ガールズ&パンツァー ~ 大洗は大砲鳥の夢を見るか ~ 作:松ノ木ほまれ
~ 東京都 霞ヶ関 ~
「こんな話納得出来る筈ないだろう!」
中央省庁の居並ぶ東京都内が一角、霞ヶ関。鉄と野心に塗れる黒い森の片隅で、独りの男が声を荒げていた。
名を、『辻廉太』と言う。
学園艦教育局の局長を務め、文科省に勤める役人の一人である。そんな彼が、電話の先にいる相手に苛立ちを露わにしていた。今推し進められている、女子戦車道のプロリーグ設置に、世界大会の誘致などやることは山積みで、ほんの少し前に"手痛い目"にあわされたためか憔悴すら混じっているのが彼の現状。
そんな中入って来た
『局長、そうは言いますが納得して戴かねば』
「あのな、"上"の意向というものがあるのだよ。世界大会の誘致にあたって、この決定はどう考えても逆風だ!」
そう言って、辻は卓上の書面を殴りつけながら叫ぶ。その書面に記されている文言は、今の彼の立場上容認しようとは到底思えない代物だった。何が腹が立つのかと言えば、この文書が既に、省内の他政策局・振興局らの局長が連名も見える上、彼が無視出来ない、
蚊帳の外で、勝手に事が進められているのだからたまったものではない。
しかも既に拒絶する訳にはいかない段階まで来て、ようやく話がやってきた。これは看過しがたい越権、かつ省庁の縦割り構造が意味も無視した侮辱以外の何者でもないだろう。
『……昔を思い出したらどうです、"ハイニ先輩"』
「止めろ、貴様にそう呼ばれるだけで虫ずが走る。
それに直に後輩だった時期は無いだろうが」
『まぁ、それもそうですな』
電話口の男性の声は、凜と張った好青年の用でありながら、まるでマシーンと会話しているかの如く怜悧で、非道く冷たく重い印象が漂っている。カミソリが受話器から飛び出してくるかのような錯覚すらあった。
『しかし、逆風とは手厳しい。学園艦統廃合を推し進めている貴方の事だ。渡りに船と思うべきではないですかな?』
「これのどこが良い話なのか理解しかねるよ。統廃合というのは、太きを残し、病巣を取り除く事を言う。採算の取れない小規模な所を潰して……」
『採算の取れる大規模校へ分散させるのでしょう?
それをもっと"手広く"やろうというのです、むしろ好都合でしょうに』
何が好都合なものか。辻はイライラを隠す事無く、電話口の無礼者へぶつける。
「その統廃合を、何故、
学園艦における子供達への教育政策を考える事に関して、いくつかの学校との衝突や、幾何かのトラブルは確かにあった。怒りだって買ったし、恨みもぶつけられる事をしてきた自覚が確かにある。
個人的な心情を言うなれば、以前の"大洗の解体"だって心苦しかったのは本当だ。まだ口約束であった"撤回条件"を見事に果たして見せた少女達の奮闘ぶりには舌を巻いたのだって。それを反故にしたのはこちらである、しかしそれが自分の仕事だ。職務の遂行という意味ではやらねばならなかった。上の決定で悪逆無道な大人と思われようが。
とはいえこればっかりは、いかに上の決定とは言えもの申さずにはいられない内容だ。
『"男子校"とて、統廃合の必要性はいずれ来る問題だったでしょう』
「それはそれ、これはこれだ。女子校の統廃合と、男子校の"ソレ"を一緒くたにするという事が、どういう問題を招くか……上のお歴々もわからない筈が無い」
