珍しいけど……でも、お姉ちゃんのレッカザルは耐えた」

「つまり、この勝負はナナシの……」

 

 負け。そう言いかけたアリスちゃんの声を遮る様に「まだ!」と叫ぶ。驚く実況席の二人と、未だ真剣な表情でゲーム画面を見つめるモモイ。

 

「俺のハリキッスの特性は『そらのめぐみ』!技の追加効果の発動確率を二倍にする特性!そして『エアスラッガー』の追加効果は30%で相手を1ターン動けなくする効果!だから……」

「勝負は、レッカザルが動けるかで決まる。そうでしょ?ナナシ」

 

 俺の言葉を継いだモモイに驚きつつも、頷きを返す。このターンにレッカザルが動けなかったなら、次のターンにハリキッスが攻撃して勝てる。つまり、ここからは運の世界。この勝負を決めるのは運だ。運ゲーに持ち込んどいてなんだけど、正直絶対に負けたくない!めっちゃ勝ちたい!

 

「動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けぇ!!!!」

「動くな動くな動くな動くな動くな動くな動くな動くな動くな動くなぁ!!!!」

 

 画面に噛り付いてそう叫ぶ俺たちと、それを見つめる実況席の二人。勝負の結果は――

 

 

 

 

「う~ん、読み負けちゃったかぁ」

「あの、ミドリさん。不利な選出だったのに受けル崩壊して択ゲーにまで持ち込まれた時点で気分は敗北なんですけど……」

「次はアリスの番です!」

「あ、うん。どうぞ」

 

 無邪気なアリスちゃんに癒されつつ、持っていたゲーム機を手渡す。あれから数十分、俺たちはフトモンの対戦で遊んでいた。初めのうちは『やどみが』『まひるみ』『ポイヒみがまも』『いばみが』等々の害あk……テクニカルな戦い方でみんなを翻弄してたんだけど、ゲーム開発部との対戦は一度見せた手が通用するほど甘くはなく。最終的には普通のサイクルパを使うことを余儀なくされた。流石にガンメタのパーティをなんとかできるほど上手くはないし……というか、ゲーム開発部は予想の五倍ゲームが上手い。モモイは感覚的にだけど良い手を打ってくるし、たまに謎の嚙み合い方をして追いつめられる。ミドリは順当に上手い感じで普通に困る。アリスちゃんについてはまだまだ初心者なので、みんなで教えながらやっている感じだ。それからもう一人、ヤバいのも居る。

 

「な、ナナシちゃん」

 

 くいと袖を引かれて振り返れば、そこには少し不安そうに俺を見上げるオレンジ髪の少女……ユズがこちらを見上げていた。手にはさっきまで俺の手にあったのと同種のゲーム機が握られており、光を放っている。

 そう、この子がヤバい。この子は花岡ユズ。ゲーム開発部の部長にして極度の引きこもり……なんだけど、めちゃくちゃにゲームが上手い。それはもう、冗談でなく世界に通用するレベルで。原作でもそんな感じの描写はあったんだけど、格ゲーが専門っぽかったしフトモンならちょっとはやれるかなとか思ってたら普通にボッコボコにされた。初見の戦術にもある程度対応してくるし、ユズから一勝掴みとれたのはほとんど奇跡だと思う。

 

「次のパーティ組めたから……良い?」

「もちろん。こっちも準備するからちょっと待ってね」

 

 俺が頷くとユズは「ありがとうございます」と言って、いそいそと準備を始めた。ちなみにはモモイとの勝負が終わったときにロッカーから現れたよ。最初唐突にロッカーの中から声を掛けられたもんだから、普通にロッカーが喋る特異現象かと思った。しかも第一声が「わ、私ともバトルしてくれませんか……!?」だったので、中身は良くて野良トレーナー、悪ければロ○ット団だと思ったりもした。でもまぁ、一応なんだかんだ仲良くなれたと思う。お互いにコミュニケーションが得意とは言えない性格だから、ロッカー越しにあうあう言うだけの時間があったけども。最終的にモモイが間を取り次いでくれなかったらお互いに気まずい沈黙を耐えるだけの我慢大会になってたと思う。サンキューモモイ、フォーエバーモモイ。

