誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
さて、俺だ。とりあえずナナシを名乗って、もう人と関わらないぞという字面だけ見たら限りなく後ろ向きな決心をしてシャーレを後にしたところまでが前回だったな。
では、ここで少々ブルアカの世界観をおさらいしておこうか。いや、意味がある行為なんだ、読み飛ばすのは……別にいいか。じゃあ読み飛ばす人には読み飛ばしてもらうとして、ブルアカの世界観について。まずブルアカのキャッチコピーは「透き通るような世界観で送る学園RPG」、だったはずだ。実に素晴らしいキャッチコピーだと思う。実際ブルアカのスチルはどれも透き通るような透明感があるし、
少し話が逸れたな、つまりブルアカの世界観は青春を題材とした、素晴らしき「透き通る世界観」だということができる。ここを間違えると人食いピラニアの住まう川に沈められるらしいから間違えてはいけない。さて、おおむねそう言える世界観だが、この世界にはそれを補ってあまりある致命的な欠点がある。それはバカみたいな治安の悪さだ。強盗、恐喝、窃盗、詐欺、テロ、エトセトラエトセトラ。おそらく強姦を除くすべての犯罪がこのキヴォトスには溢れかえっている。一歩メインストリートから外れればそこは不良の巣窟、ブラックマーケットと呼ばれる闇市まで足を延ばせばそこはすぐさまアンダーグラウンドに早変わり。テロリストが我が物顔で跋扈し、治安維持組織の対応は間に合わず、月に数件は公共交通機関の王様である電車がジャックされる。要するに、ブルアカの世界観は「美少女だらけの透き通っているGTA、コロリ(落命)もありえるよ!」だ。なまじ銃で撃たれた程度じゃ人間が死なないせいで引き金がバチクソに軽い。喧嘩が始まってから銃弾が飛び交うまでの速さはかの霊長類最速の(以下略)。それが実に愉快だけれど住みたくはない街、ハッピートリガータウンキヴォトスだ。
で、軽く800文字も使って俺がなにを言いたかったのかといえば、だ。俺は、この世界の治安を舐め過ぎていたということだ。それはもうどうしようもなく平和ボケした日本から来た、平和ボケしまくってただのボケになった俺がこのキヴォトスで洗礼を受けるのは、ある種当然のことだったのかもしれない。
目の前ですごむスケバンを見ながら、俺は小鹿のごとく震える足を押さえつけて現実逃避から帰ってきた。
〇
「なぁお嬢ちゃん、アタシら金欠でさぁ……」
ここはキヴォトスがD.U.、シャーレからそれほど離れていない裏路地だ。五名のスケバンが小柄な少女を取り囲み、カツアゲを敢行していた。白昼堂々というにはいささか日が傾き過ぎているが、いずれにしても大胆な犯行である。そしてこの囲まれて半泣きになっている少女こそ、我らが主人公ナナシ(仮名)であった。
「え、えっとその、あの……」
「ギャハハ!なに言ってっかわかんないんだけど!」
「ぷるぷる震えちゃってカワイソ~」
「ちょっと~これじゃウチらが悪モノみたいじゃ~ん」
事実、どう考えても、街頭アンケートを取れば満場一致で、彼女らは悪者である。それも小説の数行で殺されるタイプのみみっちい悪者だ。だが、平和ボケを重ね単なるボケとなったナナシにとってはとても恐ろしい存在に変わりはない。すでに涙目になっている。ナナシの名誉を捨て置いてすべての少女の名誉のために言うが、これは別にナナシの精神が身体に引っ張られた結果とかではなく、普通にナナシの元の性格である。もとのブ男の姿であったとしても涙目と小鹿のように震える足を披露してくれたことだろう。その場合見るに堪えない情けなさをさらしてしまうため、庇護欲を誘う今の姿でよかったといえる。
ナナシは考えた。どうすればこの状況を切り抜けられるのかを。それはもう深く深く考えた。今までの人生においてこんなに頭を使ったことがないレベルで考えた。
「あの、いま、お金なくて……」
考えた結果が文無しアピールだった。悲しいかな、ナナシの脳が導出したのは少年漫画の第一話で助けてもらうモブ少年の行動だった。しかしそれもスケバンたちにとっては効果が薄く、どころか神経を逆なでしたらしい。「あ゛ぁ?」と低い声ですごまれ、ナナシはさらに怯えてしまう。
「ンなわけねぇだろ?ちょっとジャンプしてみろよ」
「ひっ」
なっさけない声で怯えながら、その場で馬鹿みたいにぴょんぴょん跳ねるナナシ。当然ながら、マジで一銭も持っていない今日から野宿マンなのでチャリンという音が鳴るはずもない。いつまでも跳ねているナナシにしびれを切らし、勝手にポケットをまさぐるスケバンたち。まだナナシが跳ねているのでやりにくそうだ、絵面がだいぶシュールである。
