ガールズ&パンツァー ~ 大洗は大砲鳥の夢を見るか ~ 作:松ノ木ほまれ
~ 東京都新宿区・某所 ~
日の光が差し込まぬ地下の一角、薄明かりの中で男が資料を纏める作業に当たっていた。
1950年代から積み上げられてきた、特定の人物達に関する書面を収めたファイルが、防腐処理を施されて保管されている。そして男がとりまとめているのは、直近一〇年の間この部屋へやって来た、子供達のプロフィール。
『20xx年度・
英語・フランス語・ロシア語・中国語。主な翻訳先はそれらの四つ。何日間かは缶詰にされている。
この一〇年もの間で、今まさに青春を過ごしている筈の子供達。その中でも男子達はいつの間にか"最悪"と呼ばれるようになっている。
(質が悪いのでは無い。むしろ想定ラインを越える水準にまで高まっているのに。まぁ、だからこそ最悪と呼びたいんだろうけど)
事情を知る大人達にしてみれば、低水準のままであって欲しかった。そういう本音が最悪というひと言に詰まっている。近年、男子の就職率低下が起こっているというニュースが、本来報道される筈だがひた隠しにされている。母数が下げられ、あたかも数値上は下がっているかのように弄られて。
本来国の宝となるべき若人を、宝物とみなせなくなってきている。故に最悪なのだ。
加えて、事情を知る大人達にとっては、『最高水準』へ近づけば近づく程、それを『人間』と呼称するべきなのかどうかすらわからなくなるからだろう。
それと、"欠点"は未だ克服されていないのも理由の一つ。
「先日のソレと、今日のニュースは典型的だよなぁ」
第三帝国学園が黒森峰女学園と手を結んだ。その絵図を描いたのは間違い無く『寄生者』だ。時代錯誤なやり口への拘り、思考と嗜好の変化。その全てが特徴であり欠点。彼らはまさしく死霊でありながら生霊であり、今を生きる子供にして過去を生きる骸。
生きながらにしてその身を屍に変えられた哀れなモルモット。
<
「
返信……と。そんなに現代社会で欲しいかね」
携帯やPCに入ってくるメッセージへの返答にすら苦心する仕事だ。来るメッセージの発信国毎に頭の中で使う言語を切り替えなければならない。骨が折れるし疲れる。
それと、時折届けられるアンプル。それの保管一つにしても一苦労。国毎に分けねばならないし、年代の区分けのために、好きでも無いジャンルの本を開かなければならないのだから。
「まぁ、欲しいだろうね。"商品"という意味ではこれ以上無いサンプル体だ。
ただ今世代は商品として成り立つのか微妙な所まで行き着いているけど」
それだけは、どの連中にも言っていない。英米仏露中にも、そして自分の上司にも。いずれ来るであろう事態。手綱の効かない世代が、飼い主の手首を骨ごと噛みちぎる世代が現れる事が現実となっている。それを上の世代がまだピンときていない。
人は往々にして自分達の代の"出来"で物を見る。まだ技術も未発達な中で育った時代の子供達が今、革造りの立派な椅子と、漆塗りの机の向こうで手綱を握った気になっている。しかし今の子供達はもはや、かつての子供だった大人達が思っている以上の『混沌』を内包しているのだ。
ジジィ共はそこを見ようとしていない。自分達が"骨董品"どころか"製品未満"でしかなかった事を突きつけられるからなのか。それとも本当にわかっていないのか。
「おっと、本件開始史上で最高のこまったちゃんだ……参った」
訳しようにも、言葉に詰まる青年のページにぶち当たる。
『
"浸透率"・"定着率"、共に基準値をクリアしつつなお評価点平均値を引き上げている。それでいて、"寄生率"は平均値を大きく下回っている。一部の者にはこの徴候は共通しているが、両立しているのは極めて稀。
殆どの者は、上手く浸透・定着せず一般人とほぼ変わらない生活を送る事になる。そして上手くいったとしても、今度は比例して上がっていく"寄生"によって
"本人"を維持し続けて、かつ両立しているのは、もはや『
そしてこの被験体はハイブリッドなのだ。極めて己を失って彷徨う事になりやすい状態でありながら、それらを飲み込んで成り立っている。それが極めて危ういバランスの上であるかどうかはまだわからない。
