ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出 作:ミハイル・シュパーギン
その日、大洗女子学園の学園艦は雨の中を航行していた。
しかし西住みほ率いる戦車道チームは、雨の中でも決して練習を怠らない。
今日はチームを2つに分けて練習試合だ。
西住みほはⅣ号戦車に座乗し、操縦手の冷泉麻子、砲手の五十鈴華、通信手の武部沙織、装填手の秋山優花里とは親友同士で尚且つ息の合う戦友同士でもある。
「麻子さん!レオポンさんの動きに合わせて下さい!」
「任せろ・・・!」
麻子はみほの指示に従い、こちらの背後に回り込もうと円を描くようにドリフトするポルシェティーガーの動きに合わせてⅣ号戦車の正面を向け続けた。
今や互いにフラッグ車だけとなった2つのチームは、雌雄を決しようと最後の決戦を挑んでいる。
「最も装甲の薄い部分を狙って・・・」
砲手の五十鈴華は照準器の中で止まって見えるポルシェティーガーに、麻子の操縦技術の高さを改めて認識して感銘を受けていた。
「装填完了!」
徹甲弾を砲身に押し込んだ優花里が報告する。
「華!決めちゃって!」
沙織が振り返りながら言う。
その時、ポルシェティーガーの砲身が少し持ち上がり静止した。
こちらをロックオンしたのだ。
しかし同時に、華もポルシェティーガーに狙いをつけていた。
「発射!」
弾丸はほぼ同時に発射されたが、偶然にも2つの弾丸は衝突コースに入っていた。
砲弾同士がぶつかり合って炸裂すると、不自然な事に、その火球がみるみる膨張し始めた。
「何・・・?」
みほがキューポラ越しにその様子をきょとんとして見つめていると、火球は更に膨張してⅣ号戦車を包み込んだ。
「な、なんだ?」
ドリフトの勢いでその火球と距離を取る形となっていたポルシェティーガーの車長のナカジマも、みほと同じように唐突な成り行きにきょとんとしていた。
いや、ナカジマだけではない。あちこちで白旗判定となって擱座していた大洗チームの戦車の乗員達も、Ⅳ号戦車を包み込んだ謎の火球をただ茫然と見つめていたのであった。
火球が収束したのか、キューポラ越しに差し込んでいた強烈な光は消え去り、暫く車内を静寂と耳鳴りが支配した。
やがてエンジン音が耳に戻って来ると、みほは我に返った。
あまりにも不思議で、理解しがたい出来事だったからである。
「みんな、大丈夫!?」
「問題ない」
「ええ、大丈夫です」
「私も健在であります!」
「私も平気・・・みぽりんは?ケガはない?」
心配そうにこちらを見つめる沙織に、みほは首を横に振る。
「ううん。私も大丈夫」
「それにしても今のは…」
そう言いながら砲塔側面のハッチを開いて顔を出した優花里は、「あれ?」と首を傾げた。
「優花里さん、どうしました?」
みほが声を掛けると、不審そうに目を細めた表情で優花里がみほを見た。
「西住殿。何か様子が変です」
「え?」
「と言うか、こんなタンクジャケットでしたっけ?」
華が自分の着ているタンクジャケットを見下ろしながら言った。
「うわあ!華!いつからそんなマーク付けたのよ!」
「マーク?」
「うちらのあんこうチームのマーク!何よそのあんこう!趣味が悪い!」
指差しながら非難する沙織だったが、華も言い返す。
「そう仰る沙織さんのあんこうマークだって…」
「え?」
沙織は左の二の腕部分を覗き込み、「うえー!何よこれ!というか服のデザインも違ってるしい!」
「私も同じです、西住殿」
「こっちも同じだ」
と、麻子の声。
平静さを装ってはいるが、困惑と動揺が入り混じっている。
「いつの間に…」
みほも自分のタンクジャケットの二の腕を確かめると、そこには上からナイフを刺され牙を剥く恐ろし気なチョウチンアンコウの刺繡が縫い付けられていた。
因みに本来のあんこうチームのシンボルマークは、デフォルメされてかわいらしいアンコウだ。
また、元々大洗チームのタンクジャケットにシンボルマークの刺繡は施されていない。
タンクジャケットも見慣れたものではなく、まるで・・・本物の軍人が着用する軍服に近いデザインだ。
上着はデジタル迷彩だったし、手袋はフィンガーレスグローブ、靴は本物の軍用ブーツで、下はスカート・・・ではなく、同じデジタル迷彩の長ズボンだった。
大洗チームのタンクジャケットを、それ用にアレンジしたと言うべきか。
「一体、なんなの・・・?」
困惑を通り越し、不安そうに誰にともなく呟く沙織。
みほは、外を見た時の優花里の発言がふと気になり、車長用のハッチを開くと、キューポラの縁を掴んで体を持ち上げ、外に顔を出した。
そこは確かに大洗女子学園の学園艦だったが、何か様子が違っているのであった。
と、その時。後ろから角谷の声が呼び掛けた。
「西住く~ん!」
続く