同人エロゲにTS転生したので処女を守ってたら楽しくなってきた   作:ぴゅせー

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4 聖処女は働いている。

 仕事がない。

 というのはあくまで冒険者としての話。

 顔がいい私には、それ相応に向いてる仕事がいくらでもあるのである。

 というわけで、

 

「フィリちゃーん、こっちに追加のビールお願い!」

「はーい!」

 

 私は現在、ウェイトレスをしていた。

 同人エロゲにありがちなバイトイベントである。

 フリフリのかわいい制服を身にまとい、ちょっと特別感のある感じでバイトをすると同人エロゲをしているなーという気分になってくる。

 イベントが終わったら、その制服が着せ替えに追加されると最高である。

 

 かくいう私も、店の制服をお借りしてバイトに勤しんでいる。

 白と黒の、メイドチックなミニスカ制服だ。

 ここで長く働いている先輩に、猫のわっぺんを付けてもらって愛らしさも満点である。

 強いて言うなら、ちょっときつい。

 飛び入りで参加したから、ロリ巨乳用のサイズというのがなくて胸周りと腰周りがきつきつなのである。

 

「おまたせしましたー、ビール三人分でーす」

 

 ――ぶっちゃけ話。

 私は労働が嫌いだ。

 というか前世オタクの転生者に労働が好きなやつとかいる?

 いねぇよなぁ!

 

 でも、こういうバイトはまた話が別で。

 普通にやっていて楽しい。

 前世では大変そうだからやりたくなかった接客業も、何ら苦にならない。

 理由は――制服が可愛いからだろうなぁ。

 

「へへ、こんな可愛い子に接客してもらえるなんて、今日は付いてるね」

「ありがとうございまーす。その分じゃんじゃん食べてくださいね?」

「あいよぉ。フィリちゃんに言われたらしょうがねぇなぁ」

 

 TSしてもう随分長いというのもあるだろうけれど、女としてチヤホヤされるのは嫌いじゃない。

 前世では、そもそも人間としてカウントされないヒエラルキーにいた人間だ、ちやほやされたらそうもなる。

 男と致すのは冗談じゃないけれど、こうやってチヤホヤされているとなんか流されそうになる辺り、自分も同人エロゲ世界の住人してるなー、とも思った。

 

 後ね、やっぱりゲームの中で慣れ親しんだイベントって、やっぱ楽しいのよ。

 聖地巡礼みたいな感じ?

 ちょっとくらい労働してもいいかなって思える、雰囲気って大事。

 

 そしてもう一つ。

 普段はこうやってゲームのイベントの雰囲気を楽しみつつ、酒場でチヤホヤされるのがメインなんだけど。

 個人的に、見逃せないポイントがもう一つあった。

 

「――でゅっふふ、フィリちゃん、こっちにもお願いしていいかなぁー」

 

 ――――来た。

 私は瞳を光らせてそちらを観る。

 そこにいたのは、頭の上にハートマークを浮かべたすけべ親父だった。

 あ、頭の上のハートマークは私の幻覚です。

 

 そう、エロイベントを発生させるすけべ親父だ。

 明らかにこっちをエロい目線で見てくる、これから胸揉んだり尻揉んだりしますよって顔に書いてあるおっさんだ。

 

 こういう制服バイトのイベントで発生しうるエロイベントは主に二種類。

 一つは、バイト先がいかがわしい裏サービスをしているお店で、それに巻き込まれる場合。

 そもそもこういうバイトに可愛い制服が付いてくるかはなんとも言えないが、イベントとしてはオーソドックスな部類だ。

 

 そしてもう一つが、バイト中のセクハライベント!

 これはもうバイトイベントのど鉄板だよね!

 イベントとしては、制服が露出すくなくて淫乱度低くても着れることが多い関係もあってかゲーム序盤に発生するのも嬉しい所。

 オープニングが終わって自由行動が始まり、町中のハートマークが浮かんでるイベントに突っ込むと、こういうのあるよね……!

