ガールズ&パンツァー ~ 大洗は大砲鳥の夢を見るか ~   作:松ノ木ほまれ

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北と大洗の幕間

 

 

  ~ 【クレムリン赤宮学園】・一室にて ~

 

 

「栄光ある『プラウダ学園』の諸君。そして、素晴らしき同志達。

 本日はお集まりいただき感謝する」

 

 ルネサンス風に建造された建造物の中で今、男女が一同に会していた。彼らの前に立っているのは、プラウダ学園戦車道チームのリーダー・『カチューシャ』と、従者の如く従う副隊長『ノンナ』。

 そして、クレムリン赤宮学園、軍の長を務める男子生徒の三名だった。

 シロクマを思わせるような巨躯を誇る男だった。背丈は肩車をしたカチューシャと並んで差し支えない程の大きさだ。肩章は金地に銀の五角星。

 

 "元帥"である。

 

「そして同志カチューシャ、今回は我が校の手を取ってくれた事を、この場をもってお礼申し上げたい」

「ふふん! このカチューシャ様がついたからには勝ったも同然。大船に乗った気持ちになっていいわよ!」

 

 そしてそんな元帥の恭しい対応ですっかり気分が良くなっているのが、女子側の代表者たるカチューシャだった。天狗になっていないかと、一部を除く女子一同は気が気でない。男子達がどんな気持ちでその言葉を聞いているか、想像した事は無いだろう。

 まぁ、男子と共同なぞ今回が初だから想像のしようがないのだが。

 

「ふふ、お手柔らかに。さて、男子の諸君は既に承知している内容であるが、女子の皆々にとっては初めてになるであろう、今回からの共同試合について話したい」

 

 一気に、部屋の空気が引き締まる。

 カチューシャ達にとっても、重要な部分に触れなければ鳴らないと男子側から申し出があって、招待を受けてやって来た。

 

 "元帥"が指を鳴らすと、通常上衣とは違う、戦闘服を着込んだ,マネキンが壇上へ担ぎ込まれる。『ルバシカ戦闘服』と呼ばれている軍服だった。上衣にズボン、マガジンポーチにガスマスクバッグ(雑嚢代わり)。

 WW2期のソ連軍が使用していた一般的なモノ。唯一違和感があるとすれば、襟元に二㎝程度の小さなボタンに似たランプが付いている事だろう。

 

「女子の皆にも、後日諸君等のジャケットと同じデザインの上衣が配布されると思うが、これが私達男子が試合中に着る軍服だ。見た目は通常の軍服と殆ど変わらない」

「襟元に変なボタンがあるけど……ちかちかしてるし」

「そう。そこを説明しようと思ってね、同志カチューシャ」

 

 "元帥"はそう言って、生徒の襟元のボタンを指さす。

 

 今は黄緑色に光っている。

 

「これは"生存"。つまりは試合を行える状態である事を示す。

 襟元のボタンの色によって、生死判定が行われる訳だ。これは【グローバルルール】によって定められたもので、他校の制服も基本的に仕様は同じである」

 

 そして今度は、別途用意していた"戦闘服上衣だけ"の状態、マネキンに着せたサンプルを壇上へ用意させる。それは所々に弾痕らしき跡が出来上がっていて ――

 

 襟元のボタンはオレンジ色だった。

 

「このオレンジは"負傷"。軽傷・重傷状態の事だ。

 致命傷には到らないが、戦闘行動には支障が出る程度」

 

 そして……もう一つのマネキン。変色甚だしく、所々が破れかけていた。

 

 襟元のボタンは、真っ赤である。

 

「これが、まぁ順番から想像出来るように"死亡"を意味する。

 諸君等の戦車道で言えば白旗が出ている状態の事だ」

 

 ここで、プラウダ高校の生徒から、はいと手を挙げる。ニーナだった。

 

「質問かな、同志ニーナ」

「あの……その生死の基準ってどの程度なんだす……でしょうか」

「―― 言い質問だね。戦車道でも事故による負傷や死亡事故はあるかも知れないが、無論私達の"戦道"もその限りでは無い。可能な限り死亡事故は減らすため、致命傷になり得ると、衣服に搭載されているセンサーが判断した場合自動的に作動する」

