ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか   作:フリュネの出番はもうない

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ランクアップ

 一粒の血が落ち、光の波紋が展開する。

 神聖文字(ヒエログリフ)で綴られるのは眷属の歴史。

 インク代わりの経験値(エクセリア)で、神の手は子供の軌跡を引き上げ定着させる。

 

 神の名と眷属の真名と炎のシンボルが輝き、新たなページがめくられた。

 物語を綴り終えた女神(ヘスティア)が万感を込めて子に告げた。

 

「ランクアップだ。ベル君」

 

 それはベル・クラネルが新たなステージへ到達したということ。

 ありがとうございますとベルは更新用紙を受け取る。

 

「強くなってオラリオに戻る。その第一歩だね」

「……はい」

 

 春姫を【イシュタル・ファミリア】から脱出させるための一通りの騒動。

 王国(ラキア)の精鋭部隊を相手にした大立ち回り。

 そして、第一級冒険者である【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインとの本気の手合わせ。

 

 この僅かな期間の間の試練は、ベルが殻を破るに足る経験であると評価されたようだ。

 これもまた世界記録なんだろうなーと言いながら、ヘスティアは用紙を覗き込んだ。

 

「今回は出せた発展アビリティは【逃走】だけだから勝手にやっておいたよ」

「はい。ありがとうございます」

 

 【逃走】はレベル4以降でしか発現しないレアアビリティだ。

 その名前の不名誉さから眷属の中では人気のない技能であるが、【イシュタル・ファミリア】から逃げ出してエダスの村まで流れ着いたベルには、これ以上にしっくりくるアビリティはないかもしれない。

 

「効果は逃走時における速度の高上昇補正」

「今の僕達には結構あってますね。パーティの皆は補正の対象外なのがちょっと惜しいですけど」

「いやいや、春姫君にそんな補正があってもすっころんじゃうだけだと思うなぁ」

 

 雑談をしながら、ベルは服を着ていく。

 

「けどスキルはないですね」

「まあ、なくてももう二つあるから十分だと思うけどね」

「え? 二つ?」

「ん? ……あー!? あっ、あっ、あれだよ! 詠唱ないから魔法も一緒に数えてた!」

 

 【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】の存在を秘密にしていることを忘れて、つい口を滑らせてしまったヘスティアは、掠れた口笛を吹きながら誤魔化す。

 

「と、とにかく! 本当に大変なのはここからってことだね」

「はい、ダンジョンがあるオラリオと違って、経験値(エクセリア)を稼げる相手は都市外に殆どいません」

 

 経験値とは、それがどれだけ眷属の糧になったかが重要だ。

 しかし、レベル2ですら実力者に分類されるのが都市外の実態。

 レベル4に至ったベルはこの先、対戦相手不足に苦しむことになるのは目に見えていた。

 

 第一級という険しい壁を前に、ダンジョンに潜れないというハンデは重い。

 自分で決めたこととは言え、道のりの険しさに思わずベルの表情は険しくなる。

 

「まあ、ベル君だけが一気に強くなっても仕方ない。ファミリア皆で少しずつ力を付けていこう。この後、どう動くのか展望はあるのかい?」

「はい。といってもリリ達と少し話し合っただけですけど」

 

 ダンジョンという最高のリソース元を失った【ヘスティア・ファミリア】に取れる手段はそう多くない。

 ここからは計画性が重要になるだろう。

 

 計画性。

 何も考えずにオラリオに直行した、ベルとヘスティアには縁遠いものと言えなくもないが。

 

「このままエダスの村にいても仕方ないので、もう少ししたら、ここから出て別の場所に行こうと思っています」

「ふむ……まあ妥当だね。けど、できればこの村のゴタゴタが収まってからにしたいけどね。カーム君が天に帰ってまだ日が浅いし」

「そう、ですね」

 

 ベル達をこの村に迎え入れてくれたカーム村長は、アイズがオラリオに帰った数日後、天寿を全うした。

 

 ベルはそうなる本の一日前、カームさんに呼ばれて少し話をしている。

 彼もかつて女神の眷属であったこと、その女神さまを目の前で失ったこと、絶望のままこの村まで流れ着き、身寄りのない子ども達を養子として迎えたこと。

 

 彼はヘスティアとベルを見て未来を案じたらしい。

 自分のようにならないでくれ。そう、ベルに告げた。

 

