誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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ゲームの楽しい遊び方を教えてくれ 下

 目を開ける。いつも見ている天井とは違う景色が目に入った。寝ている場所も、いつも使っているベッドより少し硬い。身を起こして辺りを見渡す。散乱したゲーム機たちとその画面を映したままのモニターが、暗い部屋の中に見えた。青白い光が部屋を照らしていてどこか静謐な雰囲気だ。どうやら俺は、ゲーム開発部のソファで寝ていたらしい。部屋の中にはモモイやミドリ、アリスちゃん……それにユズの姿もない。すぅ、はぁと深呼吸してから、かけられていた毛布を脇に置く。そして一言。

 

「どういう状況?」

 

 いや本当に俺はなんでここで寝てたの?なぜかみんな居なくなってるし。頭に軽く手を当てながら、何があったのか思い出そうとしてみる。え~っと、みんなとフトモンやって、そのあと『テイルズ・サガ・クロニクル2』をやらせてもらったんだよな。あのゲームはすごかった。システム自体はいわゆるレトロゲーRPGで見た目もそんな感じにまとまっているのに、それに見合わない奇想天外な設定と全く予想できないストーリーがこちらを退屈させない。しかもミスマッチってわけじゃなくて、それら全てが独特の世界観を構築してた。『ゲームの面白さ』を直に脳に叩き込まれてるみたいな、面白かったんだけどどこか面白かったのかを上手く言語化できない、そんな不思議なゲームだったと思う。あのゲームってまだ売ってたりするんだろうか。もし売ってるなら買っておきた……って、そうじゃないそうじゃない。

 

「今は状況を把握しないと……」

 

 完全に逸れていた思考を戻し、そのあとどうしたのかを思い出す。『テイルズ・サガ・クロニクル2』をプレイさせてもらったあとは、確か感想を求められて、素直に面白いって言ったら喜んでもらえて。あ、そうだ。なんか1の方もやる流れになったんだった。実際やってみて、原作で見たシステムがそのまま体験できてちょっと感動したのを覚えている。でもその辺から記憶がない。なんならそこから先を思い出そうとすると頭痛がする。……うん、原因これだな。

 

超ド級のオーパーツ(アリスちゃん)の脳を壊すゲームだもんなぁ……」

 

 そう。『テイルズ・サガ・クロニクル』は以前にも言った、アンドロイドの少女(アリスちゃん)の脳を破壊したゲームなのだ。特に不思議な力があってそうなったとかではなく、単純にクソゲー過ぎたからという理由だけで破壊していたりする。いやまぁ、お陰でアリスちゃんは無感情にキヴォトスを滅ぼす存在から天真爛漫なゲーム好き少女にジョブチェンジしたわけだから、それはファインプレーなんだけども。

 冷静に考えて、一般人の俺がそんなものに耐えられるわけないよねってお話である。つまり、俺は『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイしている最中にぶっ倒れたのだろう。これ以上思い出そうとすると頭痛がするし、たぶん何らかの防衛機制が働いてる。

 はぁ、とため息を吐いてソファから降りる。もう眠くはないし、というか気絶してただけで眠ってたわけでもないし。目だけを動かして確認すれば、部屋の壁に掛けられている時計は20時近くを示していた。結局泊まることになったから別に遅くても良いんだけどさ、みんなも暫くすれば戻ってくるだろうし。まぁそれまでは愛銃(パーフェクトガーディアン)の手入れでもしようかな。と、腰のホルスターに手を伸ばして。

 

「……いま修理中なんだった」

 

 その手が空を切って、ようやく思い出す。愛銃が修理中で、手元にないことを。……それから、昼間の失敗も。根拠のない自信で期待させて、それを裏切ってしまったことも。

 冷静に考えて、ビームが出るだなんて荒唐無稽な話だ。ありえない。そう一蹴されたっておかしくない与太話でしかない。なのにエンジニア部の皆さんはそれを信じてくれた。信じてくれたのに、俺は裏切ってしまった。

