ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか   作:フリュネの出番はもうない

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シュリーム古城跡地防衛戦

 無数のモンスターの群れと言っても、その全てとぶつかる必要はない。

 奴らはダンジョンから真っすぐと、世界へ向けて円状に広がっていく。

 つまり、兎に角、先へ先へと進まなければならない訳だ。

 

 数えきれないモンスターが溢れ出す怪物氾濫(スタンピード)の性質上、モンスターは立ち止まって目標を攻撃することがほぼできない。

 そんなことをすれば、後続のモンスター達に押し潰されるのがオチなのである。

 

 無限の怪物を根絶やしにする必要がないのであれば、この大波が消えるまで耐えてしまえば勝ち。そんなリリの言葉に、ほんの僅かでも安堵を覚えなかったかと言えば嘘になる。

 

 神アストレアが名付けた怪物氾濫(スタンピード)という厄災。

 今代において誰も経験したことがないそれは、眷属達の中の想像でどんどんと膨れ上がっていたのだと。

 

 無数の怪物と戦い続ける悪夢はないのだと。

 そう思えていた。

 

「……ひっ!」

 

 狼人(ウェアウルフ)のイセリナは、目の前に広がる怪物の荒野に呑まれていた。

 いよいよ出番だと城壁から降りたが、ここから更に前へ出なければならないのかと怯える。

 正義の眷属として、【アストレア・ファミリア】の名を汚さないようにと奮い立たせていた心は既に冷えていた。

 

 無限の敵を全て根絶やしにする訳ではない。だから安堵した?

 馬鹿じゃないのかと自分を罵倒したくなる。

 

 小娘が考えた無限にどれほどのリアリティがあるというのか。

 殺意が雄たけびとなって、鼓膜を震わせるこの状況は、自分達の見通しの甘さを嫌でも突き付けてくる。

 

「こ、こんなの……無理だよぅ……」

 

 横で声を震わせる小人族(パルゥム)のシャウを、士気を落とすような発言をするなと注意する気も起きない。

 泡立つ肌。震える手は得物をしっかりと持てているのだろうか。

 

 モンスターとの距離は40M(メドル)を切った。

 思わず下がりかけた体。しかし、それを吹き飛ばすように人間から雄叫びが上がる。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

 突入するのは白髪のヒューマン。

 先程まで孤軍奮闘していた少年は、数を増やしながらも戦意を揺るがすことはない。

 

 モンスターの先陣を蹴散らし、出鼻をくじかれたモンスターはその殺意を緩めた。

 恩恵を刻まれた戦士達はその一瞬を見逃がさない。

 

「私達も続こう!」

 

 そう声を上げた少女はセシル。

 現【アストレア・ファミリア】の団長である。

 

「【リトル・ルーキー】だけに任せちゃ駄目! 私達は【アストレア・ファミリア】だ!」

「「……うん!」」

 

 ベルに触発されるように眷属達はモンスターとの戦闘を開始する。

 無数VS十三。まともにやればすぐに死ぬが、そこで小細工を弄するのが人間だ。

 

三人一組(スリーマンセル)を忘れないで! 常に三対一を心掛けるのよ!」

 

 同じファミリア、或いは気心知れた眷属達でチームを組み、磨かれた連携でモンスターを翻弄する。そうすれば、ホンの僅かではあるが戦いを拮抗させられるのだ。

 

 ミノタウロスの攻撃を一人が往なし、二人掛りで攻撃して仕留める。

 地面を這う蟻型のキラーアントの群れを三人で瞬く間に殲滅する。

 モンスターの群れを二人が捌き、一人が上空にいる虫型のモンスターを叩き落す。

 マンモス・フールを三人がそれぞれ足狙いで攻撃、膠着状態に持ち込む。

 

「離れてください!」

 

 少しでも厳しい相手がいる時、サポートするのがレベル4のベルだ。

 二十秒間蓄力(チャージ)した魔法でマンモス・フールを吹き飛ばす。

 

「ヴォオオオオ……」

 

 高さ7M(メドル)のモンスターが空中を飛び、巨大な砲弾となってスパルトイ達に激突した。

 

「ありが……」

 

 礼を告げる前にベルは次の強敵へ向かっていた。

 

「【リトル・ルーキー】に支えて貰いっぱなしね……!」

 

 先の戦いで敵の頭を削っていたとしても、怪物氾濫(スタンピード)の中にはまだまだ手ごわいモンスターが残っている。

 それが眷属達を襲う時、或いは襲う前に刈り取るのが今のベルの役目だ。

 

