ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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内紛

「くそっ!」

 

舌打ちしたまほは、Ⅳ号追跡を優先してシャーマンを放置した。

アリサもⅣ号の脱出に気を取られて狙いがティーガーから外れている。

 

「赤星!アリサを阻止しろ!」

「了解!」

 

ティーガーはパンターとニアミスするようにしてⅣ号の追跡を再開した。

一方のパンターは、走り出そうとするシャーマンの前に立ちはだかり、砲口を突き付けた。

 

「ちっ。やんなら受けて立つわよ!」

 

アリサは砲手にパンターを狙うよう指示した。

と、潜望鏡越しにカチューシャのT-34-85が体当たりしようとこちらに向かって来るのが見えたので、

 

「受け流して!」

 

操縦手は車体を巧みに動かしてT-34-85の突撃の勢いを車体側面で受け流すようにした。

体当たりしようとしたT-34-85はシャーマンの操縦手の思惑通り、擦れ合った部分から火花を散らしながらシャーマンの右側面を滑るようにしてその向こう側に受け流され、渓谷が口を広げて待ち構える崖っぷちの向こう側に勢い余って飛び出してしまった。

 

カチューシャがそれに気付く間もなく、自身の勢いで空中に放り出されたT-34-85は右から緩くスピンするように谷底へと落下していったのである。

 

「カチューシャ様・・・!」

 

クラーラが動転して叫び、IS-2のハッチを開いて渓谷の縁に走って行く中、シャーマンとパンターが再び砲口を向け合っていた。

戦いのゴングでも鳴らすかのように、谷底に激突したらしいT-34-85が爆発する音が聞こえ、その証拠に黒煙が吹きあがって来る。

 

「どうやらやる気ね!」

 

T-34-85を自滅に追いやったシャーマンを見て、赤星は砲撃戦の覚悟を決めた。

一方アリサも、

 

「パンターを突破する!砲塔と車体の間を狙え!」

 

と、パンターを撃破する気満々だった。

 

 

 

「何よあれ、同士討ち?」

「そうみたーい」

 

澤が口にした疑問を、宇津木が適当な口調で肯定する。

 

「・・・ちょっと様子を見るわよ」

「迂回しなくていいの?」

 

と、丸山が肩越しに聞くと、

 

「それじゃ追いつけないわ」

 

 

 

「撃て!」

「ファイヤ!」

 

赤星とアリサは、ほぼ同時に射撃命令を出した。

弾丸同士がすれ違い、パンターの主砲弾はシャーマンの車体正面を堂々と、シャーマンの主砲弾はアリサの狙い通り、砲塔と車体の間を射抜いた。

砲弾が貫通した2輌は、身震いするように車体を揺らせると、貫通孔から煙を立ち昇らせながらそのまま互いに沈黙した。

 

相討ちである。

 

「ワオ」

 

山郷が言葉とは裏腹にさほど驚いていない口調でそう呟いた。

 

「阪口、行くわよ」

「アイ!」

 

再び走り出したM3リーは、擱座した2輌の横を通ってティーガーとⅣ号の後を追った。

 

「あれ、プラウダの連中」

 

大野が谷底の縁に立ち尽くすクラーラやIS-2の乗員に気付いたが、澤は注意を払っていなかった。

 

「ふん、どうでもいいわ」

 

クラーラはあまりのショックに膝から崩れ落ちると、そのまま四つん這いの状態で谷底に向かってカチューシャの名前を呼んで叫び、後ろのIS-2の乗員達は顔面蒼白となって既に戦意喪失していた。

 

 

 

「また来ます!」

 

麻子の巧みな回避行動で88mm弾は逸れたが、弾切れまで繰り返すわけにはいかない。

何より主砲が使えない事が痛恨の極みだ。

それでもT-34-85とIS-2の主砲を無力化した事は大きかったと言えるが。

 

「西住殿。どうしますか?」

 

優花里が指示を乞う。

このままでは行き止まりなので、Ⅳ号は徐々に円を描くようなコースで逃走を続けていた。

 

「なんとかしてあの88mm砲を潰さなくちゃ」

「私が榴弾を即席爆薬にして、ティーガーに仕掛けて来ましょうか?」

「それはダメです」

 

優花里の提案をみほは即却下した。「危険過ぎます。恐らく機銃を撃って来るでしょう」

 

「でもこのまま手をこまねいているわけには・・・」

 

華も自制してはいるが、何も出来ない状況にじれったそうだ。

 

「一端、急旋回して射撃場まで引き返しましょう。時間を何とか稼がないと」

「だな」

 

麻子は小さく頷くと、「掴まれ」

 

と言ってⅣ号をいきなり急旋回させた。

88mm砲が再び発砲したが、慌てたのか砲弾はⅣ号の遥か頭上を飛び越える。

続いてティーガーがⅣ号をブロックしようとするが、麻子はギリギリまで近づいた上でフェイントをかけ、それに釣られて動いたティーガーの反対側に転回させる事でうまくかわしたのであった。

 

「停車」

 

まほはティーガーを停止させるとその場で信地旋回させたが、ティーガーが車体正面を逃げるⅣ号に向けた時、まだ双方の距離は100mも開いていなかった。

 