 

「『できる』って。言ったのになぁ……」

 

 ホルスターの少し上。普段なら愛銃の収められているそこで、ぎゅっと手を握る。強く力を込めても爪が手のひらに食い込むだけで、何も変わりはしなかった。部屋が暗いせいもあるのかもしれない。気分がどんどん沈んでいく。モニターに映る、途中で放り投げられたゲーム画面が、どこか俺に重なったような気がした。

 

「俺、失敗ばっかりだ」

 

 小さく呟く。俯いた視界に昼間の光景が……こちらを気遣うウタハさんの姿がフラッシュバックした。どうしようもなく、申し訳ない気持ちになった。こんな弱音を吐く自分のことを、どうしようもなく嫌いになってしまう。ああ、でも。今俺はこの部屋に一人だから、どうせ誰にも聞こえない独り言だから、別にいいのかもしれな……。

 

「あ、あのっ!」

「うわっひゃ!?」

 

 そんなことを考えた瞬間、どこからか声が響いた。えっ?何なに今度は何!?誰か帰ってきて……ない!部屋のドア閉まったまんまだ!じゃあなんで声すんの!?襲撃!?俺今銃持ってないんだけど!?びっくりして辺りを見渡すも、自分以外の人影はない。気のせいかと胸をなでおろした瞬間、目の前にあるロッカーがガタリと音を立てた。

 

「ひっ!?」

「あっ、あれ?開かな……」

 

 ロッカーはガタガタと音を立てながら揺れている。誰か周りに居るわけでもなくて、ひとりでに揺れている。とっ、特異現象だ!誰か明星ヒマリとかその辺の超天才清楚系美少女ハッカー呼んできてくださいお願いします!というかそんなこと考えてる場合じゃないここから早く逃げてモモイたちに伝えてお祓い呼ばないと……あっダメだ腰抜けてる。立てない、終わった。

 ドアの方を見るけど、もう俺にとっては遥か彼方に位置する星同然だ。ロッカーの方へと視線を戻せば、ギィと軋んだ音を立てながらロッカーが開こうとしているところだった。あぁ、ロッカーに!ロッカーに!どうしようどうしようどうしよう!なにか、なにか身を隠せそうなもの……!

 

「や、やっと開い……な、ナナシちゃん?」

「……ゆ、ユズ?」

 

 聞き覚えのある声にぎゅっと瞑っていた目を開けると、ロッカーの中から這い出てきたのは冒涜的な見た目をしたモンスターではなく、オレンジ髪の可愛らしい少女……ユズだった。あ、ゆ、ユズだったんだ。いやそりゃそうか。ゲーム開発部の部室にあるロッカーに生息してるのはユズしかいないもんな、もっと早く気付くべきだったのかもしれない。安心して、へなへなと身体から力が抜ける。なんだよもう、ユズが居るなら先に言っといてよぉ。いや別にビビってはいないけどさ、ちょっとびっくりしちゃうじゃんか。

 

「えっ、と。なんでクッション被ってるの……?」

 

 ……いや別にビビってはいないんだが?

 

 

 

 結局、他のみんなは夜ご飯を買いに行っただけだったらしい。ゲーム開発部はこの部室に缶詰で作業することも珍しくないから、雑魚寝用の寝具だとかその辺はしっかり準備されているらしく。とはいえ食べ物は常備していると腐らせてしまうから、毎度買いに行っているとのことだった。

 ちなみにユズがお留守番してるのはゲームで勝ったから。誰が買いに行くかフトモンバトルで決めたんだとか。うん、そりゃ何のハンデも無いなら順当にユズが勝つよね。実力差がありすぎるもん。で、ユズは疲れたのもあってロッカーで休憩していて……そこでようやく俺が起きたという話だった。

