ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

11 / 30
あんこうチーム出動

角谷は別の回線を開くと、

 

「私だ。敵チームが飛行機で来る。阻塞気球を上げるんだ」

「阻塞気球って、あの?」

 

優花里が質問すると、角谷が顔を向けた。

 

「ああ。ここ最近の強豪連合への報復攻撃を見て、我々もそれに備える必要があると思った。これまでは報復攻撃などあり得なかったが・・・とにかく最近導入したんだ」

 

阻塞気球とは金属製のケーブルで繋がれた気球で、低空飛行する航空機からの攻撃を妨害する為に第二次大戦で運用されている。

 

「スーパーギャラクシーという事は、サンダースでありますか?」

「それもあるが、多分、強豪連合だろう。聖グロを除く3校だ」

 

角谷は思い詰めた表情で、噛んで含めるように言った。「奴らは、我々を皆殺しにする気だ。特にターゲットとなっているのは、間違いなく君達、あんこうチームだ」

 

「皆殺し・・・」

 

みほが呆然として言った。「相手と通信を取れませんか?」

 

しかし、角谷は首を横に振る。

 

「相手は呼びかけに応じなかったらしい。問答無用で攻めてくるつもりだな」

「ですが会長殿」

 

優花里が言った。「阻塞気球を展開するのであれば、相手も諦めるのでは?恐らく低空で戦車を投下するものと思われますが」

 

「絶対と言い切れるか?相手は失うものが無いんだ。それに学園艦全体をカバーしているわけじゃない。この船のどこかに投下出来ればそれでいい筈だ」

「まさか住宅街に投下するとでも?」

「分からない。我々の世界の戦車道にも暗黙の線引きはあるが、やけっぱちの彼らが何をしてくるか、正直予想がつかないんだ。せいぜい、時間稼ぎが関の山だろう」

「となると・・・」

 

角谷は深刻な面持ちで頷き、

 

「最悪、君達は殺し合いをする事になる」

「そんな・・・」

「当然、そんな事はさせたくない!この世界の住人じゃないんだからな!」

 

角谷は少し俯いて数秒考えると、また顔を上げた。「君達はどこかに隠れていろ。我々で迎撃する」

 

「本気ですか!?」

 

みほが悲愴に満ちた顔で、訴えるように言ったが、角谷の面構えはまるでこれから戦場に赴く兵士のようだった。

死という概念が肯定されているこの世界の戦車道ならではの人間形成だろうか。

 

「どうしようもない。かと言って君達の手を血に染めるわけにはいかない。そんな事をしたら・・・帰れなくなるぞ」

「しかし他に道は・・・」

「無い!」

 

角谷の語気は断固として強く、しかし悲しみを湛えていた。「君たちは隠れていろ。この船は絶対死守する。色々謀略は仕掛けたが、伊達に強豪は破っていない。なんとなく分かる筈だ」

 

角谷は立ち尽くすあんこうチームに背を向けると、扉に向かった。

このままだと自分達は無力なうちに殺し合いの傍観者となるし、それは耐えられない事だった。

何か手は無いかと、みほはこの瞬間に様々な手段のカードを検討した。

 

角谷が取っ手に触れた瞬間、みほが叫んだ。

 

「待って下さい!」

「ん?」

 

呼び止められた角谷は、不審げな表情で肩越しにみほを見た。

 

「やっぱり、殺し合いを見過ごせません!」

「じゃあどうする気だ?そう言ったからには、何か考えがあるんだろう?」

「はい・・・」

 

みほは息を深々と吸い込んだ。

これから言う事を考えると、心臓が高鳴りアドレナリンが体中に充満して弱気を風船のように膨らませて発言を引き留めようとする。

 

しかし、これしか手は無い。

 

「私達が戦います!」

 

これには角谷だけでなく、親友4人も驚愕した。

 

「みほさん!?」

「みぽりん!?」

「西住殿!?」

「どういう事だ?」

 

角谷は取っ手から手を離し、ゆっくりとみほに向き直った。

 

「西住くん。君は自分の言った事、分かっているのか?」

 

みほは決然として頷く。

 

「はい。他のチームは手出し無用です。私達が強豪連合を鎮圧します」

「鎮圧・・・殲滅の言い間違いじゃないのか?」

「いいえ。言い間違いではありません。練習弾を使って、主砲を破壊して無力化します」

 

角谷の目が見開かれた。

 

「たった1輌でやる気か?」

「でないと、本当に相手を殺してしまいかねませんから」

「気持ちは分かるけど西住くん。ヒーロー気取りが通用する世界じゃないんだここは。死への覚悟は段違いだぞ。君達は死ねないが、相手はもはや死んでも構わないとさえ思っている。その行動の差は大きいぞ」

 

角谷がそう諭したが、それはみほも想定済みだ。

 

「角谷会長。私がその覚悟無しで発言したと思いますか?」

「良し悪しの問題じゃない。君達は殺し合いとは無縁の世界から来たんだ。幾ら覚悟を持っていると言い張ったところで、死線を掻い潜って来た連中と比べたら覚悟が足りない事は目に見えている」

 

角谷はそう言ってから、「だから頼む。事が収まるまで、隠れていてくれ。終わったら知らせる」

 

「いいえ。了承があるまで、私はここを動きません」

「なんだって?」

「みほさん、やはり無理があるのでは?」

 

華が心配そうに言うと、みほは微笑んだ。

 

「私達が動かないと、また死人が出る。それは嫌だから」

「そりゃ私もそうだけどさ、やっぱり危険じゃない?」

 

沙織がそう言うと、

 

「西住殿。間違いなく1対複数ですよ?」

「うん、分かってる」

「幾らなんでも無謀だと思うが」

「麻子さんの腕を信じているから」

「みぽりんって強引だな~」

 

沙織がそう口を尖らせつつ、「じゃあ分かった。みぽりんに付き合うよ、私は」

 

「武部殿!?」

「武器の破壊が目的でしょ?殺し合いを傍観するよりは遥かにマシだって」

「そうですね。傍観していたら、きっと後悔します」

 

華も同調し、「それよりは、みほさんの作戦に賭けたいと思います」

 

「では、いつもより装填を速くします!」

 

優花里が敬礼し、

 

「ああもう分かった。回避ならいつも通りだしな」

 

麻子も表向き渋々といった調子ながらも加わった。

 

「君達・・・本当に戦う気か?」

 

5人の団結に根負けした角谷が、念押しで確認する。「これは・・・只事じゃないんだぞ?」

 

「分かっています」

「じゃあ、信頼出来るチームを集めて来る。私の言う事には絶対服従するチームだ。やはり1輌だけでは心許ない。安心してくれ、西住くんの方針に従おう」

「お願いします」

 

角谷と共に、あんこうチームは会長室を出た。

 

 

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。