 あ、ちなみにそのモモイだけど、今この部室内には居ない。なんで居ないのかって、そりゃあ……と、そこまで考えたところで部室のドアが勢いよく開かれた。アリスちゃんもあんな感じでバーンと開けてたけど、そういう流儀でもあるのかな、ここ。

 

「ただいま~!アイス買ってきたよ~!」

 

 元気よくそう言いながら入室したモモイは、「疲れた~」と言いながらアイスをみんなに配り始めた。俺もアイスを受け取る。そう、結局あの勝負は俺の勝ちで終わった。麻痺の行動不能と合わせれば動けない確率は七割くらいだし、かなり俺に有利な賭けだったので当然と言えば当然だけれども。

 そういうわけでモモイのわからs……教育的指導になんとか成功した俺なわけだけど、そのあとロッカーから出てきたユズを含めた全員から「罰ゲームどうする?」と聞かれたのだ。なんでも『勝負』という名目でやったゲームでは罰ゲームを用意するのが通例らしく、勝った側が負けた側に簡単な命令をひとつ出来るのだとか。で、これ結構困った。俺としては勝利した時点で満足してたし、あんまり邪なお願いもできないし、というかそんなお願いする度胸ないし。仕方がないのでゲーム内のモモイのセリフから拝借して、アイスを全員分買ってきてもらったというわけだ。ちなみにお代はちゃんと自分で払った。

 

「ナナシ、何やってるの?早くこっちおいでよ!」

「あ、うん」

 

 モモイの登場によっていったん休憩する雰囲気になったので、呼ばれるままテーブルを囲み、みんなでアイスを食べる。ユズとの対戦は休憩後ってことにしよう、出来るだけ抗えるようにこの間にどう動くか考えておかないとなぁ。

 

「それにしてもナナシすごいね、ユズに勝っちゃうなんて」

 

 アイスの包装を剥がして口にした瞬間、モモイがそう声をかけてきた。ちなみに俺が選んだのはソフトクリームタイプのやつだ。ユズはボール状の細かいアイスがたくさん入ってるやつを、アリスちゃんはメロンを模したカップ型のやつを、モモイとミドリは色違いのアイスバーを食べている。

 

「いや……あれは運勝ちだから……」

 

 ソフトクリームから舌を離してモモイの言葉に答える。モモイが言ってるのはさっき言ったユズから勝ち取った奇跡みたいな一勝のことだと思うんだけど、あれは上振れの結果だからなぁ。あんまり誇れるものでもない気がする。初手の同速対決に勝って変化技を封じてなかったら、結果はユズの勝ちになってたんじゃないだろうか。お互いほとんど結論パに近い構成だったし、実力の差を運でなんとか誤魔化した感が強い。

 

「そ、そんなこと、ないと思う……!あの対面で『しょくはつ』が飛んでくるのは予想外だったし、そもそもあのフトモンを最速にするのはすごく考えてる証拠だから……!」

「あ、ありがとう……?」

 

 熱く身を乗り出して語るユズにお礼を言うけど……前の世界の知識でだいぶ下駄履いてる部分があるからなぁ、俺。あんまり素直に誇れない部分はある。というか、ゲーム開発部のみんなの対応速度の方がよっぽどおかしい。早ければ1回、遅くとも3回も対戦すれば前の世界と同等かそれ以上の対策を仕上げてくる。そこまで複雑な戦法じゃないっていうのはそうなんだけど、それを差し引いてもゲームへの理解度は流石って感じだ。あ、ユズが周りの視線に気づいて真っ赤になってる。

 

