ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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強行着陸

「何よあれ」

 

大洗女子学園の学園艦が視界に入って来ると、アリサは遠くから何十個もの浮遊物体を認めた。

アリサの背もたれに片手を乗せ、双眼鏡で浮遊物体を左右に観察していたまほが言う。

 

「阻塞気球だ。我々が受けた報復攻撃を教訓にしたな」

 

アリサがまほを見上げる。

 

「配置は?」

「校舎に平原、森林地帯。住宅街には無いようだ」

 

アリサはまた前方に顔を向けると、

 

「じゃあ、住宅街に投下するわ」

 

これに副操縦士席のサンダース隊員が、

 

「隊長!住宅街に投下したら、一般人が巻き添えを食う可能性が・・・」

「はあ?知った事じゃないわ。阻塞気球を配置したのが悪いのよ」

「いや。住宅街はダメだ」

 

まほが副操縦士に賛同して双眼鏡を下ろし、アリサを見下ろす。「それが暗黙のルールだ」

 

「じゃあ引き返すっきゃないわね」

「誰が引き返せと言った?」

 

まほが威圧する口調で言ったが、アリサは怯まず睨み返す。

 

「住宅街に投下するか、引き返すか、2つに1つだと思いますけど?」

「なら強行着陸すればよかろう」

 

アリサは驚愕して、副操縦士と顔を見合わせると、

 

「阻塞気球に突っ込めっての!?」

 

これにはカチューシャやクラーラも声を上げる。

 

「そんなところに突っ込んだら機体がひっくり返るじゃない!そうなったらおしまいよ!」

「西住さん。本気ですか?」

「いたって本気だ」

 

まほは2人を振り返った。「元々、その覚悟で来た筈だが?」

 

「そりゃ、もう失うものは何も無いけど」

 

アリサが言った。「さすがに不時着は聞いてないわよ」

 

「出来るだけ低空で進入しろ。無茶は承知だ」

 

アリサは尚もまほをじっと見つめていたが、コンソールに注意を戻し、

 

「了解。でもナオミのような腕は無いから、死んだ時は恨みっこ無しよ」

「承知した」

 

 

 

「来た・・・!」

 

スーパーギャラクシーの接近を確認すると、みほは周りを見回した。

角谷が集めたのはヘッツァー、B1bis、八九式中戦車の3輌で、これらが信頼できるチームとの事である。

 

車内では、通信機をチェックしていた沙織が、後から取り付けられたような小さな箱型の装置を見つけていた。

 

「なんだろこれ・・・」

 

沙織がスイッチらしきものをパチンと押すと、レシーバーに大洗の各チームの声が濁流のように耳に流れ込んできた。

驚いた沙織はレシーバーを耳からひったくるように外すと、

 

「何よこれ!アヒルさんチームやカモさんチームの声が聞こえて来るんだけど!?」

「盗聴装置か」

 

と、麻子が言った。「沙織の家にあったという通信機も多分同じ物じゃないのか?」

 

「ええ!?じゃあ私、この世界では盗聴係って事!?」

「通信手としての技能を活かしたって事ですね」

 

華が言った。「あ、でもこれ、自動車部の人達は知っているって事ですよね?分かりやすいところに設置してありますから」

 

「でも会長殿は呼んでいませんね。どうしてでしょう?」

 

優花里が疑問を口にすると、みほが

 

「貴重な整備チームだから温存しておいたって事じゃないかな?」

 

そこへ角谷の声が、

 

『西住くん!準備は出来てる?』

「はい、いつでもOKです」

『出来るだけ援護するけど、素早くやらないとあっという間にやられるからね』

「分かりました」

 

すると、この通信に割り込むようにして、

 

『こちらアリサ。あんこうはこれを聞いているかしら?』

 

みほは思わず咽喉マイクに手を触れて応じてしまった。

 

「は、はい!」

『もううちらの輸送機が見えているなら、私達の殴り込みは知っていると思うけど・・・一応、無駄な流血を避ける為の降伏を勧告するわ』

 

角谷の声がみほに助言する。

 

『ダメだ。きっと連中は西住くんを・・・徹底的に痛めつける。降伏した、死より辛い目に遭わせられるぞ。君は・・・と言うか、この世界の西住くんはそれ程恨まれているんだ』

「わ、分かりました・・・」

 

みほは当惑しながらも、アリサに返答する。「いいえ、降伏しません」

 

するとアリサのうきうきした声が、

 

『そう言ってくれて嬉しいわ』

 

それで輸送機からの交信は終わった。

 

 

 

「本当に突っ込むのね?」

「ああ。行け」

 

アリサの確認にまほは頷くと、踵を返して貨物室に向かった。「先に乗っているぞ」

 

「私は・・・どうしましょう?こんな事、予定外ですから」

 

副操縦士が不安そうにアリサを見ると、

 

「生憎定員オーバーよ。安全ならこの中に残ってて良いわ」

 

アリサと副操縦士は、全神経を集中してスーパーギャラクシーを出来るだけ低空に下ろし、戦車の車庫前の滑走路のように長い広場に針路を向けた。

 

眼前に阻塞気球のワイヤーが迫る。

 

「・・・よし、行くわよ」

 

アリサは覚悟を決めると、操縦桿を握る手が白くなるほど力を込めた。

それからランディングギアを展開し、着陸に備える・

 

スーパーギャラクシーは阻塞気球のワイヤーに突っ込むと、バランスを崩してあっという間に地面に落下したが、かなりの低空だったので衝撃は思ったより小さかった。

とは言え、下から上に突き抜けるような衝撃で、思わず舌を噛みそうになったのだが。

 

ワイヤーに引っ張られながらもスーパーギャラクシーはその巨体を活かした強引な不時着を達成したが、主翼は引きちぎれ機体は傾き、横滑りするように車庫前の広場を横切る。

 

周囲に破片や残骸を撒き散らしながら、やがてスーパーギャラクシーは停止したのであった。

機体が爆発しなかったのは奇跡と言えよう。

 

 

 

続く

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