ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか 作:フリュネの出番はもうない
エダスの村には交流のある他の村や町があった。
大穴からの侵攻を防ぐことはできないと、退避先から外れた場所ではあるが、そうであるからこそ警告や救助が必要だ。
遠回りになるとリリは渋っていたけど、結局誰かを見捨てることはできなくて、奥たちはエダスの村の人達と交流があった村や町に足を運んだ。
殆どの人は状況を把握していない。
あの爆発を見てはいても、エダスの村よりは遠かったから、送還の光には気が付かなかった人ばかりであったようだ。
「ここに居ては私達も危ない。どうか、貴方達に同行させてもらえないだろうか」
状況を知らされた人達はすぐに僕達と一緒になった。
全ての村で用心棒が雇えている訳じゃない。
モンスターの活性化が予測されるこの状況で、全員がダンジョンを離れるには冒険者の力が不可欠だった。
そうして、どんどんと難民の群れは大きくなっていく。
そのこと自体は構わない。
エダスの村では十分に用意できなかった食料やアイテムなどを補充できたし、僕達にも何のメリットもなかったと言う訳ではないから。
ただ、向かった全ての場所が間に合った訳じゃなかっただけ。
「……っ!」
手慣れ始めた訪問。緩んだ意識を殴り飛ばしたのは赤い色。
建物や地面に散らばった臓物と血液だった。
遅かった。
一目見てそう結論付ける。
「ヴェルフと命さんは村の人達をお願い」
「ああ!」
この凄惨な光景の下手人は決まっている。
僕は為すべきことをするため、ナイフを抜いて村に足を踏み入れた。
(建物にも物陰にもいない)
第二級冒険者としての感覚がそれを見極める。
勿論、それが絶対のモノとは限らないから、慎重に歩を進めた。
(この人達の死体は
「キキィィイイイッ!」
答えは上空から降ってきた。
ハーピィ。半人半鳥のモンスター。
未だ修復が完了していないと思われるダンジョン。
その壊れた迷宮を無視して地上に進出できる有翼の怪物達。
空を飛ぶモンスターはある意味大型モンスターより質が悪い。
飛行能力を持たない人間にとって、頭の上を抑えられるということは、一方的な攻撃を喰らうことに他ならない。
例え用心棒としてファミリアを雇っていたとしても、眷属の手札次第では何もできずに壊滅させられることもあり得るだろう。
「ギャッ!?」
反応を許さず魔石を砕く。
反撃した僕は更に空に跳躍した。
ハーピィが飛んでいたよりも高く。
そうしたら見る見るうちに他の有翼モンスター達が寄ってくる。
翼を持たない猿がノコノコ自分達のフィールドに踏み込んだのだ。今こそ好機と、残忍な獣の本能が判断したのだろう。
「……ふっ!」
分かりやすい。
円を描くように鎖を振れば、瞬く間にモンスター達にクリーンヒットする。
全身のバネを使った一撃は、モンスターの頭蓋を容易くへこませた。
着地までの不自由な体を狙おうとするモンスター達を銀の結界でしのぎ、地面を駆ける。
今度は建物の壁を蹴り、三角跳びから蹴撃をハーピィの首に叩き込んだ。
そして同じように鎖を振り回し、数体のモンスターを地面に叩きつける。
三度も繰り返せば、もうモンスターの気配はなくなっていた。
手傷を追わず、
僕には余裕を持って倒せる相手だった。
「……」
周囲を警戒していると、物小屋からガタリと音がする。
音のする方を見れば、一人の女の人がいた。
女の人は信じ難いモノを見る目で僕を見て、やがてその瞳に怒りの色を宿す。
「っ遅いのよ!」
ずっと喉を使っていなかったからだろう。
初めに不自然な突っかかりをした後、その人は吐き出すように僕を罵った。
「なんで……もっと早く……! 早く来てくれていればぁぁぁ……」
女の人は泣きながら崩れ落ちる。
縋るように両手で包んでいるのは、かなりの時間が経過したであろう腕の破片。
血が流れ過ぎて色は白くなりかけていて年齢は分からない。
だけど、女の人の握り方から、その男の人は大切だったのだとだけ伝わって……
「……ごめんなさい」
こんな、意味のない謝罪をすでに三度口にした。
