ガールズ&パンツァー ~ 大洗は大砲鳥の夢を見るか ~   作:松ノ木ほまれ

5 / 26
第三話

 

 

  ~ 大洗女子学園・生徒会室 ~

 

 

「して、はるばるこの学園艦まで、いかなる御用向きでしょう」

 

 五十鈴華が、対面に座る雨流いずるへそう問うた。軍服と見紛う制服を着る青年は、それに応え鞄から革造りの証書を取り出す。赤い染色と、金の鷲章があしらわれた造りの証書カバー。

 鷲の足下、柏葉の円の中には3本の雷が走っている。【武装親衛隊(SS)】のマークにも似ている雷だった。大本のデザインから"ハーケンクロイツ"を置き換えた意匠となっている。

 

「これが、我が校の『生徒会長(Fuhrer)』からの()()です。

 そして私が正式な使者である信任状がこれに」

 

 ずっしりとした重みのあるソレを、華は受け取った。学校から学校へ送るにしては仰々しさすら感じる作り込み。国から国へとでも言うつもりなのだろうか。半ば呆れ半分な表情を隠せない者が数名出た。

 それを、雨流は意にも介さず、五十鈴華へ視線を向けたままだ。

 親書を開き、眼を通す。最初こそ普通な表情を魅せていた彼女であったが、徐々に表情が険しくなっていくのが、左右に座っている皆にも伝わった。静かに怒っている。後半の何かが逆鱗に触れたのだろう。それも予想していたのか、雨流は表情を変えていない。

 

()()は、この内容をご存じでしたか?」

 

 声のトーンが、一段下がっている。

 華が、いつもより少し荒めに優香里へと親書を押しつけた。杏や柚子、桃がのぞき込んだ後、顔色がやや青くなった事が華の怒りの裏付けである。

 

「いえ。ですが大凡の見当はついております。

 前半は"我が校と組む"事の利点を美辞麗句で並べ立て、後半は実質の恫喝でしょう」

 

 この男は本当に使者か? とみほは内心首をかしげる嵌めになった。信任状まで与えられていながら……いや、この場合問題なのはその親書をしたためたあちら側の生徒会長という事になるのだろう。

 

生徒会長(Meins Fuhrer)は、女生徒そのものを"下"に見ておいでです。

 "戦車道"といった武道も然り。おそらく『降伏せよ』と同義の事は悪意無しで書かれているであろうと」

「"我が総統"、とは。コレを臆面も無く渡す貴方の胆力には感服いたしますが」

「信任状を与えられた手前、これも職務なれば」

 

 何で付いてきてしまったんだろう。と、みほは若干後悔している。胃が痛くなる空気だ。

 しかしわからない。この男は最初から失敗するとわかっていて来たようにも見受けられるからだ。華がこれ以上怒り出さないのは、彼女もそれを悟ったからである。彼の言動に嘘は見受けられない。

 

 ―― 大洗女子学園への降伏勧告

 

 それに最適と思われた人選という訳だ。しかし本人としてはそう思っておらず、不本意ながらその任を受けてやって来た。華の静かな怒気を浴びながら顔色一つ変えないのはそういう事だ。

 

「戦車の道を歩む者への"威嚇"には、()()()()()()だっただけです。

 私とて、武道を嗜む者への恫喝なぞ望まぬ話ですが……ツッ」

 

 そう言った時、男は少し表情をゆがめて、右側頭部を人差し指と中指で抑えた。痛みをこらえる様子だ。

 

「長期間の飛行でお加減が?」

「いえ、男子生徒の一部に()()()の発作です。お気になさらず。

 ともかく、他の者に任せる訳にもいきませんでした」

 

 そう言うと、彼は柚子が入れてくれた茶を一口すする。

 みほはその時、身を乗り出していた。無性に気になったのだ、先ほどの彼の発言が。

 

「あの、『適任』というのはあの【Ju-87G(シュトゥーカ)】の事ですか?」

「……えぇ、貴女も相当お詳しいようですね」

 

 出過ぎた発言かと、すぐさま引っ込みそうになったみほに対して、彼はそう微笑んで返す。眼にまた、複雑そうな感情が宿っているのがわかる。他の女子とはまた違った反応だった。優香里とエルヴィンが、みほに同調したかのように半身を前へと乗り出しているのもわかる。

 

「前置きとして、貴女方は"先日のニュース"はどこまで?」

「現在報道や、現地記者の報じた内容は」

「それならば話が早い。地上部隊が【第1SS装甲師団(LSSAH)】と名乗った事もご存じかと思います」

「「 『忠誠こそ我が名誉』、ですか 」」

「驚いた、説明が省けるのはありがたい」

 

