バニーガールはガンプラバトルの夢をみない-ガンダムビルドダイバーズIN:LE-   作:樽薫る

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-ありすのみる夢-
ep01「満月に吠えた」


 

「おねーさん、そんなところでなにやってるの?」

 

 夜、月光照らすヤナギランの花が咲き誇る群生地にて、そう問うた少女の前、彼女は笑顔のまま固まっていた……。

 

 否、固まらざるをえなかった予想外の事態、不意に起こった事故は彼女にとっては一大事である。

 

 決して見られてはいけない現場であり、“普段ならば”細心の注意を払っているのだが……慣れとは怖いものだ。つい注意を欠いてしまった。

 そして注意散漫なままに“そんなこと”に興じていた彼女は“そんなとこ”を少女に身まれてしまい。この始末。

 

 故に、色々な思考が交錯し、“そんな恰好”のまま、自らの“ガンプラ”の前で……固まっている。

 

「どうしたの───」

 

 笑みを浮かべ、その金髪と青と白のドレスを揺らす少女。

 

「───うさぎのおねーさん」

 

 そんな少女の言葉に、彼女の装着したウサミミカチューシャの横でウサミミのように添えていた手の平が、ワナワナと震える。

 徐々にその顔は赤く染まっていき、長い黒髪は彼女の感情を表すかのように浮き上がり、身体も手と同様に羞恥故に震え、赤い瞳には涙が溜まっていく。

 口角も眉もすっかり下がり、内股だった脚が生まれたての子鹿の如くガクガクと震えだした。

 

「お、終わったぁぁぁ!」

 

 バニースーツの女は、満月の下───情けなく吠えた。

 

 

 

 

 GBN……ガンプラバトル・ネクサスオンライン。

 それは、電脳仮想空間『ディメンション』内で世界中の“ユーザー(ダイバー)”と出会い、ガンプラバトルで競い合い、共に冒険できるVRオンラインゲームである。

 主にガンプラバトルが中心、ということはあるが遊び方も多種多様、自由度も高く、アクティビティも多いそこでは様々なダイバーが、様々な楽しみ方で自らの『好き』を持って、見つけて、様々な『好き』で繋がっていく。

 数々の苦難もあったが、それらを乗り越え“GBNはいつもそこにある”。

 

 人々の『好き』と共に、GBN(世界)は───。

 

 

『うわあぁ!!?』

『援護を! 助けっ、うがぁっ!』

『光が逆流する!?』

『俺はスペシャルで! 二千回で! 模擬せ』

『誰がやった台詞の途中だったぞ!?』

『わかりませんが不粋な奴です!』

 

 

 ……阿鼻叫喚であった。

 

 

『バトルロイヤルだなんて関係ねぇ! 協力だ!』

『しょうがねぇか、こんな乱戦になちゃぁな』

『一時共闘ね!』

 

 雷の奔るデブリまみれの宇宙空間───サンダーボルト宙域。

 

 四方八方で戦闘が行われており、ガンプラが次々と破壊されていく。

 所謂サンダーボルト仕様の『フルアーマー・ガンダム』と、赤い『ケルベロスザクウォーリア』、『リックドムⅡ』が合流して周囲を警戒する。

 周囲にあるデブリは姿を隠すにはうってつけであり、その影を警戒しているのだが……。

 

『敵、隠れもせずに堂々と!』

『ビグロマイヤー!? よくもまぁそんなもの作って……!』

 

 緑色の大型モビルアーマー『ビグロマイヤー』が、高速でデブリを回避しながら接近してきていた。

 そちらにそれぞれの武装の銃口を構え射撃を開始するも、方向転換しそれらを回避しながら大回りで接近をかけてくる。

 三機の射撃はデブリにはばまれ、さらに回避されていく。

 

 接近するビグロマイヤーが先端のメガ粒子砲発射口を開いた。

 

『やられる!?』

『散開!』

 

 三機が離れたその瞬間、刃のような形のビームが、その直線状のデブリ諸共に───ビグロマイヤーを斬り裂く。

 