学園艦に女学園があるのなら、男子校だって存在する。いたってシンプルな話だ。
共学の学園艦だって存在している。その全体数も増え、規模の問題から動かしているだけで赤字になるような中小規模もあれば、大企業も真っ青な経済効果を生む学園もある。
ただ無闇に無くしますというだけでは、統廃合は成り立たない。実際に通っている生徒、学園の運営に携わる各種企業や住人達。彼らの移住先だったり、仕事の斡旋などやる事は多岐にわたるというのに。その規模を大きくすればどれ程の煩雑な手続きが必要になる事か。
『"先輩"。貴方が思っている上とは、
「……どういう意味だ?」
電話口の先から響く声の、トーンが下がった。
喉口に匕首を突きつけられたような悪寒が、前進をひた走る。
『貴方とて【ライヒ】にいた身だ、
「――ッ!?」
『何、
「そ、それは――」
全身の毛穴から魂が吹き出てくるような感覚に陥った。気分は最悪だ。熱狂と、狂気と、鉄と硝煙の香り。全てが入り交じって渦を巻いていたあの頃。『混沌』という言葉がまさしく全てを包括し、かつてこの名前すら失っていた時期を思い出す。
身震いがする。自分は幸いな事に"ふるいからこぼれ落ちた"から、こうしていられる。
電話口の向こうにいる声は、まだその"ふるい"の中にいる人間だ。混沌の坩堝が中心にいるから、まだ落ち着いていられるのだろうが。
『貴方も、かく言う僕も【被験体】だ』
「その言い方はするな、
『それは先輩としてのアドバイスですか』
「忠告だ。特に貴様にはな」
『……痛み入ります』
欠片ほどもそう思っていないくせに。辻はそう思いつつも口にはしなかった。
想像したくない所まで、既に事態は進められている。頭を抱えたくなる事態だ、このまま事が進んでいけば、『男子』と『女子』だとか、『戦車道』といった枠組みすら崩壊してない交ぜになってしまう。
それに――自分達がされてきた事。それが全生徒にまで波及する。
想像するだけで、この世の地獄の顕現と評するにあまりある。この狭い日本という国の中で、【WW2】を繰り返せと言われているに等しい。
<――ッー、――ッー>
電話は既に切れている。脳の中を、かつての思い出が走馬燈のように写っては消え、写っては消えを繰り返す。アレが、男女問わず今の子供達にやって来ると、電話口の奴が口にした。気分は最悪だ。
「――『野獣』めが。今世代は【最悪】と聞いていたが本当だったか」
卒業後の同窓生の間で飛び交っていた、一つの噂。
信じたくなかったが、
それと同時に、こうして社会人となって、学園時代の頃から脱したと思っていてもなお、縛られているのだと思い知らされる。
(私も未だ、
アイツに言い返せる気がまったくしないのは、私自身のせいなのか?
それとも私の【かつて】が、【アイツ】に怯えているからなのか……)
てのひらに眼をくれて、そんな事を考える。自らに流れている血の色を見て、血が赤い事にすら色々と考えを巡らせてしまう。自らの体内を流れている赤い水。それは本当に自分のものなのかとも。
馬鹿げている。自分はここにただ一人。体内のものは人工の詰め物や代替物を除いてすべからく、自分のもの。しかし今、それにすら自信を持つ事が出来ない。
(この怯えを、女子も持つ事になると?)