「そういえば、ナナシちゃんってもしかしてじっくり考えるゲームの方が得意な感じ?」

「う~ん、どうなんだろ」

 

 ミドリに言われて、少し考える。前の世界だと誰かと一緒にゲームなんてそれこそネットでたまたまマッチした野良とだけだったし、真面目に自分の得意不得意なんて考えたことがなかったから。でも、言われてみれば確かにそんな気はする。咄嗟の判断を求められるゲームだとレバガチャしちゃうことも多かったし、瞬発力に自信があるとはとても言えないし。じっくり考えるゲームが得意っていうのは、案外そうなのかもしれない。

 

「確かにそうかも。そっちの方が得意というより、瞬発力求められるゲームが苦手っていうだけな気はするけど」

 

 そう言うと、みんなは「だよね」みたいな顔をして……なんでアリスちゃんだけ語録を見つけた時の顔(風評被害)してるんだ。その顔やめてほしい、初対面のときすごい心臓に悪かったのを未だに覚えてるから。今のところアリスちゃんがその顔を俺に向けていいことが起こった試しないから。

 

「アリス思いつきました!モモイ、ミドリ、ユズ、集合です!」

「わっ、なになに?」

「アリスちゃん、引っ張らなくても行くから……」

「えっ、わっ、わぁっ!?」

 

 アリスちゃんはそう言ってゲーム開発部のみんなを部屋の隅へと引きずっていった。ユズがちいさくてかわいいやつみたいな声出してたけど、あれ大丈夫なんだろうか。というか、やっぱりアリスちゃんの膂力ってすごいな、三人を引き連れて悠々と部屋を闊歩してたぞ。今の俺だと一人も引きずれない気がするので、ちょっと羨ましい。

 

「ナナシに――を――」

「確かに――かも」

「でもそれ――ズは――」

「えっと――――と思う」

「大丈――す!あれは神ゲ――」

 

 そんな感じで部屋の隅に移動したみんなは、なにやらこしょこしょ話を始めた。少しだけ喋ってる内容が聞こえるけど、途切れ途切れで何を話しているのかまではわからない。いやまぁ、ぜんぜん良いけど。疎外感とかぜんぜん感じてないし。ひとつもこれっぽっちも寂しくないし。なんならアイスに集中できて嬉しいくらいだし。……まだ終わってない感じかな。アイス溶けちゃうけどいいのかな。

 

「うん、じゃあそうしよう!」

 

 ソフトクリームをペロペロ舐めていると、モモイが急に大きめの声を出したのでちょっとびくっとする。見れば、みんながぞろぞろと白テーブルの方へ戻ってくるところだった。みんな一様にニコニコと笑顔を浮かべて……いやなんか怖いな!?すごい、こう、なんか、逃がさないようにしてる感のある笑顔だ。アリスちゃんに至っては「門番です!」とか言いながらドアの前に立ってるし。いや別に滅多なことがなければ逃げたりしないよ?困惑しているうちにミドリが俺の正面に座った。なんだ、なにがはじまるんだ。

 

「ナナシちゃんってコマンド選ぶ系のゲームの方が得意なんだよね?」

「えっ、う、うん。たぶんそうだけど……」

 

 それがどうかした?と聞く前に、モモイが「やっぱりそうなんだ!」と声を上げて俺の横に座って……近いな!?あんま大きいテーブルじゃないから座ってる足が触れ合うくらいの距離に座られている状態だ。

 

「あっ、あの、モモイ?ちょっと近いんじゃないかな~って……」

「いやぁ~、でも困ったな~!私たち普段格ゲーやってばっかりだから、あんまりそういうゲームの知識がないな~!」

 

 距離感に苦言を呈する俺の言葉は耳に入らなかったらしく、モモイはわざとらしく頭を抱えながら「困った困った」と繰り返している。えぇ……なにこれ。なにが始まるんだとは言ったけど、始まってもよくわからないままだとは思わなかった。なんだこれマジで。あとやっぱり近い。モモイにドキドキするのちょっとヤバい気がするから早めに離れてほしい。嫌とかではないけどさ。

