バニーガールはガンプラバトルの夢をみない-ガンダムビルドダイバーズIN:LE-   作:樽薫る

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ep03「シャル・ウィ・ガンプラ」

 病院の待合室のような場所に、ELダイバー『アリス』は座っていた。

 

 両足を揃えてしっかりと座る十代前半ほどの容姿をしたアリスの隣に───黒い鎧。

 

 ダイバー『ハーゼ』こと黒騎士である。

 

 その光景は、端的に言えば『クソコラみたいなシュールさ』であり、実際にそれを見た者あれば異様さに戦慄することは想像に難くない。

 

「ハーゼさん、アリスさん、どうぞ」

 

 奥の部屋から現れた女性の呼び出しに応じ立ち上がるハーゼと、それを見て同じく立ち上がったアリスが案内のままに歩き出す。

 少しばかり待たされたものの、誰かが来る前にことが進んで一安心、とハーゼは内心でホッと息をつく。

 

 ここは『ELバースセンター』と呼ばれるGBN公式の施設。

 誕生したELダイバーは、GBNのシステムのためにも、まずそこで『登録』をする必要があるのだ。

 ハーゼもそれほど詳しく理解しているわけではないが、現状のGBNでの常識的な知識なのだからある程度調べはした。

 通された部屋に入ると、そこには……。

 

「ボール……」

「ちょっとおしいなぁ」

 

 小声でそうツッコミを入れるハーゼの視線の先には───紫色の『ハロ』がいた。

 

「……ハロ」

「ん、ハロ……ハロね!」

 

 ───サイコハロっぽいけどね。

 

 目付きの悪い紫色のハロを見ながらアリスが笑顔を浮かべていると、紫色のハロは頭部から出した手を使って頭頂部を僅かに掻く動作を見せる。

 ダイバーの容姿、つまりダイバールックは多種多様なカスタマイズも可能であるが、そういう姿を取る者も中にはいた。

 しかしてハロと言えば仮登録ダイバーの証のようなもので、中々どうしてそれを選択する者は少ない。

 

「で、そっちの女がELダイバーか……鎧はELダイバーにしちゃって感じだしな」

 

 粗暴な口調だが、気にする様子もなくアリスは首を傾げた。

 

「私がELダイバーっていうのみたいだよ。えっと、ハロ、さん?」

「アンシュだ。で、黒いのは後見人、保護者ってことでいいのか?」

 

 ───え、ちょっとお待ちになって!?

 

 なんとかしようと試みるハーゼではあったが、悲しいかな言葉が出てこないし手も上がらない。

 焦りに焦ったコミュ症は思考回路がショート寸前、今すぐ逃げ出したいという感情しかなかった。

 だが無情、アリスは黒騎士の手を取り、満面の笑みで頷く。

 

「うん!」

「そんじゃそんな感じで」

「ちょっとツカサ!」

 

 突如、ハロことアンシュ(ツカサ)を咎めるように、一人のダイバーが部屋へと入ってきた。

 それを見て、アリスが握っていたハーゼの手の力が、少し強まる。

 

「ひゅっ……」

「おねーさん?」

 

 ───び、ビルドダイバーズのコーイチ!?

 

 フォース『ビルドダイバーズ』のメンバーの一人であり、シャフリヤールも認める超一流ビルダー。

 有志連合戦を第一次、第二次、共にに参加していた者としては思うところがあって当然である。

 

 まぁどちらにしろ有名人を目の前にして、緊張しないわけのない“コミュ症(ハーゼ)”だが……。

 

「君は本当にテキトーに……!」

「あぁ? 別にいいだろ、ELダイバーの方もそれを望んでんだから、それにわざわざ見つけてここに連れてきてて、ELダイバーも懐いてんだ」

「だとしても……ほら、都合がつかない人だって……」

 

 そう言いながらコーイチはアリスと黒騎士を交互に見やって、緊張したように硬い笑顔を浮かべた。

 一見すれば大男と少女、鉄板の組み合わせであるのだが、その大男側ことハーゼを知っている者であれば、その光景の異様さが際立つ。

 

「ほ、本物の『黒騎士』だ……」

「多少は有名人らしいな」

「多少なんてもんじゃないよ! ネームバリューで言えばチャンピオンやロンメルさんに次ぐほどの有名人だよ! ただあまりに謎な部分が多いし無口でソロだから、あまり情報とかはないけど……ってすみません!」

 

 ついつい本人を前に喋りすぎたことに焦るコーイチではあったが、黒騎士は首を横に振るのみ。

 言葉で返せないのはいつものことなのだが、今回は少し違った。そして、アリスはんとなくそれを察する。

 嬉しそうだなー、などと呑気に思うアリスの横の黒鎧は……。

 