「最も高い入札率になるだろうなぁ、この子。
史上初だよ、『アイツ』が定着できてかつ適合する者なんて」
今、波乱の学生生活を送っているであろう青年の顔写真を見ながら、男は今後彼が送る事になるであろう
「僕としても、"後輩"達にこんな結果出て欲しくなかったが……仕方が無い。
これが今の日本男子の現状だ。まぁその事情もじきに変わる」
きっと、この日本列島の上に構築された蠱毒の中で、勝ち残った先にあるのが何であったにせよ、それに相対する子供達が想像出来る。そしてその矛先の終着点はきっと自分の首になるだろう。
自分も雇われの身に過ぎないが、そうされるだけの事はやったと思う。
まるで、時の覇者に仕えながら、半ばで粛正される幕僚のような気分とでも言えば良いだろうか。
「張子房のように隠遁して、っていうのは許されないな、私は」
そう言いながら、男は青年の調査書類を少しずつ各国語へ訳し始めた。
※※※※※※※※※※
~ 大洗港にて ~
一機の黒い機体が天へ駆け上がる。その一分とたたぬ内に、四機の機体がそれを追いかけていく。飛び立つ所を見逃している場合、あたかも追い払っているかのように見えるだろう。そう見えるように写真も地上から生徒達に撮影させるのを、華は忘れなかった。
珍妙な出来事が一気に、まくし立てられるかのように起こる日だ。
それこそ、大乱が勃発した時はこういう日だったのだろうか。それとも、連鎖的に数日と置かずにこんな事が起こっていったのだろうか。
過去の先人達が味わったであろう事象の中に、形は違えど自分達も立たされた。そんな実感が女子達の中にも芽生えつつある。
「穏やかな凪の顔を見せつつ、嵐のような方でしたね」
「……でも、哀しそうな眼をしてた」
みほは優香里の言葉にそう返した。鶴姫しずかの珍妙奇天烈な登場の時に見せた、周囲を畏怖で凍り付かせるあの波動。直後に何名かが、格納庫内のトイレに直行した。加えて何名かがその場に蹲り動けなくなった。蹲りはせずとも、脚に力が入らなくなった者も出た。
飛行機乗りだとか、戦車乗りといった類いのソレとはまた別種。生物として根本的な部分が違う存在が、急に目の前に現れたような感覚だった。それこそ龍虎もかくやと言わんばかりの。巨大に見えた体躯、全身これ武器と言われても首を縦に振らざるを得ない。それ程の迫力が彼の身体の内から湧いて出てきたようだった。
しかし、その直後になりを潜めた。しずかは残念そうな顔をしていたが、みほはその時雨流の眼が"恐怖"に彩られていた事を見逃さなかった。まるで自分が自分で無くなっていく事を恐れているかのよう。
あの発作というのは、もしかしたら
そうは思ったが、断言出来ないためまだ優香里にも話してはいなかった。
まるで入れ違いになるかのようなタイミングで、大洗港に聖グロリアーナ女学院の学園艦が入港し、イギリスモチーフの男子校も次いで入校。それらを見たときの、安堵と不安がない交ぜになった感情も忘れないだろう。
今、みほを始め戦車道履修生は港に降りて気分転換に繰り出している。聖グロリアーナ女学院、並びにグローリー・オブ・オナー学院なる学校の生徒との待ち合わせも、この近くでという話だ。
故に、新旧生徒会面々とみほは、埠頭の近くで彼女たちを待つことにした。
不安の共有と言えば聞こえが悪いのだが、他校がどういう眼で今回の"共同試合開始"を見ているのか、どうしても気になったから。
他のチームはショッピング等で気を紛らわせてもらう事にして解散している。
「
「無理しなくても良いんだよ、桃ちゃん」
「うっぷ……気にする、な……ぅえ」
中には河嶋桃のように、生来の真面目さ故に自ら貧乏くじを引いているような者もいるが。桃の背中を柚子とみほがさすり、優香里と杏が、こちらに向かってくる『CMPトラック』を二両視認した。