『なんだ!?』

 

 爆散するビグロマイヤーから視線を逸らし、三機のガンプラのコックピットで三人のダイバーはビームが放たれた方角を向いた。

 モニターを拡大すれば、すぐに一機のガンプラが近づいてきていることに気づく。

 そして、その独特のシルエットに驚嘆する。

 

『黒い円盤……ティターンズ仕様のアッシマーか? いや、アンクシャ?』

『いや違う、あれは……』

 

『───キハールⅡだと!?』

 

 キハールⅡ───ガンダムTR-6[ウーンドウォート]に強化装備『キハールⅡユニット』を装備した形態だ。

 本来であれば紺色だが、迫るキハールⅡは漆黒である。

 白い部分もほとんどが黒に塗られ、一部にアクセントとして銀色が混じっていた。

 

『まさか……!』

 

 丸みを帯びたMA形態の下部に装備されているのは、コンポジット・シールド・ブースターと呼ばれるTR-6シリーズの主兵装である複合兵器。

 そして先端に装備されているのはヒート・ソード……ではない。

 

『やはりあのGNソードは!?』

 

 コンポジット・シールド・ブースターのブレード部分が“片刃のGNソードⅡロング”に改造されており、先ほどのビームはそれから放たれたものなのが理解できる。

 

 それを理解し、彼らは戦慄した。

 

 その機体を彼らは知っている。GBNのダイバーであれば、知らない者の方が少ないまである。

 

『き、聞いてねぇぞ!? “黒騎士”がいるなんてっ……!』

『アイツの情報なんて誰が聞くんだよ!』

『囲んで叩くわよ! 周辺にも援護要請!』

 

 だが次の瞬間、キハールⅡのコンポジット・シールド・ブースターが“射出”された。

 ワイヤーで繋がってるでもなんでもなく突如パージされ、シールドは“赤い粒子”を噴出しながらキハールⅡ本体を超える速度で───リックドムⅡを貫き、そのままデブリに串刺しにする。

 動かなくなるリックドムⅡは、すぐに爆発か消滅することになるはずだ。

 

『シールドに“GNドライブ”ってことは、確定か……!』

 

 リックドムⅡに刺さったコンポジット・シールド・ブースターは、後部にコーン型のユニット<GNドライブ>を積んでいる。

 赤いならば<疑似GNドライブ>となるわけだが、GBN内でその差は些細なことだ。

 

『へっ、“女”だって話は本当かねぇ“あの鎧”……本当なら悲鳴あげて落ちてもらうよ!』

『眉唾な噂だろうに!』

 

 リックドムⅡへ接近するキハールⅡへ、フルアーマーガンダムが<二連装ビームライフル>を、ザクウォーリアが<ビーム突撃銃(ビームライフル)>を連射するも、散開して距離を取ってしまっているので難なく回避されていく。

 串刺しになっているリックドムⅡが“消滅”し、デブリにはコンポジット・シールド・ブースターだけが残される。

 そして、それに接近するキハールⅡが───変形。

 

『変形した!?』

『そりゃするだろキハールⅡなんだから!』

 

 キハールⅡを改造したガンプラがMS形態に変わる。

 

 変形機構は本来のキハールⅡと変わりなく、肩部の熱核ジェットエンジンや腕部のラージシールドもそのまま……だが、大きく変わってはいないものの確かにカスタムはされている。

 

 MA時に左右二枚のスタビライザーとなっていたパーツは、“本来ならば”合体し、爪先まで伸びる長さの胸部アーマーとなるのだが、合体し胸部アーマーになったのは腰下ほどまでで、それより先は二振りの片刃実体剣となって太腿部分にマウントされた。

 

 背部からのアームにより頭部まで伸びるはずの<頭部通信ユニット兼整流カウル>は、本来の向きと違う横向きのまま、アンテナも出さずに背に畳まれる。

 

 さらに、胸部アーマーが実体剣になったことにより露出する内部ウーンドウォートの股間部分のパーツは短くされており、背面のブーストポッドこそ白いが脚部は黒く塗られていることから、キハールユニット下のウーンドウォート本体もしっかりとカスタムされていることが伺える。