 

 というわけで、

 

「はーい、わかりました!」

「っと、ちょっとまったフィリ」

 

 ――と、そこでバイトの先輩(猫わっぺんの人)が声をかけてくる。

 大人っぽいお姉さんだ。

 

「あのおっさん、セクハラが激しいから気をつけろよ」

「ふふん、任せてください先輩」

「いや何一つ信用できないんだけど……」

 

 というお決まりの忠告を受けてから、私はセクハラ親父の元へと向かった。

 つかつかと、セクハラ親父に歩み寄っていく。

 親父は、ニヤニヤとそれを待ち構えると――

 

「待ってたよーフィリちゃーん。じゃあえっとねぇ」

 

 そういいながら、私に手を伸ばした。

 

 刹那。

 

 数百年磨き続けた戦闘センスが、“今”を私に告げる。

 

 

 ひらり、セクハラ親父の伸ばした手は、まるでただ挨拶のために手を降ったかのように、私の隣をすり抜けた。

 

 

「――――!!」

 

 一瞬、時間が遅くなる。

 セクハラ親父の勝ちを確信した微笑みが、驚愕に染まる。

 今のセクハラは、確実に私の尻を手中に捉えていたはずだった。

 だというのに、私はまるで最初からそこにいなかったかのように身を躱している。

 この技術のすごい所(自画自賛!)は、その一連の行動に不自然さが一切なかったところだ。

 

 だからセクハラ親父の手の動きは挨拶のために手を降ったかのようだったし、私は何事もなく注文を取るために伝票を手にしている。

 

「ご注文はおきまりですか?」

「――っ! び、ビールを一つもらおうか」

 

 セクハラ親父が冷や汗を流し、こちらの笑顔に引きつった笑みを浮かべる。

 その顔は雄弁に語っていた。

 

 ――こいつ、できる! と。

 

 注文を受けて、カウンターに戻ると先輩が笑顔で出迎えてくれた。

 

「フィリ、すげぇな今の、どうやったんだ?」

「ええ? 普通に注文を受けてきただけですよぉ」

「あっはは、言うねぇ。アタシもやる気が出てきたよ」

 

 なんて話をしていると、ざわざわと店が騒がしい。

 観ると――件のセクハラ親父が、すごい勢いでビールを一気飲みしていた。

 ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえてくる。

 あの目は、間違いない。

 

 ヤる気だ!

 

「――フィリちゃん! 追加いいかな!?」

 

 瞬間。

 店は和気あいあいとした定食屋から、一つの戦場へと変化した。

 

「おい、フィリ――」

「――はーい」

 

 先輩は私を止めようとしてくれたのだろう。

 だが、私は止まらない。

 ここで止まったら、エロイベントマイスターの名が廃る。

 今いい始めたけど、エロイベントマイスター。

 

 静まり返った店内。

 高まる緊張。

 歩み寄る両者(歩いてるのは私だけ)。

 

 そして、時は来た。

 

「はーい、いかがいたしますか?」

「そうだね、ビールを頼むよ」

 

 ――その言葉を合図に。

 

 両者は、再び刹那相まみえる!

 

 結果は――

 

「――――っ」

「はい、ビールですね、かしこまりました」

 

 ――私の勝利だ。

 胸元を狙ったセクハラ親父の手は、再び空を切った。

 

「おいおいまじかよ、あのセクハラ親父の“魔手”を二度も躱しただと!?」

「――視えなかった。フィリちゃんが何をしたのか、俺の目にも視えなかった!!」

 

 一気にざわざわと周囲が色めき立つ。

 どうやら、セクハラ親父はこの店では有名な“魔手”の使い手だったようだ。

 そして――

 

 

「――フィリちゃん、また、追加を頼むよ」

 

 

 受け取ったビールを飲み干したセクハラ親父が、顔を真赤にさせながら挑戦的な笑みでそういった。

 

 ――そこからは、激戦だった。

 

 セクハラ親父はビールを頼み、私がそのオーダーを受ける。

 セクハラのチャンスは、そのオーダーの時だけ。

 ビールが運ばれてくる時? そんなことしたら、ビールを零してしまうかもしれないじゃないか。

 ここは夜の定食屋、ビールこそ店の支配者、神様である。

 おビール様に失礼なことはできない、なので親父がセクハラできるチャンスは一度だけだ。

 

 そして、失敗したらビールを飲み再びオーダーを頼む。

 私はその間、一度もセクハラを受けずにオーダーを完遂させる。

 セクハラ親父は、酔い潰れる前にセクハラを成功させる。

 これは、そういう勝負だった。

 

「いや、頭おかしいんじゃないの?」

 

 と先輩の冷静なツッコミを無視しつつ。

 私達は激戦を重ねた。

 驚くべきことに、セクハラ親父のセクハラはオーダーのたびに精度を上げていった。

 オーダーをすればするほど酔いが回るはずなのに。

 だが、それもいずれ限界が来る。

 

「ふぃりしゃん、おーらーをらのむよ」

 

 ――聞きたくなかったセクハラ親父のろれつが回らない言葉を、その場の空気で聞き流しつつ。

 私は、ついに最後のオーダーを受けるために戦場へと向かう。

 

