ベルたちがオラリオ崩壊から世界を立て直すのは間違っているだろうか   作:フリュネの出番はもうない

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ある女神との出会い

 道は整備されなくても、人が行き来を繰り返せば自然とそれらしきものが出来上がる。

 川に沿って道を歩けば、草々を分けるように、サンドベージュの一本線が進むべき方向を示していた。

 

 そんな旅路を阻むのは熊型のモンスター。名前はバグベアー。

 かつて、ダンジョンの崩落で18階層まで避難した際、セーフティポイントに生息していたそれを見て度肝を抜かれたことを思い出す。

 

 川の水を飲みに来ていたのだろうか、招かれざる客である僕達を牙を剝きながら威嚇していた。

 

「お、おわー!? 何か凄いのいるぅ!?」

「ちょっ、逃げようとしないでくださいヘスティア様!」

 

 神様とリリのやり取りを横目に、僕は前に出た。

 

「ベル殿!」

「僕がやります。命さん達は神様や春姫さんを」

「承知!」

 

 ダンジョンでは中層域のモンスターであるが、地上のモンスターは交配により魔石を細分化した結果、強さは格段に劣っている。

 非戦闘員には脅威であっても、レベル4になった僕ならば問題なく対処可能だ。

 

 胸の魔石に一突き。

 そのままバグベアーを通り過ぎる。

 

「ガ、ア……?」

 

 戸惑ったような声を発し、バグベアーは消失した。

 彼は最期の瞬間まで、自分が殺されたと認識できなかっただろう。

 

 だが、僕の足は止められない。

 レベル4になって強化された聴覚が、空気を小刻みに揺らすもう一つの存在を確認していたからだ。

 

「ガン・リベルラです! 尻尾の針による狙撃に注意してください! ヘスティア様はリリの後ろに! 春姫様はリリとローブで盾になります!」

「こ、こうでございますか!?」

 

 最初に示し合わせていた通り、神様や春姫さんは動けているらしい。

 それを確認しつつ、僕は考える。

 

 この距離ならファイア・ボルトを使うのはありだ。

 だけど、余裕のある今こそあれを試してみよう。

 

 そう考えて、腰にまとめてあった銀の鎖を持つ。

 あの日、王国(ラキア)の王子様……確か、マリウス様が使っていた装備だ。

 

 彼との戦闘では鎖のリーチに苦しめられたが、それを僕が使うとどうなるのか。

 

「せぇ、のっ!」

 

 鞭のように銀の輝きを振るう。

 寒気がするような音を伴って、ミスリルの鎖は少し離れた場所にいるガン・リベルラに直撃した。

 

 その速度は音速を容易くこえ、パァンと破裂音が響いた。

 同時に伝わる確かな手ごたえは、腕が伸びたと錯覚しそうになるようだ。

 

「ギピィッ!?」

 

 悲鳴と共に爆散する蜻蛉型のモンスター。

 吹き飛んだ目玉が灰になって消えていく。

 

(うん、かなり使いやすい)

 

 今までにない距離を補う武装。さながら中距離武装だろうか。

 まだまだ練習は必要だろうが、上手くやれば面白い戦い方ができるようになるかもしれない。

 

「本当にいい武器だ……これ、貰っちゃって良かったのかなぁ」

 

 王子様が持っていただけあって性能は折り紙付き。

 安い訳がない一品に、今更ながら疑問を持ってしまう。

 

「いいんです。迷惑かけられた慰謝料代わりなんですから」

「うーん。そこまで神経太くなれないって言うか……」

 

 よく考えなくても王国(ラキア)の人達には凄い目で見られそうだ。

 王族の装備をカツアゲしたってことだし……

 

「いいんだよあんな奴ら。配慮するだけ損ってもんだ」

 

 元々王国の没落貴族だったヴェルフは辛辣だ。

 そういう付き合いで色々あったみたいだし。

 

「って、ヴェルフちょっと怒ってる?」

「別に、王族がふんだんに金賭けてるだけあって上物だ。役に立つなら使えば……ああ、くそっ。本当にいい仕事してやがんなくそったれ」

 

 物凄い目付きで鎖を睨むヴェルフに苦笑する。

 ヴェルフは僕の専属鍛冶師だ。

 だから、僕の装備には人一倍こだわりがあるらしい。

 

 精霊の護符とか、そういう鍛冶師ではどうしようもない場所ならともかく、武器となると譲れないものがあるのだろう。

 