怖気がする。当時は、こんな感情を持つことなど無かった。自分に与えられた役割、湧いてくる使命感や陶酔感。為してきたこと。その一つとっても疑念も抱かず、ただただ邁進していた学生時代。今となっては、その全てが作り物に思えている。
ただこの感触を共有出来る者は少ない。
誰しもが、あの当時は自然な事だったと受け入れて、過ぎたことと思って生きているのだから。誇りに思っている者もいれば、思い出したく無い過去を抱える者もいた。
自分は後者である。
―― 己の血の中にいる
当時を後悔する者達は、こぞってこう言う。数年、十数年と経てもなお、脳裏から臓腑に至るまで、頻度は落ちているが衝動に駆られる事がある。
< 全うせよ 全うせよ 全うせよ >
「……もう止めてくれ」
そう懇願したところで、この声は止んでくれない。
「お願いだ、
※※※※※※※※※※
~ 大洗女子学園にて ~
気持ちの良い風が吹いている。
頬を撫でる海風の温度と、天から降り注ぐ陽光の温もり。何と贅沢なサンドイッチなんだろう。そんな事を考えながら、西住みほは水平線へ視線を向けていた。
思えば転校の前から今に至るまで、波状攻撃が如く艱難が降りかかってきたと思う。大洗女子学園ひいては自分自身に。それらを乗り越えて、ようやくの一段落を経た。ここまで平穏な一日は、本当に久方ぶりである。
天を見上げながら、ミルク多めのカフェオレを一口。
そしてそれに続くマカロン ―― 至福の一時だ。頬が緩んでしまう。
目線の先に、鳥の一段が見える。海鳥だろうか、それとも海沿いまで得物を探しに来た類か。点のような大きさ故にそれはまだわからない。しかし綺麗に隊列を組んで飛ぶ様は、それこそ
(あれ、でも鳥の場合は
なんて事を考えてしまうのは、やはり身についた習慣というものなのだろう。戦車道を歩む者として、ただ戦車だけを知るだけでは無く、当時戦車とは別の場所で轡を並べた乗り物達も自然と頭に入れていた。
特にみほにとって馴染みの深いドイツ戦車達とは切っても切り離せない、ドイツ空軍の戦闘機や爆撃機。かのグデーリアンが展開した【電撃戦】には、彼らの攻撃力と機動力も入っているのだから。
だがそれは実際の戦場での話である。
自分達が歩むのはあくまで【戦車道】、知識として頭に入れておけば良い範疇。全くの無関係では無い分野ではあるものの、競技に関わってくることが無い範囲。少なくとも西住みほにとってはそうだった。
それこそ【Bf110】や【Hs129】とかは頭に入っている。他国製なら【Il-2】とか、【B-17】とか。戦車道絡みでは無い分野でもすっと頭に浮かんでくるものだ。意外な事に。
(優香里さんに『攻撃機(爆撃機)ばっかりじゃないですか』って言われそう……)
映画とか漫画でも、航空機の花形は【戦闘機】! と描写するモノが圧倒的大多数だ。しかしみほにとって頭に入って来やすかったのはやはり、戦闘機よりも攻撃・爆撃機の方だった。
「戦車の"天敵"だもん」
戦車にとって死角となる上空から、上部装甲を貫通しうる攻撃を行う戦車の天敵。いかに装甲の厚い戦車と言っても、前方や斜め前からの攻撃には強くとも、上部や後方の装甲は薄く作られている。そこへ悠々と回り込んできて攻撃してくる"航空機"はそれこそ戦車にとっては、相対したくない相手とも言える。
戦車道に限って言えばそんな事は起こりえないので、考える必要は無いのだが。それでも戦車史を学ぶにあたって避けては通れない課題である。
そんな事を考える中で、みほはふと"違和感"を覚えた。
「へ? あれって」
鳥の一群が向こうに見えた影。有機的な動きでは無い
それは、やはり鳥では無かった。
無機物――それも航空機である。ドイツ兵器群の資料を見ていた中で、見た事がある機体だったから。
「やっぱり、【Fw189】だ……なんであんな所を?
