バニーガールはガンプラバトルの夢をみない-ガンダムビルドダイバーズIN:LE- 作:樽薫る
ep06「再会、他人よ」
多種多様なダイバールックがあるが、それでもハーゼのその恰好は異様である。
GBNのサービス開始当初のイベント報酬であるその鎧を着ているということもそうだが、その黒い鎧はあまりにも有名になりすぎた。
───めっちゃみられてる……。
黒い鎧、ハーゼは疲弊していた。
別に注目を浴びるというのも珍しくはないし、慣れていて然るべきなのだが……彼女がそんなものに慣れるわけもないのだ。
いつもならば注目を浴びるのが必至なので早々にミッションを受けて離れるのだが、今回はそうはいかない理由があった。
故に、こうして彼女が立っているが、それもまた珍しいのでさらに注視する者は増える一方。
「待つ、んだよ、ね……?」
隣の“アリス”にしか聞こえぬような、その容姿に似合わぬか細い声でハーゼはぼやくが、アリスはと言えば別におかしなことはないという風に頷いた。
180㎝を超える長身の黒い鎧はただそこに立っているだけだがそれだけで十二分に人目を集めるし、彼女を知る者たちにとってはその存在そのものが凄まじい圧である。
故に多くのダイバーは近寄ることもしない……だがアリスは、それから滲み出る『不安』を強く感じていた。
「大丈夫だよおねーさま、“お姉ちゃん”に会うだけなんだから」
「そ、それが大丈夫じゃないっていうか、い、一緒にいる人がその……び、ビッグすぎるっていうか……」
あの連戦ミッション一週間が経ったが、アリスとしてはハーゼの知名度をふつふつとその身で感じていることもあり、なぜ彼女が“同じ有名人”に会うことにそれほど緊張するのかわからないでいた。
これよりアリスが会って話をしてみたいと思う相手、第一のELダイバー『サラ』と、ダイバー『リク』はかなり有名であるダイバーであることはアリスとて理解しているが、知名度で言えばハーゼも負けてはいないはずだと、贔屓目なしでそう思っている。
「……むしろ、おねーさまの方が緊張されるタイプじゃない?」
「そ、それとこれとは別問題、じゃないかなぁ……」
やはり細々とした声でそう返しても、周囲の誰も気づきはしない。
「黒騎士ハーゼ、少女とつるみだしたって噂はホントだったのか……」
「確かELダイバーらしいぞ」
「ELダイバーと黒騎士の組み合わせとかおもしろすぎだろ」
ハーゼとアリスを見ながらこそこそと話をするダイバーたちだが、ハーゼとアリスの耳にそれが入ることもなさそうである。
ELダイバーが徐々に珍しくもなくなっているのは確かではあるが、やはりハーゼと、ともなれば事情は変わるのだろう。
そしてここからさらに、周囲のダイバーたちがざわつく展開が起こる。
「あ、きたよおねーさま……!」
「う、うん……」
嬉々としたアリスの声に合わせて、彼女の視線の先にハーゼが目を向ければ、アリスの会いたかった人物こと『サラ』と『リク』の二人がログインしてきているのが見えた。
件の二人はまだハーゼに気づいていないようだったが、アリスがハーゼの左手を掴みそちらへ近づいていけば、周囲の異様な雰囲気にすぐに気づいたようで視線が合う。
その場にいたダイバーたちは気づいた。黒騎士がリクの元へと向かっているのを……正確には『アリス』が『サラ』へと向かっているのだが、ダイバーたちはそれどころではない。
「り、リクと黒騎士が!?」
「え、えらいことや……戦争じゃ……!」
「ああ、空が落ちる……!」
ELダイバー二人が揃っているのだから“平和的”な会話になること必至にも関わらず、ダイバーたちはかの黒騎士とリクが一触即発なのではないかと邪推を始める。
いや、まぁ黒騎士の噂が物々しいものばかりなのでそうなるのも仕方ないといえば仕方ないのだが……真っ当なバトルならともかく“戦争”ともなろうものならば10:0の割合でリクが勝つだろう。これがコミュ力の差である。
ともあれ、リクとサラ、そして残り四名の『ビルドダイバーズ』たちの前に、ハーゼとアリスは立つ。
───えっ、他のビルドダイバーズもいるとか聞いてないんですが!?