「お腹に当だったりすてもですか?」

「そうだな、そこについて個人差があるのが注意点だな」

 

 そう言うと、"元帥"は注意事項として補足した。

 

「たまに、どれだけ傷を負おうと死亡判定にならず動き続ける化け物がいる。

 【旭日学園】には、至近距離で砲弾が直撃しようが、肋骨を骨折しようが、裂傷を負おうが、激痛の中動き続ける生徒が去年出た」

「それ、人間なの?」

 

 思わずカチューシャは聞いてしまった。

 

「本人の肉体を流れる生体電気も信号として読み取って"死亡判定"を下すんだ。

 赤ランプが付くまでは脱落にはならない」

「そんなバグった奴とは絶対当たりたくないわね……」

 

 そのひと言に、男子達はどう返答したモノかと響めき始める。

 

「―― えっ? いるの? まだそんなゾンビみたいな奴いるの?」

「ゾンビの方がまだ可愛いな、この場合」

 

 "元帥"は、すこしげんなりした表情をする。方々の男子生徒から、ある特定の男子であろう男への恨み節が聞こえてくる。

 

 

「高射砲で一試合に五回撃墜しても、死亡判定にならず出撃してくるし」

「――っ!????」

 

 

「撃墜したのに、10㎞以上離れた自陣に逃げ切って出撃してくるし」

「――っ!????」

 

 

「早いモデルでも400㎞/hしか出ないドン亀でウチの戦闘機エース落とすし」

「――っ!????」

 

 

「入院したって聞いて喜び勇んで空白地帯へ進軍したら何故か出撃して来たし」

「――っ!????」

 

 

「いるんだよ、同志カチューシャ、そんなバグっている野郎が」

 

「ちょ、ちょっと同志『ジューコフ』! 何よその死んだ魚のような目は!

 怪獣映画じゃ無いんだからそんなバケモンいるわけ無いでしょ! 現実に!」

 

 "元帥"こと、『ゲオルギー・ジューコフ』はカチューシャの返答に、言葉を濁して視線を逸らした。現実を認めたく無い、見たくないと言いたげに。

 

 

「 誰でもイイから嘘って言いなさいよぉ 」

 

 

  ※※※※※※※※※※

 

 

  ~ 大洗市にて ~

 

 

「なんでこんな大所帯になったの?」

 

 武部沙織は、この数日……いや、一週間近くをかけて波状攻撃のようび浴びせられる"情報の奔流"に呑まれそうになっていた。大洗の港に、現状四隻の学園艦が停泊している。そして北方の那珂湊に二隻。

 この大洗市は今、戦車道の試合が行われている訳でも無いのにお祭りの様相を呈している。多国籍軍が停留する一大都市が如く。

 『大洗女子学園』(多国籍)

 『聖グロリアーナ女学院』(英)

 『グローリー・オブ・オナー学院』(英)

 『BC自由学園』(仏)

 『楯無高校』(一応日)

 『CNR・ロレーヌ学院』(仏)

 

 六つの学園が一同に会していた。

 

「あの二校にも、英系二校が声をかけていたみたいで」

「……しかもフランス系でしょ。すでそのBC自由学園もくっついて来てるし」

「凄い事になっちゃいました、楯無高校の一両も加えるなら既に"日英仏同盟"状態ですから」

「何、男子の試合ってこの規模でやり合わなきゃいけないの」

「どうなんでしょう。なんだか別の意味で不安になってきました」

 

 商店街を、数多くの生徒が出歩いている。聖グロリアーナの生徒も見える。BC自由学園の子達も見える。そして楯無高校の面々が物珍しそうに見て回っていた。そして見慣れぬ姿の代表である男子達。

 WW2期のイギリスとフランス。茶と緑の軍服が混じり合って歩いている。

 方々で、男女が談笑していたりする光景も見られ、思ったより心配の必要は無さそうにも思えるが油断は出来ない。互いに互いへの免疫が少ない状態である事には変わりが無いのだ。

 このお祭りに近い雰囲気に流される者が出ないよう努めなければならない。今の自分達は次代の生徒会役員なのだから。

 

「……って言いつつ、その『ギャレット・シャランテーズ(フランスのサブレ)』何個目?

