誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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職場に友達が来たときの対応を教えてくれ 上

「ちょっと早く来すぎちゃったかしら……」

 

 シャーレの廊下を歩きながらスマホを確認し、業務開始までにはまだまだ時間があることに気付いてそう呟く。私、早瀬ユウカはいつもより早くシャーレに着いてしまったけれど、そこには特に何か特別な理由があるわけじゃない。何となくいつもより早くに目が覚めて、家に居てもすることがないから早めに家を出たっていう、ただそれだけ。そこにナナシちゃんや先生に会えるという期待がないと言えば嘘になるけど……それは結果に寄与しているというだけであって主な理由じゃない。ないったらない。

 そうこう考えているうちに執務室の前まで着いたけど、やっぱり電気は点いてないわね。まだ一時間以上余裕があるわけだし、当然と言えば当然。ナナシちゃんなんてまだ寝てる時間なんじゃないかしら、割とよく寝るみたいだし。といっても先生から聞いた話だから、まだ私はナナシちゃんの寝顔を見てないのよね。機会があれば見てみたいんだけど……なんて考えながら、足をシャーレのカフェへと向ける。シャーレにはゲームセンターなんかもあるけどまだ開いてないし、時間を潰すならカフェ一択になっちゃうのよね。

 

「あら?この電灯切れかけてるわね」

 

 視界がチカチカと明滅するような感覚を覚えて上を見上げれば、電灯が点いたり消えたりを繰り返していた。あとで先生に報告しないと、と場所を簡単にメモして。瞬間、電灯が完全に消えてあたりが薄暗くなる。思ったより早い寿命ね、先生に会ったらすぐ報告しないと。メモに書き終えた私は顔を上げ……。

 

「ひっ!?」

 

 そして、目の前に人影があるのに気が付いて息を呑んだ。一瞬だけ『幽霊』という単語が脳裏を過ったのを振り払ってよく観察してみれば、トリニティの制服に身を包んだ桃色の髪の少女……一応、見覚えがある。先生に頼まれてシャーレに所属するときの手続きを手伝った子だ。名前は、確か。

 

「あっ、う、浦和さん……よね?」

「はい、浦和ハナコです♡」

 

 にこやかに挨拶を返してくれるのを聞いて、身体の緊張が解ける。幽霊だなんて非科学的なものを信じるわけじゃないけど、ジャンプスケアに近い会い方をしたら警戒くらいはするでしょう?はぁ、と安堵半分呆れ半分のため息を吐いて「私は早瀬ユウカ。よろしくお願いするわ」と自己紹介をしておく。この様子ならなんとなく知ってそうな気がするけど、まぁ礼儀だもの。

 

「それで、浦和さんはどうしてここに?あ、先生はまだ来てないみたいよ」

「あぁ、えっと……そうですね。私の目的はもう一人の方というか」

「もう一人?……あぁ、ナナシちゃんね」

 

 意図を読みかねて聞き返し、けれどすぐに気が付いた。シャーレに用があって先生じゃないとなれば、ナナシちゃんに用があるのだろう。そしてナナシちゃんを訪ねてくるトリニティの生徒ということは。

 

「ってことは、あなたがナナシちゃんが出張のときお世話になったっていう?」

「えぇ、ナナシちゃんの友達をさせてもらっていますから」

 

 浦和さんはそこで一度言葉を切り、今度は少し困ったように笑う。

 

「立ち話もなんですから、カフェにでも行きませんか?ナナシちゃんも先生もまだ来ていないようですし、話し相手が欲しかったんです」

「ふふっ、ナンパみたいなセリフね?」

 

 セリフがどうしてもそう聞こえてしまったから、ちょっと揶揄うような調子でそう言ってみる。浦和さんは一瞬きょとんとしてから、悪戯っぽく目を細めた。それから腰のポーチに手をかけて、中から何かを取り出す。取り出したのは……紙かしら?浦和さんはそれを自分の手で隠すようにしながら、少しだけこちらにも見えるようにして、さながらトランプを扱うマジシャンのように弄ぶ。ちらりと見えたその絵は、否、写真に写っているのは。

 

「……お誘いしたいことがある、という意味では似たような意味かもしれません」

「そ、れは……!?」

 

 息を呑む私に、「ユウカさんも……良いモノをお持ちでしょう?」と笑う浦和さん。

 

「ねぇユウカさん、取引をしませんか?聞けば先日ナナシちゃんとお出かけして、()()()()()()()()そうじゃないですか」

 

 そう言って悪魔の笑みを見せる浦和さん。私はごくりと生唾を飲み込み……。

 

 

 

side:ナナシ

 

「んぁ……」

 

 ピピピピ、と響くアラーム音に目を覚ます。うぅ、もう朝かぁ。もうちょっと布団でうだうだしちゃダメかなぁ、ダメだよなぁ。記憶が確かならもうスヌーズ3回目だし、いい加減に起きなきゃいけない時間だ。アラームを止めるついでに時間を確認すれば、もう就業時間まで二時間弱しかない。これ以上は先生が起こしに来ちゃうし、やっぱり起きなきゃだなぁ。仕方なくもそもそと布団から這い出し、簡単にベッドを整える。補習授業部の合宿で勝ち取ったウェーブキャットさんの抱き枕を良い感じに配置したらベッドメーキングはオッケー。

