ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか   作:フリュネの出番はもうない

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ラキアの兵士達

 ベオル山地奥部に固まる三十名の部隊。

 彼らは、古代に大穴と呼ばれていた厄災の地(ダンジョン)から地上に進出したモンスターの系譜達を、いとも容易く撃退していた。

 

「フハハハハハ! 作戦通りに行ったわ! この能無し駄女神を人質に、オラリオに譲歩を迫ってくれるわ!」

「清々しい程に屑ですねアレス様」

 

 先頭で馬に跨る王国(ラキア)の主神アレスはご機嫌な様子で高笑いをする。

 王子マリウスの白けた目も何のそのだ。

 

 オラリオにボコボコにされまくり、とうとう堪忍袋の緒が切れたアレスは起死回生の策を実行したのだ。

 それがオラリオに直接神々を攫いに行くという、後世に残れば確実にネタ作戦の評価を下されるであろう愚行である。

 

 案の定、オラリオを守る【ガネーシャ・ファミリア】を突破できず、逃げてきた途中でオラリオに住む神であるヘスティアに遭遇。

 これ幸いと確保したワケだ。

 

(この神の悪運の強さは何なんだ……?)

 

 馬鹿みたいな作戦を成功させてしまった主神にマリウスは頭痛をこらえる。

 これでは王の目がまた曇って愚王っぷりに磨きがかかってしまうではないかと。

 

「しかし、近くにいたヴェルフ・クロッゾも一緒に連れてくればよかったではないか」

「まだ言いますか……奴は既にレベル2です。抵抗されたら、オラリオからの追手に追いつかれかねないですよ。魔剣を使われれば特にね」

「ふんっ! 弱腰な!」

 

 好き勝手言うアレスに青筋を立てたのはヘスティアだ。

 アレスの肩に担がれた状態のまま怒鳴る。

 

「いい加減にしろ! ボクはオラリオの神じゃないから意味ないぞ!」

「っは! 苦しい言い訳だなヘスティア! オラリオを騒がす世界最速兎(レコードホルダー)と、此度の侵攻の最優先目標であるヴェルフ・クロッゾの主神が貴様であることは、既に調べがついておるわ! 戦争とは情報がモノを言うのだよ!」

「情報の更新が遅いんだよアホ神がぁ……! オラリオの神なら戦争中にこんなとこで呑気に山菜採りなんてしてないよ!」

「ふっ……そうやって裏をかいて罠を張る気だったのだろう! 甘いわ!」

「甘いのは君の認識だろうが! どんだけ自分に都合いい思考ができるんだよ!? だから同じ戦の神なのに頭脳派のアテナに勝てないんだ!」

「貴様あああああああああああああっ!? 言ってはならんことを!?」

 

 成程、奇跡の作戦成功だろう。

 捕らえたヘスティアはとっくにオラリオの神ではないという事実がなければ。

 

 ヘスティアを人質にしたところで、オラリオとしては「ほーん……で?」以上の反応が返ってこないことを理解してないのだ。

 

 それをいくら説明してもアレスは聞く耳を持たない。

 

王国(ラキア)が馬鹿を見るのはどうでもいいけどこれは不味い! 今、ボクの居場所が知られたらイシュタルが動く! 折角ここまで逃げたのにっ!)

 

 アレスの暴走に巻き込まれて、とんでもないデストラップを踏もうとしている。

 逃げ出そうにもヘスティアに武道の心得はなく、恥を承知で神威を開放しても担いでいるアレスは同じ神だから効果がない。

 

 万事休すか。

 そう思われた矢先に後方の部隊が爆炎に包まれた。

 

「な、何だ!? 魔法か!?」

「馬鹿な! 詠唱が聞こえなかったぞ!」

 

 突然の事態に混乱する兵達。

 マリウスが一喝するより先に、少年の声が響いた。

 

「神様っ!」

「ベル君っ!」

 

 ベルとヘスティア視線が交錯する。

 それを遮るようにアレスが立ちはだかる。

 

「フハハハハハハハハッ! 自らの主神を奪い返しにきたかベル・クラネル! その意気や良しっ! 特別にこの私が相手に「そぉい!」って痛っ!? おのれヘスティアのツインテールがぶへああああああああああああああっ!?」

「何してんだアンタ!?」

 

 眷属の前に神自ら立つという自殺行為をして、高笑いをするアレスに頭を振ってツインテールを顔面に炸裂させるヘスティア。

 すかさずベルもアレスの鳩尾に一発叩き込み、ヘスティアを奪還した。

 神と眷属の麗しきコンビネーションである。

 