 モモイたちが帰ってくるまでにはちょっと時間があるということで、今はユズと二人でそれを待っている状態だ。

 暗い部屋に、光源は点けっぱなしのゲームモニターだけの状態。不健康極まりない部屋なんだけど、どこかロマンチックさもあるのは不思議だ。気分的にはクサい台詞でも吐きたい感じすらある。

 ただ、俺もユズも自分からガンガン話すタイプってわけじゃない。昼にやったフトモンバトルで多少は仲良くなったと思うけど、それでもモモイやミドリ、アリスちゃんを通じて知り合った『友達の友達』状態を抜け出せているほどかと言われるとそこまでではない……と思う。というか俺が一方的に友達と思ってる状態だと普通に泣いてしまうので断言とかできない。で、そんな相手と俺が二人きりになってしまうと、とある空気が発生する。

 

「……」

「……」

 

 そうだね、気まずい空気だね。自分から会話振ればいいじゃんって思うかもだけど、そんな高等テクニックが出来たら苦労しないんだよ。最強のお天気デッキも空が見えないから使えないし、何かゲームしながらだったら会話できるかもだけど、二人用ゲームに誘う勇気も一人用ゲームを始める図太さも持ち合わせてないし。というかこの世界のゲームにはあんま詳しくないし。かれこれ十分くらい、お互い会話のタイミングを伺いながら黙って暗い部屋に並んでいる。さっきロマンチックとか言ったけど、実はそんな空気全然ない。どうしようかな本当に。

 

「そ、その!」

 

 いい加減に何か話しかけようかと話題を探した瞬間、ユズが話しかけてきた。思ったより声が大きいのに驚きつつそちらを見やれば、ユズは少し真剣な顔でこちらを見つめている。いや、真剣というよりは……心配してくれてる、のかな。俺はどうして彼女がそんな顔をするのかわからなくて、少し首を傾げる。

 

「な、なに?」

「あっ、えっと、あの。悩みあるんだったら……聞き、ます」

 

 そう言ったユズは紫色の瞳を揺らしながら、それでも俺の方をまっすぐに見つめていた。俺は目を逸らしたいのを必死にこらえて……こらえきれなくて、微かなため息と一緒に俯く。心配かけたくなかったんだけどな、そっか。

 

「聞かれちゃってたかぁ……」

「あっ、ご、ごめんなさい……!盗み聞きするつもりじゃ、なくて」

 

 俺が俯いたのをどう受け取ったのか、ユズが慌てた様子で謝ってくる。顔を上げて大丈夫と伝えようとして、それより先にユズが「でも」と言葉を続けた。唯一の光源……モニターに映るゲーム画面が動いたのか、俺たちを照らす光が白っぽく変わる。

 

「でも、さっき。すごく思いつめた顔、してたから。それに、『失敗ばっかり』……って」

 

 どうやら俺の独り言は、ほとんど全部聞かれていたらしい。どうしよう。誤魔化すのは簡単だ。というか、たぶん誤魔化せなくてもユズは引いてくれると思う。短い付き合いでもわかるくらい優しい子だから、相手の嫌がることをしようとはしないだろうし。

 でも、正直話したいと思っている自分が居る。ユズがいま伸ばしてくれている手を、掴みたいと思っている自分がいる。どうしようかと少し考えて……そういえば、と思い出した。こんな俺を大事に思ってくれる人が確かにいることを。きっと、伸ばされた手を掴むくらいだったら。悩みを話すくらいだったら頼ってもいいって、そう言ってくれた人が確かにいることを。

 

「……実は、さ」

 

 気づけば、口からするすると言葉が出ていた。ミレニアムに来たのは自分の銃を修理してもらうためだったこと、話を聞いて信じてくれたエンジニア部の皆さんの期待を裏切ってしまったこと。それに、きっと自分の失敗のせいで迷惑をかけてしまったこと。思えば自分は失敗ばっかりで、ダメダメなこと。気づけば全部、吐き出していた。