 

 異名の通り、騎士を彷彿とさせるガンプラ。

 

『黒騎士、キハールリッター……落ちろ!』

 

 二連装ビームライフルがキハールⅡ……否、キハールリッターに放たれる。

 キハールリッターは、迫るビームをコンポジット・シールド・ブースターのGNソードⅡロングで弾く。

 さらに、シールド内側の柄を両手で握り、その場で真横のデブリを───その背後に隠れていた『スーパーガンダム』ごと真っ二つに斬り裂いた。

 

『ニュータイプとでもいうのかよぉ!』

 

 壁越しにキハールリッターを撃つつもりでいたスーパーガンダム。その機体が爆散するより早く、その場から動き出すキハールリッター。

 変則的な軌道で、放たれる射撃攻撃を回避しながらフルアーマーガンダムとザクウォーリアへと接近していく。

 

 そしてそのキハールリッターのコックピットに、黒い鎧を纏ったダイバーがいた。

 背の高さは180センチを超え、実際に見ればその威圧感にほとんどの者が慄くだろう。

 握った操縦桿を素早く操作する、“黒騎士”と呼ばれるダイバーはモニターにて多数のガンプラが接近してきていることに気づく。

 

『援護します。援護します大佐!』

『誰が大佐よ!』

 

 緑色の『キュベレイ』が現れ、オールレンジ兵器<ファンネル>を飛ばした。

 フルアーマーガンダムが右腕の二連装ビームライフルと左腕のロケットランチャー、そして大型バックパックに装備されたミサイルランチャーを、ケルベロスザクウォーリアが手に持った<ビーム突撃銃(ビームライフル)>と背部ケルベロスウィザードのビーム砲を連射。

 

 黒騎士を倒すためダイバーが集まるまでの時間稼ぎ、よしんばこれで倒れてくれれば十分と考えていたのだろうが───甘かった。

 

 それらの一斉攻撃に回避行動を取るでもなく、突っ込んでくるキハールリッター。

 

『コンポジット・シールド・ブースターならIフィールドなんだ。実弾を受けろ!』

『いや待てよあれは!』

 

 それらの攻撃により爆煙がキハールリッターを中心に広がっていくが、フルアーマーガンダムが動き出す。

 ザクウォーリアとキュベレイは油断をしたのか少しばかり止まっていたが、それが致命的ミスだ。

 冷静であれば簡単に思いつくことであるが、彼女らは“個人ランク24位”という肩書と、黒騎士という異名を持つダイバーに精神を乱されすぎた。

 故に、そんな接近を許してしまう。

 

『GNフィールドですか!?』

『あ、あはは、そりゃそうよねぇ……』

 

 爆煙の中から現れた赤色のフィールドを纏うキハールリッターは、そのまま素早くキュベレイへと接近、フィールドを消滅させるなり、コンポジット・シールド・ブースターで袈裟斬りにする。

 すぐ近くのザクウォーリアがビームライフルを構えるが、もう遅い。

 

 腕部ラージシールドに装備された散弾、スプレッドビームがザクウォーリアに浴びせられた。

 

『くそっ、なんでこんな変則バトルロイヤルにヤツが……!』

 

 一瞬で二機が撃破され、フルアーマーガンダムが距離を取ろうと離れながら、キハールリッターへと射撃攻撃を見舞う。

 ジグザグの、まるで雷のように不規則な軌道でビームライフルもロケットランチャーもミサイルランチャーも回避されていく。

 ダイバーはフルアーマーガンダムを止め、バックパック右側の大型ビーム砲を放つ。

 

「……!」

 

 コックピットの黒騎士の兜の奥が、赤く輝く。

 

 キハールリッターはコンポジット・シールド・ブースターを両手で握り、迫る大型ビームに真っ直ぐに振るいながら───前進。

 先端に装備された片刃のGNソードⅡロングが、ビームを真っ二つに裂いていく。

 そしてキハールリッターは、一切その速度を弱めることもない。

 