趣味で乗っている人がいるのかなぁ」
特徴的な外観だったからわかった。あれが飛行機と聞いて連想する形状ならきっと見逃していたかもしれない。かつてのソ連からは「空飛ぶ額縁」とも呼ばれた、ロの字を連想する形をしているドイツの短距離偵察機だ。ただそんなモノが何故、大洗女子学園の近隣を飛んでいたのかひっかかるが、愛好家の趣味とも言えるので、今はそう考えるほか無いと思った。
翌日、みほのその懸念は悪い形で当たってしまう。
―― それは、翌日の生徒会室での事だ
「一体、何なんでしょう」
「わっかんないなぁ~」
生徒会室の大机を挟んで、元生徒会長・角谷杏と西住みほが、机に広がる写真を並べて頭を抱えていた。二人とも口調は穏やかだったが、眼が笑っていない。視線の先に並ぶ写真には、どれも航空機が小さく写っている。
「昨日、西住ちゃんが見たのがコレ?」
「はい、Fw189だと重います」
「あたし等、戦車はやっとこ覚えたけど、こっちはてんでだからねぇ」
思った以上に事態が深刻だった。みほは警戒というよりも困惑が心情として勝っており、収集を付けようと心中躍起になる。かく言う目の前の元生徒会長とて、意図を飲み込もうと写真を見て思案している様子だ。
「この、ガ○ダムに出てきそうな奴って、西住ちゃんわかる?」
「……えぇっと、待ってください」
杏の手から渡された写真を見て、みほはどこかで見た事がある機体だと思った。【東部戦線】の記録の中にあった気がする。こちらも双発機で、大きな翼と高翼単葉。確か、ドイツ製のものでは無い。
「多分、【MDR-6】……だったと思います、ソ連製の」
「ソ連かぁ。昨日はこれ、今日は西住ちゃんのソレと来たか、参ったね」
「連日なんですか?」
「この間の、大学選抜チームとの試合が終わって、二週間たったくらいからかな。
毎日じゃないけど、頻度は上がってきてる」
そう言って、杏は「購買に海外のお菓子とか、増えてきたよねぇ」と急に話を逸らした。しかしそれは話を逸らしている訳で無く、地続きになっているのだと思う。意味も無くこういう事を言う人では無いからだ。
杏は、ソ連の飛行機とみほが判断した写真を見やる。『プラウダ高校』も、こういう機体を有しているとは聞いていない。それにあのカチューシャ隊長が、今更こういう偵察機を寄越して学園の様子を探る事をするとも思えない。しかし思い至る場所が無いのも事実だ。
「この間の勝利から、大洗女子への注目具合が
「……はい」
目の光りが、爛々としているのもわかった。ナニカが、大洗女子学園にまた起ころうとしているのだと。
「インタビューも受けて、練習試合の申込も増え、そして」
「学園艦への支援なども、いろいろな所から」
「そう、
杏は含みを込めている。つまり、大洗女子学園の名前が高まって、廃校の危機を二度にわたってしのぎきった今やって来た、新たな脅威。それはこれまでとは『
大洗に目を付けた方々から手が伸ばされている。
どの手を取る? それとも振り払う?
「なんだか、山中鹿之助みたいですね」
「『七難八苦を与えたまえ~っ!!』って? もうこりごりだよ」
再び写真に眼を落とす。みほが見たのはドイツ機、杏が見せたのはソ連機。なら他のもある筈だ。こういう時、秋山女史や松本女史(エルヴィン)がこの場にいればとも思う。
みほにとっては、ある程度の知識はあるが門外漢に等しい分野なのは間違い無く、きっと彼女らの方がパッと思い当たる可能性が高い。二人は話し合い、両名を呼んでくる事にした。
共通して抱えている、嫌な予感が外れてくれる事を祈りながら。
※※※※※※※※※※
~ 某所・学園艦艦内にて ~
「これがそうか」
「ハッ、今年の夏大会優勝校の面々です」
ゴシック様式を思わせながら、暗い雰囲気の漂う一室。
部屋の看板には【学園保安本部】と書かれている。その一角で、一人の男が卓上の報告書へ目を落としながら報告を聞いていた。報告書を持ってきた青年の顔は、緊張からか引きつっている。
男は張り詰めた空気を解くことはせず。報告書に添付されている写真と文言へ交互に目をやりながら、丁寧に一枚ずつめくっていく。その姿からは、黄金のような輝きと同時に、南極の氷以下の冷たさが同時に放たれているように見え、報告する青年はみるみるうちに胃が縮み上がるのを感じていた。
「……正直、侮っていたな」