 ユズは静かにそれを聞いてくれた。時折相槌を打ちながら、ただ聞いてくれた。話しているうちに自分でも何を喋っているのかよくわからなくなって、だんだん申し訳なさが募ってくる。本当に話しても良かったのかなんて、後悔が募ってくる。それでも最後まで自分の言葉を吐き出した。吐き出し切って、ふぅ、とひとつため息を吐く。同時に少し俯いたから、ユズの顔は見えない。

 

「……ごめん、こんなこと話しちゃって。これじゃ悩みっていうか、愚痴だ。俺、ダメだなぁ」

 

 ため息のあとに続いたのは謝罪だった。さっきまで張っていた何かが急に萎んでしまったようで、申し訳なさに耐えられなくて。自然と口をついて出てしまった。本当はお礼を言うべきなのに、それをできなかったことがまた情けない。俯く俺の手に、ふわり、と。何かが触れた。反射的に顔を上げる。ユズが俺の手を包むようにして握っていた。

 

「そ、そんなこと、ない」

 

 言われた言葉が意外で、ユズの顔を見る。とてもまっすぐな強い瞳が俺を射抜いていた。

 

「私も、少しだけわかるから。失敗ばっかりで、自分がどうしようもなく小さく見えちゃうとき……」

 

 そこまで言って、ユズは「あっ、そうだ」と小さく呟いてロッカーの方に歩いて行った。なんでロッカーに、と不思議に思ったのも束の間。ユズは中からノートパソコンを引っ張り出してきた。……うそでしょ、まさかとは思うけど、あの中で普通に作業してたりするの?ロッカーの中ってそんなに快適なのかな?

 そんなことを考えていると、ユズがこちらに戻ってきた。ノートパソコンを開いて「これやってみて」と何かアプリファイルらしきものを示している。これは……。

 

「これ、ゲーム?」

「う、うん。わたしが初めて作ったやつで……」

 

 言われるがままゲームを開き、プレイしてみる。最初はテキストでプロローグがあって……あれ?これ『テイルズ・サガ・クロニクル』だ。1の方。流石に序盤の記憶は残ってるからわかる。なんでまたプレイさせてるのかはわからないけど……同じゲームならさっきと同じように攻略すればいいよな。俺は昼間と同じように、ゲームテキストに表示された「Bボタンを押せ」を無視してAボタンを押す。瞬間、パソコンから爆発音が響いてゲームオーバーの文字が表示された。え?なんで?

 

「あ、そこはテキストが表示されてから16フレームぴったりでAボタンを押さないとダメ……」

「そんな鬼畜だったっけ!?」

「こ、こっちはプロトタイプの方だから……」

 

 プロトタイプ……そっか、原作でも言われてた()()()()()()()()()()()()ゲームか。うん、まぁ。まだ何を伝えたいのかはわからないけど、とりあえずゲームを進めようかな。ユズが目線で促してるし。俺はコントローラーを操作し、ゲームを進める。

 

『GAME OVER』

「あ、その武器は装備したあとすぐ装備欄を確認して……」

 

 進め……。

 

『GAME OVER』

「バズーカはフレーム回避じゃないと……」

 

 進……。

 

『GAME OVER』

「プニプニはHPが半分になると射程が五倍に……」

「難易度高くない!?」

 

 ノートパソコンから顔を上げて吠える。いや序盤のスライム的な敵のHPを半分にするだけなのに結構な時間使ったんだぞ俺!なぜかソイツがバズーカ持ってるし、おまけに射程距離五倍って何!?なんで第二形態が用意されてんの?それボス格の特権なんじゃないの!?