車両を運転しているアッサムと、助手席のダージリンの姿を見たとき、何とも言えない安心感が湧いてくるのを感じる。不思議なものだ。二両目は、男子のものだとわかる。校章が違ったのと、乗っている人物。これまで見た男子とはまた一風変わった、気品さと威を両立している。
「今回は、思いも寄らない事態になりましたわね、大洗のみなさん」
「どういう返答で返せば良いのか、今は窮してしまっています、ダージリンさん」
「それは私達も同じです、五十鈴さん。『患いを除きて至る無からしむるは、患いを救うよりも易し』と言いますが、いざ来たりてみれば難しいものですから」
「『戦国策』とは、普段のダージリンさんっぽくないですね」
幾分か、気分が楽になったのか、張り詰めっぱなしだった華の表情が緩む。互いに視線が、お互いの横へ控えていた人物に向けられた時も、華の表情は少しばかり穏やかなままだった。
「ご挨拶が遅れてしまいました。大洗女子学園、生徒会長の五十鈴華と申します」
「こちらこそ。淑女の間に入るのは出来ませなんだ。
【グローリー・オブ・オナー学院】、指揮官のアラン・ブルックです」
ダージリンの右後方へ控えていた、"眉目秀麗"という言葉がピタリと当てはまる紳士。流水のような所作で一礼するその様子は、まるで水墨画のようであった。女子一同、思わず感嘆の息を漏らす。そうせずにはいられない、不思議な空気を纏った男である。
「堅苦しい話は、きっと我が校のバーダーめからも聞き及んでおられましょう。
ごゆるりと、御淑女方でお茶をなさる方がよろしい」
「貴校からも、何かしらアクションがあるかと思ったのですが」
「その方が宜しかったですか? 先の凶報と、本日の出来事を思えば、一晩でも時を置いた方が頭も纏まるというものでしょう。『害は備わざるに生じ、穢は耨かざるに生ず』と言います、今は考えを纏める時です」
「……ありがとうございます」
「私達からのお誘いはその後で、という事で」
この時、ダージリンはふと可笑しな光景に気づく。大洗女子学園の生徒会とみほ、実質あんこうチームの四名と旧生徒会と聞いている皆の向こう側に、二人。見覚えがある人物を視認して、思わず声をかけようとした。
「まさか、鶴姫さんも大洗へいらしてました……のね?」
ただ、鶴姫しずかの様子がおかしい。ここでダージリンも内心で首をかしげる。
抜き身の刀身が如き闘争心を隠さない、それこそ室町後期の武者のような思考回路を持っている女子高生。可愛げの塊だった鶴姫しずかという人物を知る一人として、今の彼女は明らかに様子がおかしかった。
まぁまず第一に、引き振袖である事。振袖はそもそも未婚女性の和装における正装であり、その中でも引き振袖は結婚式で着る事が多い。白無垢からのお色直しであったりだ。一般的なイメージとしてはそんな所であろうが、何故今しずかはそれを着ているのか。
加えて、顔が定まっていないのだ。あの"小松姫"もかくやと評すべき女武者の顔を浮かべたかと思いきや、一気に頬や眉までが蕩け、ピッツァの上がチーズのごとし。
「……ふふぁ……あ……ふっぐ、ぐぅ!」
温泉に方まで浸って堪能する女子の顔になったかと思えば、今度は仇と差し違えんばかりの形相になったりしている。感情の百面相を呈しているしずかを見て、ダージリンは水面上の鯉のように口をぱくぱくとさせていた。
武部沙織が、若干不敵な顔でダージリンに言う。
「お気づきになられましたか、ダージリン殿」
「な、何ですか武部さん。横○光輝の漫画みたいな顔で」
「ドイツ系学校の男子と会話してからずっとあぁなんですぅ~っ!」
「……はい?」
沙織の曰く、先日の凶報の折、"百足組"もあの場におり、運良く逃げ切ったとの事。彼女の性格を思えば、戦車で相まみえたいと直接宣戦布告に来るのは想像に難くない。ダージリンの想像の通り、鶴姫しずかは大洗女子学園へ飛んでいくドイツ軍機を見るや、あの時の機体だと気づいて追ってきたのだ。
「引き振袖を着て?」
「うん」
「末広を持ったまま宣戦布告をして?」
「うん」
「"承知"らしい耳打ちをされてからずっとあぁだと?」
「うん」
「……武部さん、からかっておいでですわね」
「いやいや、ほんとうの話でござる」