だがこの場でサラ一人の時にしようなどと言おうものならば、周囲からは闇討ちを疑われることだろう。そんなことシステム上、ほぼ不可能だが……。
焦るハーゼを余所に、アリスはサラを前に笑顔を浮かべた。
忍者風ダイバールックの少女は腕を組んで冷静にしていて、コーイチは少しばかり顔を赤くしている。
そしてその他二人は慄いていた。
「こんにちは、おねーちゃん!」
「あっ、コーイチの言ってた……アリス……?」
ハーゼと繋いでいた手を離して、挨拶を交わすアリス。
少しばかりキョトンとしていたサラだったが、彼女の口から自らの名前で出た瞬間、アリスはパァッと笑顔を浮かべる。
それを横から見やり、ハーゼも鎧の中で少しばかりの笑みを浮かべた。
「うんっ! 私がアリスだよっ! 本当はもっと早くにご挨拶したかったんだけど……」
「事情があるって、コーイチとツカ……アンシュから聞いたよ」
サラの返答に、ハーゼは思わず視線を逸らす。全面的にハーゼの事情であった故に。
「ハーゼさんが後見人になってくれるって聞いて、俺も安心しましたよ」
リクの言葉に、ハーゼは返答が上手く思いつかずに───頷く。
「キョウヤさんも信頼できるって言ってましたし、コーイチさんも」
「え、あ、うん、そうだね。か……彼女は信頼できる相手だよ」
そう言って笑うコーイチの顔を、桃色の髪の少女が覗き込む。
「なんで顔赤いんです?」
「い、いやぁっ!? べべ、別にぃ!?」
動揺するコーイチを余所に……否、そもそもハーゼはそちらを気にする余裕などありはしないのだ。
GBNで散々とコミュニケーションを取ってこなかった弊害は凄まじいようで、まだ現実世界の方が上手く会話できるな、とハーゼは自分を呪った。
視線をリクから逸らすと、忍者の少女こと『アヤメ』と目が合う。向こうが視線が合ったと認識しているかはともかく……。
「というより、本当に女性なのね」
コーイチの『彼女』という言葉に反応したのだろう。
それを聞いて、ハーゼは頷いて対応する。
今喋ったら絶対に“どもる”し“噛む”し“変な声”が出かねないという判断の元、ならば最初から喋ろうとせずに肯定か否定だけを頭を振って答えればいい。
それがGBNでの彼女のスタイルである。
───なんて冷静で的確な判断力なんだ! 私!
結果として、そんなだからかなり変な噂がふりまかれたのだが……。
「え、女の人!? うわぁ! 今度女子会やりましょうよ女子会!」
桃色の髪の少女『モモ』が、えげつない距離感でニコニコしながら詰め寄る。
とても良いことなのだが、ハーゼに対しては劇物と言う他なく、そのようなぶっこみをされて耐えられるわけもない。
身じろぎ一つすらしないが、頭の中が真っ白になっているのでそりゃそうである。
「あー……」
「アリス、どうしたの……?」
横のハーゼを見ながらなんとも言えない表情をしたアリスに、サラが首を傾げた。
「ううん、なんでもないよおねーちゃん」
ELダイバーは姉妹兄弟というより同胞である。だからこそ、別に後から生まれたものが妹や弟、というわけでもないのだが、サラは特に気にしない様子だった。
アリスはハーゼの左手を取る。
外面ではわからないようにハッと我に返ったハーゼはアリスへと視線を向けた。
───あ~いてくれて助かるぅ……。
心の中でホッと息をつくと、アリスが握る手に少しばかり力を込める。
「アリスとハーゼは仲良しなんだね」
サラのそんな言葉に、アリスは心底嬉しそうに、さらに眩い笑顔を浮かべた。
「うん、私とおねーさまは仲良しなんだ♪」
事実そうではないが、“お姉さんらしく”落ち着いた笑顔を見せるサラ。
ハーゼはそんな彼女を見て、心の中で“あの戦いの結果”がこうで本当に良かったと、今再び実感する。
目の前でそんな人間らしいところを見てしまうと、キョウヤが迷っていた理由も……第二次有志連合戦でキョウヤが行ったことも、言ったことも理解してしまう。
それに、あの結果がなければこうしてアリスと出会うこともなかったろうから……。
少しばかりそういう気分に浸っていると、ふと目の前にいた頭が一つ分以上低い少年、リクからの視線に気づいた。
「……ハーゼさん」
そちらにしっかりと顔を向けて、聞いているという意を示す。
「たぶんハーゼさんは覚えてないと思うんですけど、昔あなたに助けられたことがあります」
───え、あのリクくんを助けたんですかわたし!? 恐れ多い!!
「だから……いつか、俺とバトルしてください!」
───なんも繋がらないじゃないですかヤダー!