 

「こ、このゲームはプロトタイプだから」

「それにしたって……」

 

 クソゲー過ぎる。そう言いかけて、ハッと言葉を止めた。俺は知っているから。ユズがこのゲームに対するレビューで傷付き、そのせいで不登校になってしまったのだということを。だから今のは完全に失言だ、ユズを傷つけてしまった。そう思ったのに、そのはずなのに。ユズはけろりとした顔で「大丈夫」と言って、静かに俺へと視線を合わせた。

 

「これは、『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは。失敗作だと、思ってたんだ。ゲームバランスも、ストーリーも、何もかもダメだった。……レビューでも、すごく色んな風に言われちゃってて」

「それは……」

 

 何か言おうとした俺に、ユズはもう一度「大丈夫」と言って首を振った。それから俺の膝の上にあったノートパソコンを取って、自分の膝に乗せた。流れるように接続されたコントローラーを操作して『ロード』を選択するユズ。その紫の瞳は、どこか遠くを見ているようだった。

 

「でも。これがあったから、みんなに会えたんだ」

 

 宝物を見るようにゲーム画面を見つめるユズは、どこか嬉しそうだった。コントローラーのボタンを押し込む軽い音が部屋に響く。俺は言葉の意味が分からなくて、ただ続きを待った。

 

「このゲームのお陰で、モモイちゃんとミドリちゃんが来てくれて」

 

 ユズは、一言一言を噛み締めるように、自分の中で反芻するようにして言葉を発する。ゲーム画面の青白い光が、不健康なはずなのに、どこか幻想的に思えた。彼女に似合っている気がした。そうだった。原作においてこのゲームは、『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは。ただ失敗しただけのゲームじゃなかった。このゲームを『面白い』と言ってくれる二人とユズとを引き合わせたゲームでもあったんだ。

 

「二人のお陰で、アリスちゃんとも会えて」

 

 ノートパソコンから独特の(SE)が発される。敵が第二形態に入った音だ。さっきは気づかなかったけどBGMも変化している。ユズはゲーム画面から目を離さないまま、語る。ユズにとって自分の身に起きたそれはきっと奇跡なんだと思う。俺は少しだけ知っているから。ユズが辿ってきた物語と、これから辿るだろう物語を。

 

「アリスちゃんのお陰で、ナナシちゃんとも、今日。こうやって出会えた」

 

 ユズがそう言うと同時、ノートパソコンがファンファーレを奏でた。無事に敵を倒したらしい。ユズはノートパソコンを閉じ、ふぅ、と一息吐いた。それからこの部屋の唯一の光源……モニターに表示されたままの『テイルズ・サガ・クロニクル』のゲーム画面に目を向ける。その目は遠くを見ているようで、近くを見ているようで、宝物を見ているようで。そのままユズは、言葉を続けた。

 

「きっと、『失敗』しても、次に繋げられたってことなんだと思う」

「次、に……」

 

 俺が呟いた言葉を聞いて、ユズはハッとしたようにこちらを向いた。若干焦った様子で、それでも彼女は言葉を紡ぐ。

 

「だっ、だから、その……ナナシちゃんも、きっと大丈夫だと思う」

 

 そう言って、ユズは一度目を閉じた。それからゆっくりと開き、まっすぐに俺を見る。昼間見たのとは違う、強い瞳だった。人と話すのは苦手なはずなのに、それでも俺に伝えようとしてくれる強い姿だった。

 

「『失敗』することは、ダメじゃない」

「そっ、か」

 

 言われた言葉を口の中で繰り返す。失敗することはダメじゃない。そうなのかもしれないと思った。不思議な納得感があった。思えば、昼間の期待を裏切ってしまった『失敗』の時も、エンジニア部の皆さんは俺を責めたりしなかった。原因を考え、出来ることをし、前を見据えていた。ウタハさんが俺の前で神秘についての話をしたのはただ確認したかっただけじゃなくて、自分たちの姿を見せようとしてくれていたのかもしれない。『失敗』を糧にする姿を。

 失敗するのは、ダメじゃない。もう一度心の中で繰り返す。ユズはこのゲームを、『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプを『失敗作だと思っていた』と評した。それが今そうじゃなくなっているのは、きっとその『失敗』のお陰で今が楽しいからだ。あぁ、と心の中で嘆息する。気づく。どうやら俺は、また焦っていたらしい。