 ───へへっ、えへへっ、ま、まさかコーイチさんにそんな風に言ってもらえるとはっ、えへへっ。

 

 内心は満更でもなかった。

 

「えっと、僕がアリスさんの担当を任されたコーイチです」

 

 そんな自己紹介に、アリスがハーゼを見れば、ハーゼは何かを喋ればボロが出ると思ったのだろう。頷くのみである。

 返事にもなっていない返事だが、アリスはそれを理解したのかしてないのか、頷く。 

 

「アリスです。はじめまして」

「……おめでとう、アリスさん。ようこそこの世界へ」

 

 温かい言葉に、アリスはパァッ、と笑顔を浮かべる。

 隣で見ていたハーゼも、そんな彼女を見て思うところがないわけもなく、胸の奥に温かいなにかを感じたのは、否定しようのない真実。面倒事に巻き込まれたのも、見られてはならないところを見られたものも然り……。

 だが、少女の“命ある”笑顔を見て、有志連合戦に参加し『リク』と『サラ』を見た者として放っておけるわけもないぐらいには、彼女は“常人”であった。

 

 だからこそ、流されて同意もしてしまう。

 

 ───せめて一人前になるまでは、面倒見なきゃね。私が……。

 

 

 

 その後、コーイチから『ELダイバー』と『ビルドデカール』についての説明がなされる。

 ELダイバーをそのままにしておくことでのGBNへの影響。それを防ぐため、ビルドデカールを装着した“ガンプラのボディ(モビルドール)”を用意し、ELダイバーをGBNから独立、現実世界に送らねばならないこと、それにあたって後見人(保護者)が必要なこと……等々だ。

 

 あれやこれやと進んでいき、後見人の方はハーゼということになり、彼女もそれを受け入れた。

 

「で、モビルドールについてなんだけど」

「現実世界で、暮らす姿だよね?」

 

 喜び冷めやらぬと言った様子のアリスが、ハーゼの黒い鎧に抱き着いたままコーイチを見て首を傾げる。

 ハーゼはハーゼで、なぜここまでアリスに懐かれているのかわからないものの、とりあえず黙ったまま成り行きを見守ることにした。

 コーイチが空中にモニターを表示させると、そこには“人に寄せられたガンプラ”。

 

「これがモビルドール……あくまで例で、実際に使うものはもっとアリスさんの姿に合わせた姿を用意するから、安心してね」

「ん~……違うガンプラでもいい?」

「えっ、ま、まぁ大丈夫だけど……」

 

 コーイチが困惑する様子を見せるが、そりゃそうだ。とハーゼは内心で納得する。

 ELダイバーをモビルドールに移さないわけにもいかない。でなければまた一年前の“第二次有志連合戦”どころではなくなる。だからこそ、“違うガンプラで良いか”という質問には一安心した。

 ハーゼがアリスを見れば、件の少女は別に気にした様子もなく、こちらを向いている。

 

 だが、その笑顔にどこか嫌な予感を感じるのも事実。

 

「私、おねーさんが作ったガンプラが良い!」

「えぇっ!?」

 

 声を上げたのはハーゼではなく、コーイチである。

 ハーゼに関しては声を上げる余裕もないほど驚いていた。

 ちなみに、別に後見人がモビルドールを作ってあげるということも少なくはないのだが、コーイチが驚いているのはそっちではない。

 

「は、ハーゼさんって本当に女性なんですか……」

「あ~……」

 

 普通ならば『失礼な!』と言うところだが、ハーゼはその限りではない。むしろ『でしょうね』と言うところだ。

 アンシュが少しばかり気まずそうな声を出したのは先ほど『大男』と言ったことを、地味に気にしたのだろう。

 

 そして一方のハーゼは我に返ってから思考する。

 所謂“美少女プラモデル(美プラ)”というのをハーゼとて嗜んではいるのでモビルドールを作ることは理論的に不可能ではないのだが、アリスを再現しようと思うとその労力は尋常ではないだろう。

 それでも、彼女の面倒を見ようと思ったのは事実だし、先ほどの笑顔が頭から離れないのも事実。

 

 だからこそ、頷く。

 

「ねぇ……おねーさん、脱いでくれたり、する?」

 

 ───えっ!?