「……ベル君?」

「すいません。ちょっと、考え事をしていました」

 

 カームのことを思い出したからか、ついヘスティアを見つめてしまったベルは、女神の不思議そうにしている顔から目を逸らす。

 

「僕も、この村に何の恩返しもせずに出ていくのはイヤです」

「そっか」

「だから、色々と恩返しをしながら、外に出るための準備をゆっくり進めようと思います」

 

 外に出ると言ってもこんな世界だ。ダンジョンほどではないが危険は大きい。

 装備・アイテム・路銀……用意すべきモノは山ほどある。

 

「しかし、外に出るって言っても何かアテはあるのかい?」

「いえ、特には……強くなるためにはモンスターがいるところを回りたいですし、あちこちを転々とすることになりそうです」

 

 世界には太古から生き残るモンスターも存在する。

 多くは英雄達の手で討伐されているが、中にはこの時代になっても、村や国を苦しめている強力なモンスターが生き残っている場合があるらしい。

 

 それ以外なら犯罪組織なども見逃せない。

 邪神と称される者達の中には、犯罪行為や禁忌を是とするファミリアを結成している場合がある。

 対人戦を極めれば第一級冒険者にも届くのは、最近話題になった二人のレベル6を有するアマゾネス達の聖地テルスキュラが証明していることだ。

 

 レベル4になったベルがこの先上を目指すためには、そういった強敵と戦う機会を貪欲に求めなくてはならない。

 

(流石にあの国ほど血を求めすぎる気はないけど)

 

 つまり、時期がいつになるにしろ、エダスの村を出ることは確定事項なのである。

 

「困っている人達がいたら手助けをして、ちょっとだけお金や食料を貰う……アルテミス様みたいなことをしていけたらいいなって、そう思っています」

「……そっか。それは素敵だね」

 

 神友(しんゆう)の名を聞き、ヘスティアは口元を綻ばせた。

 今はもう天界にもいない大切な名前。

 

 彼女もきっと喜んでくれるに違いない。

 大切な友と少年が、自分のしていたことを引き継いでくれることを。

 

「でもボクはアルテミスみたいに活発じゃないからなー。旅先で疲れちゃいそうだ」

「それは、ごめんなさい……」

「ふふ、いいさ。そういう苦労も下界の醍醐味だろう? 折角、全知零能になったんだ。泥のように眠る感覚も、二日後の筋肉痛も、味わわなきゃ勿体ない」

 

 けどやっぱり面倒くさいから、サポーター君に手押し車でも押してもらおうかな、と冗談めかせるヘスティアにベルも笑った。

 冗談じゃないですその駄女神マジで言ってますよベル様、とリリの声がした気がするのは気のせいだろう。

 

「……オラリオを出ることになったけど、ちょっとボクは嬉しいのかもしれないな」

「え?」

「ダンジョンではボクはお留守番だっただろう? だから、君達と冒険できるって考えると、今回のことはボク的には物凄いプラスなのかなって思っただけだよ。因みに、ベル君はどこか行きたいところはあるかい?」

「うーん……大英雄エピメテウスがいたオリンピアには一度行ってみたいです」

「さ、流石英雄譚マニア……ボクは色々あり過ぎて絞れないなー。っていうか、オラリオに戻ったら全然外に出れないんだし、これは今のうちに観光しまくるしかないね! 目指せ! オラリオ以外の三大秘境制覇!」

「三大秘境って観光するような場所じゃない気が……」

 

 わいわいと今後の展望を語っていた時、ふとベルがあることを思い出した。

 

「あ、そうだ神様。明日、ちょっと【ヘスティア・ファミリア】の皆で出かけませんか?」

「ん? どこにだい?」

「剣製都市……ゾーリンゲンにです」




【イシュタル・ファミリア】のことを警戒しなくていいの? と思われるかもしれませんが、アイズが都市の情勢を教えてくれたおかげで、現在のイシュタルにオラリオ外のベル達に構っている余裕がないことが分かっているからです。

ロキ「テメーよくもウチの眷属ぶっ殺しやがったな? クノッソスの鍵と闇派閥の情報出さんかい」
フレイヤ「ベルが頑張ってるみたいだから私が潰すなんて無粋な真似はしないけど……ちょっと嫌がらせくらいはいいわよね?」
イシュタル「はーどっちもウッザ。雄牛ぶっぱしてやろうか」
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