 これを単なる失敗にするのか、次に繋げられる糧にするのか。それはきっと、これからの俺が決めていかなくちゃいけないことなんだ。今は失敗だとしても、将来それがどうなるかはわからないんだから。そこまで考えたところで、ユズが少し不安げにこちらを見ていることに気が付いた。あっ、そっか。俺急に黙り込んじゃってるもんな。

 

「あっ、あの、的外れだったらぜんぜん忘れちゃっていいから……」

 

 俺が何か言おうとした瞬間、ユズが口を開いた。なんかずっとユズに先制されているような気がするな、と少しだけおかしな気持ちになる。けどここで急に笑い出したら変な奴だし……なにより、まずはお礼を言わなきゃだ。

 

「ありがと、ユズ」

「ふぇ?」

 

 俺がお礼を伝えると、ユズは不思議そうな顔でこちらを見た。いや、普通にお礼くらい言うと思うんだけどな。ユズのお陰で俺の悩みは解決……とまではいかなくても、一定の答えが出た。単なる先延ばしかもしれないけど、それでも俺の気持ちは楽になった。だから。

 

「俺の悩み聞いてくれて、ちゃんと答えてくれて。気持ち楽になったからさ。だから、ありがとう」

「え、えへへ。どういたしまして」

 

 ユズは照れ臭そうに笑いながら「役に立ったなら、よかった」と続け……瞬間、ドアがバーン!と開かれた。驚いてそちらを向けば、レジ袋を抱えたモモイと、その後ろにはミドリとアリスちゃんの姿。あっ、そういえば買い出しに行ってくれてたんだっけ。

 

「ただいま~!あっ、ナナシ起きたんだ!」

「お姉ちゃん、ドアはもっと優しく……あ、ナナシちゃんおはよう。部屋の電気点けるね」

「アリスがつけます!光魔法です!」

 

 パチ、と音が鳴って部屋が明るくなる。なんかユズがそのままにしてたから夜のゲーム開発部はこれが普通なのかと思ってたけど、どうやらそういうわけではないみたいだ。ミドリちょっと不思議そうな顔してるし。いやまぁ、普通に考えて部屋が暗い状態で活動するわけないか。原作だと暗い部屋で作業してるスチルがあったから勘違いしかけちゃった。というかすごいな、みんな揃った瞬間一気に賑やかな感じになった。もう机に買ってきたもの広げてパーティ態勢だし。俺もソファから降りて机に……って、あれ?

 

「なんで机移動してるの?」

「え、だってナナシちゃん途中だったでしょ?」

 

 途中?なんか途中のものなんてあったっけ。考えかけた瞬間、アリスちゃんが「どうぞ!」と言ってゲームコントローラーを渡してきた。見れば、そのコードはずっと点きっぱなしだったモニターの方に続いている。モニターの画面にはゲームタイトルが表示されている状態だ。

 

『テイルズ・サガ・クロニクル』

『つづきから』

 

 あっ。

 

「それにしてもナナシが急に倒れるからビックリしちゃったよ~」

「う、うん。突然泡を吹いてたし……」

「アリス知ってます!きっと水属性魔法です!」

 

 そういえば俺が気絶してた原因、これだったな。え、どうしよう。俺また気絶する未来見えるんだけど。何らかの防衛機制が働いて記憶が曖昧になるゲームだよ?印象に残る作品を通り越して印象を奪い去る作品なんだよ?俺これに二度も耐えられる気しないんだけど。ちょ、み、ミドリさん。たぶんこの中で一番まともな感性持ってるミドリさん。助けてくれませんかね。

 

「その、もうじきクライマックスだから……」

「アッハイ」

 

 このあとの記憶がちょっと曖昧なのは……うん、なんでだろうね。




次回、ハナコ回
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