ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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異様

その声にみほが振り返ると、はたしてツインテールの生徒会長、角谷杏の姿がヘッツァー駆逐戦車の車上にあった。

ヘッツァーは角谷他生徒会組3人が乗るカメさんチームとして知られている。

 

・・・のだが、それどころでは無く、みほは角谷の顔を見て思わず息を呑んだ。

 

生徒会長の顔の右側は火傷で爛れ、その影響で右目が下向きに垂れて瞼が強制的に半分に閉じられていたのである。

 

後からハッチを開いて出て来た優花里、麻子、華、沙織の4人も、角谷の変わり果てた顔を見て言葉を失ってしまった。

 

「…角谷殿!?」

 

思わず優花里が声を上げたが、逆に角谷はあんこうチームの反応を訳が分からないと言う表情で首を傾げた。

 

「あれ、どうしちゃったの?みんな?」

 

そう聞き返しながらヘッツァーを飛び降りると、みほ達に歩み寄って来た。

みほ達は一度顔を見合わせたが、ひとまずⅣ号戦車を下車し、角谷を迎える。

角谷や、その後ろからこちらを見る隊員達のパンツァージャケットもまた、みほ達が着ているのと同じデジタル迷彩付きの上着と長ズボンだった。

二の腕の刺繡はカメさんチームのシンボルマークだったが、二本足で失踪するコミカルなカメ・・・ではなく、甲羅に無数のスパイク状の棘を生やし、口を大きく開いたワニガメだった。

 

「あ、いえ。なんでもありません」

 

みほはその場を誤魔化すと、一体全体何が起こっているのかを見極めようとした。

 

「ふーん・・・それでさ西住くん。あいつらどうする?」

 

角谷が後ろを顎でしゃくるのに従ってそちらに視線を向けると、カバさんチームやカモさんチームに囲まれたウサギさんチーム、アヒルさんチーム、アリクイさんチーム、そしてレオポンさんチームの姿があった。

先程まであんこうチームは、ウサギ、アヒル、アリクイ、レオポンを対抗チームにした練習試合をしていたので、その事については問題無い。

ただ違和感を感じたのが、負けた彼女達のうち、ある者は唇を引き結び、歯を食い縛り、またある者は血管が浮き出るほど拳を握り締めて震えていたのだ。

みんな何かに怯えていると言うか、恐れていると言うか・・・

 

そして取り囲むカバさんチームやカモさんチームは勝ち誇って偉そうに背を反らせており、カバさんチームリーダーのエルヴィンに至ってはウサギさんチームリーダーの澤梓の横顔に向かって唾を吐きかけていた。

それに対して澤はちょっと身をよじらせたが、何も言い返さなかった・・・まるでそうされても文句は言えないというように。

 

が、それ以上に気になったのは、みほを見た澤の目がランランと憎しみに燃え上がり、歯を剥き出しにした事である。

ただ、ウサギさんチームの面々はそんなリーダーに無関心でどこ吹く風だった。

 

みほやあんこうチームの面々が困惑したのは言うまでもないが、そんな事はお構いなしに角谷が話を続ける。

 

「でさあ、西住くん。どうすんの?戦車に閉じ込めて、通常弾ぶち込んちゃう?それともⅣ号にロープで繋いで学園中引き回しちゃう?」

「・・・え?」

「ああもう。西住くん、どうしちゃったのさあ」

 

角谷はみほの背中を親し気にぽんぽんと叩いた。「ほら、負けた方はペナルティだって言ってたじゃん」

 

エルヴィンが邪悪な笑みをみほに向けると、

 

「鉄の処女に閉じ込めますか?それとも・・・」

「石抱きだろうそこは」

 

と、左衛門佐が言えば、おりょうが

 

「そこは海老責めぜよ」

 

しかしカエサルが歴女チームの議論に決着をつけた。

 

「いやファラリスの雄牛だろう」

 

3人はカエサルを指差し、口を揃えて

 

「それだ!」

 

と賛同した。

 

「まあまあ、決定権は西住くんにあるわけだからさ」

 

角谷がヒートアップする歴女チームをそう宥めてから、またみほを見た。「で、西住くん。どうしよっか。特に、あの澤くんをさ」

 

みほがまた澤を見ると、澤はみほを睨み返してきた。

 

「どうする?海に放り込んで大洗まで泳いで帰らせちゃう?」

 

この暴力的な、異様な雰囲気にいよいよ何がなんだかよく分からなかったが、ひとまずみほはこの場を切り抜け、あとであんこうチームと自宅で合流して話し合いをしようと考えた。

 

「・・・いえ。何もしません」

 

みほの予想した通り、角谷達はこの言葉に驚いたようだった。

 

「ええ~?折角色んな素敵な拷問メニューを考えていたのに~!」

 

カモさんチームリーダーの園みどり子が心底がっかりしたように駄々をこね、今正に『ペナルティ』を受けようとしていた敗北チーム側はみんな一様に緊張の糸が途切れて安堵の表情を浮かべていた・・・ただ1人、澤は『寛大な処置』を下したみほを嘲るような笑みをうっすらと浮かべていたが。

 

「何もしません。では、解散します。皆さん、お疲れ様でした」

 

みほは同じ言葉を言い含めるように申し伝えると、踵を返し、あんこうチームを促してその場を後にした。

その背中に、大洗チームメンバー全員が声を合わせて

 

「大洗に栄光あれ!」

 

と、前代未聞の挨拶が掛けられた。

 

「は~、助かった~」

 

膝に手をついてナカジマが溜息を吐くその後ろでは、澤の周りにウサギさんチームが集まっていた。

 

「澤ちゃん、助かったね~」

「よかったよかった!」

 

M3リーの75mm砲の砲手である山郷あゆみと操縦手の阪口桂利奈が澤を労ったが、澤は2人に冷淡な口調で応じた。

 

「風見鶏は口を閉じてて」

「でも、これからどうするの~?」

 

通信手兼75mm砲装填手の宇津木優季がそう尋ねると、

 

「・・・隊長の座を奪う好機ね」

 

澤はそう答え、Ⅳ号によじ登るみほに話しかけるかのように、「私を見逃した事、あの世で後悔させてあげるわ」

 

あんこうチームを乗せたⅣ号戦車はエンジンを始動すると、車庫に向かって走り去って行った。

 

 

 

続く

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