誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
「異世界だったりの話は置いておくとして……つまり、ナナシちゃんは行く宛がないのよね?」
「より正確には戸籍と金銭と住居と職業と……」
「なにもないじゃないの……」
さて、俺は今ユウカさんの前で正座している。理由は単純、怒られてるから。……うん、説明足りないね。俺もちょっと混乱してる部分があるから少しずつ振り返っていこう。
まず、俺はユウカさんに助けてもらい、しかも駅まで送ってもらった。昼間のうちに目星をつけておいた駅近くの公園が目的地だったから、これは本当に心の底からありがたかった。
で、その後。俺は駅でユウカさんと別れて、公園を目指した。そこそこ広くて駅に近く、段ボールが捨てられてそうなゴミ置き場が付近にたくさんある公園だから、たぶん俺以外にも
その声の主がユウカさんだった。駅で別れたはずの彼女が居ることにまず驚いたけれど、彼女曰く俺がなんらかの悪事を働いたり帰宅中にまた襲われたりしては大変だからと後を尾けていたのだとか。確かに俺の怪しさは満点だったかもしれない。なお、それってストーカー行為なんじゃ、という疑問の声はユウカさんの笑顔によって圧殺された。
その後は早かった。ユウカさんに言われて俺の寝床たる段ボールをゴミ捨て場へ戻し、少しゴミ捨て場から離れたところで正座を命じられた。で、洗いざらい吐かされた。
いや、もちろん俺も抵抗したよ?拳で、は勝てるわけもないしそもそもやりたくないからやってないけど、言葉で。具体的にはぼかしたり嘘吐いたり。でも俺にそんな高度なことできなかったよ。社会経験ゼロだよ?ここ数年まともなコミュニケーション取ってこなかった人間だよ?ほとんど組織の運営に近いことしてるユウカさんを相手にして嘘が通じると思う?俺は思ってた。もちろん、その幻想は打ち砕かれたけど。
で、結局別の世界から来てシャーレに存在確認だけしてもらったこと、この身体の情報がわからないからナナシと名乗っていること、先生に力こぶを作りながら言ったアテなんてどこにも存在しないことなど、もろもろを吐かされた。なぜ頼ろうとしないのかという質問には、物語として知ってるというのは荒唐無稽すぎるから嘘ではないレベルの「ちょっとだけ未来知っててバタフライエフェクト怖いんです」に留めた。最終防衛ラインは守ったと言って……いい?ダメかな、ダメだな、ダメだよな。項垂れる俺の前で、深い、それはもう深いため息を吐くユウカさん。
「とりあえず事情はわかったわ」
「あ、はい……ですからお構いなく……」
「じゃあ先生に連絡するわね」
「なして!?」
すっとスマホを取り出したユウカさんの腕を掴んで……正座してるせいでほとんどぶら下がる形になったけど、とにかく止める。話聞いてました!?先生とかには頼れないんですってば!たぶんユウカさんの関係者全員とも!
「あのね、ナナシちゃん。聞かせてもらうけどこのあとどうやって生きていくつもりだったの?」
「え……じ、自販機の下の小銭集めたりとか……」
「このあたりの自販機はうちが改良しててほとんど小銭がこぼれないわ」
「……コンビニの廃棄弁当もらったりとか」
「渡してくれるわけないでしょう?」
「…………バイト、探して」
「学籍のないあなたを雇ってくれる場所、ないと思うわよ?」
「……」
俺の出した案を次々却下していくユウカさん。黙り込む俺を見て「これでわかった?」と言って頭を撫でてくれる。あの、俺こんなのでも一応成人男性でして……そういやそこは聞かれてないから言ってないな。
「ナナシちゃんがちゃんと生きていくためには誰かの助けが必要なのよ。一人でなんでもかんでもしようとしちゃダメ」
あの人みたいに能力がないだけ可愛らしいけどね、と呟くユウカさん。あの人、とは調月リオのことだろう、そういえばこの頃にはエリドゥの建設に入っているだろうし、ワンマン体制がより顕著になっているのか。あ、いや。そんなことよりもこの状況をなんとかしないと、自分が原因で世界が滅ぶなんて嫌だぞ俺は。
「で、でも、本来この世界に俺はいなくて……」
「世界の危機?」
「は、はい」
「正直そこについては信じられないんだけど……でも、そうね」
ユウカさんはそこで言葉を区切って、まだ縋りついたままの俺の手を引いて立ち上がらせた。
「先生なら、きっとこう言うわ。『いざというときは、私がなんとかするから』って」
「……」
ああ、確かに。きっと『先生』なら。ブルーアーカイブの主人公ならそう言うだろう。でも違うんだ、俺は生徒じゃなくて、大人だから。いざというときの責任は、俺自身がとらなくちゃいけない。その責任が持つ重さを、俺はきっと支えられないから。責任をとるために明日を待とうとも、その明日さえ来ない可能性がある。だから俺は関わりたくない、逃げの一手を打ち続けていたい。けど、けれど。
「とにかく!改めて先生と話して、それから決めてみて。あの人はとにかくだらしないし無駄遣いもするけど……信頼できる大人だから」
これ断れる雰囲気じゃないな!?