「……アネキ、こいつマジで一銭も持ってないっすよ」
「みてぇだな」
「す、すいま、せんっ……今日の宿に、も困る、レベルでして……」
謝りついでに要らんことまで言うナナシ。まだ跳ねているせいで言葉が変なところで切れてしまっている。場に流れる気まずい空気。
スケバンたちも、流石に今日の宿にも困るような人間から物を奪うのは良心が咎めるらしい。どうする?どうするったってお前……と小声でブツブツ話し合っている。自分たちよりもずっと金に困っている人間からなにかを奪うほど外道じゃないし、かといって施しをするというのも不良としての矜持が許さない。話し合った結果、リーダー格のスケバンがナナシに銃口を向けた。気絶させてここを去ることにしたらしい。
「ひっ!?や、やめてください、なんでもしますから殺さないでください!!」
「お、オイ……そんなビビるこたねぇだろ」
瞬時に土下座の態勢に移行し三流悪役バリの命乞いをするナナシ。スケバンたちもこれには呆れ気味な視線を向けるしかなかった。一応あるかわからないナナシの名誉のために言っておくが、ナナシは現在パニック状態に陥っており冷静な判断ができていない。しかも銃というのはキヴォトス以外では普通に一発で致命傷になる武器だ。ナナシがここまで怯えるのも……いや、結局ナナシがパニクっているのが全部悪い気もする。
「あ~、ちょっと気絶してもらうだけだかr」
「嘘です銃で撃たれたらヘイローが無い人は死ぬんです俺は詳しいんだ!!この人食い反社どもめ!!」
「お前ヘイローあるだろうが!!あと人食い反社ってなんだ!?」
「アネキ、やっぱり銃も持たないようなおかしい奴に関わるの不味かったんじゃ……」
スケバンリーダーのツッコミも喚きたてるナナシの耳には届かない。というか別に詳しくなくても普通の人が撃たれれば死ぬことくらいは普通にわかる。詳しいというならヘイロー持ちは撃たれたくらいじゃ死なないこともわかってほしかった。
さて、ここは裏路地だがそこまで人通りのある場所から離れているというわけでもない。大声で喚き散らす人間がいればそれなりの人が気づくだろう。つまり。
「あなたたち、なにをしているの!?」
救世主の登場である。
〇
ナナシです……不良怖かったとです……。いや、仕方ないじゃん。俺だって「それはおもちゃじゃねぇって言ってるんだ」みたいなカッコイイムーブやりたかったよ。でも無理じゃん。アイツらマジで超怖いよ?教師に怒られるのさえ怖くて必死に規律守ってた俺が太刀打ちできる相手じゃないって。普通に銃向けてきたもん。今はヘイローがあるけどさ、やっぱ簡単に人に向けるものじゃないよ、めっちゃ怖いし、すごい痛いらしいし。
心の方は結構余裕出てきたけどまだ涙止まらないもん。そうだよ、情けなくひんひん泣いてるよ、悪いか。……悪いよな。だって助けてもらっちゃったし。
そう、あのあと優しい人が助けてくれたのだ。涙で視界がゆがんでたし、終わった後もろくに顔を上げてないしでその人の顔もわからないけど、今も同じベンチに座って背中をさすってくれている。すごく優しい人だ。キヴォトスってあったけぇなぁ……。もう日が暮れてしまって街灯が点いているというのにまだ付き合ってくれている。本当にすごく優しい人だ。
もちろん年下の女の子から慰められるのに思うところがないわけじゃないけど、非常事態だし仕方ない。なにか大事なものがゴリゴリ削れている音が聞こえるけれど。開いちゃいけない扉が開きかけている気配を感じるけれど。
「ひっく、ぐすっ……」
「大丈夫よ、もう怖くないわ」
「ありがと、ございまっ……」
「あーもう、無理に喋らなくていいから。ゆっくり深呼吸して?」
「は、はい……すぅー、はぁー……」
言われた通りゆっくり深呼吸して、少し落ち着く。ママと呼びたくなる安心感がある声だなぁ。助けてもらった上にこんな介抱までしてもらって本当に申し訳ない。なにもお礼出来ない自分の状態が恨めしくって仕方がないくらいだ。
「た、助けてくれてありがとうござ……」
「?」
で、お礼をしようとして固まる俺。いや、無礼なのは重々承知なんだけど、慰めてくれていた少女の顔に多大なる見覚えがあったから。そしてこの世界で見覚えがあるということはネームドキャラだ。
そう、俺の横で不思議そうな顔を浮かべる彼女こそはブルーアーカイブのネームドキャラが一人、先生の
なんでここに早瀬ユウカが!?……あ、いやシャーレの手伝いからの帰りか。ゲームにおいて早瀬ユウカは初期キャラの一人だったし、この世界でも先生の業務を手伝っているんだろう。先生は仕方ないから除くとしても、今日だけでネームドキャラ四人に会ってるんだけど。俺会わないっていう指針立てたよな?やる気あんの?