女の人の泣き声が戦闘修了の合図。
そう判断したであろう、後続の命さんやエダスの村の人達数人が、血濡れの村に入って来たのを見て、僕は女の人から距離を取った。
生き残ってしまった人を他の人が慰める間、僕は村の中を回る。
「ベル様」
途中で春姫さんが声をかけてきた。
「ベル様、また……しておられるのですか」
「はい……これしかできないですから」
そう言って、状態だけになった老人の遺体に近づく。
見開いたままの目に手を当て、瞼を閉じてもらい、その胸に一輪の花を添える。
この人達を弔うことはできない。
モンスターや野犬に遺体を貪られることを考えたら、彼らの尊厳を守るために遺体を埋めるなり焼くなりしなければならない。
だけど、そうやって時間が潰れることを状況が許してくれない。
「だから、せめてお花だけでも……」
自己満足だ。
生き残った人達にとって、遅すぎた自分は殺したいくらいの無能だろう。
近くにいるだけでその心を傷つけてしまう。
その人達が心を落ち着けるまでの少しの時間。
僕はこんな稚拙なやり方で彼らを送り出していた。
ポーチに入れっぱなしで萎びた花しか出せない。
どころか、時間切れで全員を回る前に切り上げてしまうこともある。
これで果たして意味があるのか、疑問に思ってしまう。
「ベル様、この村で起きた出来事に、貴方様の責任などありません。どうして、生き残った人を救った方が責められる必要があるでしょうか」
春姫さんの言葉は嬉しく思う。
だけど、それで納得できないのが人だから。
僕を責めて気が楽になるなら、そうして欲しいと思う。
ファミリアの皆はまだ心が傷ついていて、そうなって欲しくないけど。
オラリオに来てちょっとだった、傷の浅い僕なら大丈夫だから。
(だけど、ちょっと不安だ)
僕の耳は少し離れた人達の会話を聞き取れる。
エダスの村の人達は女の人を慰めていた。
だけど同時に「あの人は悪くない。責めるのは止めてくれ」とも言っているのだ。
多分、諫めているのだろうけど……どこか責めているようにも聞こえてしまう。
まるで、僕の機嫌を損なうのを恐れている様な……
(……杞憂、だよね。ゾーリンゲンに着けば、きっと、皆落ち着く)
雑念を払って花を添えて回る。
そして、村を離れて再び目的地であるゾーリンゲンを目指す。
ここの所、僕は隊列から離れ、斥候役をやらせてもらっている。
今、難民の中には今回のような形で生き残った人が何人かいて、僕の顔を見てたら落ち着かないだろうと思ったからだ。
先回りして、行く手を阻むモンスターを殲滅し、道を確保する。
合図があったらすぐに戻れる距離を維持しながら、進んでいると僕はある一団を発見した。
それは大人数だ。
エダスの村や他の町村も吸収した僕達よりも、ずっと多い。
この人達も難民なのだろうか。そう思っていた僕だったが……
「────え?」
その中に知っている人を見つける。
否、正確には神をであった。
胡桃色の長い髪が特徴的な温和な雰囲気。
オラリオが崩壊する少し前に会っていた、正義の女神の姿。
「アストレア様!?」
「貴方は……ベル?」
驚く僕に、向こうも気が付いた。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
どうしてこの女神さまがここにいる。
いや、アストレア様や彼女の眷属だけならばまだ分かる。
そうやって街を離れ、クエストを受けることもあるだろう。
だが、この人数はなんだ。
まるで都市の住民を丸々移動させているような、この大移動は普通じゃない。
そんなことをする時はつまり……
「アストレア様」
きっと、僕はこの時血の気が引いた顔をしていた。
そうであってほしくないと、半ば祈っていただろう。
「どうして……こんな所にいるんですか」
「……えぇ、話さなければならないでしょうね」
きっと貴方には分かっているのでしょうけど。
そう言いながら、アストレア様は真剣な表情で僕を見ながら言った。
「都市から逃げてきました。……
モンスターは死体を処理しています。
魔石を砕かないと強化種が生まれてしまうから。
優先順位の問題ですね。