ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか   作:フリュネの出番はもうない

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未知の脅威

 この怪物が立て直す前にケリをつける。

 そう決断し、僕は再びナイフで切り込んだ。

 

 相手の回避も予測に組み込んだ四連撃。

 この怪物は見た目の通り足が早く、フィールドを大きく使う戦い方をするに違いない。

 安直な発想かもしれないが、こういった考え方が未知の敵には効果的なのだ。

 怪物氾濫(スタンピード)で散々初見の敵とやりあった経験により、それは嫌というほど学んでいる。

 

 倒せればそれでよし。

 そうでなくても、敵が走り出すことを防げる。

 

(さっきの反応で火が弱点なのは分かってる! 相手にペースを与えるな! たたみ掛けろ!)

 

 ここが切り札の切り時だ。

 【英雄願望(アルゴノゥト)】の光粒が収斂していく。

 

「オオオオオオオオオオォォォッ!」

「キャハハハッ」

 

 力を増加させるスキルは切り札ではあるが、相手方に分かりやすく準備してしまうのは考えものだ。

 特にこの静かな暗闇の中だと、鐘の音と光はよく分かってしまう。

 

 敵はそれを止めようと攻撃を試みている。

 上等だ。こちらとしても蓄力(チャージ)した以上は逃がすつもりはない。

 向かってくるというのなら好都合。

 壁の方に向かわないなら、難民の人達を心配する必要もない。

 

「あああああああああああっ!」

 

 敵の攻撃を縫うように回避する。

 それだけではない。隙を見せれば馬面に蹴りを打ち込んだ。

 

「ゥ……!?」

 

 良いのが入った。

 蓄力(チャージ)も十分。いける。

 

「【ファイアボル……っ!?」

 

 その時、馬の周辺に嵐が吹き荒れる。

 小型の竜巻により、僕は吹き飛ばされた。

 

「なんだっ……風!?」

 

 思わぬ妨害に足が止まる。

 狙いすましたように苔の怪物は水晶の鎚矛(メイス)を振るってきた。

 

「ぐっ……!? 不味い……!?」

 

 不意をつかれたこともあり、このままではクリーンヒット。

 そう判断した僕は、左腕にミスリルの鎖を巻きつけて盾代わりにした。

 

「がっ、あああぁあっ!!」

 

 強引にそれで強打を受けると、パァンと子気味の良い音が弾け、僕は数歩分吹き飛ばされる。

 

「痛っ……!」

 

 【英雄願望(アルゴノゥト)】は集中が切れたり、損傷を負った時には解除されてしまう。

 手に溜まっていた光とともに、チャンスを逃してしまった僕はそこで城壁で松明が揺れていることに気付く。

 

(あの合図……狙撃による援護!)

 

 腕の痺れからも分かる。向こうの方がステイタスは上だ。

 なら、一対一に拘るべきではないだろう。

 僕は一人で戦っている訳ではないのだから。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 上空に炎雷を一発放つ。

 これは遠い仲間への了承の合図だ。

 

 ついでに、僕の不可解な行動を警戒した怪物は足を止めた。

 これも計算通り。これでリリは狙いやすくなった。

 

 二つの視線が僕を見る。

 金色の光が流星のように流れたのはその瞬間だ。

 

 困惑による思考の狭間を狙い澄ました一撃。

 飛翔する細長い剣は自壊し、雷の濁流が天へと昇る。

 クロッゾの魔剣を矢代わりに使用したのだ。

 

 僕の【英雄願望(アルゴノゥト)】による長時間蓄力に匹敵する破壊力。

 それが無防備な怪物の喉元に突き立てられ……

 

「なっ……無傷!?」

 

 信じ難い光景に目を見開く。

 他の魔剣を凌駕し、城すら破壊する大火力を受けてもビクともしない。

 そんな馬鹿な、と動揺する僕に怪物は容赦なく突進してきた。

 

「ぐうううううううっっ!?」

 

 頭を噛み砕かんと開かれた口に鎖を噛ませ、何とか踏ん張る。

 しかし、魔剣の攻撃に巻き込まれないように距離を取ったのが不味かった。

 突進に勢いが乗りすぎている。

 

 足がズリズリと押され、地面に真っ直ぐな穴ができていく。

 膝を付き、止まることのない圧が僕を押し潰そうとしていた。

 馬の歯とミスリルの鎖が火花を散らす光景に肝を冷やしながら、僕は叫んだ。

 

「ぐっ……あああああぁあっ!!」

 

