ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか 作:フリュネの出番はもうない
【イシュタル・ファミリア】が強力な派閥だとしても、オラリオの外へ出てしまえばその影響力は格段に弱まる。
それは都市内の戦力が流出してしまうことを危惧するギルドによるものだ。
勿論、美の女神であるイシュタル様のことだから、都市外にも魅了で手駒を持っていることは想像できるけど、オラリオの中にいるよりはずっとマシなのである。
だから僕達みたいに一か八かで都市外に逃げ出す人って言うのは案外いるらしい。
行く当てもなく、ひたすら逃げ続けた僕達がたどり着いたのは、オラリオ真北に位置するベオル山脈。『山城』という言葉が浮かんでくる険しい山々の集合体だ。
「こ、こんな場所を行くのかい!?」
「仕方ありません! リスクを冒さずには逃げ切れる相手ではないんです!」
「けど山だぜ!? ボクが読む本でも素人が準備もしないで遭難することが山ほどあるんだよ!?」
「リリたちは
「
リリの提案により僕達はベオル山脈に身を隠していた。
僕達の現在の戦力はレベル3が一人にレベル2が二人とレベル1が二人(マイナス神様一柱)。
上級冒険者がゴロゴロしているオラリオにいたから麻痺してるけど、都市外ならば十分すぎる戦力なので問題はないという判断なのだろう。
そうやって渓谷を進んだ先にあったのがエダスの村だった。
隠れ里のように山間部にひっそりと存在する村には、僕達のようにオラリオから追われた野良の冒険者をはじめ、訳ありな人たちが集まっているのだという。
「ようこそ、エダスの村へ。私達は皆さんを歓迎します」
カームさん、という年老いたヒューマンの男性の村長は余所者の僕達を邪険にしなかった。
僕達が【イシュタル・ファミリア】に追われていることを説明した時も、「わざわざ正直に説明する必要はないでしょうに……正直な方ですね」と苦笑するだけで、危険を呼び込むかもしれない僕達が村に留まることを許してくれたのだ。
そうして村で生活することになった僕達は穏やかな日々を過ごしていた。
気落ちしていた春姫さんも、カームさんの義娘であるリナさんなどの村の人達との交流で徐々に明るい表情を見せるようになっている。
笑顔を見せることも増えてきた春姫さんをみていると、オラリオから逃げた判断が間違いじゃなかったと、そう思えて少しホッとした。
(……憧憬を追うには遠回りになっちゃうかもしれないけど)
ここから【イシュタル・ファミリア】に狙われても問題ないと思えるくらい強くなるまでどれだけかかるか。
それを思うと焦燥感が沸いてくるが、今の所は早朝と寝る前の自主練習にぶつけるしかない。
自分で決めたことなんだからモヤモヤしてるなんて女々しい話だけど、情けない話だ。
「なぁベル! 今、外で戦争してるんだってさ!」
年の近い村の少年達に声をかけられたのはそんな時だった。
「せ、戦争?」
のどかな田舎育ちのベルは思わず血なまぐさい
「そっ、
「えええっ!? だ、大丈夫なのそれ」
「こんな山道を軍隊がノコノコ進んでこないさ。俺達にとっては全然危険がねぇよ」
オラリオに付く前に山に遭難したら洒落にならないだろ? と笑う少年達。
「それでさ、ちょっと戦争見に行かないか?」
「……は?」
緊張していた肢体から力を抜こうという時に、これまたとんでもないことを言われて間抜けな声が出る。
そして、眉をひそめる。
「悪趣味じゃないかな」
「……ん? ああ、多分ベルが想像してるのとはちょっと違うぞ?」
「え?」
「まあ、見てもらった方が早いだろ。行こうぜ」
「ちょ、ちょっと……」
強引に連れていかれ、僕は
平原に突き立つ何万という槍。はためく軍旗の色は紅。
軍神アレスにより率いられる巨大な軍勢は、さながら生きた洪水だ。
「「「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
大地を震わせる
遥かベオル山脈まで轟くそれを一身に受けるのはたった一人のドワーフ。
マントをなびかせるその人物は進撃する軍勢との距離が十
「ぬうぅん!!」
「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああっ!?」」」」」
あっという間に大軍勢は宙を舞った。
「お、前回よりも飛距離伸びたんじゃねーの?」
「うーん、そこまで違いはなくね?」
「じゃあ【
「あ、あっちで魔法が撃ってる」
「緑の髪のエルフじゃないってことは……あれが【
「なんだあのバカ魔力こっわ」
「あ、あの……これは……?」
戦争と聞いて悲惨な光景を覚悟していたベルは思わずキョトンとする。
確かに人間同士の争いではあるが、何と言うか……
「
「あ~~……」
何せあそこにいるのは最強派閥の【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】だ。
生憎【フレイヤ・ファミリア】とは縁がなかったが、前にダンジョンで遭難した時に【ロキ・ファミリア】には少し会っている。
その力は間違いなく本物だ。
(アイズさんは……いない、かな)
【ロキ・ファミリア】がいる。
そう認識した時に真っ先にあの金色の髪を探してしまう。
僕が走り出したきっかけ。
いつか、追いつきたいと願い続けた憧憬。
ほんの少しだけど交流を持ち、戦い方を教えてくれた人だ。
オラリオから逃げて少ししか経たないのに、市壁の上で訓練してもらった日々が遠く感じられる。
「あんなに強いんだ。黒竜様もいつかきっと倒してくれるよな!」
「ああっ、最後の英雄が生まれる日も近いんじゃないか」
(黒竜様? 最後の英雄?)
少年達の会話に首を傾げる。
聞きなれない単語の意味を聞こうと口を開いた時、後ろに人の気配を感じて振り返った。
「ベルっ!」
「ヴェ、ヴェルフ?」
山菜取りに行った村の人達の護衛をしてた筈のヴェルフが息を切らしている。
その姿に嫌な予感を覚えながら、ベルの脳内は自然と戦いに切り替えられる。
「悪い! ヘスティア様が
「っ!? 神様は今どこに!?」
「ここから東の本陣に向かった筈だ! 命が後を追っているからお前も合流しろ!」
「分かった! ヴェルフはここにいる皆をお願い!」
聞くべきことだけを聞き、ベルは
コメ欄でも触れましたが、タケミカヅチ様とミアハ様は【イシュタル・ファミリア】がどう動いているかを逐一探るため、危険を承知でオラリオに残っています。