ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか 作:フリュネの出番はもうない
山々を越えて疾走する。
恐怖を圧し殺すために、恐怖の発生源に向かう。
自分の行動に違和感を覚えながら、僕は努めて冷静に現状を確認する。
ダンジョンの崩壊という
武器に防具、そしてアイテムも。
だが、僕の心は不安で一杯だ。
階層主という存在はそれだけ大きい。
ファミリア単位で討伐すれば、大きな実績としてギルドに登録される。
一人で倒せばもう偉業だ。
(アイズさんが倒してレベル6になったのがウダイオス)
バロールはそれより更に深い階層に出る。
つまり、僕には無謀もいい所。
(無謀でもいい。気休めでもいい。何が通じる。どれが僕の武器だ?)
決まっている。スキルだ。
僕が唯一発現してるスキルが【
能動的行動に対する
神様が英雄の一撃と称したこの力しか、この先にいる怪物には通用しないだろう。
大鐘楼は響かない。反動がでかすぎてそんなモノを使う余裕はない。
仲間がいない今、僕は倒れたら終わりなのだ。
「溜まれ……早く……っ」
力を溜めた時間の分だけ威力を底上げする。
逆に言えば、半端な強化は焼け石に水だということ。
最大限まで溜めなければ安心できないだろう。
(最大威力で倒せればいい。駄目でも注意は逸らせる筈だ)
リリほどの頭を持たない僕が考えた精一杯。
唯のレベル4はあの怪物にとって羽虫も同然だ。このままでは気にも留められず、進路を変えることなんてできないだろう。
だから、こちらには一刺しできる切り札がある教えてやる。
伝説のモンスターに敵と認識されるなんて冗談じゃないけど、やらなきゃ皆死ぬんだ。
やってやる。
「見えた!」
悍ましい巨体が明らかになる。
本当なら、相まみえるのはずっと後になる筈だったその姿。
山脈を越えて地形は平面。悪くない。
障害物などあったところであの熱線の前には無力。
諸共吹き飛ばされて終わりだろう。
寧ろ、僕の足を止めるだけだ。
体が前のめりになる。
それこそ、黒いゴライアスとの戦いで初めて使った時は、あまりの威力に腕がブレて狙いを大きく逸らしてしまったことがある。
あの時ほど大きく外す気はないが、精密射撃など僕にはできないのだ。
確実に狙い通りの場所に当てれる距離まで詰めなければならない。
永劫とも思える疾走。
巨人の単眼が僕を捕らえたのと同時に、僕は足を止めて狙いを定める。
右腕は砲塔。僕は何者よりも疾い魔法を砲声した。
「【ファイア・ボルト】」
バロールの目が輝いたのは数秒後。
魔法と魔眼がぶつかり合う。
熱気が押し寄せるが、初動が早かった分、僕の速攻魔法が押し勝った。
「ぐうううううううううっ!?」
なのに、風圧で体が押される。
魔法で威力が削がれ、咄嗟に両腕を交差して防御されたことも重なり、ダメージはそれほどない。
だけど、僕を無視はできなくなった筈だ。
「……来る!」
咆哮が大地を震わせる。
泡立つ肌を感じながら、僕はヘスティア・ナイフと牛若丸二式を構えた。
赤い閃光。
全力で跳躍して熱線を回避した。
(初撃を見ていて良かった……!)
この攻撃は当たったら終わりだが、それなら当たらなければいいのである。
大技であるが故に、その予備動作は簡単に盗むことができた。
発射口である単眼を標的に合わせ、体を打ちやすい体勢に移す。
その動作さえ見切れば、瞬殺されることはないのだ。
ならば、相手の一挙一動に注意しつつ、僕は徐々に西側に移動する。
初手の
僕がバロールを討伐することはもう不可能だ。
だから、次善策に移行する。
即ち、こいつの進路を避難民の進路から外れさせることだ。
「また、来る!」
背面の地面が爆ぜた。
熱線は当たらない。動作は盗めたとはいえ、それでも間違えれば死ぬ。
心臓を吐き出しそうなほどの緊張を感じながら、次撃に備えようとして……
(こ、ない?)