一枚一枚、ウィンドウショッピングを楽しむかのように、値踏みをしているかのようだった。それでいて、写真に写っている者達をみやりながら、そういう曲を奏でようか考えている音楽家のようにも見える。
しかし、声音も、眼に宿る光も、何もかもが非道く怜悧であった。地獄の奥底・コキュートスで罪人を噛む魔王の如く。
「我々のような"本気"の無い、戦車だけの
男が見ていたのは、女子達が夏に繰り広げた【全国戦車道大会】の模様、そしてその優勝校が己の尊厳を賭けて戦った【対大学生戦】の様子であった。
端から見れば、女生徒へ興味を示す男子、とも見えてしまう構図だが、この男にはそんな可愛げのある感情が備わっているように見えない。
「特に、この"西住姉妹"は素晴らしい」
しかし、今日に限ってこの悪魔のような男の口から、他者を褒める言葉が出てくるとは。まっこと奇怪な光景に、不可思議な気分に苛まれる。
「米英ソの色濃い各校にも、目を見張るべき
が、まずはこの二人のいる所からか」
そう言って、男は【黒森峰女学園】と【大洗女子学園】の項に目を移した。裁定するかの如き手つきで。まるで目次を眺めるように業績を見、試合の様子を映した写真を、それこそ自分が
「『先輩』はやはり愚鈍だったな。潰すのでは無く取り込めば良いのだ。
その方が余程効率的に統廃合が進められるだろうに、体面にこだわりすぎる」
今時男子校や女子校が"共学化"する事も珍しい事ではあるまい。そう男は続けた。これは
【女を護る騎士】になっただけで、いかほど
「お言葉ですが、その西住姉妹は、我が校の【
「そこはやり方次第だな、妹は難しかろうが……姉は周囲を取り込めば良いか」
この部屋の主にとって、"女"は【トロフィー】か【追加効果アイテム】か何かなのだろうか。逸材と口では褒めてはいるが、眼は全く人間を見る眼をしていない。価値の高い低い、性能の善し悪し、それらでしか人間を見る事が無い人物のようにも見える。
ごくり、と報告していた青年は息を呑む。
極めて厄介な人物に目を付けられたものだと、内心【戦車道履修者の女子】に同情しながら。
「……『オーレンドルフ』を此処へ」
「―― 彼は
「いいんだ、彼をここへ呼んでくれ」
内心首をかしげる。そうは思いつつも従わない訳にはいかず、外の秘書官へその人物を内線で呼ぶように告げに行く。男の発言は、手元にある資料を見ながら発せられた。根拠はきっとある。何も為しにあべこべな指示をする男ではない。
(
女の監視なんて変態みたいな仕事させやがった癖に……)
と、面と向かって文句を言う訳にもいかない。
ここは男子校だし、自分とて一男児である。万が一女子校と共同試合だのなんだのという運びになったとき、舞い上がってしまうかもしれないという思いは勿論ある。それが兵士、もとい一般生徒ならば尚更だろう。
「不満か? 『ヴァルター』」
「いえ、そのような事は」
「お前の不安は杞憂だ。
奴を呼ぶのは、我が校の生徒が一人、気になる動きをしているからだ」
そう言って男は、先日この学園艦が停泊した際に提出された『外出届』を指さした。停泊していたのは熊本港。港への停泊と、そこでの外出・漫遊はさして珍しいものでは無い。だが態々この男がそういうという事は……
「熊本での休暇で、誰か?」
「"大砲鳥"が動いた」
全身の毛穴が開いたような衝撃が、青年に走る。
「それは本当ですか?」
「そうだ。『ゲンゲンバッハ』に追わせたよ。そうしたら、コレだ」
男が一枚の写真を差し閉めす。一人の青年が、『西住』という表札を掲げた家へ入っていく様子。それがハッキリと写っていた。
「ようやく、"王の尻尾"を掴んだ心持ちだ。
何の前触れも無く、こんな事をする男では無いからな」
厄介な男に目を付けられていたのは、女子だけでは無かったか。男にヴァルターと呼ばれた青年は、またしても内心ため息をつきながら写真をまじまじと眺める。
間違い無い、写真の青年は我が校の『空軍』が誇る【
学園の最高戦力
一人で一個師団に値する
そんな異名を得てもなお驕らず、日々筋トレと牛乳を欠かさない『変人』。
「彼奴はきっと"西住"への交渉でキーになる。眼を話さないようにするよ」
「"筋トレマニア"も気の毒ですね」
「身内に疑われる事をするのが悪い」
そう一言で切って捨てた男に、青年は心の内で零した。
(……あんたは"疑念"の有無関係無しに疑うでしょうに。
『ハイドリヒ』学園保安局局長殿)