ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出 作:ミハイル・シュパーギン
三号突撃砲の徹甲弾は砲塔正面、主砲の左側を斜め上から貫き、砲塔内部に収まる主砲の閉鎖機を破壊し、弾丸がみほと優花里のちょうど間に割って入るようにして漸く止まった。
優花里やみほが体を少しでも内側に傾けていたら刺し貫かれていたであろう。
「うわ!」
「え!?」
優花里や華が叫び声を上げたが、不思議な事に、徹甲弾は炸裂せず弾体を保ったままそれ以上何も起こらなかった。
心臓を高鳴らせ、冷や汗に全身を覆われながら、みほは目の前の徹甲弾をまじまじと凝視した。
しかしこの為、赤星のパンターがⅣ号を追い越すと方向転換して壁となって立ちはだかっても反応が遅れてしまった。
「あ!」
麻子も被弾した衝撃で死を覚悟し、体を強張らせていたので回避しきれず、曲がり切れなかった車体を横からパンターにぶつけてしまった。
その為、Ⅳ号の動きが一瞬硬直し、その隙はティーガーⅠが狙いをつけるには十分な時間であった。
みほもティーガーⅠの動きに気付いたが、全ては手遅れだった。
「よく狙え・・・」
まほは砲手に注意を促してから息を吸い込み、「撃て!」
56口径88mm砲が火を噴き、徹甲弾がⅣ号の横腹目掛けて飛翔する。
みほは声を上げようとしたが、口をあんぐりと開いただけだった。
ティーガーⅠの動き、砲撃、飛翔する徹甲弾がスローモーションとなって目に焼き付けられる。
目の前の現実に、思考がワンテンポ遅れて認識しているかのようであった。
と、その時。
どこからともなく文字通り飛び出してきたヘッツァーがⅣ号とティーガーⅠの間に飛び込み、車体側面に88mm弾を浴びてその衝撃で空中を回転しながら地面に激突すると、そのまま何回転かした後に転覆した状態で停止した。
みほもまほも赤星も一瞬呆気に取られたが、みほが真っ先に立ち直って、
「離脱してください!」
麻子が声にならない叫びと共に操縦桿を操作し、パンターを回って再び逃走を開始した。
「くそっ!逃がすな!」
赤星が操縦手の肩を思い切り蹴飛ばして追跡を再開させ、その後からティーガーⅠが続く。
一方、みほは何も起こらない三突の徹甲弾をまた凝視しながら、
「・・・不発弾?」
「のようであります・・・」
優花里の喉はカラカラに乾いており、唾を飲み込むと鋭い痛みが走った。
「なんにしても、助かりましたね・・・」
華が放心状態になりながらそう言った。
「みぽりん、ゆかりん、華、大丈夫!?」
沙織が振り返って安否を確認すると、3人はなんとか自分を取り戻しながらカラカラに乾いた声でそれぞれ返事をした。
「は、はい。大丈夫です!」
「私もです!」
「なんとか・・・」
「は~・・・良かった!」
沙織が深々と安堵の息を吐いたが、麻子が
「でも会長が・・・」
その指摘にハッとした4人の顔が一斉に青ざめる。
だが今は、ヘッツァーに戻る事は出来ない。
「西住殿!早く不発弾を捨てないと!」
「うん」
みほは優花里と協力して不発弾を慎重に外すと、車体側面ハッチから力を合わせて投げ捨てた。
しかし華が悪いニュースを告げる。
「西住さん。砲身がやられました。射撃不能です」
みほは優花里と華と顔を見合わせた。
「どうなってるんだ!不発だと!?」
走り去るⅣ号とパンター、そしてティーガーⅠを虚しく見送りながらエルヴィンが毒づいた。
こちらは林の風景を描いたカムフラージュ用のボードを砲身に突き刺して擬装して待ち伏せしており、その作戦は成功していた。
なのにこのような事があって良いものなのか・・・!?
「ひょっとして練習弾だったとか?」
左衛門佐の意見は、弾丸を確かめていたカエサルによって否定される。
「いや。通常弾だ。さっき撃った徹甲弾も確かに通常弾だった」
「じゃあどうしてぜよ!?」
苛立たし気におりょうがそう言った直後に、カエサルは一つの事に思い至ると、今持っている徹甲弾の弾頭を弄繰り始めた。
「なんだ?」
エルヴィンが尋ねると、カエサルが悔しさに歯ぎしりした。
「くっ・・・信管が抜かれている!」
「なんだって!?」
ちょうどその時、車長用ハッチが外から開かれると、園みどり子の嘲るような表情が覗き込んだ。
一目で様子を察したらしく、
「残念だったわね。会長の命令で信管を抜いておいたのよ」
エルヴィンが歯噛みして体を震わせながら睨み返すが、全ては後の祭りだった。
「・・・あのあばずれが・・・!」
カバチームを逮捕したものの、角谷は万一の事を考えて自動車部に三突の砲弾から信管を抜かせていたのである。
「あなた達を再逮捕するわ。今度は現行犯ね」
園の言葉に、カバチームは今度こそ観念した。
でなければ、いつの間にか忍び寄っていたB1の砲弾が横から三突を射抜く運命が待っており、4人はそれを理解していたのである。
B1は一時後退でプラウダチームの妨害を回避すると、三突の砲撃を目撃して現場に急行したのであった。
「この先は、確か渓谷です」
外の様子を確かめた優花里が言った。
後ろの2輌は砲弾の節約の為か、今の所射撃を中止している。
あるいはこの先が渓谷である事を理解しての事か。
「吊り橋を渡りますか?」
華がそう尋ねたが、みほは首を横に振った。
「いや。渡るまで時間がかかります。その間に攻撃されたらおしまいです」
「ですよねえ」
「渓谷沿いに走りますか?」
優花里が代案を出したが、
「いえ、何れ行き止まりに突き当たるでしょう。相手はまだ3輌残っています。連携して囲まれたら、今度こそおしまいです」
「おまけに主砲は撃てないと来た」
と、麻子が付け加える。「絶体絶命だな」
「そういやシャーマンはどこ行ったのかな?」
するとタイミング良く、磯辺から通信が入る。
『こちらアヒルチーム!エンジン大破!走行不能!シャーマンがそっちに向かいました!』
「報告有難うございます。ケガはありませんか?」
みほの気遣いに驚いたのが、磯辺の声が一瞬沈黙する。
この世界の自分は一体どんな人間なのだ?
『・・・いえ、誰もケガしていません!エンジンが受け止めてくれました!』
「良かったです!どこか安全な場所に隠れていて下さい!」
『分かりました!』
通信を終えると、優花里が渋面を浮かべてみほを見ていた。
「どうしました、優花里さん?」
「いえ、さっき我々を撃った戦車、あれは三突、カバさんチームでした・・・」
みほの顔がみるみる驚愕とショックに包まれる。
「カバさんチームが!?」
「カムフラージュ用のボードを立てかけて擬装していました。マカロニ作戦を使ったらしいです」
「チームメイトが私達を殺そうとしたと・・・!?」
華が信じられないと言う表情で応じたが、優花里の唇もへの字に曲がっていた。
「恐らくカバさんチームが・・・西住殿の自宅を爆破したんですよ。あの分だと・・・」
優花里の推測に言葉を失っていると、麻子の声が、
「渓谷だ」
もう100m先行くと渓谷だった。
続く