『こんなヤツにぃぃぃっ!?』

 

 瞬間───フルアーマーガンダムが縦真っ二つに斬り裂かれる。

 

 爆発と共に、閃光が飛び出し一際大きなデブリの真上に立つが、周囲には既に多数のガンプラが集まって来ていた。

 既にバトルロイヤルは多対一のレイド戦のようなものへと移行している。

 

 黒き鎧を纏った騎士───キハールリッターは柄を両手で持ち、両足を広げ……“威風堂々と立つ(サンライズ立ち)”。

 

「いこう、キハールリッター……」

 

 その身に合わぬか細い女の声が、自らのガンプラを呼んだ。

 

 

 

 

 ロビー……GBNログイン時に、最初にやってくる場所だ。

 そこにあるミッションカウンターにて様々なミッションを受けることが可能であり、ダイバーたちの交流の場ともなっている。

 有名ダイバーも当然使う場であるから、彼らを一目見ようと張り付いている者なども少なくはない。

 

 そしてそこに、件の有名ダイバーが現れる。

 

 ───黒い鎧を纏うダイバー、通称<黒騎士>だ。

 

 寡黙で孤高───その近寄りがたい雰囲気に、ダイバーたちが生唾を飲む。

 

 先の戦闘が公開されていたと言うことも勿論のことだが、GBNサービス開始当初からの古参ダイバーであり上位陣である“彼女”へと近寄りがたさを感じさせる理由は、やはりさらに上の存在が彼女に一目置いていることにあるだろう。

 黒騎士に、一人の青年ダイバーが近づく。

 

「大した活躍だったね“ハーゼ”」

 

 金髪の青年が、爽やかな笑顔を浮かべる。

 

「おい、チャンプだ……」

「黒騎士と話してるみたいだけど、やっぱすげーんだな黒騎士って……」

「まぁソロであんだけやってりゃそりゃそうだろ。ランク付けのあるソロミッションじゃ軒並み上位を掻っ攫っていってるようなのだし、フォースだってソロのままフォースミッションをクリアしたりもするんだぜ」

 

 聴こえた声に、黒騎士がそちらを向けば、噂話に花を咲かせていたダイバーたちがそそくさとそこから去る。

 チャンプと呼ばれるダイバーこと『クジョウ・キョウヤ』───ワールドチャンピオンシップトーナメント個人戦を制し、1VS1のガンプラバトルであれば無敗を誇る最強のチャンピオン。

 

 黒騎士ことダイバー名“ハーゼ”に怯え去っていくダイバーをたち見やり、彼は苦笑を浮かべ肩をすくめた。

 原因であるハーゼの方はと言えば、特に何を言うでもなく、キョウヤを前に立っているが、彼を前に無言でただ立っているなどハーゼぐらいのものだろう。

 

「君が参加すると知っていたならもっと多くの上位ランクダイバーも参加しただろうに、相変わらず神出鬼没だな。久しぶりに私の相手もしてもらいたいところだよ」

 

 爽やかな笑みを浮かべてそう言う彼に、何を返すわけでもないハーゼであるが、キョウヤは慣れた様子であった。

 次いでなにか話そうとしたものの、突如、キョウヤを呼ぶ声が聞こえる。

 ハーゼが僅かに反応をすれば、キョウヤは片腕を上げてそれに応えた。会話がなくても伝わるものがあるのか、ハーゼは少しだけ首を縦に振るとそのままキョウヤに背を向けて去って行く。

 残されたキョウヤはなんとも言えぬ表情で笑みを浮かべ、頭を左右に振る。

 

 彼が振り返れば、そこにはGBN内ではもはや知らぬ者のいないダイバーがいた。

 

「やぁリク君、サラ君」

 

 ダイバー『リク』───フォース『ビルドダイバーズ』のリーダーであり、かつてGBN内で起こきた二つの大きな事件の解決に多大な貢献をし、かつ今のGBNの在り様に良い意味で影響を与えた者だ。

 サラもまた、二つの事件に大きく関わった者であるが、その立場は複雑である。

 