「はい……」
かくして俺は雰囲気に流された結果、シャーレに連行されるのだった。いや、だって仕方ないじゃん。NOって言ったらユウカさん曇りそうだし、というかそもそもその程度で納得してくれなさそうだし。段ボールベッドを見られた時点で俺は詰んでいたんだよ……。
〇
「“なんていうか……思ったより早かったね?”」
「面目ないです……」
で、シャーレのオフィス。俺は先生と再び向かい合っていた。先生の隣に椅子を持ってきて座っている状態だ。ちなみにユウカさんはもう帰宅した。いや、本当に面目ない。昼間に「アテがあるんで!」と言って意気揚々と出て行った人間がその日のうちにカツアゲされ(もともと無一文だったけど)、自分の生徒に連れられて戻って来るとはさすがの先生も思わなかっただろう。これについてはもうほぼ全て俺の落ち度なので、マジで申し訳ない気持ちでいっぱいだ。ユウカさんと先生に多大なるご迷惑をおかけしてしまったのだからバタフライエフェクトとか抜きに、普通に居た堪れない。
「“ユウカから話は聞いたけど、カツアゲにあったんだってね。大丈夫だった?”」
「あ、はい……おかげで傷ひとつないです……」
ヤバイ。ただでさえ低いコミュ力が申し訳なさで委縮しているせいでさらに低くなっている。もうなにがヤバイってヤバイ。すべての会話を一切膨らませられないピリオド野郎になってしまっている。お、俺からもなにか言った方がいいよな。……そうだ、この機会だから言ってしまうか。きっと、庇護を受けることはできなくなるけれど、それも好都合といえば好都合だ。
「先生、その……俺が先生に頼らない理由って、わかってますか?」
「“バタフライエフェクトが怖いから、だけじゃないよね”」
「……はい」
なんでもないように言われて、少し驚いた。正直、そこまで見抜かれてるとは思ってなかったから。先生ってやっぱりすごいんだな……心を読むのは聖人というより妖怪寄りな気がしちゃうけど。先生が次の言葉を待っているのに気づき、慌てて言葉を継ぐ。
「えっと……俺、もとの世界では成人していたんです。といってもニートだったので、社会経験なんてないんですけど」
「“……”」
黙って、静かに続きを待つ先生。いま要らんことまで言った気がする。
「だから、その。俺はそういう意味で『大人』なんですよ。自分の行動には、自分で責任を持たなくちゃいけない。先生の『生徒』でもないから、先生が責任を持つ必要もない」
「“……なるほど、言いたいことはわかったよ”」
落ち着いた様子で、先生はタブレット端末──たぶんシッテムの箱だ──を操作した。ああ、言っちゃったなぁ。これで先生の庇護という、メタ的な意味でこの世界最強の力を使うことは出来なくなってしまった。いや、もとより使うつもりはなかったけどさ、なんかこう、持ってて使わないのと持ってないから使えないのとって結構差があるじゃん。先生は優しいから最低限のサポートはしてくれるかもだけど……なんて考えて少し項垂れていると、目の前にシッテムの箱が差し出される。え、なに?よくわかんないけど、とりあえず見るか。
「……え?あれ?あの、先生?これ、あの……なに?」
「“ナナシの学籍だよ”」
「はい?」
何を言っているんだこの人は。俺は今日この世界に来たばかりでそんなもの存在するわけがない。こんなものを即日発行すれば間違いなくなんらかの法か規則に抵触し……あ。そういえばシャーレって
「“あとはそこに手を置いて指紋を登録すれば、ナナシは私の生徒になる”」
「……生徒の意思は尊重しないんですか?」
一応苦し紛れに言ってみるも、先生は素知らぬ顔で「まだ生徒じゃないからね」などと言っている。わかっているんだろうか、この人は。……わかっているんだろうなぁ。
この人にとっての『生徒』は、それこそ命より重い意味を持つ。生徒自身が心から望む夢を叶えるためなら、自分にできることは人道の範囲なら文字通りなんだってする人だ。生徒のやりたいことに、大人だからと言って責任を持ってしまう人だ。なぜって、『先生』だから。生徒の望む夢を手助けすることが、生徒のやりたいことに責任を持つことが、『先生』の仕事だと本気で考える人だから。
