ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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西住マニューバー

「射撃場に入ったぞ」

 

麻子の報告を聞きながらキューポラ越しに追跡してくる強豪連合を監視していたみほは、そのまま指示を与える。

 

「散開して下さい!」

 

Ⅳ号、ヘッツァー、B1、八九式の4輌は、事前に決められたルートに方向転換し、敵戦力の分散を試みたが、ティーガーⅠを先頭に強豪連合の車列は他の3輌を無視してⅣ号だけを追って来た。

 

「狙いは我々だけのようですね」

 

徹甲弾を抱える優花里がみほを見た。「どうしますか?」

 

そこへ角谷からの通信も入る。

 

『西住くん!カモとアヒル連れて救援に向かうよ!』

「了解!でも相手に危害は・・・」

『大丈夫!覚えてるよ!』

 

その時、ティーガーⅠとIS-2の砲弾が左右に着弾して車内を震わせた。

 

「応戦しますか?」

 

華が指示を乞う。

砲塔は既に後ろに向けられているが、まだ一度も発砲していない。

こちらが危害を加えるつもりの無い事を知らない相手は、こちらの砲撃を警戒して一定の距離を保っているが、それもいつまで続くか分からない。

あるいは一度も砲撃しないのを油断を誘う作戦と考えているかもしれないが、いつ大胆な動きに出てこないとも限らない。

 

「今の所は詰めて来ないですが・・・」

 

優花里が言った。「相手の砲手の狙いが段々落ち着いてきている印象を受けます」

 

その間にも時々発砲する強豪連合の砲弾が、ランダムにジグザグ走行するⅣ号の周辺に着弾するが、中にはすぐ後ろの地面に刺さった砲弾もあった。

そろそろ相手に緊張感を取り戻して貰う必要があるだろう。

 

「華さん。パンターを狙って撃って下さい。適当に当てるだけでいいから」

「分かりました」

 

華はスコープを覗き、砲塔と砲身を動かして照準を微調整すると、徹甲弾・・・この世界では練習弾・・・を発射した。

砲弾はパンターの正面の傾斜装甲に当たって弾き返されたが、緩めになった相手の回避行動が再び忙しくなる。

 

『あんまり撃って来ないわね・・・』

「油断するな!気を抜いた車輛から仕留めるつもりだろう」

 

カチューシャの疑問に、まほは注意を促すように厳しい口調で答えた。

 

『で、どうするの?後ろからヘッツァー他2輌が来ているわよ』

 

既にカチューシャのT-34-85やアリサのM4が砲身を追手に向けて旋回を始めている。

 

『ていうか、まずあいつらから始末しちゃいますかあ?』

 

と、ぶっきらぼうなアリサの声。

 

「アリサに任せる。こっちはⅣ号を集中攻撃する」

 

 

 

「こっちに来るぞ」

 

数百メートル離れた茂みの中からあんこうチームと強豪連合のカーチェイスを双眼鏡で見ていたエルヴィンが言った。

その隣でカエサルが地図を広げ、一点を指差した。

 

「ここで待ち伏せしよう」

「先回りに間に合うか?」

「善は急げだろう?」

「よし」

 

カエサルとエルヴィンはⅢ号突撃砲に駆け戻ると、おりょうに待ち伏せに決めた場所に急行するよう命じ、おりょうはⅣ号や強豪連合に見つからないよう、斜面の裏に車体を隠しながら移動を始めた。

 

「まさかマカロニを味方に使うとはな」

「だからこそ効くだろうね」

 

カエサルの言葉に、左衛門佐がそう応じた。

 

 

 

「挟み撃ちにするつもりです!」

 

優花里の警告に、みほは角谷を呼び出した。

 

「角谷さん!」

『なんだ?』

 

 

 

「クラーラ!」

『間もなく後ろを取れます!』

「オーケー!私が気を引くから、あなたがⅣ号を仕留めなさい!」

『お任せ下さい!』

 

曲がりくねった林道の中を逃げるⅣ号を、カチューシャとクラーラは前後を挟み撃ちにしようとしていた。

その目論見は当たり、まずカチューシャのT-34-85がⅣ号の針路上に立ち塞がった。

 

「もう逃げられ・・・」

 

直後にヘッツァーが林の中から姿を現し、Ⅳ号とT-34-85の間に停止した。

主砲はこちらに向けているが、なぜか撃って来ない。

 

「ん?」

 

カチューシャが首を傾げていると、Ⅳ号が加速してヘッツァーに乗り上げ、傾斜した天板を駆け上がると空中に舞い上がった。

クラーラのIS-2がⅣ号の後ろに現れたのはその最中だったが、ヘッツァーを足台にジャンプしたⅣ号にクラーラも口をあんぐりとさせる。

 

カチューシャはまだ唖然としていたが、Ⅳ号はT-34-85に圧し掛かり、車体をよじって85mm砲を折り曲げてしまった。

 

「クラーラ!」

 

カチューシャの合図に我に返ったクラーラは、122mm砲をⅣ号に叩き込もうとしたが、照準がT-34-85と重なってなかなか撃つ事が出来ない。

誤射をすればカチューシャを殺す事になる。

クラーラのこめかみを、焦りの脂汗が一筋流れ落ちる。

 

その間に主砲をこちらに向けたⅣ号が発砲してきたが、クラーラは落ち着いていた。

Ⅳ号の主砲なら、こちらの正面を撃ち抜く事は困難である。

対してこちらは、ベタな言い方をすれば熱した針で紙を刺し貫くようにⅣ号の装甲を軽々と撃ち抜ける。

 

Ⅳ号の砲弾が当たり、IS-2の車内を揺るがせたが、クラーラの予想通りこちらを射抜く事は無かった。

85mm砲を折ったⅣ号が逃げようとするが、

 

「発射!」

 

しかし何かが破裂するような奇妙な音がして、またも車内が揺れた。

砲弾はⅣ号に飛んでいない。

 

『クラーラ!122mm砲がやられてるわ!』

 

カチューシャの通信で、クラーラは相手が何をしたかを悟った。

Ⅳ号はこちらの主砲を狙って撃ったのだが、その目論見は成功し、射撃不能に陥った。

 

IS-2とT-34-85は、一瞬で無力化されたのである。

 

 

 

続く

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