だがダイバーでありファイターなのだか、その提案は当然のことであると、“
かつて助けてくれた相手、自分より圧倒的強者であったその者とバトルしたいというのは、純粋に戦いを楽しむ者たちにとっては当然で───その相手を超えるということは、素晴らしいことなのだ。
だからこその、“
ハーゼは混乱しながらも、素直に頷いて答えた。
「っ! ありがとうございます!」
嬉しそうなリク。一方のハーゼは『なんか恨み買ったかなぁ』などと思考する。
「ほら、行こうおねーさま」
アリスがハーゼの手を引いて、その場から去っていく。
残されたリクたちビルドダイバーズは振り返って手を振るアリスへと軽く手を振って返すものの、その姿が見えなくなってから、モモが突如大声を上げた。
「あー!!」
「わっ、ど、どうしたのさ!?」
眼鏡をかけた少年ダイバー『ユッキー』が驚き跳ねて聞くなり、モモが頭を抱える。
「忘れてた。ステアさんとカナリさん、フォース『アークエンジェルス』のみんなが黒騎士さんの大ファンって言ってた! フレンド登録でもしてもらっておけばよかったぁ! 女子会にも誘えたし!」
まぁ本当に言っていたとしてもハーゼがフレンド登録など……する。
相手から申請を受けて断る勇気などあるはずもない。
故にその一撃が決まっていれば、ハーゼは断ることもできずにズルズルと“
「なるほどね。でもまぁ、また会う機会だってあるでしょう? こうして交流できたのだから……」
「まぁ一言も喋ってなかったけどねぇ~?」
「そうそう……ってうわぁ、マギーさん!?」
再度、ユッキーが驚愕し跳ねる。
そこにいたのは筋肉質の男性型アバターのダイバー『マギー』であった。ランキング12位のフォース『アダムの林檎』のリーダーであり個人ランク23位……ちなみにハーゼは24位だ。
彼は頬に手を当て、女性らしい仕草でハーゼが去った方を見やる。
「……でもま、ちょっと雰囲気変わったみたいね」
「マギーさんは、ハーゼさんと喋ったことあるんですか?」
「ん~うんともすんともよ。なんとなく人柄は理解できたけど……過保護がねぇ」
悩ましげにそういうマギーを見て、ビルドダイバーズの面々は首をかしげた。
◇
月……を模したディメンション、その月面にハーゼとアリスは“生身”でいた。
GBNだからこそ可能なことだ。アリスはそこで再現された地球の1/6の重力を楽しんでいる。
背後にはキハールリッターが膝立ちの状態になっており、黒騎士ことハーゼは相変わらずの黒い鎧のまま、正面にモニターを出現させてインフォメーションを読んでいた。
ふと、彼女は気になるものを見つける。
「……タッグかぁ」
それは近々行われる大会らしく、バトルロイヤル形式で参加条件は
参加報酬も上位報酬も、上位ランカーたちがこぞって欲しがるものではないだろうが……ハーゼにとってそれは魅力的に思えた。それに生憎と、今の彼女にはその条件を満たすこともできる。
ならばやるしかあるまい。今更アリスに遠慮してなんとすると、ハーゼは決心を……。
「タッグって二人一組?」
「へひゃぁっ!?」
ビクッと跳ねる黒い鎧、それから出るのは情けない声。
振り返ればそこにはアリスがいて、彼女はハーゼの兜に手をかけるなり、ポンッとそれを外して放る。
ハーゼから離れるなり、兜はデータとなって消えた。
「どどど、どうして!?」
「さっきから声かけてるのにおねーさまったら聞いてないんだもん」
「ご、ごめん……」
素直に謝罪を入れつつ、アリスにも画面が見えるようにする。
「えっと、そ、その……」
「一緒に出ようよ! おねーさまとアリスならきっと勝てる!」
満面の笑顔を浮かべて言うアリスに、ハーゼは自分から誘おうと思っていたのにと思いつつも、彼女のそういう気遣いに感謝し、頷いた。
別に気遣いというより、ただ単純に共に出たいというだけかもしれないが、ハーゼにとっては十分にありがたいことなのだ。
アリスもまだGBN初心者だし、おそらく上位ランカーも出ないだろうこの戦いは丁度良いかもしれない。
それにハーゼは、トーナメント形式よりバトルロイヤル形式の方が好きなところがある。
「その……が、頑張ろうね……」
「……うん! おねーさま!」
・大会名【コンビネーションアサルトカップ】
参加資格:同フォースの二人一組のタッグチーム
勝利条件:タッグチームの生存・他タッグチームの撃破
敗北条件:タッグチームどちらかの撃破
◇キャラ設定
・アリス
金髪碧眼、青と白のドレスに身を包んだ少女
その正体は電子生命体、通称「ELダイバー」
第一発見者であるハーゼがそのまま保護者兼後見人であり、彼女の作ったガンプラを現実世界での姿(モビルドール)とした
人懐っこくある程度は誰にでも声をかけられるようでコミュニケーション能力は高め
生まれて間もないELダイバーは知識がほとんどない者もいるが、彼女は最初期からそれなりにあるよう……と言っても抜けてるところがないわけではない
今の目標は自分の【好き(ハーゼ)をみんなに知ってもらうこと】と【繋がる】こと
※現状の好きは純粋な好意であり恋愛的なものは無いもよう
あとがき
次回、タッグバトルロイヤル戦
さくさく進めていきたいとこです
次回もお楽しみいただければです