 彼と“サラ”に笑顔を向けるキョウヤは、さらにその背後に二人のダイバーがいることに気づく。

 人狼と人狐、二人のダイバー。トライファングの異名を持つ『タイガーウルフ』と、GBN内で1、2を争うガンプラビルダーである『シャフリヤール』だ。

 チャンピオンと黒騎士ハーゼが一緒にいたことだけでも十分ざわつく要因になるというのに、そんな集まりを目にすればさらに周囲は注目もしよう。

 

 去っていくハーゼを見て、タイガーウルフが溜息をつく。

 

「相変わらず薄気味悪いヤローだぜ」

「無駄に吠える犬よりは寡黙で良いじゃないか」

「んだとぉ!?」

 

 タイガーウルフとシャフリヤールの“いつもの”が始まろうとするが、“いつもの”なので特に気にする様子のないリクとキョウヤとサラ。

 ふと、サラがリクの手を取り、ハーゼの背に視線を向けていた。

 それに気づいたリクが不思議そうに小首を傾げるのだが、サラは変わらず、歩いていく異質なダイバーを見つめるのみ。

 

「あの人、なんだか……」

「サラ?」

 

 

 

 

 夜の空をキハールリッターが往く。

 独特の形状をしたMA形態は、本来のキハールⅡとはやはり細部が違っており、後部の二本のスタビライザーは途中から実体剣になっているし、下部にマウントしているコンポジット・シールド・ブースターは本来と違い、本体とぴったりと密着する形になっているようだ。

 周囲に機影やダイバーがいないことを確認するなり、キハールリッターは空中で可変し、自由落下を始める。

 

 落下しながら、突如キハールリッターはキハールⅡユニットをパージ

 腕部ラージシールド、肩部熱核ジェットエンジン、胸部装甲、通信ユニット、片刃実体剣二本、コンポジット・シールド・ブースター、そして最後に、頭部バイザーが落下しながら、地上へと衝突する前にはデータとなって消滅していく。

 追加装備がすべてパージされれば、中から現れるのは勿論『ウーンドウォート』である───が、脚部が黒だったように、その機体カラー等は僅かに違う。

 脚部と胴体部分が漆黒で、腕部と頭部、背部ブーストポッドは白だ。

 

 バーニアを吹かし、そっと地上───ヤナギランの群生地へと降りて膝をつくウーンドウォート。

 

 その頭頂部に、ピョコリと展開される二本の黒いウサ耳(アンテナ)

 

「ふぅ」

 

 ハーゼはその黒い鎧の奥で息をつき機体を操作すると、“わざわざ仕込まれたコックピットの開閉機能”を使い、ウーンドウォートの胸部ハッチから飛び出す。

 ふわり、と音がしそうなほどにかろやかに降り、その黒いマントがたなびく。

 背後でハッチが閉じると、ハーゼは振り返るなり鎧を“脱いで”いく。

 

 落ちていく鎧のパーツが、ヤナギランの花を潰すこともなく次々とデータとなって消失していき……。

 

「んー……っ!」

 

 解放感に溢れた声を出しながら、“彼女”は大きく背を伸ばし……最後、頭頂部に“ウサギ耳のカチューシャ”を取り付けた。

 それは、膝立ちしているウーンドウォートと同じようなシルエットで、その服装の色すらもシンクロしていた。

 

 GBNには数多くのダイバーたちがいる……だが、誰も思わないだろう。

 

 かの黒騎士の中に───“バニーガール”が入っているなど。

 

 赤い瞳が開かれ、腰ほどまである黒い長髪が舞い、身長設定180センチからくりだされる凹凸のしっかりついた身体にバニースーツは年齢制限に引っかかりかねない“ナニカ”を感じさせる。

 

「えへへっ、今日は撮影会ですよぉ、“レプス”ちゃんっ♪」

 

 彼女は気の抜けるようなデレッとした笑みを浮かべると、宙にモニターを展開して“撮影会”のための準備をしていく。

 バニーガール姿のハーゼを見た後であれば、そのウーンドウォートも“バニーガール”であることが伺えるだろう。

 黒騎士ハーゼの誰も知らぬ姿……否、一人を除く。

 