 太っちゃうよゆかりん」

「あはは~、あの【CNR・ロレーヌ学院】の人達の腕前、凄くって」

 

 お祭りと称した所以を語るに、今まさに大洗港で繰り広げられている"交流会"の事に触れなければならない。

 一連の、ドイツ風学校の男子と、英国紳士風の男子。彼らと会話する一日が終わりそうになった頃。どこからともなく、学園艦が二隻も現れたのである。少なくとも大洗女子学園の側にはそう思える程の出来事だった。

 一夜にして、大洗市内が国際色豊かな交流会の会場になってしまったのも、理解が追いつかないというのが今の心境である。楽しいけども。

 

 ―― 同声相応じ、同気相求む

 

   ―― "かの者達"をよく思わぬ者同士、話は合うようでしてね

 

 そう、英系の男子校がトップと思しき男、アラン・ブルックが言っていた。WW2開戦前夜の、英仏連合軍に参画する外人部隊のような立ち位置になってしまった気がする。いつの間にか。

 五十鈴華は、聖グロリアーナからさしのべられた手を取る事に決めていた。

 数刻前にやって来た、"雨流いずる"なる男子生徒の差し金であろう事は薄々解っている。初めからこちら側に大洗女子学園をつかせる腹だったのだ。しかし自分にとって何のメリットも無いのに、何故こういう回りくどい真似をしたのだろう。

 

「大洗を相手にしたいのか、それとも逆なのかわからない人でした」

「ワイルド系のイケメンだったのになぁ~」

 

 優香里は、あの格納庫前で浴びせられた一種の"波動"のようなものの感覚を思い出す度に鳥肌が立つ。アレは、一種の畏怖だとか、プレッシャーといった類いのものだろう。あまりにも異質だった。

 優香里はWW1~2期に始まる戦車史の知識が中心であり、他の部分は流石に専門の方々と比べる自信もない。今はそれこそおさらいしている途中でもあるのだ

 そんな彼女ですら、漫画だとかで見るような、豪傑が現れて「げぇっ!○○!」となるようなシーンを思い浮かべてしまった。もしあの場面が実際に起こるのだとしたら、先のあの"波動"になるのだろうと。

 

「あの人は、どんな修羅場を潜ってきたんでしょう。身震いしてしまいましたし」

「うん。何か色々圧倒的な人だったよね」

「あの鶴姫さんが、見た事の無い顔になるのもわかるような気がします」

「怖いけどメチャクチャカッコイイ人だったもん。しずかちゃんもあんな顔なるよ」

「えぇ、とても凄い顔

     ……あれ、武部殿?

        何か感想が少しズレてません?」

 

 優香里は思わず隣でくねっている沙織を見やる。どうも見る視点が違うから、出てくる感想も違ってかみ合わない。

 

「えぇ~? ズレてないよ?

 あの人、一瞬超~怖かったけど、その時もこう、何て言うの?

 ほんのりと暖かい部分はそのままな感じ、かなぁ」

「ざっくりしすぎてピンとこないのですが」

「フィーリングだから言葉にするの難しいの!

 根っこが"優しい人"なのは変わってないって事。

 だからしずかちゃんも『恋してる』顔してたじゃん!」

 

 ―― 今、何と?

 

「……武部殿、もう一回」

「ん? だからしずかちゃん、あの雨流さんの事好きでしょ?」

「 ファッ!?」

 

 何をどう見たらそういう結論に到るのだ!?