「ベル君~~! ありがとうううううううっ!」

「神様、お怪我はありませんか?」

「この通り傷一つないぜ! 君が素早く来てくれたお陰だ」

 

 神様を取り返したのならもう王国(ラキア)に用はない。

 このまま引き返そうとするベルに、マリウスは剣を振り下ろした。

 それに対しベルは神の刃(ヘスティア・ナイフ)で防ぎ、激しい金属音を鳴らす。

 

「悪いが簡単に返してやる訳にはいかん」

「くっ……神様は渡しません!」

「そうか」

 

 吹き飛ばされたのはベル。

 ヘスティアを庇った体勢であったとは言え、己が力負けした事実にベルは悟った。

 

格上(レベル4)だ!)

 

 マリウスが何かを投擲する。

 うねる蛇のようにベルの左腕に巻き付くのは、高貴な光を秘めた鎖。

 

精製金属(ミスリル)!?」

 

 鍛冶師(スミス)であるヴェルフが使っていた所を、何度か見ていたからすぐに見当が付いた。

 ヘスティア・ナイフと同様の素材。軽く、加工しやすく、そして魔力伝導率が高い。

 

 ならばとベルは右手で鎖を掴んだ。

 これでは逃げれない。外さなくては。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 鎖を流れるように突き進む炎雷。

 導線が引かれたこの状況下ではベルの魔法は必中だ。

 

「やはり無詠唱か……!」

 

 肩に魔法が突き立てられながらもマリウスは揺るがない。

 レベル4の耐久と王族用の高性能な鎧が、ベルの魔法を減衰させたのだ。

 

 ならば近接戦だ。

 ナイフの利点を最大限利用する。

 

 掴んでいる鎖を今度は思い切り引く。

 堪えようと大地を踏みしめるマリウスに対し、ベルは反動を利用し、兎のように跳躍。

 一気に接近した。

 

「はああああっ!」

「えぇいっ! 噂の【未完の少年(リトル・ルーキー)】は伊達ではないか! ヴェルフ・クロッゾが下に付く訳だ!」

 

 火花を散らし連撃と連撃がぶつかり合う。

 先手を取り、有利な間合いになったにも関わらずやや有利止まり。

 ここで一気に倒すのは難しいとベルは狙いを鎖に変更する。

 

 紫黒の一閃に思わず鎖を手放してしまうマリウス。

 己を縛るものがなくなったベルは後ろに思い切り跳躍した。

 

「神様、失礼します!」

「わわっ!?」

 

 ヘスティアを横抱きに抱え、右の掌を開いて魔法を連射する。

 

「【ファイアボルト】!」

「うおっ!」

「ぐああああああああっ!?」

 

 初撃から立ち直り、ヘスティアを狙っていた王国(ラキア)の兵士たちに炎雷が炸裂した。

 無詠唱で放たれる魔法によって兵士達は近寄ることができない。

 

「おのれぇ、敵は一人だ! このまま行けば磨り潰せ……」

 

 レベル3の将軍はここまで言ったところで金色の風に弾き飛ばされた。

 戦場の熱気が一瞬で冷める。

 ベルは思わず目を丸くして、王国(ラキア)の精鋭部隊が一様に顔色を絶望に染めた。

 

「アイズさん!?」

「け、【剣姫】!」

 

 金色の髪と瞳。

 細長い剣を振り抜いた先で、白目を剥く将軍を確認したアイズはゆっくりと振り向いた。

 

「ベル? ……久しぶり?」

「どうしてここにアイズさんが……?」

「えっと、アレス様を追いかけろってフィンが」

 

 どうやらオラリオから敗走する敵の首魁を取りにきたらしい。

 そうしてベオル山脈に来た所、魔法の発動を確認して飛んできたとのことだ。

 

「まずは倒そうか」

 

 何でもないようにアイズは言う。

 ベルが命懸けで戦う相手も、アイズにとっては作業(タスク)でしかないらしい。

 やっぱりすごい人達だと苦笑しながら、ベルは再びヘスティア・ナイフを構えた。

 

 話したいことは山ほどある。

 けれどまずはこの場を切り抜けてからだ。

 

「はい!」

 

 マリウスはそんな二人を見た後、後ろで未だにベルに殴られた腹を抑えて唸っているアレスを見る。

 そして小さく溜め息を吐いた。

 

「はぁ……これは駄目だな」

「「「「お、王子~~!?」」」」

 

 王国(ラキア)精鋭部隊が全員叩きのめされるまで、かかった時間は僅かだった。




何とか崩壊までは連続投稿したい……
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