 エルヴィンと秋山優香里の声がハモった。苦虫を噛み潰したような表情をしているのも共通している。みほも、その名前は知っている。

 Leibstandarte SS Adolf Hitler = 武装親衛隊 アドルフ・ヒトラー身辺警護連隊。

 "長いナイフの夜"を初めとするSSの悪名から、敗戦直前までの防戦まで、東西へ奔走した武装親衛隊の師団が一つ。所属していた人物は、それこそ黒森峰女学園時代に頻繁に聞いていた『ミハイル・ヴィットマン』や『クルト・マイヤー』、『ヨアヒム・パイパー』。戦車史の中で何回聞いた事か覚えていない。

 

「そして奇妙な内容でした。指揮官を務めていた生徒は『ディートリヒ』と名乗ったとか」

「えぇ、LSSAHが指揮官、『ヨーゼフ・ディートリヒ』。

 学園内での彼の『通名』です」

()()?」

「ウチだけでは無く、学園に通う男子生徒は例を漏らさず、通名を名乗るんですよ。

 奇妙に思われるでしょうが、入学した頃から一人も漏らさずに」

 

 そう言って、彼はお茶の波間に目線をくれる。笑ってくれとでも言わんばかりのその表情になんと言葉をかければ良いのだろう。それに、出てきた名前にも驚き半分、呆れが半分。『ヨーゼフ・ディートリヒ』はLSSAHの創設期に指揮官を務めていた人物の名前である。

 この大洗女子学園にも偉人の名前をニックネームに使っているチームがいる以上、突っ込みを入れられないのが辛い所だ。

 

「そして、史上の人物の名前を名乗って、女子を襲った?」

「耳が痛い表現ですが、言い返せませんな。私もあの場にいましたから。

 地上部隊にLSSAH、控えに【第8SS騎兵師団(フロリアン・ガイエル)】を控えさせていました」

「その意図は、他校も含めた"女子への威圧"ですか」

「私の任は、合図があったら地表の戦車隊へ向けて()()()()()を敢行する事でしたので、真意までは存じ上げません」

 

「「「 ――――ッ!!? 」」」

 

 つまり、写真の500㎏爆弾は彼のチームが落としたという事になる。

 

「雨流さん、あなたの"名前"は何ですか」

 

 みほが、口を開いた。見当はある程度ついている。胸元の特徴的な十字勲章。戦車史を学ぶ中でも見た、かつて存在していたWW2期ドイツの鉄十字勲章。その一覧の中でも一際異彩を放っていた代物。史上、受勲した人物がたった一人しか存在しなかったもの。

 

「【第2地上攻撃航空団(インメルマン)】が司令」

 

 そう彼が言った。そして、みるみるうちに秋山優香里とエルヴィンの顔から血の気が引いていく。みほと青ざめた彼女ら3名を除いて、他の皆は理由がわからず彼女等の顔と雨流の顔を交互に見やった。

 

「『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』、それが貴方の通名ですか。

 貴方が適任、と言われる訳ですね」

 

 みほはスカートの裾を握りしめる。目の前の彼本人にその意図は無いと言えども、これは明らかに侮辱と恫喝を含んだ降伏勧告だった。

 人間離れしすぎているエピソードが数多い、史上最強の()()()()()

 その名を名乗る男を、『大砲鳥』に乗せて使者とし送ってくる。これ以上のメッセージがあるか? 拒否すれば()()()()()()()()()()、と言いたいのだ。

 彼はさらにもう一口、お茶を口に含む。

 目の色は、哀しげだった。解っていたことだとはいえ、面と向かって避難の目線を浴びるのは堪えるようで、こめかみを指で何度か揉んでいる。

 

「雨流さん、いえ……この場合は『ルーデル』さんとお呼びするべきでしょうか」

「学園の外では()()()()()()のです、雨流で結構」

 

 

 その時の事であった。武部沙織の携帯が鳴ったのである。「あっ、すみません」とひと言言って彼女は席を立ち、部屋の隅へ移動して電話をとった。どうやら構内の級友からのようだった。何度か相打ちを打っていたが、

「えっ? テレビを付けろって? 何で?」

 

 一同へ振り返って、そんな事を言った。大洗女子学園の一同は一様に意味が解せず、一方の雨流は顔を引きつらせた。

 

「――っ!? 遅かった! 奴等やりやがったな!