「キョウヤくんには悪いことしちゃったなぁ、いやでもあんな輝きショタとか有名人たちとなぁ……」

 

 寡黙で孤高な黒騎士ハーゼ。否、コミュ症で孤独なウサギハーゼは、どんよりした雰囲気で顔を顰める。

 

「ま、まぁ話があるならリアルの方で連絡してくるでしょ」

 

 そう呟きながら、カメラ機能を使い、宙にカメラをセッティング。

 

 彼女はヤナギラン畑の中───撮影を開始した。

 

 

 

 深夜のフィールドで行われる“ハーゼ(バニーガール)”と“ウーンドレプス(バニーガール)”のスクショタイム(撮影会)

 黒騎士と呼ばれるダイバーであるのが嘘のようににこやかに、ウーンドウォートのポーズを変え、自身のポーズを変えて撮影を続けるハーゼ。

 それが彼女のGBNでの楽しみ方の一つであるから、やはり『ガンプラは自由だ』の名言然り『GBNは自由』なのだろう。

 

 人それぞれの『好き』を体現する世界なのだから、そういうものだ。

 

 それが押し込められていたものであれば猶更……。

 

 まぁしかし、セルフで押し込め過ぎた結果が“コレ”である。

 

「お、終わったぁぁぁ!」

 

 バニーガールが“月に吠える”。

 抑圧された欲望を解放しすぎて周囲が見えなくなった結果、金髪の少女にまんまと現場を見られてしまった……だが、別に終わりではない。

 ハッとそれに気づいたハーゼ。

 

 そう、別に“黒騎士ハーゼ”だとバレなければそれで良いではないか。

 

「黒騎士、ハーゼ……」

「バレてらぁっ!」

 

 愚痴やらが混ざった独り言を零しながら撮影をしていたのがよろしくなかった。

 金髪の、青と白のドレスを揺らす少女を前に、ハーゼは手足を地について絶望する……いやしかし、まだだ。

 

「そうだ。だ、誰がこんな女を黒騎士だと信じるのさ! ……にしても自分で黒騎士って言うの恥ずぃなぁ」

 

 勢いよく立ち上がったハーゼが、頬を引きつらせながら頷く。

 両手を胸の下あたりで組んで数度頷くハーゼが、チラリと少女の方を向いてみれば少女はカメラを起動していた。

 抗議の声を上げるより早く、少女はハーゼとウーンドウォートの写真を撮る。

 

「よし」

「なにがヨシ!?」

 

 思わず大ツッコミを入れるが、金髪の少女は構わぬ様子で笑みを浮かべていた。

 

「貴女のガンプラ、嬉しいって」

「……へ?」

「貴女と写真を撮るの、好きみたい」

 

 その言葉に、知識としてある“ソレ”が合致する。

 GBN全体を巻き込んだ“あの事件”から早一年、すっかりダイバーたちに存在を周知されているGBNのシステムが生み出した電子生命体。

 

「ELダイバー……?」

「えるだいばー?」

 

 ロビーで会った少女“サラ”もそうだ。GBNで確認された初めてのELダイバーが彼女である。

 今でこそ、極端に珍しくもないELダイバーではあるが、当初は色々とあったものだと、ハーゼはどこかしみじみとした様子で思い出す。

 ヤナギラン群生地の中、腕を組んで浸っているバニースーツの女と、不思議そうに首を傾げるELダイバーである少女。

 

 その光景はシュールである。

 

「絶対そうだよね……え、ってか生まれたばっか? ということは、え、えっと、ELバースセンター、だったかに連れていかなきゃなんだっけ、え、てか私が連れてくの? い、いやぁそれはちょっと、いやでも放っておくとバグが、とかいう話で……また有志連合がとかなったら大変だし……」

「おねーさん?」

「てかELダイバーだったとしたら、この私が黒騎士の中身だって信憑性が高まっちゃうし……てか中身バレるとしたって一番最初にお出しされるのがバニーガール姿って最悪じゃぁないですか!」

