ガールズ&パンツァー ~ 大洗は大砲鳥の夢を見るか ~   作:松ノ木ほまれ

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さんだーす・あんつぃお の ばあい

 

 

  ~ エンクレイヴ自由学院・上空 ~

 

 

「うっわ、凄いわね~アレ!」

「何でワシントンDCが艦の上にあるのよ……」

「ポトマック川も完全再現だぞ、すっげ……」

 

 度肝を抜く光景だった。【サンダース大学附属高校】の戦車道チーム、隊長の『ケイ』と副隊長の『ナオミ』、そして次期隊長候補の一人『アリサ』の三人組は、眼下に見えてきた"()"の姿に愕然となる。サンダース大付属とて女子校の中では最も巨大なマンモス校の一つであるが、それに輪をかけてデカい。

 位置的には『ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港』にあたる場所に、学園艦の発着場がある。

 

「川って、水はどこから?」

「海から汲み上げてるんだと、学園艦内の浄水設備で飲み水レベルに出来るらしい」

「うわすっごぃ」

「ここもサンダースと同じで何もかもアメリカサイズなんすかね、統帥(ドゥーチェ)

「美食のイメージは無いからなぁ~アメリカって」

「じゃあなんで付いて来たのよあんた達は!」

 

 彼女達は今、サンダース大付属の有する【C-5M スーパーギャラクシー】の中にいる。ケイ達と一緒に、【アンツィオ高校】の面々も座席に列席していた。『安斎千代美』こと『アンチョビ』と、『ペパロニ』・『カルパッチョ』の"ずっこ○三人組"。

 それが何故なのかについては少しややこしい話になっており、ケイは爆笑しながら同上にOKを出したのである。

 

「何でって、イタリア系の男子校が()()()()()()()()()()()()からだって言っただろ!」

「学園艦は別々のままなんだからソッチ行きゃあ良いじゃない!」

「首脳部はこっち住まいなんです。【ジョルダーニ学園】が解体吸収されて、学園艦は校舎として残ってるんですが、運営とか生徒会とかはこっちが管理していると」

「非効率過ぎないか、それ」

 

 ナオミの指摘は至極尤もで、ケイも「何でなの?」と首をかしげている。

 

「吸収以前は、それこそファシスト党の一党独裁時代もかくやという有様だったそうです。……だから監視かつ改革が進むまでしばらくこのままなんだとか」

「ドゥーチェ、着いたら降りない方がいいんじゃないすか?

 『統帥』って思いっきり名乗っちゃってますし」

「――あっ! マジかっ!? ホントだどうしよう!

 てかペパロニェ・・・・・なんでこういうときだけちょっと賢くなるんだお前!」

 

 アリサは頭を抱えた。ケイは面白がってか口元を抑えたままであり、ナオミは我関せずと操縦桿を握っている。C-5Mがゆっくりと滑走路へ降りていく。

 

<サンダースC-5M、こちらエンクレイヴ・グランド。

 "C-TWY"を右折してください、どうぞ>

「こちらサンダースC-5M。C-TWYへ右折します。E-8手前にて待機。どうぞ」

 

 エンクレイブ自由学園空港・管制室からの通信だ。誘導路(TaxyWay)C地点(チャーリー)を曲がるようにというアナウンス。外を見てみると、多くの航空機が行き来しているのが彼女たち女学生一同に見えている。

 

「うっひゃ~、こっちもマンモス校なんすねぇ。すげぇ数」

「というか、普通の空港レベルじゃないかコレ」

「他高校から全国への中継も買って出てるみたいなのよ。

 だから、卒業したら即航空会社で戦力になるんだって」

「さっきから聞こえてくる無線、ちんぷんかんぷんなんスもん」

「ペパロニ、止めて。サンダースのみなさんの前でしょ」

「……うっくく、ぷぷ…… 「ケイ、後で話がある」 ……ごめん、ごめんってアンチョビ」

 

 ふと、観光気分になりかけた時の事だった。

 

「……ふぐっ!!!」

 

 ナオミが急に吹き出した。こういう局面では基本鉄面皮の彼女が、だ。ケイが何事かと尋ねると、ナオミは吹き出しそうになっているのを必死にこらえながら、無線を皆に聞こえるようにした。

 

<みなさんこんにちは、皆さんのパイロットがご案内いたします>

「「「 ……!? 」」」

 

 無線が急遽聞こえてきた。管制室に繋がっている他の航空機からだった。

 

