ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

26 / 30
銃口

「ふおーいヲシノー!」

 

受話器の送話口を手で覆いながらナカジマが呼ぶと、徹夜の疲労と眠気で動きが緩慢なホシノの顔がティーガーⅠの陰からのっそりと覗いた。

 

「ぬぁにい?」

「修理はうぁとどりぇくらあい?」

「1時間あるば・・・」

「オーケー・・・」

 

ナカジマはまた受話器の向こうの相手に、「1時間だって・・・うん。はーいそんじゃあねえ」

 

受話器を壁掛けにして、ホシノを手伝おうとした直後、ホシノがナカジマの背後に気付いて何か叫ぼうとしたが、何かが彼女に押し付けられた。

 

それが何か確認する暇もなく、ナカジマの後頭部が鈍く強い衝撃を受け、ナカジマの意識はそこで途絶えた。

 

「ふん。こいつもなかなか使えるもんだなあ」

 

エルヴィンがスパナを空中に放り上げ、落ちて来たところを掴んで受け止めた。

足元では倒れたナカジマをおりょうとカエサルが引きずっている。

 

その向こうからは、ホシノを昏倒させた磯辺が出て来た。

ホシノに押し付けたスタンガンが握られている。

 

そこへクラーラ達プラウダ高校のメンバーやバレー部の残りも集まって来たが、ツチヤとスズキが奥で倒れており、どうやら彼女達に昏倒させられたようである。

黒森峰のメンバーはまほの捜索に向かっており、ここにはいない。

 

「では、始めようか」

 

エルヴィンがそう言うと、クラーラが冷たい口調で

 

「指図しないで。利害が一致しただけよ」

「元捕虜がうるさいな」

 

瞬間、クラーラの右手が懐を探り、中からマカロフ自動拳銃が姿を現した。

営巣の保管庫から奪還したものだ。

 

「あなたがいなくなっても困らないわ」

 

向けられた銃口に臆さず、エルヴィンはクラーラを睨み返した。

 

「私がやられても仲間が容赦しないぞ」

 

クラーラがマカロフのトリガーに指をかけた瞬間、首謀者の磯辺が手を叩いた。

 

「はいはい喧嘩しない。今は同じ目的に集中集中!」

 

クラーラは磯辺を横目で見ると、マカロフを下ろした。

 

 

 

入れ替わりのあった座標には、再びアメーバ状にうごめく奇妙な雨雲が垂れ込めつつあった。

リアルタイムの衛星画像がその様子を捉えており、その異様な光景には普段冷静沈着なまほでさえ目を見張った程だ。

 

「あと3時間・・・」

 

校舎から外に出た時、みほはそう呟いた。

これから自動車部が詰める車庫に行くところで、あんこうチームも一緒だ。

まほは部下を呼び出す為に営巣に向かっている。

 

「自動車部によると、時間までに間に合うとの事ですが・・・」

 

優花里の言葉に華が、

 

「やっぱり無理があったのでしょうか?」

 

今この時も、ティーガーⅠの修理が行われている。

今朝がた貰った連絡では、夜通し頑張ったがティーガーⅠのエンジンの修理はまだ完了していないとの事だった。

ただ、タイムリミットまでに間に合う目処はついたらしい。

 

とは言え、さすがにここまで時間が迫った上でまだ終わっていないとなると、ムズムズした焦りを感じ始める。

それで、様子を確認しようと向かっているわけである。

 

「いや、自動車部のみんなを信じよう」

 

が、車庫に入った瞬間、あんこうチームは呆然と立ち尽くした。

 

「やあ、いらっしゃいキャプテン!」

 

笑顔で、皮肉気な口調で手を振ったのは磯辺だった。

みほ達の背後で、プラウダのメンバーが扉を閉じるとその場に陣取って退路を断つ。

 

「一体どういう事ですか?」

 

エルヴィンが薄ら笑いを浮かべながら、スパナをみほに突き付けた。

 