 

「お姉ちゃん、それなら何か賞をとったゲームを紹介するのがいいんじゃないかな」

「おぉ、さっすがミドリ!名案だね!」

 

 俺のドキドキがバレてやしないかと内心冷や汗をかいていると、正面に座るミドリがぽん、と手を叩きつつそう言った。今のところはただ俺にゲームを紹介する流れを作ってるだけなんだけど、マジで何がしたいんだこれ。とりあえず抵抗とかは諦めて様子見ようかな、たぶんだけど害ないし。あとアリスちゃん、ドアの前でわざとらしく反応しないでもこっち来ていいよ。俺別に逃げないから。初めて会ったとき?……うん、それはごめん。

 

「でも最近ミレニアムの権威ある賞をとったRPGなんてあったっけ?」

「う~ん、あったとしても部室にあるかどうかわかんないね」

 

 俺がアリスちゃんの方を見ている間にもモモイとミドリの会話は進んでいたらしい。モモイはいつのまにやらミドリの隣に移動していて、二人して「う~ん」と唸っている。ポーズが左右対称なので絵になるなぁ、なんてのんきなことを考えていると、俺の背後から「あっ、あります……!」と声が響く。見れば、ユズが何やらゲームのパッケージを持ってこちらを見ていた。

 

「みっ、ミレニアムプライスで特別賞を受賞したRPGゲーム!『テイルズ・サガ・クロニクル2』です……!」

「おぉ~!!あの『テイルズ・サガ・クロニクル2』が!?」

「あのミレニアムプライスを受賞したやつだね……!」

 

 モモイとミドリが大げさに驚く。ドアの方に目を向ければ、アリスちゃんも驚いた感じを出していた。うん、やっと話が見えてきた。要するにゲーム開発部のみんなは自分たちの作ったゲームを俺にやらせて反応が見たいらしい。そのためにわざわざこの寸劇をして……いやそんなことしなくても普通にやりたいんだけどそのゲーム!

 『テイルズ・サガ・クロニクル2』はさっきも言った通りゲーム開発部が作ったゲームだ。追加で言うならメインストーリー時計仕掛けのパヴァーヌ編1章の作中で作られたゲームでもある。俺は何回も言うけどブルーアーカイブのファンである身だから、普通にプレイしてみたいゲームだったりする。……ただ。

 

「じゃあこれからそれやるとして……まずはアイス食べちゃわない?」

 

 机の上に置かれたみんなのアイスが溶けかけているのを指さすと、みんな慌てて噛り付きはじめた。いや、うん。そりゃアイス放置したら溶けるよ。

 

「あっナナシ!これプレイ時間けっこう必要だから今日は泊まっていきなよ!」

「え?」

 

 え?

 

「ぱんぱかぱーん!アリスはクエスト『先生に連絡する』を達成しました!」

 

 ……えっ?




本当にお待たせしました。付録としてナナシとモモイの選出ポケを置いておきます。わかる人は楽しんでください



・ナナシの選出

 カワズドン HAブッパ こおりのジェム
 こおりのツメ のび
 じひびき シークレットロック

 チビドラ Sブッパ かいがらのかね
 しゃにむに しっぷうじんらい
 -- --

 ハリキッス CSベース ざんぱん
 エアスラッガー でんじき
 はどうがん デコイ
 


・モモイの選出

 パクリアス ASブッパ ふわふわのすな
 じひびき げきこう
 どくうち ロックエッジ

 ウォーブシン HAベース くろおび
 ドレインナックル マッハナックル 
 マッスルビルド いわふうじ

 レッカザル ASブッパ ババコのみ
 ファイアドライブ インラッシュ
 じひびき さみだれひっかき

(レッカザルの技に『さみだれひっかき』が入っていないのを修正)
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