<本日は晴天。フライト日和となりましたが、【クレムリン赤宮学園】が上空は今年早めの降雪、曇天のため機体が揺れる可能性がございます>

 

 ナオミは、無線の接続先を誤っている事を伝えるボタンを何度か押していた。向こうには "ビー" という電子音が聞こえる仕組みだ。しかし気づいていないようである。

 

<本州上空は穏やかな空です、終盤の揺れをご了解いただきますようお願いいたします。

 ゆっくりとお座りになってフライトをお楽しみください。あ、座ってるのをですが>

 

「すげぇ、他からもビー音鳴ってんのに気づいてねぇ」

「後半、みんな諦めて鳴らしてないなぁ……機内に聞こえてんの?」

「聞こえてない、これ機内回線じゃなくて管制宛だから」

「「「 あぁ~あ 」」」

 

<お気遣いありがとうな>

<上手かったぞぉ今の>

<――っ!? あ、やっべ!>

「こっちにはピーナッツくださ~い、6袋」

 

 他のパイロット達からの突っ込みで、ようやく気がついたらしい。ミスったパイロットは焦りだし、意地悪にもナオミは追い討ちをかけた。

 

<……えっ? は? 女子ぃ!!?>

<聞いてないのか、今日ウチの学校に

   米系と伊系の女子校からお客様来るって>

 

 ここに至り、アンチョビとペパロニも悪ノリ精神が発動した。ずずいとナオミの両隣に移動して……

 

「私はピッツァ、チーズ大盛りで」

「こっちは鉄板ナポリタン!」

「鉄板ナポリタンは名古屋発祥でしょうが、此処には無いわよ!」

< 嘘だああぁぁぁあっ!! >

<< Hahaha!! ドンマイ! >>

 

 ミスった機体から聞こえてきた悲鳴。ケイはツボにはまってしまい、笑い声も出せない状態になって、腹を抱えながら床に転がった。アリサは少し哀れむような目で通信機を見つめている。本当に、本人にとっては最悪なタイミングでやらかしたものだ。

 

<誰か俺を撃墜してくれぇ>

 

 最後に聞こえてきたパイロットの音声は悲痛に満ちていた。

 

 

 ※※※

 

 

  ~ エンクレイブ自由学園・艦上街 ~

 

 

 空港からでてすぐの場所。本来のワシントンにおいては空港警察署のある地点に、学園への入園手続き窓口があった。そこで少しの間の足止めと、車両のチェックが入る。サンダース大付属は『M151』、アンツィオ高校は『AS42 サハリアーナ』だ。周囲の男子一同からの熱視線も注がれている。

 

「やっぱり女子だから注目されるのね」

「どや顔の所申し訳無いっスけど、多分ウチのASっスねこれ」

「はぁ!? 女より車!?」

「いや~、わかんないもんっすねこりゃぁ」

 

 そう、イタリア製の偵察車両、AS42。アフリカ戦線からウクライナの冬季戦線まで。砂漠と極寒、二つの劣悪な環境にも耐用してしまう名車両である。アメリカ系のこの男子校では珍しいらしい。

 

「なぁ姉ちゃん、AS42近くで見て良いか?」

「あぁ良いぞ! とくとご覧じろぉ」

 

 「「「 Fooooo!! 最高だぜぇっ!!」」」

 

「えぇ……ホントに女より車なのコイツ等」

「まぁそういう人もいるって事で」

 

 側面のタンク収納や車体をしげしげと眺め、造形に興奮する男子がいる事実。アリサとカルパッチョは少し引いている。女子にも、戦車に頬ずりする子がいると他校の噂で聞いているが、直に同族を目にするとこんな感じなのかなぁと思いを馳せた。

 

「何か燃料タンク満タンにしてくれたッスよ姐さん」

「……本当か!? 太っ腹過ぎる」

 

 そんなオマケを貰いつつ、空港を後にする。クリスタル・シティ()()()街の下道を通りながら、左右に並ぶ商店や町並みに圧倒される。

 

「ねぇ、パーティ用品店ですって」

「ウチにもあるだろ」

「ドゥーチェ、ドゥーチェ! メキシコ料理っすよ! あ、チキン!」

「止めろ寄りたくなるだろ! あぁ~、くっそ、寄りたい! ケバブの香りがする!」

 

 学園艦の上はまさに、パスポート無しで来られるアメリカといった様相だった。サンダース大学附属も同じマンモス校であり、設備も充実しているが、"再現度"という意味ではこちらは凄まじいものがある。

 大橋を渡る中でも驚いたのは、“ロングブリッジ”がある事。

 

「学園艦の上を鉄道が走ってる……」

「"クリスタル・シティ"から"ワシントンユニオン・ステーション"までらしいわ」

「いやそこじゃなくって。学校生活で使うのか?」

「使うんじゃ無いっすか?