 あの時の鶴姫しずかは、優香里からして見れば、アレだ。

 

 平○耕太作品の主人公や悪役がするような"イイ笑顔"だった。

 

 『よろしい、ならば戦争だ』とまさに言い出しそうな、火花バチバチで○し合い一歩手前というか、何と言うか。巻き込まれたらミンチになってしまうような感じだったでは無いか。

 

「う~む、"ゆかりんヴィジョン"ではそう見えちゃったかぁ」

「それ以外の何が見えたんですか!?」

「"Pと○K"とか、"うるわしの○の月"とかぁ」

 

 武部沙織という人物には、アレが少女漫画の一幕に写るらしい。

 

「武部殿、私と一緒に眼科行きましょう、おかしいですよ絶対」

「あ、ゆかりん信用してないなぁ! この"沙織アイ"を!」

 

 頬を膨らませている沙織には内心、申し訳無いとは思っている。本当に。

 でもあの顔は絶対違うと思う。絶好の獲物を見つけた捕食者の顔にしか優香里には見えなかったのだから。

 何かしら魔性に魅入られた要素は? と聞かれればそれも否定出来なかった。その部分を捕らえて拡大解釈したら、武部沙織が見たビジョンになるのだろう、きっと。

 

 やっぱり理解は難しい。

 

 そんな事を考えていた時の事である。

 

「まぁ、やっぱり似合うわ安藤!」

「"馬子にも衣装"とはよく出来た言葉だな」

「ま、馬子って何だよ馬子って!」

 

 人々の喧噪の中から、お馴染みの噛みつき合いが混じった声が聞こえた。

 BC自由学園の面々だ、『マリー』と、『押田』と『安藤』。"ベル○ら"のような組み合わせな3人組。なにやら安藤を着せ替え人形にしているかのような物言いである。すいぃ~と引き寄せられていく沙織を留められなかった。

 建物の影から、こそりと声のした方向を見やる。

 予想通り、安藤が弄ばれていた。

 白のオーバーシャツに、明るい茶のプリーツスカート、スカートと色を合わせてあるパンプスと、肩がけで羽織ったカーディガン。

 

 あの面子の中で最も男勝りで荒削りだった安藤が、"女の子"をやっている。

 

 武部沙織は、いてもたってもいられず飛び出していた。

 

「可愛いぃ~っ!!」

 

「―― っ!? げぇっ! 大洗ぃ!?」

 

「あら、大洗の広報さん! 貴女もわかる?」

「わかる~!!」

 

 安藤が可愛らしい格好をする事を受け入れている事に舞い上がっているマリー。

 そして"恋の予感"を二度に渡って目にしてしまって、別の意味でテンションだだ上がりの沙織。2人が合流してしまった事で、相乗効果のスパイラル。あれも可愛い、これも可愛い、もっとデコるか、盛るか。

 

  < ―― 助けてください >

 

 そうアイコンタクトを送ってくる安藤であったが。

 

  << 無理です、巻き込まないでください >>

 

 優香里と押田。2人は無慈悲にも目線で撥ね付けた。

 

「マリーさん、安藤さんがこういう格好なんて、何かあったの?」

「……ふふふ、安藤ったら、気になる人が出来たみたいなのよ」

「違います! 私の手で何時か絶対撃墜してやるって……」

 

「ほらぁ!」

「きゃーっ! 狙い撃ち宣言なんて大胆~!」

「違う! 違うぞ大洗の広報! 断じて違う!!」

 

 それを遠巻きに見ていた優香里は、ひと言押田に詫びた。

 

「我が校の"恋愛脳"が、なんかすみません」

「いやいや、遅かれ早かれあぁなってただろう。

 安藤の奴、あの一件以来……寝ても覚めてもあの"男子生徒"の事ばっかりだ」

「……え? あ、そう言えば」

「我々もあの場にいたよ。あの【大砲鳥】に、安藤も襲われた」

 

 次いで出てきた言葉に、優香里の体温は下がった。

 

「それから安藤は【大砲鳥】にぞっこんだ。

 打ち落としてやるって言ってる癖して、笑ってる事に気づいて無い」

 

 今日の出来事を、伝えてやるべきだろうか。

 

「吊り橋効果って奴だろうが、マリー様は『安藤に春が来た』と思っておられる」

 

 鶴姫しずかと安藤、いつの間にか別の意味で"敵"になりかけているらしい。

 

 

 

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