ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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被弾

「シャーマン先にやっちゃう?」

 

山郷がそう進言する中、M3リーから数十メートル離れた場所ではシャーマンが八九式中戦車を追い回していた。

アヒルチームはカモチームを先に行かせ、自分達はシャーマンを引き付けて命がけの陽動を行っているのであった。

 

「いや、ダメ。見つかっちゃうから」

「M3って背が高いから不利だよね~」

 

宇津木の言う通り、M3リーはあんこうチームに近付こうと試みているが、背の高さから強豪連合やあんこうチームの取り巻きに見つかる恐れがあり、車高の低い三号突撃砲を使うカバチームとは違って慎重な動きを求められた。

今も背の高い茂みに身を隠しているのであって、カバチームのようには気兼ねなく動けないのである。

 

「Ⅳ号がどんどん離れて行くよ」

 

大野がじれったそうに言いながら澤を振り返った。「あんまりコソコソしていてもダメじゃない?」

 

「逆に堂々と動いちゃうとか?」

 

何気なくこう言ったのは阪口だが、澤はそれも有りかもしれないと閃いた。

 

「強豪連合には狙われるし、あとで風紀委員に逮捕されるかもしれないけど、その方がいいかも」

 

声に出して自分の考えを整理する澤に、乗員達が一斉に注目する。

 

「じゃあ、澤ちゃん」

 

澤は山郷を見た。

 

「リスクは承知よ。Ⅳ号の味方に来たと思わせて、背中を刺す」

「風紀委員がこ、怖いけど・・・やるしか、ないよね」

 

阪口が声を震わせながらギアを操作する。

澤も服の上から、昨日拷問された時に受けた傷が残る脇腹に手を置いた。

スタンバトンを押し当てられた時の痛みと恐怖が脳裏に鮮烈な記憶の映像となって蘇り、顔が強張り、視界がぼやけるが、すぐに頭を振って意識を現実に呼び戻す。

元はと言えば、隊長の暗殺未遂の嫌疑で、カバチームに買収された5人に売られた事が、自分が受けた仕打ちの全ての原因なのだが。

 

確かに自分も西住みほを暗殺しようと狙ってはいたが、やってもいない事で冤罪に問われるのはさすがに心外である。

まあ、5人がカバチームから受け取った賄賂は早々に回収して自動車部に渡してやったし、連中も大人しく差し出したから、一応許してやったのだが、平気な顔で偽証して自分を追い詰めた時のこの5人の表情を思い出すと今でも機銃掃射してやりたくなる程ムカムカする。

 

だがそれも、あんこうチーム、ひいては西住みほの暗殺を達成して、その手柄を元に隊長に昇格する為に我慢しなければならないし、それからも利用価値のあるチームメンバーとして使ってやらなければならない。

 

だが、風紀委員が怖いという事はウサギチームの共通点だったようで、見回すと誰もが震え、汗を浮かべていた。

今はその共通認識で団結し、あんこうチームの討ち取りを目指そう。

 

澤は覚悟を決めると、

 

「無線はギリギリまで封止。戦闘の真ん中を突っ切ってあんこうに接近するわよ!」

 

 

 

「やっぱ練習弾とか無理!」

 

砲手の佐々木さけびが泣きそうな声で角谷の命令に文句を言うが、

 

「泣くな!これもバレー部復活の為だ!」

 

と、車長の磯辺典子が佐々木を叱咤激励する。

必死に激走する八九式中戦車の後ろをサンダースのM4が執拗に付け回し、76mm砲を振りかざしてこちらを仕留めようとしていた。

砲弾が砲塔を掠めた時は心臓が縮んだが、かといってこちらの57mm砲ではシャーマンを正面から貫通出来ない。

このような命がけの逃避行は今に始まった事ではないが、元バレー部員で構成されるアヒルチームは、角谷から提示されていたバレー部復活の約束をモチベーションに、八九式中戦車としての不利に耐えて今日まで頑張って来た。

今年の全国大会の優勝を手土産にバレー部復活を目論んだものの、角谷には今暫く我慢するよう言われており、本当はそれに抗議したい気持ちだったが、相手は生徒会会長、少しでも不快な気持ちにさせればバレー部復活を取り消され、このままやりたくてやっているわけではない八九式中戦車の乗員としての存在のみ許される事を恐れて何も出来なかった。