タイミングが外される。
何故、と思う前に強襲がきた。
上空から迫る黒い影。
バロールばかりに気を取られていた僕は、慌ててそれを回避した。
「くっ!? ハーピィか!」
半人半鳥のモンスター。
確か、下層域に生息していた筈だ。
僕自身が想定していたことだったじゃないか。
今の大穴から地上に出ているとすれば、ステイタスの高い怪物か有翼のモンスターだと。
「キキィィイイイ!」
金切り声が響く。
周囲に5体。戦いの音に惹かれてやってきた。
けど、バロールと比べれば理不尽じゃない。
精々、レベル2上位程度のステイタスだ。
「【ファイア・ボルト】!」
そう言った相手に僕は相性がいい。
一発の炎雷で沈められる相手なら、
音波で攻撃しようとする二体を瞬く間に連射で沈め、爪で引き裂こうと急降下する一体の動脈を、すれ違いざまに一閃した。
(そう、ハーピィは怖くない。怖いのは後ろのバロールだ)
どうして攻撃が止んだのか。
答えはすぐに来た。
しっかりと大地を両腕で掴んで、単眼が強く輝く。
赤い光線が真っすぐと僕に伸びて……
(違うか!?)
一本ではない。
何本も熱線が伸びてくる。
連射だ。速攻魔法よろしく連射してきた。
威力は下がっているのかもしれないが、それでもレベル4を仕留めるには十分に違いない。
必死に飛び交う赤い殺意を躱す。
右に、左に、一気に前進し、邪魔するハーピィを魔法で処理して、更に西へ……
「うっ……」
そこで、目の前の地面が爆ぜた。
最後の熱線が放たれたのだ。
直撃しなかったことに安堵し、直後に凍り付く。
これはバロールの狙い通りだ。
「しまった!?」
足を止めてしまった。
熱線を直前になって躱そうとした反動。
狙いを定めさせないため、ずっと動かしていた足を止めるのが怪物の狙い。
背中から圧を感じる。
振り返れば、あの巨体が地面を滑るように迫っていた。
まだ躱せる。【アルゴノゥト】で数秒
そんな浅はかな思考は伸ばされた腕によって止まる。
先ほどの防御の後、碌に使わなかったから使用不能とばかり思っていた。
使えたのに使わなかった? それとも途中で回復した?
分かってるのはただ一つ。僕は駆け引きで上をいかれたのだ。
巨大な手がグングンと近づいてきた。
思考が加速、これまでの人生を振り返る。
走馬灯とは記憶の中から、致命的状況を打破する手段を探すのだと聞いたことがある。
もし、走馬灯が学説通りの現象ならば。
この時、僕は確かにそれをモノにしていた。
(手を伸ばす階層主。黒いゴライアス。あの時、僕はどうやって生き残れた?)
気が付けば鎖を手に取り、上空に避難しようとしているハーピィ目掛けて伸ばしていた。
「ヒィッ!?」
鎖はハーピィの首に巻き付く。
それを手応えだ感じた瞬間、反射的にモンスターを自分の手元に引き込んだ。
巨人の手が僕に接触する直前。
間に鎖でつながったハーピィが割り込んだ。
そして衝撃。
体中の骨が悲鳴を上げるのを聞きながら、僕の体は空高く吹き飛ばされた。
まだ、あの赤い空の名残がある空がぐるぐる回る。
地面に一度、二度、三度、転がった僕の体は、どこかに岩らしき場所にぶつかってようやく止まった。
オッタルでも単独では半殺しまでの怪物。それがバロールさんです。
……まあアイツその前にソロでそこまで遠征してんだけどね。