 

「えっ!?」

 

 コーイチの声とハーゼの心の声がシンクロする。

 アリスは眉を顰めてどこか不安そうな表情で、ハーゼを見上げていた。

 

「それを着たんじゃなくて、ちゃんと顔、合わせて……お礼、言いたいなって」

 

 そもそもダイバールックに着るもなにもないのだが、そういう表現をするのは実に“生身の人間”らしいことであった。

 実際、彼女にとってGBNは生まれ落ちた“現実(リアル)”であり、ダイバーたちは“ヒト”なのだ。

 

「あ、そういえば内緒って言ってたんだった。ダメ、だよね……」

 

 小声でそういうアリスを前に、ハーゼは思わず首を横に振る。

 

「いい……」

「え、いいの!? やったぁ!」

 

 小声で答えたハーゼに、アリスは再度、眩いばかりの笑顔を見せる。

 ついつい頷いてしまったことに後悔しかけていたハーゼであったが、そんな顔をされてしまっては今更に拒否権を発動することもできない。

 コーイチとアンシュがいることに関しては、もはや諦める他ないだろう。

 

「ほう、鎧の中身が見れんのか」

 

 先ほどから共にいて、二人がベラベラと第三者にそれを風潮するとも思えないし、まぁ今後世話になる可能性も無きにしもあらず。

 アリスには黒騎士の中身を内緒にしていてほしいと言ったが、構わないだろう。

 むしろこのまま話さないでいるわけにもいかないのだから、姿を見せた方が自身も離しやすくなる可能性もある。

 

 別にハーゼも今の『黒騎士』像に満足しているわけでも、それを続けたいわけでもないのだが……いかんせん、こうまでなって戻れない感があるのだ。

 へたに有名になってしまったものだから、叩かれるのも怖い。

 

 それと、隠していた理由はもう一つあるのだが……あまり言いたくもないことだ。

 

「おねーさん……」

 

 選択肢としては二人に退室してもらうというものもあったが、今更である。

 

 ───え~、なんか良い服あったかなぁ、買ってないんだよなぁ“撮影用”以外って……。

 

 ダイバールックは、容姿そのものからガラッと変えるものから、容姿はそのままに服だけのものがある。

 入手方法でいえばミッションをクリアしたり、イベントの景品だったりとするのだが、ハーゼは“撮影用”の服と、他は鎧ぐらいしか買っていないので選択肢が無いに等しい。

 先のバニースーツ然り、撮影用のものはいかんせん第三者の前に立つには……鎧を脱いで現れるにはあまりにあんまりである。

 

 メニュー画面を表示させると、ダイバールックのメニューを見やり、心の中で大きく唸る。

 こんなことなら今までのミッションなどで手に入れた服を“GBN内のオークション”などで売るのではなかったと……。

 ともあれ、その項目の中に、見慣れないものを見つける。

 

 ───あ、これって前の変則バトルロイヤルの景品……まぁ、これなら普通そう。

 

 それをタッチするなり、ハーゼの纏っていた黒い鎧が消滅する。

 脱ぐということも可能なのだが、今回に至っては別の方式を取り、データの粒子の中から現れるのは、黒い長髪の女。

 

「なぁっ!?」

 

 腰ほどまでの黒い髪を靡かせるハーゼの服装は、白いブラウスと黒いハウウエストスカート、膝丈ほどのスカートの下から伸びる脚には黒いストッキング、そして靴は編み込みブーツ。

 その“お清楚”さは、所謂特定の“誰かを殺す”ものである。特定の誰か、からすれば『お前を殺す』と言われるというより、『お前はもう死んでいる』だ。

 ふわっと浮いたスカートが重力に従い落ちると、ハーゼはその赤い瞳を開く。

 

 そして、もちろん固まる“特定の誰か(コーイチとアンシュ)”。

 

 ハーゼが参加した“あのバトルロイヤル”の参加者が多かった理由がこれでよくわかる。目当てはこれだ。

 

 ほぼ初めてと言っていいだろう。鎧を脱いだ姿を誰かの前で晒すのは……。

 だからこそ、気恥ずかしそうに顔を赤く染めて、両手を胸の前でもじもじとさせつつ、目を泳がせながら、ハーゼはアリスを見下ろす。

 羞恥からか少し猫背になっていようと、“身長180センチ”では他人を見上げることなどそうはない。

 

「こ、これで、いい……?」

「おねーさま……!」

 

 嬉しそうに笑顔を浮かべるアリスを見て、ハーゼも少しばかりだがぎこちない笑顔を見せた。

 

 一方、アンシュはハッと我に返ると隣のコーイチへと視線を向ける。

 コーイチは、顔を赤くしながら口をあんぐりと開けて惚けていた。もちろんアンシュはコーイチがそういうところがあるを理解しているので、即座に動く。

 ハロの体で跳びあがると同時に、コーイチの目を塞いだ。

 

