ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか   作:フリュネの出番はもうない

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変わり果てた笑顔

 侵食する植物の怪物達。

 白髪の少年達が奏でる戦いの音色をBGMに、難民達は混乱の渦に陥っていた。

 阿鼻叫喚、とは まさにこういうことを言うのだろう。

 難民に紛れる詩人はそんな場違いな感想を抱き、植物に圧迫されて崩れ落ちた木造りの壁に、風情の欠片もない絶叫を上げる。

 

「落ち着いて! 私達が皆を守るから!」

 

 そんな難民達の耳にもよく通る声がある。

 【アストレア・ファミリア】の団長。セシル・ブラックリーザである。

 鍛冶師でありながら、或いは、鍛冶師だからこそ強力な力を持つ彼女はゾーリンゲンではちょっとした有名人だ。

 

 彼女自身の善性と、ファミリアの高名が生み出す信頼。

 それが、無作為に逃げ回るはずだった人々をまとめ上げた。

 

「落ち着いて、この砦から一旦でましょう! ここにいれなくなった場合の避難先はリリルカやアストレア様がもう決めているわ!」

 

 また大きな音がした。

 風だ。種子(たま)を打ち出す風の音だ。

 

 そこに込められた魔力を、遥か遠くにいながらこれでもかと理解してしまう。

 今、外ではとんでもない怪物が暴れ回っていると。

 

 強者に位置づけられる筈のレベル2ですら、丸めた紙くずのように呆気ない最期を迎える。

 存在自体が禁忌に近い魔物が。

 

「私達がいるから大丈夫! そこらのモンスターなんてメじゃないから!」

 

 自分も無力を痛感しながら、表面上は強がってみせる。

 まるで役者にでもなった気分だ。

 心と体がまるで一致していない。自分の言葉に欠片も現実感を抱けないのを何とか隠しながら、頼れる正義の眷属。【アストレア・ファミリア】の団長を演じた。

 

(私の恐怖に気付かれちゃ駄目。一気に崩れる)

 

 リリとアストレアが決めた避難地帯。

 それは確かにある。まだ、下見にも行ったことがない場所だということを言ってないだけだ。

 

 怪物氾濫を切り抜けるのに必死で、後のことなど考えてないに等しいのだ。

 目の前の理不尽な現実に全力投球しなければ、とてもあの地獄を切り抜けることはできなかったのだから、仕方ないのだが。

 

 大きな戦いが終わってもまだまだ地獄は続く。

 彼女らは今、先のことを後回しにしてきたツケを味わっていた。

 

「っ!?」

 

 その時、空気が揺れた。

 連発する衝撃だ。この空気の味は魔剣の掃射。

 鍛冶師としての本能がそう理解した。

 

(魔剣をこんな一気に!? ありえない、どんな化け物なの!?)

 

 打てるのが、特殊なスキルなどを持っていない限りは鍛冶の発展アビリティを持つ者のみ。

 つまり、専門職のランクアップ経験者にしか魔剣は打てない。

 

 更には、クロッゾを除いて魔剣はオリジナルの魔法を超える威力を出すことはできない。

 故に、使い物になる魔剣となると余計に貴重だ。

 素材という意味でも、手間という意味でも。

 

 最後の切り札。

 その呼称が魔剣の立ち位置を語るには最適だ。

 断じて今のような、矢と間違えているのではないかと疑う掃射は行わないのだ。

 

(敵は後先も損得も考えられない規格外。この人達を守りながら討伐なんて冗談じゃない)

 

 あのまま戦場のすぐ近くにあるシュリーム古城跡地に、戦闘能力の無い者を残すなど正気の沙汰ではない。

 

「ほらっ、あんなに魔剣が私達にはある! 心配なんていらないの!」

 

 戦いの心がけがあるものを聞いたら、思わず失笑するような無理のある言い訳を重ねる。

 すると、そんな嘘付きを糾弾するように真実(てき)が現れた。

 

「お、おい!? なんかこっちに向かってきてるぞ!」

 

 城壁の外に出て少しした時。

 難民の一人が指を指した。

 

「突破されたの!?」

「け、けどっ、まだ魔剣の音は聞こえ続けて……!?」

 

 敵がどうやってここに来たかは分からない。

 だが、一杯食わされた。

 すぐに理解して歯噛みする眷属達。

 せめて、肉壁にならんと怪物の前に立つ。

 

 そして、それを見たセシルは言葉をなくす。

 他の【アストレア・ファミリア】の面々も同様だった。

 

「セ、セシル……あれってまさか!?」

 