 レベル1やレベル2では対処できない相手を請け負う。

 シュリーム古城跡地は、ベルというエースの存在によって成り立っていた。

 しかし、どれだけ俊敏が高い白兎だろうと、戦場の全てをカバーできる訳ではない。

 

 例えば空。

 翼を持たぬヒューマンでは、到底対処しきれない空中に浮かぶ影には、いくら炎雷を使おうとも焼け石に水でしかない。

 

「網をっ!」

 

 しかし、それを埋めるのが古城で働く非恩恵持ちである。

 投石器に大きな網を乗せ、リリの号令で空高く発射する。

 空中で広がった網は決して強靭なモノではない。

 

 しかし、空を飛ぶ相手にはそれだけで十分だった。

 

「キィィイイイ!?」

 

 鳥型のモンスター達が墜落する。

 絡まった網が翼の羽ばたきを阻害したからだ。

 

 そのまま地面に落下した彼らは、地上を侵攻するモンスターに衝突するか、地面に落ちて頭を踏み砕かれる。

 

「ヴェルフ! 向こうのモンスターお願い!」

「【燃え尽きろ、外法の(わざ)【ウィルオ・ウィスプ】】!」

 

 強力な咆哮などの魔力攻撃を行う敵もいた。

 しかし、それらは城壁から最大範囲の対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)で迎撃。

 砲台は爆弾となって周囲のモンスターを襲う。

 

「命様! そちらはどうですか!」

「裏は百体もいません! このまま弓隊で殲滅します!」

 

 念のため、正面だけではなく、モンスターが抜けていった裏側にも配置した眷属達も問題はない。城壁から矢を射続けている。

 

「さあ春姫殿! 遠慮はいりません! 思う存分練習できますよ!」

「はぅうううう……!?」

 

 先程からずっと弓を射続けている一同は、腕が辛そうだが耐えてもらうしかない。

 その戦力では対処できないモンスターが現れれば、命が魔法で足止めしてる間にベルが向かうことになっているので、比較的安全地帯だ。

 

 眷属達が持てる全力を駆使して要塞を生きながらえさせている。

 しかし、全力とは後先考えないモノだ。

 どう考えても、長時間続くことはない。

 武器も、体力も、精神力も。

 

「そろそろセシル達は限界ね……皆、お願い!」

 

 戦況を見ていたアストレアの号令で、要塞内の男達が長縄(ロープ)を引っ張って全力疾走する。

 ロープが繋がる先は、城壁の外で戦うベル以外の眷属達だ。

 

「……! 皆、後退よ! 後、お願い!」

「おう! 俺らが支えてるうちに戻っとけ!」

 

 セシルの指示に従い、【アストレア・ファミリア】の三人で作られたチームが、ロープに引かれるまま城壁を駆け上る。

 

「魔剣隊! 撃ちなさい!」

「【ファイアボルト】!」

 

 残る四チームと非恩恵持ちによる魔剣攻撃。

 そして、ベルの奮闘により三人が抜けた穴を補う。

 

「貴方達、お願い」

「はい!」

 

 そして、待機していたチームが代わりに地上へ降り立ち、【アストレア・ファミリア】の代わりに戦場に入る。

 

 その間にセシル達は古城内に帰還。

 城壁を飛び越えた三人をマットで受け止めると、薬剤師達が調合したポーションを持って集まってきた。

 

「どこか痛むところはないか!?」

「ちょっと肩を刺されちゃった……虫っぽかったし、毒を喰らってるかも」

「……いや、毒はないみたいだ。これなら高等回復薬(ハイ・ポーション)で大丈夫そうだな」

 

 傷だらけの彼女らに応急処置が施される。

 

「セシル、お前の武器はどうだ」

「大分切れ味が落ちてるかも。……ホント、こんな時なのに私、駄目だね、父さん」

「何言ってやがる。ダンジョン産のモンスターと連戦だぞ。……折れてねぇだけ上等だ」

「……ありがと」

「ふん、直しといてやるからこれ使ってろ」

 

 更に連戦で消耗した装備をチェック。

 今後の戦いに問題があると判断されれば、予備の装備に交換した。

 

「しかし、一応は戦いになってるな」

「うん。凄いよね、【ヘスティア・ファミリア】の人達」

「ああ……だが、本当に持つのか? こんな綱渡りが」

「そこは、私達が頑張るしかないよ」

 

 事前に用意した策は全て機能した。

 後はどちらが音を上げるかの消耗戦だ。




 なおベルは休めません。誰も穴を埋められないので。
 ついでにヘスティアは玉座の塔で民衆がパニックにならないように頑張ってます。
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