「見るなコーイチ! 可能性に殺されるぞ!」

 

 可能性というか『○○を殺す服』に殺される。所謂特効と言うやつである。

 

 そんな仲睦まじい“親友”を置いて、アリスはハーゼの手を掴んで少しばかり屈ませた。

 身長差は20センチほど、アリスの頭頂部の位置はハーゼの肩ほどなので、かなり腰を落とす形にはなるのだが、構わぬ様子でハーゼはアリスを見ていると、彼女は笑顔のまま、ハーゼの頬に両手を添えて、自らの額を彼女の額に合わせる。

 突如、至近距離にまで接近した美少女にハーゼは困惑し顔を真っ赤に染めるも、アリスは悪戯っぽい笑みを浮かべるのみだ。

 

「えへへっ、おねーさん……ありがとう」

「ぁっ、うっ、えっ……わわっ、え、えとっ……」

 

 狼狽えて、言葉の出ないハーゼを置いて、アリスはそっと額を離す。

 

「おねーさん、大丈夫?」

 

 再度悪戯っぽく笑うアリスを前に、ハーゼはドキリと一際大きな鼓動を感じ、焦る。

 

「だだ、だ、だいじょっ、大丈夫っ、ですっ……」

「ふふっ、なんで敬語なの?」

「い、いやっ、そのっ……すーはー、すーはー」

 

 焦りながらも、深呼吸で落ち着こうとするハーゼを前に、アリスが一歩離れ……ペコリと礼。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします。おねーさん♪」

 

「その……こ、こちらこそ、よろしくお願いね。あ……アリスっ」

 

 名を呼ばれると……アリスは満面の笑みを浮かべた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 数日後、ハーゼとアリスは“格納庫”に立っていた。

 いつも通り、黒い鎧を纏うハーゼがどういう感情を今抱いているのかは外観からはわからないが、アリスが握る手には若干の力が籠っている。

 緊張した様子をそれで悟って、笑みを浮かべたアリスは隣にいるコーイチとアンシュへと視線を向けた。

 

「どう?」

「うん、いいよ。アリスさん」

 

 そう言い、コーイチが宙に浮いたパネルをタッチ。

 それと共に、アリスの周囲に文字が浮かび上がり、その体もまた浮いていく。

 名残惜しそうに手を離すハーゼとアリス。

 

「大丈夫だよおねーさま。おねーさまの作ったガンプラなんだから」

 

 その不安を悟ったのか、笑顔を向けてそういうアリスに、ハーゼは静かに頷いた。

 

 アリスの前にあるガンプラは、TR-6[ウーンドウォート]を元に改造された『キハールリッター』とはまた別のガンプラだ。

 そしてそれは、別にあの日から数日で完成させたわけではない。元々作っていた機体を、アリス用として改造しなおした機体が、目の前の<ルーンドウォート:アリスシフト>なのだ。

 

 元の機体はハーゼが個人的に作成していたSDガンダムに登場する『侍従騎士(サーヴァントナイト)ウーンドウォート』、それのHGサイズ、つまりリアル体系のものである。

 どういったモビルドールにするかの相談の際、サンプル程度に見せたハーゼのガンプラの中から、アリスがやけに気に入ったのがソレだった。

 

 おかげで、当初は一から作る気であったハーゼだったが、そのまま各部を手直し、色をアリスに寄せ、一週間足らずで完成にこぎつけられた。

 水色と白で形成されたボディ、そして金色の髪。それはアリスの容姿と同じ色だ。

 

 アリスシフトとアリスが、徐々に近づいていく。

 

「おねーさま!」

 

 ふと見下ろせば、ハーゼは鎧の兜を取って、その黒い髪をなびかせながらアリスを見上げた。

 ハーゼの赤い瞳と、アリスの青い瞳が交差する。

 ほんの僅かだが、アリスは彼女の口元が綻ぶのを見た。

 

 少し驚いた表情を浮かべるも、アリスはすぐに笑みを浮かべ───新たな体と一つになる。

 

 

「おはよう、アリス……」

 

 

 そしてアリスは、不思議の国へと誘う“ハーゼ(うさぎ)”の声が聞いた。

 

 眩い世界、彼女は彼女の部屋にて覚醒する。

 

 

「ようこそ、“不思議の国(リアル)”へ……」

 

 

「……部屋、散らかりすぎ」

 

「うぇ!?」

 

 




あとがき

色々と状況を整えたのでようやく色々と自由に動きだせます

アリスというELダイバー、ガンダムと言えば他にもアリスがあるので
そこらもいずれ……

では、次回もお楽しみいただければです
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