「見てろよ、そんな鎖じゃ満足できなくなるような、すげぇ奴作ってやる」

「男の嫉妬とか見苦しいだけなんです。言っておくけど、素材で無駄遣いなんてリリの目が黒い内は許しませんよ」

「ふざけろ! ベルの武器を作ることのどこが無駄遣いだ! どれだけ金かけても足りないぐらいだろうが!」

「その浪費家思考を治せと言ってるんです!」

 

 リリとヴェルフの言い合いが始まってしまった。

 何時も苦労を掛けているリリの言い分は団長として理解できるし、でもヴェルフの言うことも分かるというか、僕もヴェルフの本命を他の人に振るわれたらモヤモヤしちゃうし……と優柔不断な僕は二人の言い合いを上手く止めれない。

 

「まあまあ、時間はたっぷりあるのですから、そう焦らなくてもいいではありませんか」

 

 結局、命さんが仲裁するまで止まらなかった。

 うう、不甲斐ないなぁ。

 

「あ、あのっ、ベル様!」

「どうかしましたか?」

「先ほどの私の動きは問題なかったでしょうか?」

「ええ、あの状況では真っ先に神様を守るべきですから、二人がカバーしてくれたおかげで僕も攻撃に集中できて助かりました」

 

 実際、神様がモンスターにやられて眷属の恩恵が封印、そして全滅というのは最も起きてほしくない悪夢だ。

 規定により神様が入ることが禁止されているダンジョンでは、これまで考える必要がなかったことだが、ここはダンジョンの外。

 

 そうした事故には気を付けなければならない。

 恩恵を失ってしまえば眷属は常人に戻り、新たな神の血(イコル)を授かるまで戦えなくなる。例外は存在しないのだから。

 

「そう、ですか」

 

 春姫さんやリリの行動は何も間違えていない。

 だが、狐人(ルナール)の少女はどこか冴えない表情だ。

 

「ベル様、春姫は自分の無力が苦しいのです。皆様が戦っている時でも、私は安全な場所で怯えていることしかできない。それが、今までになく苦しいのです」

 

 彼女の葛藤は覚えがあった。

 遠い場所で進み続ける憧憬。

 それと無力な自分を比較して、臍を嚙むあの頃。

 

 悔しさは心の火にくべる薪にもなれる原動力だ。

 だから僕は、その焦りを否定することなく寄り添うことにする。

 

「なら、これから一緒に強くなりましょう。ゾーリンゲンで春姫さんは自分に合う武器を探すのが今回の目的ですよね?」

「はい。まだ武道の心得を持たぬ身ではありますが……」

 

 これまで【イシュタル・ファミリア】では、荷物と一緒にカーゴに乗せられて碌に戦闘はしてこなかったらしい。

 追われる身となった以上、自衛の力も必要ということで適性を見定めることになったのだ。

 

 まあ、命さんの話だと大分運動が苦手だったらしいのが不安ではあるけど。

 本人はやる気十分見たいだし大丈夫だろう。

 

「ぜーぜー。ゾーリンゲンってあとどれくらいなんだい? もう四日も歩きっぱなしだぜ?」

「もうすぐですよ、ヘスティア様」

「し、信じるぞヴェルフ君」

 

 木の枝を杖代わりに進む神様は、汗をダラダラ流しながら歩いていた。

 神様ももう少し旅慣れしてもらわなければならないかもしれない。

 今のままでは、各地を転々とする生活は難しいだろう。

 課題は山積みだ。

 

「そう言えばヴェルフ殿はゾーリンゲンにいたことがあるのですよね?」

「ああ。昔、実家を飛び出してからは住み込みでな。そんでもって、ここでヘファイストス様に出会ったんだ。あそこは有数の刀剣製造都市だからな。素材やら鍛冶屋やらとの契約があるんだとよ」

 

 そういう場所だからこそ、ファミリアとして再起を図るための準備をするには良い。

 ヴェルフはそう判断し、買い出しに皆を誘ったのだ。

 

「まあ、職人気質の頑固者だらけだから交渉は難儀するかもしれんが……ん?」

 

 そうやって南東に進んでいった時、道の先に人影が見えた。

 

「物盗りか?」

「いえ、女性一人でというのも考え難いかと」

「というか、あれは……女神様?」

 

 上級冒険者三人で話し合う。

 敵意は特に感じないが、念のため用心すべきだろうと判断した時、道の先の神物(じんぶつ)を神様が認識した。

 

「あれ? アストレア?」

「……ヘスティア?」

 

 どうやら神様のお知り合いらしいその方は、少し驚いた表情で僕達を見ていた。




 本作のマリウスの鎖は、ゴライアスマフラーのイベントができなくなったことへの代わりです。
 あちらほど防御力はありませんが、代わりにトリッキーな動きを組み込めるかもしれません。
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