 

 立ったまま両手を頭に当てて苦悩するハーゼ。

 

「おね~さ~ん?」

「も、もう一回写真撮影してもらってから身バレしてもらうように……いやてか、今更こんなんですって身バレもしずらいっ」

「おねーさ……」

「す、素直にここは、な、なんとか黙っててもらって……!」

 

 むにっ、と音がした───気がした。

 

 本来のGBNの仕様で“それ”ができるのか、なんてハーゼが知るわけもない。大体にして接触する相手もおらず、話す相手といえばクジョウ・キョウヤぐらいで、彼がそう易々と身体を触ってくるわけもないのだから、そういうことである。

 なにはともあれ、つまり……ELダイバーの少女の手は、ハーゼの胸を鷲掴みにしていたわけだ。

 

「ひ……ひゃぁぁっ!!?」

 

 驚愕しながら、自身の体を抱いて後ろに飛び退く。

 顔を真っ赤にして赤い瞳を潤ませながら、驚愕の表情で少女を見やるハーゼへと、ELダイバーの少女は近づく。

 ヤナギランの花園の中、少女は先の行いは何かの間違いだったのではないかと思わせるまでの、純粋で眩い笑顔を浮かべた。

 

「いいよ、おねーさん」

「……へ?」

「内緒にすればいいんだよね。おねーさんがその……黒騎士? っていうのをさ」

 

 ハーゼはホッと息を吐いた。

 なんだ話がわかるじゃないかと、ならばELダイバーたる彼女をELバースセンターに連れて行くのだってやぶさかではないし、なんなら望むところである。

 だからこそ自らを抱く手をそっと下ろして立つ。

 

「ELダイバーは生まれた時の知識や性格に個体差があるって言うし、そうだよね。うんうん……しっかり話せばわかり合えるんだよ。対話は大事、“刹那・F・セイエイ(せっさん)”もそう言ってた」

「その代わりね」

 

 意外、それは対価の要求。

 少しばかり驚くハーゼではあるが、仕方もあるまい。拒否権などないのだ。

 

「……しばらく私と遊んでよ。おねーさん♪」

「あ、えっと、まぁ……その、それくらい、なら」

「やったぁ♪」

 

 生まれたときは赤ん坊、なんて聞くがそうでも無いんだなと、ハーゼは目の前の無邪気なELダイバーの少女を見て微笑を浮かべる。

 少女はそんなハーゼを見て少しばかり目を見開くも、すぐに不思議そうに小首を傾げた。

 

 なにはともあれ、状況の落ち着きは見えて、ハーゼは安心した様子でこれ以上、人の目に触れる前に鎧を着こもうと宙にウィンドウを開く。

 

「あ、その前に……えっと、名前とかって……」

「そっか、おねーさんはハーゼだったよね。可愛い名前だね」

「かわっ……!?」

 

 再度、顔を赤くして後ずさるのは、言われ慣れてないからだ。

 

「私は“アリス”」

「アリス……?」

 

 ELダイバー、アリス───“うさぎ(ハーゼ)”と出会うにしては、ずいぶんおあつらえ向けの名前であろう。

 そういう運命だったのか、それとも必然か……。

 

 無邪気な笑みを浮かべるアリスに、ハーゼも気恥ずかしそうに笑顔を向けた。

 

 なんてことはない、ただのダイバーとELダイバーの出会いである。

 

 

 そして“くろうさぎ”は、“不思議の国の少女(アリス)”によって、“未知なる世界と出会い(不思議の国)”へと導かれる。

 

 




あとがき

ビルドメタバースを見た勢いで温めていたものをお出ししました
一話はずいぶん長くなってしまいましたが、次回以降はそれほど文字数も多くならない予定です
それとビルドダイバーリゼなども読んではいますが、おかしなとこあれば教えてください

あらすじでも書いてますが、オリキャラとガンプラは、どうぞお使いください
一報いただければ読みに行けるので幸いです

では、次回もお楽しみいただければと思います
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