「大丈夫?どうかしたの?」
「あ、いえ。お名前をお聞きしてなかったな、と……」
適当な誤魔化しの言葉だったけど「確かにそうね?」と言って首を傾げながらも納得……たぶん納得してくれた。「アタシは早瀬ユウカ。ユウカでいいわ」と自己紹介してくれるユウカ。存じ上げております。いや、なんかもう呼び捨てとかできる感じじゃないな、ユウカさんと呼ばせていただこう。
「助けてくれてありがとうございます、ユウカさん。俺はナナシです」
「な、ナナシ?えっと、それが名前なの?」
「……はい」
俺の名前に困惑するユウカさん。そらそうだ、俺も初対面でそう名乗るやつがいたらちょっと訝しむ。それでも名前についてとやかく言うのは失礼と考えたのか「変わった名前ね……」と言うだけでながしてくれた。ありがたい、本当にありがたい。名前の由来とか聞かれたらどうしようかと思った。
「それにしても災難だったわね。このあたりはまだ治安が良い方とはいえ、油断しちゃダメよ?」
「はい……本当に身に沁みました……」
いやマジで身に沁みました。正直油断してた。というかナメてたわ、キヴォトスの治安。まさかシャーレから目星をつけておいた公園までの短い間でカツアゲに遭うとは。俺がいた日本じゃカツアゲなんてもうほとんど絶滅してたし、メインストリートを歩いてたのに普通に引っ張り込まれるとは正直思ってなかった。あれ?夕方時点でこの治安なら日が暮れた今ってもっと危ないのか?俺本当にここで生きていけるのか?もともと無かった自信がさらに削られる音を聞いた気がする……。
「そういえば、ナナシちゃん銃はどうしたの?」
「へ?銃?持ってないですけど……」
「え?」
「え?」
なんでユウカさんは不思議そうな顔をして……あ、そういやキヴォトスって一人一丁は銃持ってるんだったな。やべ。
「あなた銃持ってないの!?拳銃も!?」
「えっ、は、はい」
「ナナシちゃんみたいなカワイ……小柄な子が銃持ってなかったらそりゃ襲われるわよ!」
今ユウカさんなんか言いかけませんでした?あ、いやそんなことより銃持ってないのってそんなに衝撃的なことなんだろうか。一人くらい居てもおかしくないと思うんだけどな、銃持ってない人。などと考えていたのが顔に出ていたらしく、ユウカさんが銃を持つことの重要性を懇々と教えて下さった。なんでも、どんなに小さくても銃を持つことは「最低限の抵抗くらいはできますよ」というアピールになるらしい。だから弱い生徒ほどわかりやすく銃を持つのだとか。それに加えて銃はそもそも一般的なもので、統計的には全裸で出歩く変質者の方が多いのだとか。それは流石に冗談だとは思うけど。
でも、たしかによく考えたら一般通過犬が普通にグレネード持ってる世界だったわ。まだまだ認識が甘かった。このキヴォトスは透き通るGTAなのだから、銃持たないとナメられるのは当然なのかもしれない。一通り説明したユウカさんはため息をひとつ吐いた。
「あ、あの、なんかすみません」
「……別にいいわ。カツアゲする方が悪いもの」
そう言って、俺の隣から立ち上がるユウカさん。そろそろ帰るのだろう、それにしても背が大きい……いや、俺が小さいのか?ゲーム開発部の子たちと話しているときは感じなかったけど、だいぶ縮んでしまっているんだろうな、ちょっと憂鬱だ。なんて考えていると、ユウカさんがこちらに手を差し伸べてきた。え?なんで?