 ……申し訳ありません。取り乱しまして」

 

 そう、声を荒げた。先ほどまでの紳士が引っ込んで、"急降下爆撃機のパイロット"が前面に出てきた豹変ぶりである。すぐさまそれを収めたが。

 奴等というのが一体どの事を差しているのかがわからない。しかし、テレビを付ければきっとその理由はわかるのだ。杏が合図して、沙織が生徒会室の中に設置していたテレビの電源を入れる。

 雨流は両手で顔を覆った。

 

 

  ―― パシャシャ!

 

 

 カメラのフラッシュがたかれている音が聞こえる。画面に映っていたのは、『黒森峰女学園』の校舎である。間違い無い。見間違うはずも無い。みほにとってはかつての母校であった場所だ。

 『ケーニヒグレッツ行進曲』が高らかに演奏されている。しかし様子がおかしい。学園内に、旗の列が出来ていた。

 黒森峰女学園の学園旗と一緒に、見慣れない旗……というよりどこかで見た事があるような、よく模された旗が交互に翻っている。赤い布地が中心に白い円。そして真ん中には三本線の黒い稲妻が走っていた。

 

 < 本日、黒森峰女学園生徒会より発表されました、『第三帝国学園』との共闘声明に関してこの後会見が ―― >

 

 今、キャスターは何と言った?

 みほの視界が一瞬、ぐにゃりとひん曲がった。理解したくない。目の前に設置されている映像機から聞こえてきた音声は日本語だ。聞いてわかる内容だ。それでもなお信じたくない。旧知の顔が脳裏に浮かぶ。

 愛する姉。元チームメイトである逸見エリカ、そして赤星等の顔が。桃が咄嗟に、姿勢を崩しかけたみほの肩を支えた。皆、画面へ食い入るように視線を投げかけている。

 

「大丈夫か、西住」

「河嶋先輩……? すみません」

「黒森峰は元の母校だろう、謝るな」

 

 画面から聞こえてくる現地キャスターの声すらも、みほにはよく聞こえない。ショックが大きすぎて遮断しかけている。これはいけないと、頭を軽く左右へ振って画面へ視線を戻した。

 

 < ご覧ください、"黒い三本重ね稲妻"と"鉄十字"の居並ぶ様子を! >

 

 これは悪い夢だ。だれかそう言って欲しかった。

 画面の向こう、黒森峰女学園の校庭において、女子生徒と男子生徒が隊列で向かい合い、その中を車両が進んでいる。メルセデスベンツの【W150カブリオレ】であった。2校の小さな旗を左右に掲げる車両が、男女の列の合間を縫って校舎へ向かっていく光景。

 

 これは何と言う記録映画だ? 『意思の勝利』じゃあるまいし。

 

 その後部座席に見える、2人の人物。黒森峰女学園の現生徒会長と、漆黒の軍装を身に纏った男。人間性を悉くそぎ落とした、むき出しの刀身の如き怜悧さを帯びた男だった。いまこの大洗女子学園へやって来た雨流とは、まるで対照的である。

 雨流が来ているのはブルーグレーを基調とした制服で、空軍を模したものであるのに対し、画面に映っている男が来ているのは真っ黒だった。それは【親衛隊(Schutzstaffel)】である事を意味する。黒衣の軍装に、これまた黒いコートをマントの様に羽織っている男は、金色の髪をたなびかせながら校舎の方を見つめている。

 

「『奴』め、俺がここに来るのを見計らってたな」

「彼はご友人ですか?」

「まさか。ソイツに()()なんてものは存在しません」

 

 同じ学校の人間に向ける言葉では無かった。それも女子一同の度肝を抜くに十分な破壊力がある。画面の向こうで、生徒達と記者の列を通り、校舎の前で車両は止まる。黒森峰女学園の生徒会長が手を取って、金髪の男が校舎へ入っていく。

 おそらく体育館兼大ホールで執り行われるのだろう。その様子を、女子のみならず雨流までもが苦々しげに見ていた。

 

「……ここからは公事では無く、私の私情を申し上げます、五十鈴会長」

「うかがいます」

「今後、"我が校"からアプローチが続くかと思いますが、()()()()()()()()()()()()

「それは、『ルーデル』ではなく『雨流いずる』として?」

「そのようにお受け取りください……ッ!」

 

 使者としての使命をかなぐり捨てる発言である。すると、雨流はまたも眉間を歪ませ、今度は自らの側頭部を殴りつけた。

 

「――っ!? 雨流さん!?」

「お気に、なさらず。また()()ですよ」

 

 そう言って、右腕を下ろす。左手が少し震えているのがわかる。何かをこらえているのだ。しかし何に?