「お前達がいなくなれば全部解決するんだよ。今更なんだ?」

 

クラーラがエルヴィンの横から進み出た。

 

「西住みほの命は私が貰うわ。カチューシャ様と、ノンナ副隊長の為に・・・」

 

クラーラの目に籠る悲壮さや憎しみに、みほは逆に同情を感じざるを得なかった。

が、そんな事言っている場合ではない。

 

「ピストルって、クラーラさんは案外タマの小さな人だったんですね?」

 

自分でも咄嗟にこんな言葉が突いて出るとは思いもしなかったが、クラーラの感情を逆なでするには十分だった。

クラーラの右手が持ち上がり、マカロフの銃口が火を噴いた。

 

「わ!」

 

みほ以外の4人は身を屈めたが、みほは立ち続けた。

普段から対戦相手の戦車の砲口の向きを見極めているだけあり、今の銃撃が自分を狙ったものではないと直感的に分かったからだ。

 

それでも弾丸は、みほの顔のすぐ横を通過し、後ろの壁にめり込んだ。

当然、みほの心臓は早鐘を打っていた。

 

「本物よ」

 

クラーラはマカロフの銃口を今度こそみほに向けた。「命乞いしたら?」

 

「いえ・・・しません」

「おい、勝手な事するなよ?」

 

エルヴィンがスパナでクラーラのマカロフを押さえつけようとしたが、クラーラはそれを跳ねのけてみほに構え直した。

 

「邪魔しないで」

「なんだと貴様!」

 

エルヴィンが逆上して叫び、クラーラに掴みかかろうとした。

その場に緊張が走るが、

 

「別にいいんじゃない?」

 

磯辺の言葉でまた動きが止まる。「すぐに死なせなければいいわけでしょ?」

 

その提案に、エルヴィンは数秒考えながらクラーラを見た。

 

「いいわ」

 

と、クラーラがもう一度マカロフを構えた瞬間、みほ達が動いた。

 

口論の間に無言でみほ達は打ち合わせを終えており、クラーラの構え直しを合図に左右に飛びのくと、麻子と優花里が後ろのプラウダのメンバーをそれぞれが体得していた護身術で投げ飛ばした。

 

しかし、慌てて撃ったクラーラの銃弾が壁を跳ね返り、それが優花里の左肩に当たってしまった。

 

「うあ!」

 

優花里が初めて体験する強烈な痛みに怯んで蹲り、沙織と華が駆け寄る。

 

「大丈夫優花里!?」

「優花里さん、しっかり!」

「おい、早くしろ!」

 

扉を開けた麻子が叫ぶ。

 

「やめてください!」

 

みほが左衛門佐による脇差の一撃を回避しながら叫ぶ。

 

「西住みほ、覚悟!」

 

振りかぶられた脇差を回避したが、今度は磯辺のスタンガンが迫る。

それを眼前で回避した直後、みほの左右を人影が横切り、磯辺と左衛門佐を弾き飛ばした。

見るとそれは猫田と澤だった。

 

「早くこれを!」

 

澤がみほの顔面に押し付けたのはガスマスクだった。

澤や猫田も同じものを被っている。

 

「このお!」

 

エルヴィンがスパナを振りかぶって死角から襲ってきたが、みほはその手首を掴んで止めた。

その力は凄まじかったが、不意にエルヴィンの体から力が抜けて、糸を切られた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。

 

「え?」

 

唖然としていると、周りのバレー部や『脱獄者』達も、いつの間にかエルヴィンと同じように倒れていた。

その場に立っていたのは、あんこうチームと、猫田ほかアリクイチーム、そして澤だけだった。

共通していたのはガスマスクである。

 

最悪の可能性が頭をよぎり、みほは恐る恐る

 

「もしかして・・・」

 

猫田が答えた。

 

「ただの麻酔ガスだにゃ。問題にゃい」

 

 

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。