ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか 作:フリュネの出番はもうない
戦いの前、ベルは自分が汗だくになると思っていた。
ずっと戦いばかりだと予想できたから。
きっと太陽が頭上から下がり始める頃には、汗で服がべっちゃりと張り付いてくるくらいになっているだろうと。
しかし、実際の所はベルの肌に汗はない。
そこまで忙しくないからか……否。
あまりにも忙しすぎて、限界以上の速度を要求されるため、汗が流れる傍から自分の肌を離れて空気中に散ってしまうためだ。
「……あああああああああああっ!!」
また狩った。
大型を三体立て続けに。
最早自分のスコアなど覚えていない。
だけど、ここまで大物を連続して倒したのは、冒険者を始めてから経験のないことだった。
(僕の冒険者歴半年くらいだけど)
次に見えてきたのは血を這う竜。
ランクアップしてから最初の冒険で見た覚えがある。
名はインファントドラゴン。
上層に出現する初めての竜種。
レアモンスターとされる理由は個体数の少なさと、遭遇したパーティーの全滅率が高さが原因であると言われている。
出現階層である11~12階層はアビリティがB評価以上であることが、ギルドから公表されている指針で要求されるという。
つまり、レベル1の中でも上澄み……
そんな集まりが全滅するということが、如何に恐ろしいことかなど言うまでもない。
平均的な強さが決して高くない都市外のファミリアならば、単独で相手取れる眷属はいないと考えて良い。
放置することはできないとベルは姿を見るなり、応戦の構えに移行した。
「オオオオォォォ!!」
レベル1やレベル2ならば死を覚悟する竜の咆哮。
しかし、レベル4でも上位のステイタスを誇るベルならば、まるで危機感を覚えない相手だ。
倒すだけなら
噛みつき攻撃をかわしながら、一撃脳天に殴打を加える。
目を回して動けなくなるインファントドラゴンの背後を取ると、その大きく太い尻尾を両腕で掴んだ。
「皆、僕から離れてください!」
「は……? うわぁ!?」
そして、砲丸投げのようにその巨体をブン回す。
第一級冒険者には、深層の竜を振り回して撃退した剛力の持ち主がいたという。
ならば、たかが上層の竜であれば、それなり以上の力のアビリティを持つベルが振り回せない理由はない。
巨大な質量を武器にモンスター達を薙ぎ払う。
あっという間にあちこちの骨が折れたモンスター達が絶命するのを確認し、ベルは【
十秒の
振り下ろした一撃は、インファントドラゴン諸共大型のモンスター二体を砕いた。
「えぇ……」
「今のうちに交代を! 僕以外の人達の動きが悪いです!」
「す、すまん! 体が思うように動かなくて……」
何度もやれるわけのない無茶をした甲斐があって、四パーティーを後退させられた。
先程から、仲間達の動きが鈍い。
連戦の疲れなのか分からないが、何度も危うい場面が全体であったのだ。
今のままでは良くないと、本来は一パーティーずつの交代を一気に行うことにしたのだ。
「すみませんが四パーティーを一気にお願いします!」
ベルの要請に従い、一気に降りてくる眷属達。
これでまた安定した防衛ができる筈。
そう思っていたが、どうにも様子がおかしい。
(また動きが鈍い?)
交代する前の彼らよりはいい。
しかし、どうも連携に精彩を欠いている。
練度の低い者達が集まっている訳ではない。
既にこのパーティーの面々の働きは何度も見ている。
だが、回復がまるで追いついていないように、明らかに動きが遅かった。
(
このまま戦わせていいのか。
逡巡は僅か。しかし、状況はその僅かな間で動く。
「ぎゃあああああっ!?」
アルミラージの投擲がある眷属の肩に当たった。
都市外のゾーリンゲン出身でありながら、レベル2に至ったという実力者だ。
多少手こずるが問題なく対処できると任せていた。
しかし、余裕を持って相手できるモンスターに致命傷を負わされている。
そこから次々と眷属達が不覚を取り始めた。
「うわああああああ……!?」
「ま、不味い……ひいいいいいっ!?」
「だ、誰か……体が……!?」
次々と攻撃を喰らい、血を噴き出させる眷属達。
ベルは即座に決断する。
「皆さんを回収してください! 今からそちらに投げ込みます!」
そう言って、次々と眷属達を壁の中に放り投げる。
レベル4でもギリギリの強引な退避方法。
なんとかそれを成功させたベルは臍を嚙む。
(このままだと不味い! 何とか立て直さないと!)
自分が何とか近づく敵を殲滅するしかない。
しかし、バックアップも必要だ。
「ヴェルフ! 今、僕以外の眷属がこっちにいない! 援護をお願い!」
魔剣を使えと彼に言うことに、胸が引き裂かれるような痛みを覚えながら、血を吐く勢いで助力を要請する。
……しかし、ヴェルフは来ない。
「……ヴェルフ? ヴェルフ!? ヴェルフ来てっ!? リリっ、ヴェルフはそっちにいないの!?」
指揮官であるリリに呼びかける。
リリも返事はない。
「リリ! ヴェルフ! アストレア様! 誰か援護をっ!」
懸命に呼びかけるベル。
モンスターは未だに押し寄せ、
なのに、いつの間にか周りに誰もいないことを顔を真っ青にし……
「ベル殿っ!!」
切り裂くように命の声が届いた。
酷く、切羽詰まった雰囲気だ。
「命さん! 皆に何が……!?」
「分かりません! 皆さん、突然倒れました! 恐らく毒……状態異常の類かと!」
そう叫ぶ命さんもどこか苦しそうだ。
懸命に裏側から走って来たであろうその顔は蒼い。
(毒!? そんなモンスターは優先的に倒した筈!? それとも、僕の知らないモンスターがいたのか……!?)
最悪の状況だ。
シュリーム古城跡地の戦力で、まともに動けるのはベルと命だけなど。
だが悲嘆する暇は与えられていない。
「僕が全部守ります! 命さんは!?」
「毒は痺れ毒! すぐさま命が脅かされるわけではありません! 壁内の方に説明し、皆様に解毒薬を飲ませてもらい、自分はベル殿の援護を……!」
「お願いします!」
そこからベルは地上の流星となった。
白い光が城壁の周囲を回り続ける。
最早、強敵を優先してなど言っている余裕はない。
雑魚強敵難敵大型小型有翼型。
一切の貴賤なく鏖殺する。
頭が割れるようだった。
認知領域を無理やり広げ、ただでさえ敏感だった視線は重たさすら感じる。
「次、次、次っ、次次次次次次次ィっっ!!」
真っ赤に充血した思考の中、自分という存在が効率化されていく。
ただ目の前のモンスターだけを見た。
壁の中の人に助けを求め終えた命から援護射撃受け、夜の雨の中を縫って先に進む。
既に壁の外を十以上回っている。
魔石を砕かれていないモンスターの死骸が、新しい壁を作るように積み重なって、回数を重ねるほど大きくなっていく。
ベルも命も分かっていた。
これがどうしようもない手詰まりだと。
それでも、それでもと自分に言い聞かせ、ただ壁の外だけを見続けて……!
大爆発。
紅蓮の炎が横からベルを焼いた。
「が……!?」
全く警戒していない方向からの衝撃に、ベルはバランスを崩しゴロゴロと血塗れの地面を転がる。
このまま寝ていては不味いと起き上がり、振り返ればそこには。
爆発によってぽかりと穴が開いた城壁の姿があった。
ベル達が見逃がした敵は何でしょう。