武部沙織も相当混乱している。ダージリンはこんがらがりそうになる思考回路を必死に軌道修正しながら、姿勢を正した。鶴姫しずかが常人から外れた行動を取る、そう意味でいうなら"範疇を越えていない"行動だが、格好は流石に予測不可能だ。
どこの世界に花嫁衣装で男に宣戦布告をする女がいるものか、と話を聞くまではそう思っていた。
いたのだ、ここに。
そんな素っ頓狂な行動に出てくるような子が。しかも表情を見ると、感情がバグをおこし脳がその処理容量を超えてオーバーフローを起こしているようにしか見えないのだが、その根本には『幸せ』そうなナニカが見える。
「あれでいいのかしら、あの子」
「それと、よくない子もいるんです」
「……あぁ、そういう」
そんなしずかの向こう側に、顔面から心の奥底までが暗黒に染め上げられている松風鈴の姿が見えた。あんな顔をしているのは、ダージリンも初めて見る。煮えたぎる感情を処理しきれず、眼や口元や耳から吹き出ている光景が陽炎のように浮かび上がっていた。
今にも蛇に変じて、寺の鐘の中で男を焼き○した清姫が如し。そんな鈴がダージリンを視認した時、えもしれぬ悪寒がダージリンと沙織を襲う。髪の毛を口に噛みながら、ひと言だけ口にした。
「憎しみで人を○せるんでしょうか、ダージリンさん」
「「 落ち着いて! 松風さん、ステイ! すてい! 」」
その様子を端から見ていたアランは、一筋汗を垂らしつつ言う。
「女子とは何とも奇妙な表情をするのですね」
「いえ、アランさん。あの子達は極めて特殊な例です、参考になさらないでください」
みほがそうフォローを入れなければならない程、あの男の残した余波は大きかった。
※※※※※※※※※※
~ BC自由学園・宿舎 ~
「なぁ、安藤君は今日も出てこられないのか?」
「うん。部屋の前までいったけど、まだうなされてる」
BC自由学園は、『BC高校』と『自由学園』が統合して誕生した学校である。学校内に二つの国があるような様相であり、それこそかつての東西ベルリンが如き印象を受ける造りになっていた。
校舎も実質別々で、宿舎も別。その一角で、金髪の女生徒が宿舎の管理生徒へ問うている。名を『押田ルカ』と言う。
ここ、旧BC高校側の宿舎は現在、高等部から入学してきた『受験組』の生徒が住んでいる。かく言う押田は、旧自由学園側の、中等部から入学した『エスカレーター組』の一員であり、この場では浮いている存在ではあった。
そして最近までは受験組とエスカレーター組の"抗争"激しく反目していた手前、居づらいという感情は確かにある。だが今はチームメイトである安藤への心配が勝っていた。
―― 強襲戦車競技中の襲撃
このニュースはBC自由学園の生徒達も無論おののかせている。
それこそあの場所に、押田も観客側で観戦していたのだから。部屋から出てこなくなった生徒達の気持ちがわかるつもりでいる。だが哀しいかな、観客席側へいたため早々に大人達の先導で避難させられ、捕虜という名目で捕らえられた同校の仲間達を助けに行けなかったのである。
「部屋まで伺ってもかまわないか?」
「どうぞ。多分出てこないと思いますけど」
その後悔が、押田の脚をここまで運ばせた。隊長である『マリー』も付いてこようとしたが、安藤の心労を思うと二人で押しかけるのは不味いと判断した押田は待機をお願いした。
そして階段を上って、部屋の前へ行く。
受験組とエスカレーター組、双方にまだ部屋へ閉じこもってしまっている生徒が出ている。当然だろう、"強襲戦車競技"は危険な部類であるし、蹂躙されるのは今に始まった事でも無い。だがあんな【虜囚の辱め】をうけさせられた事など無い者達ばかりだ。
ショックが大きすぎて、学園側の連絡用航空機のプロペラ音にすら怯える子もいる始末。押田は胸中の怒りをこの数日間発散する事も出来ていなかった。
「安藤君、いるのか」
扉から帰ってきたのは、無音。中にはいるはずだと管理生徒も言っていた。
「……入るぞ?」