 小人族のシャウの声に答えられない。

 いつか、こうなることは理解していたのに。まるで不意打ちのように心が乱れている。

 否、壁外でベル達が交戦し始めた時から気付いていた。

 あの『風』は覚えがあったから。

 

 五年前。ゾーリンゲンの誰もが知る神の御業があった。

 環境破壊を繰り返し、精霊の怒りを買ったゾーリンゲン。

 それを鎮めたのは、その街にふらりと現れたアストレアだったという。

 

 それ以来、アストレアとその眷属には精霊との調停役の大任を任されることが多くなった。

 眷属はおまけ、或いは金魚のフン程度の役割であったが、金魚のフンなりにその精霊と接することが多くなる。

 

 だから、その正体が本領を発揮した彼女に似てると分かった。

 

「……っ!? 不味い!」

 

 アストレアの眷属達は、よく精霊の遊びに付き合わされた。

 遊びですら時に命を失いかねない出鱈目な力。

 それが殺意を伴って力なき人々に降りかかる。

 

「駄目っ! 抑えて!?」

 

 余裕の演技もかなぐり捨てて、避難を任されていた【アストレア・ファミリア】に号令を下す。

 セシル以外がレベル1という戦力で、あまりにも酷な命令だとは分かっていたが、出さずにはいられなかった。

 

 団長として、悲壮な覚悟で命令をする。

 眷属達は言葉を返すことなく、その覚悟に応えようとして……

 

「うっ!?」

「は、速い……っ!」

 

 そんなもの、圧倒的な力の前には意味のないものだと嘲笑うように超スピードで護りを突破される。

 死者・怪我人はいない。

 どうでもいいから捨て置かれた。

 

「ひ、ひぃいいいいいい!?」

 

 ガラ空きになった難民達に、苔に汚染された極彩色の馬が迫る。

 

「……っ、やめて!?」

 

 止められない悲劇に絶叫する。

 なんの意味もないと知りながら、手に持つハンマーを投擲しようとした時。状況が変わった。

 

「……ア!」

 

 ぐるんっ、と。

 馬の首がセシルを見る。

 

 少女の悲鳴に反応したのだろう。

 期せずして穢れた精霊の行動を止めたセシルだったが、その顔は引き攣り、冷汗を流す。

 

「セシル! セシル!」

 

 無邪気な幼女のように。

 穢れた精霊はセシルに向かって方向転換。

 真っ直ぐ直進してきた。

 

「ミーツケタ」

 

 いつかの遊びと同じ。

 舌足らずで無軌道な言動。

 

「アソビマショ、アソビマショ」

 

 セシルを呼ぶ声も同じ。

 悪戯な親近感を苛立つくらいにぶつけてくる。

 

ワタシガアキルマデ(アナタガシヌマデ)、アソビマショ」

 

 だが、その内面は残酷なまでに変わり果てていた。

 

 笑顔だ。

 散々迷惑をかけられたあの笑顔。

 

 精霊の滴は渡さないくせに、妙にこちらにちょっかいをかける精霊を迷惑に思わなかったといえば嘘になる。

 滴さえ手に入れたら二度と会うかと思ったこともあった。

 

 だけど、あの時の彼女に。

 もう一度会いたいと思った。

 

「キャハハハハハハッッ!!」

 

 刺々しく目尻と口角が吊り上がった笑み。

 よだれを振りまきながら、身悶えするように体を揺らす。

 

「……ユーフィ!」

 

 精霊の名を呼ぶ。

 ハンマーを投擲し、怯んだ隙に横に逃れようとして……

 

「オオオオオオオオッッ!」

「あぅ……っ!?」

 

 苔から放たれた種子にハンマーを弾かれた。

 否、それに留まらず数発が肩・脇腹に命中。

 

 種から成長した蔦がセシルの動きを阻害する。

 

「あっ……うぅ……なに、これ……」

 

 力が奪われる。

 レベル2の超人的ステータスが剥がされ、枯れ果てた老人になったようだ。

 締め付ける蔦に苦悶を漏らしながら、セシルは地面に転がった。

 

「キャハハハ! セシル! セシルセシルセシル!」

 

 蹄の音が振動となって、地面に接したセシルの頬を揺らす。

 体から生える苔を増殖させながら、ユーフィはあの日とは結びつかない醜悪な笑顔を向けた。

 

「クスクス……ニゲチャダメー」

 

 呆然と見上げるセシルに水晶の鎚矛(メイス)が振り上げられた。




 まだリアルはゴタゴタしてるけど何とか投稿。
 家の電気点かないのにサポセン来てくれないの。
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