ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか   作:フリュネの出番はもうない

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変わった視線

「一旦、ここで休憩を取りましょう」

 

 山を下り、バロールの進行方向から、何が何でも外れるために全速力で行進を続けていた一行は、リリの指示に立ち止まった。

 こんな所で休んでいる場合かと不安を感じはしたが、それを言って行進を続ける気力はとっくに削られていたのだ。

 

 精神が肉体を凌駕することはない。

 どこかでガタが出る前に、一度休息を取ろうというのがリリの判断だった。

 

 川沿いから少し外れたところに、開けた場所があることを確認して村人たちを休ませる。

 言葉数少ない彼らは糸が切れたように地に座った。

 

「皆様、疲れておいでですね……」

「ボクと同じで、長旅なんて慣れてない子が殆どだろうしね。ボクも最近訓練してなかったらヤバかったよ」

「あっ、皆様にお飲み物などを配ってまいります!」

 

 命やヴェルフがモンスターを警戒する中、春姫が水分を配って回る。

 それを見てヘスティアも続く中、全体を俯瞰するリリは状況の悪さに頭を抱えそうだった。

 

(想定より進みが遅い。恩恵の有無がこんなに響くなんて)

 

 あの化け物ばかりのオラリオにいるから忘れがちだが、冒険者というのはレベル1の時点でステイタスを持たない他とは一線を画す。

 平原の獣人部族や森の氏族など、恩恵を持たずとも勇名を馳せる者達も中に入るが、そういうのは例外だ。

 

 戦場から遠い一般人とは体の性能が違うのだ。

 それこそ、冒険者以下のサポーターであるリリすら、成人男性よりも腕力も体力も上だ。

 彼らのフィールドであるベオル山脈であっても、薄氷を踏んでこの有様。

 地の利がなければどうなっていたかなど考えたくもない。

 

(バロールの進路からはギリギリ外れましたが、ここから剣製都市(ゾーリンゲン)まで護衛となると……)

 

 【ヘスティア・ファミリア】の負担は大きい。

 数十人の素人を実質二人で守りながら進むのだ。

 リリもボウガン等で援護はするつもりだが、焼け石に水だろうと予測する。

 

(いっそ、村人を神の血(イコル)で眷属にしてもらうべきでしょうか)

 

 何度も浮かんだ案に、また飛びつきたくなるのを理性が抑えた。

 この状況下でファミリアに引き込むのは、半ば脅迫のようなモノだ。

 絶対に後でトラブルの火種が残る。

 

 エダスの村は社会に背を向けた者達の集まりだ。

 グループに外れたからには、各々が事情を持っている。

 そこに神という要素が関わる人がいることは、容易に想像できた。

 

(極論、村人全員が反旗を翻した時。恩恵(ファルナ)を持たせてしまってはリリ達の許容(キャパ)を超えてしまうかもしれない。少なくとも、圧倒的な力を持つベル様がいない内は)

 

 リリにとってエダスの村の人々は守る対象であると同時に、何時暴発してもおかしくない爆弾に見えている。

 こんな状況で疑心暗鬼になってどうすると思わなくもないが、リリには人の理性という曖昧なモノに己の身を委ねる楽観はなかった。

 

「はいはい。君達も水を飲みたまえ。喉がヒリヒリした状態だと後が辛いぞー」

「えー水かよー」

「紐神様ジュースとかないのー」

「我儘っ子共めぇ……あるよ!」

「「「あるんだ!?」」」

「ふふん。実は逃げ出す時にこっそり持ってきていたのさ! ヤバイモンスターから逃げ延びた記念に、皆でちょびっとずつ飲んじゃおうぜ!」

 

 ただ、現状ではリリが想定していたよりも村人達の不満は少ない。

 状況が状況すぎて、というのもあるだろうが、もっと大きな要因なのはヘスティアの存在だろう。

 

 まず、村の子供達がまるでぐずらなかった。

 我儘を言ったりもするが、ヘスティアは上手い具合にそれに付き合い、消化したのだ。

 

(ヘスティア様は孤児達の守り神という役割もあるみたいですし、そういったメンタル管理が上手いのでしょうか)

 

 普段は無能呼ばわりされる神であるが、こういった時に意外な特技を発揮するモノである。

 子供達の心の支えになっている神様を見て、大人達も安定しているようだ。

 

 しかし、問題とはそれ以外から出てくるものだ。

 

