ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出 作:ミハイル・シュパーギン
「それで私はどうなる?」
定時連絡での虚偽報告の依頼をみほから受けた時、まほは静かにそう問うた。
牢屋の中でも、寝床の上で腕組みをして座るその様子は貫禄があり、とても囚われの身には見えなかった。
「さっきもお前に教えた筈だ。西住家の掟を。他所者のお前を元の世界に送り返さねばならないのは分かっているが、私の身の安全はどうする?私はお前達を助けたのに、お前達は私を助けないというのは、どう考えても釣り合わないぞ?」
みほも姉のこの問いには予想していた。
「うん。ここの生徒会長になって貰う、というのはどうかな?」
まほもこの提案は予想していなかったらしく、片眉を上げた。
「・・・ここの生徒会長は角谷の筈だ」
「実は・・・今は、私が生徒会長なの」
「なんだと?」
「さっきの戦闘で角谷さんは重傷を負って、それで今昏睡状態なんだけど、それを予想して、私を生徒会長に任命していたの。元の世界に帰れるようにって」
「なるほどな。で、その権限を使って私を任命か」
「うん。これなら大丈夫だと思うんだけど・・・お姉ちゃん、ここでもかなりの実力者って聞くし」
まほは腕組みを解き、膝の上に手を置いて立ち上がった。
『そう、任務は達成したのね?』
「遅くなって申し訳ありません。意外としぶとくて」
『裏切っても西住家の人間だったというわけね。いいわ、明日の今頃、迎えを寄越すから、それまで待ってなさい』
「有難うございます」
受話器を置くと、まほはみほに顔を向けて頷いた。
「意外とうまくいった。逆に怖いくらいだ」
「でもこれで、時間は稼げたって事だね」
「ああ。これで明日の今頃までは問題ない。でも気になる事がある」
「え?」
「お前のいた世界に迷い込んだこっちのみほだが、おとなしくこっちの世界に戻って来る事に同意するかどうかと思ってな」
「う~ん、会長が何とかしてくれるって信じてるよ」
「信頼しているんだな」
「強引なところはあるけど、その分、こういった事態では頼もしいかなって」
「ふーん。ま、お前がそう思うなら間違いないかもな」
その頃、聖グロリアーナ女学院学園艦では。
「どうしたのペコ、今日は元気がないわね」
同戦車道チーム隊長のダージリンが、鳥かごの中のインコにそう呼ばわった。
ペコと呼ばれたインコは小刻みに首を傾げながら、
『ダージリン様!ダージリン様!』
と何度も同じ言葉を繰り返した。
ダージリンの右目は義眼で、右腕が無く、左足は全体が義足姿で松葉杖をテンポよく突いて品格のある広い部屋の中を歩き回っていた。
「こんな格言を知っているかしら?『A friend in need is a friend indeed.』 ペコ、あなたは常に私の友だった。今でもあなたは心の中で私を励ましてくれる・・・だからあなたにこの格言を・・・」
そこまで言い掛けた時、金色の電話が鳴った。
『電話デスダージリン様!電話デスダージリン様!』
鳥籠に布を投げてやかましく喚くインコを黙らせると、ダージリンは驚くほど素早く部屋を横切って受話器を取った。
「はいダージリン。ああ、アッサム?え?ああ、繋いで」
数秒後、磯辺典子の声が出た。
『ダージリンさん』
「ごきげんよう、磯辺さん。それで、緊急の要件とは?」
磯辺の報告を聞いたダージリンは、唇の両端をうっすらと釣り上げた。「そうですの。ありがとう、磯辺さん。では」
電話を切ると、受話器を握った左手でダイヤルを回した。
「・・・承知したわ」
西住しほは静かにそう答えてから、極めて慎重に、自制を保ちながら受話器を置いた。
しほは両拳を机の上に置いて暫く歯を食い縛っていたが、やがてもう一度受話器と取った。
『はい』
「蝶野を呼び出して」
『え?蝶野様は確か・・・』
「いいから早く!」
しほの受話器を握る右手は白く染まり、皮膚は怒りのあまり今にも張り裂けそうだった。
目は血走り、知らず知らずのうちに呼吸が荒くなっていった。
続く