 ますます、『男子の世界』がわからなくなってくる。

 それこそ白黒の世界からそのまま這い出てきたかの如き亡霊が、そのまま服を着て歩いているかのような光景を立て続けに浴びせ続けられると、感覚が麻痺してくるような気もしてくるのだと始めて知った。

 

「して、"やりやがった"と仰いましたが、貴方もこれはご存じ無かったのですね」

「正確には"いずれこうなるだろう"とは思っておりました。

 今、私達男子校の各校で、女子校への()()()()()が行われています」

 

 おそらく、"校風の似た"学校へ、という意味だろう。今画面に映っているのは『独と独』である。それすなわち、『英と英』・『米と米』のような働きかけが今起こっているという事だ。大洗女子学園より先に。手を付け、話を進めやすい学校に矛先が向けられているという事になる。

 

「―― 私の想像以上に、奴の手は早かった」

 

 雨流は画面を睨み付けながら言う。余程、"金髪の男"が気に喰わぬと見える。

 わからない、まったくわからない。これは学生の会話か?

 この雨流という男が来たる以前から聞こえてくるニュース、そして来たりてから起こっているこの事態。出てくる言葉。今は現代か? それとも『三國志』とか、『吾妻鏡』、『太平記』の中なのか?

 間違い無いのは、これより火中に入るという事だ。これまでの"うねり"とはまるで違う、混沌と硝煙の濁流の中に飛び込んでいかなければならなくなったという事だ。

 

「失礼ですが、私も"コレ"を」

 

 そう言って、雨流は携帯を取り出した。格好からは時代が合わない代物に面食らうが、華は肯定して、彼は部屋の隅に行く。

 

 「俺だ、すまんが憂慮すべき事態が起きている。……ラジオで聞いてた?

  丁度良い、すぐに頼む。……恩に着るよ」

 

 

  ※※※※※※※※※※

 

 

  ~ 大洗港・外海にて ~

 

 

 二隻の学園艦が並行している。『アークロイヤル級』に似た形の艦と、『ユニコーン』に似た艦である。

 片方は【聖グロリアーナ女学院】。イギリス系のお嬢様学校であり、大洗女子学園ともある意味で縁の深い女学校だ。そしてもう片方を【ユニオン・オブ・オナー学院】と言う。こちらもイギリス系の男子校である。

 そして今、聖グロリアーナ女学院の一室に、男子生徒が招かれお茶会が開かれていた。今日の卓には"ヌワラエリア"と"レモンケーキ"。酸味と渋み、そして花の香り。それらを男女が一つの空間で堪能しながら、テレビに映る画面をみつめている。

 

「始まってしまいましたわね」

「彼らは『狂犬』です。よもやかように早く事を進めるとは」

「あら、今こうして女子の聖域におわすのはどなたかしら」

「ははは、これは手厳しい」

 

 聖グロリアーナ女学院、戦車道のリーダーである『ダージリン』の対面に座っている紳士は、ばつの悪そうな顔をしている。さもありなん、彼もまた聖グロリアーナ女学院に盟を結ぼうと脚を運んできた使者なのだから。

 

「"先日の凶報"は、我々他校の男子にとってもそうでした。

 あんなみっともない"プロポーズ"は始めて見ましたからね」

「けっこうな物言いですのね」

「男子にとっても一大事だったのですよ、女子へのアプローチは。

 ()()が無いのはどの男も同じです。心の準備を不意にされれば、誰でも怒る」

 

 そう言うと、男はレモンケーキを一口。舌の上で、ほのかな酸味を楽しむ様子を見ると、この局面下でそんな顔が出来る彼の"肝の太さ"に関心してしまう。

 

「一大事にしては、各所にアプローチをかけてらっしゃるようですけど」

 

 ダージリンは、()()()()()()()()()()()()()()、という読みの元に問いかける。

 無論、本命は自分達聖グロリアーナ女学院であろうが、例のニュースや後に出回っている話を総合するに、男子達は女子達以上に"当時の各国らしさ"に縛られているような印象を受ける。

 もしそうであるならば、本命だけでは無く、囲い込みであの()()()()()()()を包囲出来る目星は既に立てている筈だ。

 そして目の前の男は、それを察する事が出来る奴。ダージリンには少なくとも男はそう見えている。もしかすれば、誘導されているのかもしれないという予感も棄てないようにしなければ、易々と喰われてしまいそうだ。

 

「そうでなければ茨城沖で会合なんてしませんもの」

「いいですなぁ、鋭い女性(レディ)とのお茶というものは」

「お人が悪い、『アラン・フランシス・ブルック』閣下」

 