 ここまで、長い戦いの中で私達は奇妙な絆を築いてきた。

 お互いがお互いのことを理解し、呼吸を合わせるかのように一つの芸術を作り上げていく。

 正直、私はこのセクハラ親父が嫌いになれなくなっていた。

 

 だが、それはそれ、これはこれ。

 相手はセクハラ親父。

 そのセクハラは――何があっても回避して見せる。

 

「おまたせしましたー」

「び、びーる」

 

 ――激突は始まった。

 セクハラは、2つの選択肢がある。

 胸か、尻か。

 究極の選択だ。

 

 その選択をどちらにするか。

 私がそれをどちらと読むか。

 

 この時点で、勝負は半分が決する。

 

 セクハラ親父が選んだのは――

 

「っ!」

 

 尻だ!

 

 低く、地を滑るようなアンダースロー。

 川から砂金をすくい取るような、繊細すぎる手の動き。

 間違いない、これまでのセクハラで最も精度が高い――!

 

 だが、読めていた!

 

 ヒートアップしたセクハラ親父は、きっと初戦の再現をするだろうと私は読んでいた。

 事実、セクハラ親父は私の尻を狙っている。

 決着のときは来た!

 

 そして――

 

 

 店内に、静寂が満ちた。

 

 

「――ふ」

「…………」

 

 セクハラ親父は笑みを浮かべ、私の頬に冷や汗が伝う。

 勝ったのは――

 

「……ビールですね、承りました」

 

 ――私だ。

 

 直後、歓声が上がった。

 このばかみたいな騒ぎは、私の勝利で幕を閉じたのである。

 

 いやぁ、激戦だった――

 

 と、カウンターに戻ったら。

 

「……フィリ」

「なんでしょう、先輩」

 

 先輩が、なんか気まずそうな顔でこっちを見ている。

 あれ? ここはなんか先輩も空気に呑まれて私を祝福してくれる流れじゃあ?

 

 

「――さっきのアレ、動きが激しすぎてパンツ視えてたよ」

 

 

 …………え?

 

 

 ――かくして、私とセクハラ親父の仁義なきセクハラバトルは、それを観戦していたバカどもが一方的に得をしただけで終わるのだった。

 

 ……ちくしょー!

 

 

 ♡

 

 

 ――その日、セクハラ親父は出会いを果たした。

 彼はとある大きな商会の主で、常に成功だけの人生を歩んできた。

 そんな彼が初めてであった失敗――敗北。

 

 フィリ・アーカイブ。

 かの聖処女とのセクハラバトルに敗北したのである。

 

 衝撃的であった。

 まさか、自分に失敗などという概念が存在すると彼は思っても見なかったのである。

 人生のすべてを思うがままに生きてきた彼にとって、それがどれほど大きい衝撃だったかは、語るまでもないだろう。

 

 そんな衝撃と、どろどろに酔い潰れた彼にとっての人生の岐路はそこで終わらなかった。

 すべてが終わった後、律儀にオーダーを受け取ったフィリが、それを持ってきたのだ。

 

「フィリくん、これは……?」※本人はちゃんと発言できているつもりです。

「あー、その。あれですよ」

 

 彼女が持ってきたのは、ビールだけではない。

 ――軽食もだった。

 飲みすぎたお腹にちょうどいい、いい感じの軽食だ。

 実にいい感じである。

 

 

「――お疲れ様でした。いいバトルでした」

 

 

 なぜだかそう告げるフィリの顔はどこか恥ずかしげだ。

 しかし、そんなことセクハラ親父の頭には入ってこない。

 ただ今は、敗北の末に与えられた“ねぎらい”に、彼は感動を覚えていたのである。

 

「……ああ、ありがとう。いただくよ」

 

 そうして受け取った軽食は、彼がこれまで食べてきたどんな美食よりも美味であった――

 

 かくして、敗北とねぎらいという経験を得た彼は、それから人が変わったかのように善良になる。

 後にその切っ掛けには、かの聖処女フィリが関わっていると知られたことで、フィリの名声は更に高まっていく。

 これもまた、フィリが聖処女として齎した“崇拝(かんちがい)”と言えよう。

 

 ――なお、実はこのセクハラ親父がゲーム本編で主人公にセクハラを働くセクハラ親父であるとフィリは後に思い出し、原作のイベントを一つ潰してしまったことに血の涙を流すのだった。




 こういうバカオンリーみたいな話もあります。
 それはそれとして、こういうところでも聖処女ポイントを稼いでいたりもします。
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