「私もそろそろ帰らなきゃだし、ついでにナナシちゃんのこと家まで送るわ」
「へ?」
あ、まずい。俺の家がないとわかったら多分このままシャーレに戻される。え、どうしよ。適当な家に案内してここです、って言っちゃう?いや、中に入らないと怪しまれるよな。よし、ここは遠慮させてもらおう。
「い、いえ。俺は大丈夫なので」
「ついさっき襲われたばっかりなんだから遠慮しないの。それに、銃も持ってない子を一人で帰せないわよ」
「うっ……じゃ、じゃあ駅までお願いしてもいいですか?そこからなら一人で大丈夫だと思うので……」
「本当?遠慮しなくていいのよ?」
ユウカさんは心配してくれてるけど、遠慮とかじゃなくて宿無し金無しなのバレたくないだけです。ひいては世界を滅ぼしたくない。
このあとなんとか説得して、駅で別れることに成功した。
「大丈夫なので!これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかないので!」
「ちょ、わかったから土下座はやめて!?」
……我ながら、説得の手段はちょっとアレだったけど。
〇
side:ユウカ
「本当に、ありがとうございました」
「大したことはしてないわ。それより、このあとの帰り道も気を付けるのよ?」
目の前で深々と頭を下げる女の子……ナナシちゃんにそう言って私は自分の改札に向かって歩く。後ろからありがとうございました、という声が再度響くのにちょっと笑って、肩越しに手を振った。
そして、角を曲がってナナシちゃん側から見えなくなったところで足を止める。どうしてって、ナナシちゃんを尾行するために決まってるじゃない。いや、違うのよ。これはストーカーとかじゃなくて彼女の身を守る、あるいは悪事を阻止するため。
だって、どう考えても怪しいじゃない。ナナシなんていうあからさまな偽名に加えて、連絡先を聞こうとしたらスマホは持っているけど開けられない、なんて。カツアゲされてたような彼女に限って悪事を働くってことはないと思うけれど、それでも怪しいことに違いはないわ。ミレニアム自治区に影響がなさそうなら無視するつもりだったけれど、彼女がいる改札は端っことはいえミレニアムに向かうものだし。
それに、ナナシちゃんは銃を持っていない。つまり、ただ帰宅するにしてもその道中で襲われたりすれば抵抗する手段はないということ。彼女と話した感じいい子そうだったし、正直こっちの目的の方が大きいわね。事実としてカツアゲにあって泣いていたわけだし、彼女がまた襲われる確率は極めて高い!
とにかく、彼女がただ帰宅するにしてもなにか悪事を働くにしても尾行は必要ということ。……私は誰に言い訳してるんだろう。
……さて、そろそろ彼女も改札から動く頃でしょうし、ちょっと様子を見てみましょうか。私はそ~っと角から顔を出して……慌ててひっこめた。なぜって、未だナナシちゃんがその場に立っていたから。なんでまだそこに居るのよ!?と内心で叫びつつ慌てていると、こつこつとこちらに歩いてくる音が聞こえる。そこの改札を使うのではないらしい。私は急いで近くにあった柱の陰に隠れた。
「はぁ、それにしてもどうしようかな……」
ぽつりと呟くナナシちゃんの声が聞こえる。そのぼやきは悪事をたくらむというより、どこか行く宛てのない人のような……もしかして、ナナシちゃんって本当に行く宛がなかったりする?遠慮しいな性格だし、私に迷惑をかけないために家へ帰るって嘘を……いやいや。ゲヘナやブラックマーケットならともかく、この辺りに宿なしの生徒なんているはずないわよね。
そんなことを考えているうちに、ナナシちゃんが移動していく。そういえば敬語じゃないけど、こっちが素なのかしら。っと、あの方向は……公園方面の出口ね。とりあえず、駅が目的地っていうのは嘘みたいだけど……。
「アレさえ見つかれば少しは……」
駅から出て、公園の周りをぐるぐると回るナナシちゃん。もしかして、この公園になにか仕掛けるつもり?それとも既になにかが隠されていて、それを見つけて運ぶ運び屋とか……?ダメね、さすがに情報が少なすぎて憶測の域を出られない。もう少し尾行しないと。
「……!」
遠くて上手く聞き取れないけど、喜んでる……のかしら?あっ、ゴミ捨て場を漁り始めた!やっぱり運び屋……ってあれ?なんで段ボールを運び出してるのかしら。もう潰されてるし、中になにか入っているようには思えないけど。
あ、公園の中に入っていったわね、私も見つからないように着いて行かないと。隠れていた電柱の影から出て、公園の入口に向かう。ちょうどいい場所にあった木の陰に隠れて、そぉっと顔を出すと……。
「ヨシ、これで寒くない!……たぶん!」
段ボールで簡易的な布団を組み立て、その前で仁王立ちするナナシちゃんの姿が目に入った。え、え?あの子いま「これで寒くない」って言った?まさかあの不衛生な段ボールが布団代わりってわけじゃないわよね?というか、まだ冷え込むこの時期に野宿するつもりなの?正気?
そんなことをぐるぐる考えているうちに、ナナシちゃんは段ボールに潜り込もうとしていた。良く見るとなにかの液体だったり生ごみだったりで汚染されているそれに。
「ちょっ、待ちなさい!」
「うぇっ!?」
このあとナナシちゃんにめちゃくちゃ詰問した。
誤字報告本当に助かります……。コラボで結構ふわふわしてた部分の設定固まりましたね、打撃を受けた作者さんも多いようで、エタる作品が増えないか不安です