「……先生。さっきも言った通り、俺は大人です。自分のやったことに自分で責任を持たなくちゃいけない。なのに、なんで、どうして俺を生徒にしようとするんですか?」
俺は弱い人間だ。自覚がある。逃げ道があれば逃げるし、楽な方に向かって簡単に転がっていく。先生の生徒、だなんて。そんな逃げ道があれば頼ってしまう。しかも、ここは俺の行動が原因で滅びかねない世界だ。赤の他人の俺を、そんなリスクを背負ってまで助ける必要なんかないはずなのに。
「“ナナシには、まだ教えられることがありそうだから”」
「教えられる、こと?」
理解できず聞き返す。先生はこくりとひとつ頷いて、俺の目を見た。まっすぐな黒い瞳が俺を射抜く。
「“例えば……『責任の取り方』とか”」
「……それ、先生の仕事じゃないですよ。たぶん」
先生は、それには答えず冷めたコーヒーを口に含んだ。たしかに、俺はそれを知らない。社会に出ることも、高校を卒業することさえできず家に引きこもったから。だけど、それを知っている大人がどれだけいるんだろうか。責任に対する対処法なんて誰も教えてはくれない。大人は、自分で学んでいかなければいけない生き物だ。誰も教えてはくれないから、自分で求めなければ何も得られない。俺はそう思っている。
「“ナナシって、もともと何歳だったの?”」
「……19、ですけど」
「 “やっぱり。私からすればまだ子どもだよ” 」
言われて少しムッとした俺を、再び先生の目が射抜く。まっすぐで、達観した、大人の目。
「“それにねナナシ、『生徒』は子どもだけの特権じゃない”」
「……」
「“私たちは『大人』と『子ども』じゃないのかもしれない。でも、『先生』と『生徒』だよ。大人だって誰かに頼らないと生きていけない”」
聞いて、目を見開く。目から鱗だった。大人になったら、もう誰にも頼れないと思っていた。一人で考えて、一人で悩んで一人で生きて、そして一人で死んでいく。そういうものだと思っていた。本当に、いいんだろうか。大人になったとしても、人に頼っていいのだろうか。……きっと、いいんだろうな。少なくとも、目の前の大人には。俺は観念したようにため息をひとつ吐いて、タブレットの上に手を置いた。
「……わかりました、よろしくお願いします。先生」
「“うん、よろしくね、ナナシ”」
なんだか丸く収まった。……けど、あれ?問題は何も解決してなくないか?結局俺は先生に頼ったわけで、バタフライエフェクトは普通に起きそうだし。学籍こそ用意されたけど、俺の一文無しはなにひとつ変わってないからシャーレを飛び出すこともできないし。うん?あれ?もしかして俺、雰囲気に流された?
「“あ、それとナナシはシャーレ所属ね”」
「……はい?」
正確には連邦生徒会所属の生徒になるんだけど、と先生が言っているけどちょっと情報を整理しきれていないから待ってほしい。俺がシャーレ所属で、他の学園に所属してないってことは……つまり、俺は明日からシャーレで仕事をするわけだな。で、当番の生徒たち(たぶん殆どがネームドキャラ)が来るから彼女たちと関わる必要も出てくると。先生?あ、お給金出るんですね、それはよかった。いや違うそこじゃなくて!
「あ、あああの先生!?バタフライエフェクトが怖いって話しませんでしたか!?」
「“いざというときは、大人の私が責任とるから”」
「『大人』と『子ども』じゃないって話は!?」
「“『ナナシはまだ子ども』とも言ったよ”」
ああああああああああ!!!騙されたんだ、悪い大人に!!!確かに大人と子どもじゃない“かも”とは言ってたけど断言はしてなかった!!!……え?これどうすんの?逃げ道あると俺逃げまくるよ?どんどん楽な方に転がっていくよ?ころっころだよ?責任の所在が俺にあるからまだ頑張れてたんだけど。マジでどうしよう。ぐるぐると思考を空転させる俺の頭に、なにかが乗っかった。これ、先生の手?