 

「本当にバレー部復活させてくれるんですかねえ?」

 

通信手の近藤妙子が疑問を口にすると、操縦手の河西忍が唇をへの字に曲げて、

 

「さあ、卒業まで戦車道の道具にされたりして」

「このままバレー部復活を待っていたら、どんどん時間が・・・」

「キャプテン!」

 

佐々木の呼びかけに、磯辺も思い詰めた表情で俯き、

 

「・・・とにかく、今を乗り切ろう。それから後の事を考えよう!」

 

 

 

『また逃げられました!』

「もう一度だ、赤星!。忍耐が勝利をもたらす!」

 

赤星小梅の乗るパンターは、その巨体に似合わぬ機動力でⅣ号戦車に迫り、長砲身75mm砲を叩き込もうとするのだが、その度にⅣ号は巧みな機動で回避する。

そこをまほのティーガーⅠが砲撃するのだが、それも見切られていて、なかなか仕留める事が出来ない。

アリサのシャーマンは八九式中戦車を追い回しており、プラウダチームは早々に無力化されて役に立たない。

武器を破損させられただけで走行は可能で、体当たりでⅣ号の動きを封じ込めようと追いかけて来てはいるが、数分前の覇気は失われており、その動きは消極的と言えた。

 

そういうわけでプラウダチームにはⅣ号の追跡を諦めさせ、自分達を止めようと追って来るB1を体当たり等で阻止するよう伝え、自分は赤星と共にⅣ号の攻撃を続行していた。

 

消極的な動きと言えば、あんこうチームもこちらとの交戦には消極的なような印象をまほは受けた。

プラウダチームに対する攻撃もそうだったが、武器を破壊して無力化しただけで、止めは刺していない。

戦車だけでなく、乗員達も『無力化』しないといけないが、これは一体どういう事だろうか?

乗員を殺すまでも無い、弱体化した強豪連合は相手にするまでもない、という嘲笑のメッセージなのか、それともこちらを油断させようとしているのか。

Ⅳ号にとって最大の脅威はティーガーⅠやパンターの筈であり、正面から撃ち抜く事は難しい。

消極的な動きで油断を誘い、動きを緩慢にさせたところで一気に逆襲に転じるつもりかもしれない。

 

そこでまほは、そのような思考は無意味と結論付けた。

Ⅳ号を追い詰めて仕留め、任務を達成する。

みほによって三度も面目を失ったまほは、母であり師範でもあり西住しほによって、妹のみほを殺害する事こそが、自分の失った名誉を取り戻すチャンスだと申し伝えられていた。

今回の大洗女子学園への乗り込みも、しほの命令である。

そして自分自身がみほに手を掛ける事が、名誉回復の必須条件であった。

それを達成すれば、まほの地位も回復され、やり直しが出来る。

面目は失ったが、今もって西住まほの影響力は大きかった。

だがその影響力を盛り返すには、妹の殺害が必要だったのである。

 

西住しほは、将来有望なまほの未来を潰したみほを恨んでいた。

 

 

「射程内です!」

 

左衛門佐の声が興奮で上ずったが、潜望鏡を覗くエルヴィンが落ち着いた声で、

 

「待て、今少し引き付ける・・・!」

「長い数秒ぜよ」

 

貧乏ゆすりをするおりょうが小さく呟く中、エルヴィンは尚もタイミングを計った。

砲身越しに、カエサルがエルヴィンが息を詰めて命令を窺っている。

もし仕留め損ねれば、すぐに装填しなければならない。

 

パンターとティーガーの攻撃をまたも回避したⅣ号が、相手の装填時間を利用して真っ直ぐ突っ走って距離を開こうとする。

だがその動きが、命取りとなるのだ。

様子をじっと観察しながら、エルヴィンの唇がほくそ笑む。

 

またもⅣ号が敵の攻撃を回避して撃ち返して、距離を開けようと回避行動を中断し・・・

 

「フォイヤー!」

 

瞬間、三号突撃砲から徹甲弾が飛び出し、思わぬ方向から砲撃を受けたあんこうチームは回避する間もなく被弾した。

 

 

 

続く

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