「砲手、よく狙え。相手の動きを観察するんだ」

「了解」

「落ち着け。アハトアハトの射程と精度なら余裕だ」

 

ティーガーが停止射撃しようとしている事は、あんこうチームもすぐに把握していた。

 

「ここで決着をつける気だ・・・」

 

みほの体中に新たなアドレナリンが冷や汗と共に駆け巡る。

 

「発煙弾はもうありません」

 

優花里が報告すると、麻子がどこまでも冷静に

 

「合図をくれ。指示に従う」

「分かりました」

 

みほはもっと状況をよく確認する為、ハッチを開くと、銃撃に注意しながら目から下を隠すようにして頭を出す。

ティーガーの砲塔と主砲が小刻みに動いて照準を調整していた。

 

 

だがⅣ号の前方では、茂みに身を潜めたM3リーが75mm砲の狙いをつけていた。

 

「この好機を逃さないで。もっと近づけよう」

「待つのは嫌だな~」

 

山郷がそうぼやくが、澤の指示にはちゃんと従って砲撃合図を待っている。

 

「もっと・・・もっとこっちに・・・」

 

 

 

麻子はⅣ号を右、左、右、右、左、というように的を絞らせないようにジグザグ走行していたが、やがてティーガーが首を回すのをやめ、88mm砲をぴたりと固定した。

 

 

 

「よしっ・・・」

 

澤はいよいよ砲撃の合図を出そうと息を吸ったが、急に昨日の拷問の傷が痛み出した。

 

「ううっ!」

 

苦悶に顔を歪めながら思わず傷のある場所を手で押さえたが、そのせいで砲撃が遅れてしまった。

 

 

 

姉妹の号令はほぼ同時だった。

 

「撃てっ!」

「全速旋回!」

 

Ⅳ号が右に滑りながら回転し、発射された88mm弾は砲塔後部のシュルツェンを抉り取りながら本体を外して過ぎ去った。

 

が、ここでみほもまほも驚いた事に、Ⅳ号の進行方向から飛んできた第3の砲弾がⅣ号を掠め、その砲弾は偶然ティーガーの正面に斜めから激突したのである。

 

 

 

「外した!」

 

山郷が歯噛みする間に、宇津木が「よいしょ」と最後の劣化ウラン弾を装填する。

 

「なんで命令出すの遅れたの?」

 

怪訝な表情で山郷が澤に問い質す。

 

「拷問の痛みが・・・ぶり返したみたい」

「それくらい我慢してよね」

 

澤は癇癪を爆発させた。

 

「うるさいわね!あんた達のせいでこうなったのよ!早く次弾装填して!」

 

それもそうだ。

自分が拷問された原因は、彼女達に売られたからだ。

 

 

 

「被害は!?」

 

まほの言葉に乗員達はそれぞれ無事を告げる。

次弾を抱える装填手が目を丸くしてまほを見た。

 

「今のはなんでしょう?跳弾しましたが、重い一撃だったような・・・」

「斜めから入っていなかったらやられていたな」

 

まほは既に双眼鏡で第3の砲弾の主を探しており、程無くして見つけた。「M3だ。邪魔は許さん」

 

その言葉の意味を察した砲手が、狙いを一度M3リーに向け直す。

 

 

 

「装填完了!」

 

宇津木がそう言ったが、既にⅣ号はM3リーの75mm砲の稼働範囲外に出ていた。

代わりに上部砲塔の37mm砲が狙ったが、遥か後方に砲弾は外れる。

 

「急いで旋回させて!」

「アイ!」

 

その時澤の背中に嫌な悪寒が走り、すぐにその正体がティーガーだと分かった。

主砲の狙いをこちらに向けているのが見えたが、その時旋回中のM3リーは脆弱な横腹を晒していたのであった。

 

その事はみほも気付いており、

 

「麻子さん!M3に体当たり!」

 

麻子はみほがうさぎチームを助けようとしている事を瞬時に悟ると、ありったけの出力を動員してM3リーに突撃した。

 

「発射!」

 

まほの合図で88mm砲が火を噴き、徹甲弾が無防備なM3リーを餌食にしようとする。

ところが命中寸前にⅣ号がM3リーにドリフトしながら体当たりして突き飛ばしたおかげで、うさぎチームを仕留める筈だった88mm弾はM3の75mm砲の砲身を破壊しただけに終わった。

 

「ここで終わらせます。麻子さん、ティーガーに突撃して下さい!」

「マジか」

 

麻子は困惑しつつ、みほの命令に従った。

 

 

 

Ⅳ号がティーガーと対峙する形で突撃を開始する中、うさぎチームの間に困惑が広がっていた。

 

「あれっ、これひょっとして・・・」

 

衝撃で割れた眼鏡を下ろしながら大野が言う。

 

「西住隊長に・・・助けられた・・・?」

 

澤がそう言ったが、他のみんなと同様に信じられない気持ちだった。

しかし今のⅣ号の行動は、明らかにこちらを助ける為の行動としか思えない。

 

「でも何の為に・・・?」

 

阪口の質問には誰も答えられなかった。

 

 

 

続く

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