 それから顔を洗ったり歯を磨いたり着替えたりと簡単な身支度を済ませて、いざ出勤だ。とりあえず今いる居住区から執務室に向かって、そのあと朝ごはんを食べてからお仕事というのがいつもの流れ。靴を履いて廊下に出て、クーラーの風に感謝しながら執務室へと向かう……途中、カフェの中に人影を発見した。遠目だし磨りガラス越しだから誰なのかまではわからないけど、明らかに人間が居る感じだ。で、疑問に思う。

 

「こんな時間から……?」

 

 そう、現在時刻は8時過ぎ。普通のお店が開くかも怪しいような時間で、先生ですらギリギリ居るか居ないかって具合の時間だ。つまりはもともとシャーレに目的がある人ってことになるんだけど……うん、ここは俺が対応しよう。本音を言うなら人に話しかけるなんて御免こうむりたいんだけど、以前の俺みたいに相談があってきた人かもしれないし、この場に先生が居ないならシャーレ専属の俺が対応、そして必要なら先生のところまで案内するのが筋というやつだ。たぶん。

 そういうわけで、俺はカフェに向かって歩みを進めた。進めていくと少しずつ何か話しているらしい声が聞こえてくる。あと人影にめちゃくちゃ見覚えがある。摩りガラス越しではあるんだけど、ピンクのロング髪と白い制服はもう明らかにハナコだ。もう一人は……ユウカさんかな。

 

「──は──でどう?」

「いえ────は──ですから──」

 

 何やら激論している様子だ。二人は俺と違ってすごく頭が良いし、キヴォトスの行く末とかすごく哲学的な話とかをしているのかもしれない。でも珍しい組み合わせだ、俺の記憶が正しければハナコとユウカさんは初対面だし、何がきっかけでそんなに仲良くなったんだろ。なんかちょっとモヤっとする。というか、ユウカさんは確か当番だったと思うんだけどハナコはなぜシャーレに?

 いろいろ気になることはあるけど……盗み聞きするのも悪いし、いい加減ドアを開けてカフェに入ろっかな。ドアベルがカランカランと音を立てるのに気付いたのか、二人が顔をこちらに向けてくれた。ハナコはいつも通りの笑顔で、ユウカさんはちょっと驚いた感じの表情だ。

 

「あら、ナナシちゃん。おはようございます♡」

「うぇっ!?な、ナナシちゃん!?」

 

 俺もおはようと返して、二人の居るテーブルに向かって歩く。なんだろ、なんか机の上に広げられてるけど……写真かな。写真っぽいものが何枚も机の上に広げられている。覗き込もうとした瞬間、ハナコが自然な動作でそれらを仕舞っていった。ユウカさんがあっと声を漏らしていたけど、マジで何の写真?

 

「えっと……何してたの?」

「ちょっとユウカさんとお話してたんです。私もユウカさんも早く着きすぎてしまって暇を持て余していたものですから。そうでしょう?」

「え、えぇ。そうね、とても有意義な時間だったわ」

 

 ハナコの言葉に同意するユウカさん。そういえばユウカさんは時間に正確だし、今日は遅れないように早く来ちゃったのかもしれない。ハナコがシャーレに来た理由はまだよくわからないけど、確かに早く来てもすることないもんな、ここ。ゲームセンターとかの施設は開く時間が決まってるし、24時間やってるのはカフェくらいなものだ。コンビニはシャーレの外だし。俺が一人納得していると、ハナコが「そういえば」と口を開いた。

 

「ナナシちゃんはどうしてここに?先生も一緒ではないようですが」

「あぁ、うん。部屋から執務室に向かう途中でカフェに誰かいるのが見えたから、悩み相談に来てる子とかだったら放っておけないと思って」

「ふふっ、そうでしたか。ちゃんとお仕事をしていて偉いですね♡」

「わっ」

 

 頭を撫でてくれるハナコにちょっとびっくりしながらも、嫌ではないので普通に受け入れる。なんかハナコ撫でるのうまいんだよな、すごく心地いいからつい身をゆだねてしまう。というかもう撫でられるのに慣れてきている自分が居る。若干の危機感を覚えないでもないけど、今のところ困ってないからこの危機感はスルーだ。なんて考えていると、ハナコが俺を撫でたままの状態でユウカさんに視線を向ける。

 

「ナナシちゃんが起きてきたということは、そろそろ先生も執務室に居るかもしれませんね」

「そういえばそうね。ナナシちゃんって先生の居場所把握してる?」

「あ、はい。正確にはわかりませんけど、たぶんもう居ると思います」

 

 ユウカさんに聞かれたので答える。このくらいの時間だったら先生はシレっとした顔で執務室に居るし、なんなら俺が寝坊してると思って起こしに来る頃かもしれない。どのみちカフェから執務室に向かえば会えるんじゃなかろうか。

 

「そう。それならそろそろ行きましょうか、話もまとまっていたところだし」

「えぇ、そうですね」

 

 怪しげなアイコンタクトを交わす二人の様子に疑問符が浮かぶけど、ハナコが「それじゃ行きましょう」と言って手を取ってくれたのでそれに従っておく。この二人に限って悪だくみとかは……ハナコならあり得るかもだけど、ユウカさんはたぶんしないだろうし。あ、そういえば。

 

「広げてた写真って何の写真だったの?」

「………………ふふっ♡」

「なんの笑いそれ!?」

 

 結局そのあと写真が何だったのかは教えてもらえなかった。なんだったんだマジで。

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