 こんだけ広けりゃ、車両の無い部活の奴等死ぬっすよ」

 

「「「 確かに 」」」

 

「まぁ今日はそこまで行かないけどね。ここを渡って、イーストパーク()()()中州は越えたすぐの所だって。そこが待ち合わせ場所」

「それって、リアルだとどの当たりなんですか隊長」

「"マン○リン・オリエンタル"よ」

「ホテルじゃないですか!」

「私達のね。男子生徒は使用厳禁、来賓用で丸々使ってるそうよ。

 ホテルマンとか、進路希望がその方面の子達の実地研修も兼ねてるみたいだけど」

 

 街全体が社会勉強も兼ねているのか。規模が違いすぎて、想像がし辛いが。だんだん、アンチョビの顔が青ざめていくのをケイは横目で気づく。

 

「Hey、千代美。浮かない顔ね」

「うっぷ、何か学園艦どころじゃない規模で胃もたれが」

「そういう時は何か食べて忘れましょ。

 イタリアの美食とは違った趣を楽しむの」

 

 ケイの言葉に脳裏に浮かんでくるのは、ハンバーガー、フライドポテトにコーラ。ケバブ、ベーコンエッグ、フライドチキン。

 

「か、カロリー」

「さすがに失礼じゃないそれぇ。ヘルシーなのもあるわよ?」

「ポテトはじゃがいも、じゃがいもは野菜だからヘルシー?」

「……」

「何か言え! 何とか行ってみろ!? 明後日の方向を見るな!」

 

 

 ※※※

 

 

「うっひゃ~」

「そのまんま"マンダ○ン・オリエンタル"じゃないのよ」

「な、なぁカルパッチョ。私達が入っても良いんだろうか」

「大丈夫でしょう。あちらからの招待なんですから」

「さっきスマホで調べたんだ。本当の"マ○ダリンオリエンタル ワシントン"は一泊約七万円なんだって……一泊だぞ?」

「それを言っちゃったら"ア○ン東京"のスイートは三十万ですよ?」

「それはスイートだろ……うぅ。凄いな金持ちの学校って」

 

 受付を済ませながらもなお色々と圧倒されているアンツィオ高校と、事も無げなサンダース大学附属の面々に、ボーイの少年が近づいてくる。まだ中学生に上がりたてといった年頃だろうか。彼女たちとほぼ同じか少し小さいくらいの子。

 

「お部屋までご案内いたします、こちらへどうぞ」

「あら、可愛いボーイ君ね♪」

「……ぅ」

「真っ赤っか~、可愛い~♪」

 

 男子の筈だが、見ようと思えば女子にも見える男の子。ケイは思わずからかいたくなったのか、頬を指で「うりうり」と突っつき始めた。ボーイの少年にとっても、歳が近いが年上の女の子というのは初めてだったのだろうか。林檎のように頬が赤くなっている。ホテルボーイとしてはまだ未熟。学生なのだから当然なのだが。

 

「あぁ~あ、隊長ったらまた一人、男子の"○癖"を歪ませちゃって」

「あの様子じゃ、今後"洋○ノ"じゃ無きゃダメになるな」

「……ナオミさん、ここにいるのはほぼ女子ですが流石にそれは」

「……悪い」

 

 カルパッチョの"圧"にナオミは即座に詫びた。目がやばかった。軽い気持ちだったのだが、アンツィオの統帥には刺激が強いらしい。

 ましてや今アンチョビは"金持ち校"らしさのオンパレードに食傷気味になっているらしい。

 

 大丈夫だろうか ――

 

         ―― そんな心配は無用だった。

 

 

 ホテルの食事はともかく、翌日の事である。

 

 

「男子共ォッ!! 釜を見せろ! 何だこのピッツァはああぁああああぁあアアァ!!? 」

 

 

「アンチョビ、落ち着いて! ねっ? ねぇってば!」

 

 

 と、キャピタルハウスからホワイトハウスまで、ワシントン全体に届くのではと、男子女子全員が思ってしまうほど、強烈なアンチョビの怒号が響き渡る事になった。

 

 

 

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