「モンスターだ!」

 

 ヴェルフの警告により一行に緊張が走る。

 

「数は!?」

「五体だ! それと、向こうからまだ来やがる!」

「命様、そちらにはモンスターはいますか」

「少し離れた場所にいます」

「では、排除して逃げ道を作ってください。春姫様は命様のバックアップをお願いします」

「は、はい!」

 

 指示を出し終えると、リリはボウガンでこちらを目指すウォーシャドウを牽制する。

 その間にヴェルフは目の前の五体を片づけるが、表情は険しいままだ。

 

「やっぱ、モンスター共もおかしいな」

 

 ダンジョンでもないのに、彼の眼前にはおかわりとばかりに現れるウォーシャドウ達の姿があった。数は十四。いくら何でも多すぎる。

 

「なんでこう、モンスターって言うのは人の弱みに敏感なんですか……!」

 

 文句を言いながら周囲を見渡す。

 偵察役(スカウト)である命が離れている今、周囲を見渡し新手を探るのは、目の良い小人族(パルゥム)であるリリの務めだ。

 

 そして、その務め通りにリリは新手のモンスターを見つける。

 ただし、ヴェルフ側でも命側でもない、三つ目の方向から。

 

(やはり手が足りなくなる!)

 

 村人達の動きは鈍い。

 元冒険者達も錆び付いているのか、戦いの役に立つかは分からない。

 

 地上の劣化したモンスターとはいえ、これでは万が一が起きて村人に魔手が届きかねない。

 

(仕方ありません。いざとなったら魔剣を……)

 

 その時、人型に黒いペンキを塗り固めたような非有機的なモンスターが炎上する。

 瞬く間に、まるで同時に火柱が上ったようだった。

 

「……え?」

 

 呆然と声を零す村人達。

 一般人も元冒険者も何が起きたのか理解が追い付いていない。

 

 あまりにも速過ぎる。

 常人の認識など振り切ってしまう敏捷。

 その意味を即座に理解できるのは、その速さをよく知っている仲間達だろう。

 

 狐耳を震わせて春姫が振り返った。

 彼女の耳には聞こえたに違いない。

 ファイアボルト、と。

 

「────!!?」

 

 そして蹂躙が始まる。

 発声器官を持たない筈のウォーシャドウの悲鳴が聞こえる。

 

 次々と宙に浮かぶのは十字を描く頭部。

 顔面にはめ込まれた手鏡のような真円状のパーツに、村人達を反射させた一秒後、モンスターは灰へと変じた。

 

 突風となって村人に迫りくるモンスターを全滅させると、そのままヴェルフの前に現れ、モンスターの解体を始めた。

 八分割、五分割、七分割、三分割、四分割。

 

「うおっ!?」

 

 ヴェルフが驚く間に後ろ向きに跳躍。

 二体を炎雷の餌食にしながら、命達が攻撃の機会を伺っていたライガーファングを無造作に切り捨てた。

 

「ガァァ……」

 

 遅れた断末魔と飛び散る灰。

 そして、停止した彼の姿がようやく露わになる。

 

「ベル様……!?」

 

 少年の姿を見たリリは絶句した。

 彼の象徴的な白髪が血に汚れている。

 体中に傷跡があり、息も絶え絶え。

 

「治療します! 動かないで!」

 

 リリが回復薬(ポーション)を取り出し駆け寄る。

 酷い有様だった。碌に治療もしないで一行を追ってきたのだと、彼自身が語ることはなくても、感じ取れてしまう。

 

「ベル君! また無茶をして……!」

 

 ヘスティアもベルの傍に来て、彼の顔を見る。

 唇が薄っすらと紫になり、白粉を塗ったように蒼白だ。

 バロール相手にどれだけの無茶をしたのか。

 

「ほら、一回休むよ」

「い、いえ……僕は大丈夫です」

「そんな訳ないだろう。休むんだ。これ主神命令」

 

 ヘスティアが肩を貸そうとした時。

 村人の方から声が聞こえた。

 

 それは決して大きな声ではなかったが、どうしてか妙に気になった。

 

「なんて強い。彼が守ってくれればもう大丈夫だ」

 

 村人の視線が変わった。

 劇的ではないが決定的に。

 【ヘスティア・ファミリア】にはそれが、あまり良いことには思えなかった。




 ベルは無力を感じているけどレベル4。
 この中では圧倒的に強いのです。
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