ひと言断って、扉を開けた。部屋の電気は消えたまま、薄暗闇の向こうで、丸まっているシーツが見える。覆い被せて、小さく震えていた。ぎりりと、拳を握りしめた。
あの気丈で、受験組の先頭に立ち自分達エスカレーター組へ立ち向かってきた、気骨の塊のような女。ソミュアを駆る時の、不覚にも頼もしいと思ってしまった横顔を持つ女の姿か、これが。
彼女への怒りでは無い。彼女をこんなにした連中への怒りが収まらない。
一歩、部屋の中へ踏み込む。シーツの塊が、ビクンとはねた。こういう音にすらそんな反応をするなんて、と押田は驚く他は無い。
(マリー様を連れてこなくてよかった)
隊長がこの光景を目にした時、受ける衝撃は計り知れない。
ゆっくりと、大きな音をたてて刺激しないようにしながら、奥へ進む。小さく聞こえてくる、嗚咽。唇を噛みしめた。どれ程の"感情"が、安藤を襲ったのだろうか。それを共有出来ない事がもどかしかった。
膝をついて、小さく息をつく。少し聞こえるような音量で。
「安藤君。調子はどうだ」
「……良いように見えるのかよ」
声が震えている。
「そろそろ、外で何か食べたらどうだ。あの日からシャワーすら浴びていないだろう。
マリー様も心配されている」
「そうか。そうだろうな……」
「あの日、駆けつけられなくてすまなかった」
「……来なくて正解だったぞ」
ぽつり、ぽつりと、安藤は話し始めた。
「私さ、"囚人服"なんて着させられたの始めてで」
「……あぁ」
「名前なんて把握もされなくて、番号で呼ばれて」
「すまない、もう話さなくて良い」
迂闊な事をした、と押田は少し後悔した。傷口を押し広げるような事を聞いてしまったと。しかし安藤は、その点はあまり苦にしていなかったようである。
「でもさ、それは二日くらいで終わったし、これまでいがみ合ってた時の方が正直キツかったから、そこじゃないんだ」
「……どういう、事だ?」
「おかしいんだ、私。おかしいんだ、変になっちまって」
言葉の要領がつかめない。安藤は何が言いたい?
思わず、シーツを掴んだ。すると一気にシーツを掴んでいた安藤が手の力を一気に強め抵抗する。
「頼む、見るな! 今の私を見るなぁ!」
「尚更心配させるような事を言って無茶まで言うな!」
「顔が……変なんだよぉ! あの時から……」
あの襲撃の折、鎮圧されて車両から引きずり出された時の光景が脳裏に焼き付いて離れないのだと言う。やはり傷が深いんじゃないかと言いたくなったが、続いて出てきた言葉が妙に引っ掛かる。
「あの時、私達を叩きのめした飛行機達が遠目に降りてくるのが見えてさ」
あれか。後日【Ju-87】と解った、あの忌々しい急降下爆撃機の事だろう。
「大砲を担いだ奴から降りてきたパイロットが、見えて……」
よく覚えている。避難誘導にも抵抗して駆けつけようとしていた時の光景だ。Ju-87の内、隊長機らしき機体から降りたパイロットが、無力化されていた安藤達に近づいて行った際の。
安藤はあの時、パイロットを視認した時、かつて聞いた事が無いほどの悲鳴を上げていた。日頃の彼女を知っている身としても、戦慄する程の。他の同胞達以上に、怖がっていた。怯えていた。むしろ他の同胞達が安藤を落ち着けようとしていたんだ。
「……
「アレは、人じゃ無かった。人間じゃあんなん無理だ。
こびり付いて、夢にまで出てくるんだ、あの"眼"が……」
怪物を見た。そう安藤は言った。あの時強襲戦車競技に参加している面子の中でも、相手を見る能力は高いつもりでいたが、それを後悔したのは初めてだったと安藤は言う。
同年代の男子? 違う、アレは男子に見せかけた
人の皮を精巧にモンスターの上に被せた
それが
「おかしくなっちまった、私。あの日から」
「どういう、事だ!」
そう言って、押田はシーツを剥がして安藤の顔を見た。
無理矢理にでも風呂に入れて、皆でケアしなければならない段階になっていると、そう思ったからだ。
安藤の顔がそれほど非道いのか? そう思いながら見やって、押田は固まった。
「何で……」
「おかしいんだ、押田君」
本人の言う通り、おかしかった。
「何で……
「戻らないんだ、コレ……何でだろ」