 男子が通名である事は、早々に受け入れている。聖グロリアーナ女学院も似たようなものだから。まぁ、男子の場合はより一層深い『事情』がありそうなのだが、そこはまだ聞かなくても良いだろう。

 

「して、大洗女子学園には今日?」

「……えぇ、"合図"があれば」

「あら、【MI5】か何かを既に」

「それは残念ながら外れですよ、レディ・ダージリン。

 協力者の方がいるのです、基本的には"敵"ですがね」

 

 そう言って、男はふたたびテレビへ視線をやる。画面には、仰々しく飾られている二旗をバックに、黒森峰女学園の生徒会長と、黒衣の男が座っているのが見える。

 

「我が校の『足なしバーダー』に連絡が入れば、先んじて【スピットファイアMk.V】を一個小隊向かわせます」

「それは確か"戦闘機"の筈ですが、航空戦でもするおつもりですの?」

「大洗女子学園には今、【第三帝国学園】の生徒がいる筈ですから」

 

 ダージリンの血相が変わった。抑えられなかった。

 

「始めてお顔が変わった」

「……思ったより意地悪でもおありですのね」

「意地悪どころではありませんよ、ダージリン」

 

 ここに来て、ダージリンの隣に座っていた『アッサム』が口を開いた。

 テレビのニュースを見たときからずっと怒っていた彼女であったが、我が校にやってきたこの使者のぼかしたしゃべり方に、少々苛立ってしまっていたのだ。

 

「落ち着いてください、レディ・アッサム。何も大洗上空でドッグファイトをしようというのではありません。戦闘機を先遣隊で送る"必要"がある、ただこれだけです」

 

 ここまで言うからには、既に成功の目安も立っているし、()()()()()()()()()()()()。それをダージリンとアッサムも確信できた。

 それにニュースでもみた、亡霊さながらな黒衣の軍団より、組む相手としては格段に良いのは間違い無い。一歩間違えば自分達も吸収されかねない危うさはあるが、有無を言わさないであろう暴力性はコチラには無い。それがかえって恐ろしい所でもあるが、それはそれ。

 

「……なら待ちましょう。みほさん達の事も心配ですし」

 

 そう言って、ダージリンが一口、ヌワラエリアを堪能しようとカップに口をつけた時n事である。

 

 ―― ブルルルウウゥウウゥウウンッ!!

  ―― プルルルァァァ

 

 警戒かつ豪快なエンジンの音と振動。そして高らかに鳴り響くバグパイプの音色が、全く一緒のタイミングで窓の外を通過していった。その余波で紅茶が少しはね、ダージリンの顔にかかりそうになる。

 アランと名乗った男と、ダージリンの口元がひくついた。

 

 まったく空気を読まない存在が、少なくとも二つこの学園艦の上にいる。

 

「申し訳無い、レディ。狂犬は我が校にもおりました」

「いえ、我が校にもじゃじゃ馬が一頭おりますの」

 

 なんと"()()()()()()()()"だろうか。

 窓の外で校庭をひた走る、水色の車体を見やった。【クルセイダーMk.III】が、土煙を巻き上げながら爆走している。乗っているのは、考えるまでもなかった。

 

「『ローズヒップ』ったら、なんで今こんな!」

「……我が校の問題児のせいでしょう」

 

 こめかみに手を当てて、アランはうめいた。アッサムが窓辺に近づいて、まじまじとクルセイダーの方を見やると、車体の上に誰かが乗っている事に気づく。

 そう言えば、聖グロリアーナ女学院の校舎にやって来た男性陣の内、1人の姿が消えている事に今気づいた。何時の間にいなくなったというのか。

 

 

 < はっははっ!! いいぞ、嬢ちゃん! もっと飛ばせ! >

 

 

  < クルセイダーをなめんなですわ、かっ飛ばしますわよ~!! >

 

 と、ここにまで大声が聞こえてくる。

 その人物はなんとも奇妙な出で立ちだった。左手にはバグパイプ。右手にはロングソードだろうか、長めの金属製の物体を持ち、背中にも何か背負っている。弓矢だろうか?

 あれが、【ユニオン・オブ・オナー学院】の問題児。ただその出で立ちを聞いた時、ダージリンはどこかで聞いた事がある珍妙な格好だなと思った。そしてすぐに思い至る。

 

 一人しかいない。そんな奇人は。

 

「あの方、『マッド・ジャック(Mad Jack)』ですわね?」

「…………」

 

 アランは黙って、首を縦に振った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。