「“大丈夫。きっと、ナナシは自分で思ってるほど弱くないから”」
「なんでそう言えるんですか!」
「“だって、誰にも頼れない状況でも一人で頑張ろうとしたでしょ?”」
「そ、れは……」
言われて、言葉に詰まった。なぜって、居た堪れなくて。文面にすればたしかにそうかもしれない、俺は一人でも頑張ろうとしたのだろう。でも、俺は他に手段がなかったからそうしただけだ。それも結局失敗して、人に頼ってしまっている。世界が滅ぶかもしれないというのに、それでも誰かに頼ることをやめられずにいる。だというのに、否定する俺の思考を諫めるように、先生は俺を褒めた。
「“それは、普通のことじゃない。ナナシはすごいよ”」
「……ありがとう、ございます」
受け取り方がわからなくて、口をついて出た言葉はお礼だった。お世辞だ、ただ優しい言葉をかけているだけだ。頭のなかでそう否定しても……それでもやっぱり、褒められるのは嬉しい。褒められるのはいつ以来だろうか。小学校のテストで百点をとったときだろうか。それとも、高校受験で受かったときだったろうか。とにかく、長らく褒めてもらっていなかった気がする。
その言葉を聞いて、褒められたというそれだけで、俺の気は緩んでしまったらしい。もしかすると、頭を撫でてもらっている安心感みたいなものもあったのかもしれない。瞼が急激に重くなって、頭がぼーっとする。
「“おやすみ、ナナシ”」
その声を最後に遠く聞いて、俺の意識は深く沈んでいった。
〇
side:先生
「“なんとか上手くいった、かな”」
シャーレの仮眠室で、私は新たに私の生徒になった子をベッドに寝かせていた。まさか中身が大人だ、なんて言い出すとは思ってなかったけど。けれど、19歳なんて私にしてみればまだまだ守るべき子どもだ。せめて慢性的な腰の痛みや肩こりに悩まされるくらいじゃないと、大人とは思えない。……この考え、もしかしておじさん臭いかな。
どうでもいい方向に逸れつつある思考を修正して、考えをまとめていく。まず、ナナシについて。この子は、身体の方はまだわからないけれど、中身の方は少し自己肯定感が低いくらいで普通の子だ。強いて言えば雰囲気に流されやすいところがあるみたいだけど、それも自己肯定感の低さから来るものだろう。自信をつけさせてあげれば何も問題はないと思う。
問題は、ナナシが持っている知識の方。いわゆる原作知識、なんて言っていたそれだ。これがあるせいで、ナナシは私やほかの生徒と関わることを恐れてしまっている。教えてもらおうにも、ナナシはバタフライエフェクトを恐れているからたぶん無理。でも、推測するくらいなら出来る。
ナナシが
知らず、手に力を込めてしまっていたらしく、いつのまにか拳を作ってしまっていた。拳を解いて、掌を見る。なんとなく、小さい手だと思う。
ここが、物語だというのなら。きっと私たちはそれを乗り越えていくのだろう。不確定要素が入らない限り、確実に。だからこそナナシは半ばその身を犠牲にするような不干渉を選んだんだろうから。……でも、私はナナシにもこの世界を楽しんでほしい。青春を、楽しんでほしい。私のエゴに過ぎないことはわかっているけれど、それでもと願わずにはいられない。
ふと、思いついてナナシを見る。なんとなく、言いたくなった。私がこの世界に来て言われた言葉を、ナナシにもかけてあげたくなった。
「“ナナシ、キヴォトスへようこそ”」
少しだけ、ナナシの頬が緩んだように見えた。
「“……さて、仕事をしないと”」
自動で開く仮眠室の扉を潜って執務室へと足を進める。昼間ゲーム開発部の子たちと遊んでいたから今日はいつもより残っている書類が多い。明日からナナシが常駐するから少しは楽になるかもしれないな、なんて思いつつ。
「“明日からはもっと仕事が楽になるよね、アロナ”」
「……先生、ナナシさん社会経験ないって言ってませんでしたか?」
そろそろ、というか早くも更新ペースが落ちるかもしれません。書き溜めほぼゼロで始めたので……
アンケートをとってみることにしたVol.3が始まるまでの間の話ですが、基本シャーレで当番の生徒か遊びに来た生徒と絡む感じの話になると思います。気楽に投票お願いします。
メインストーリーVol.3 が始まるまでの間の話は
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ダイジェストで良い
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1~2話で良い
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3~4話くらいほしい