 足を胴体に蹴り上げ、巴投げの要領で怪物を後方に吹き飛ばす。

 人型ではないため、殆ど自分の力のアビリティ頼りの荒業であったが、足の痛みと引き換えに致命的状況を脱することができた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息を荒らげながら、今の現象を考察する。

 魔剣の一撃に対して、敵は全くの無傷。

 あの黒いゴライアスですらダメージは通ったにも関わらずである。

 これは明らかにおかしい。

 

 クロッゾの魔剣の威力は悪名高い。

 だから、ヴェルフは故郷を離れてからも苦労したのだ。

 それが効いていないということは、向こう側に何かあると思ったほうが良いだろう。

 

(当たった瞬間、効いていないというよりは、攻撃が無効化されたように見えた……まてよ、クロッゾの力を無効化?)

 

 他ならぬヴェルフから聞いたことがある。

 クロッゾの魔剣を手にし、常勝不敗を誇った王国(ラキア)軍。

 その伝説の終焉はとあるエルフ達の森を襲った時だと。

 

 魔法種族(マジック・ユーザー)であるエルフすら火力では叶わず、森を焼かれた。

 だが、そこには精霊も住んでいたという。

 棲家を焼かれた精霊は当然激怒し、全ての魔剣は即座に粉砕され、クロッゾの一族は魔剣を打つ能力を失ったという。

 

 ここで思考が飛躍する。

 クロッゾの魔剣の無効化。

 今、目の前で起きた事象と同じではないか?

 

(いや、僕は精霊に会ったことが殆どないから分からないけど……精霊って一目見ただけで分かるんじゃないの!?)

 

 少なくとも、目の前の相手には悍ましさを感じることはあれ、神聖さなど全く覚えない。

 やっぱり考え過ぎ……?

 

『平静を取り戻そうとした瞬間。ユーフィはモンスターに喰われたわ』

 

 いや、僕は聞いていた筈だ。

 ゾーリンゲンの精霊がモンスターに喰われたと。

 それから逃げるために、彼らは難民になったのだ。

 

「まさか、ゾーリンゲンの人達を追いかけてここまで!?」

 

 人類の味方である精霊。

 その在り方が反転した異物。

 いわば、穢れた精霊。

 

 敵の正体を理解した僕は青褪める。

 精霊とは、七つの種族の中でも最も神に近いとされる奇跡の種族。

 それを敵に回した英雄が破滅する話など腐る程ある。

 

「……」

 

 穢れた精霊が僕から視線を外した。

 見ているのは僕の遥か後方。

 

 リリではない。

 更に遠い場所を見ている。

 そう、シュリー厶古城跡地を。

 

 ボコココッ、と苔の皮膚から何かが突き出た。

 炎に照らされるそれは茶色。

 

「オオオオオオオオ……」

 

 苔の怪物が体を震わせると、それらが勢いよく発射された。

 更に、蝋燭にそうするように精霊である馬が息を吹きかける。

 

「────フゥ」

 

 突風が巻き起こった。

 苔の怪物が飛ばしたモノは、風に乗り高速で城壁に向かう。

 

「何を……?」

 

 確かに凄い飛距離だ。

 しかし、城壁を崩すにはあまりにも威力が足りていない。

 穢れた精霊の行動が理解できずにいたが、次に見た光景に僕は絶句する。

 

 城壁に巨大な植物が生えていた。

 まるで数千年もの間、人の手が入らなかった忘れられた遺跡のように。

 

 偽物の大自然の進攻が護りを侵す。

 石材と石材の間に蔦が入り込み、鉄壁の護りは急速に劣化した。

 

「きゃあああああっ!?」

「な、なんだ!? モンスターか!?」

 

 中にいる難民の人達も異常を察知したのか、壁内が慌ただしい。

 

「ベル殿! 援軍です!」

 

 そこで、先程春姫さんを連れて退避していた命さんが他のファミリアの眷属を連れて合流する。

 

「命さん! 相手はゾーリンゲンにいたという精霊を取り込んだモンスターです! 風の魔法と種子の弾丸、後は苔による閉じ込めなどを使います! クロッゾの魔剣は通用しません! そして、ステイタスは僕より強い!」

「……っ! 承知!」

 

 改めて口にすると相手の規格外さがよく分かる。

 何かの冗談見たいな盛られぶりだ。

 

「ベル殿を中心に自分達は援護を! 回復のアイテムはありませんので消耗は極力抑えてください!」

 

 命さんが周りに指示を出すのを確認し、僕は城壁の惨状を見て嗤う穢れた精霊に向けて走り出した。




 原作でも一二を争う賢さのモンスターをどこまで再現できてるだろうか……
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