ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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暗殺未遂

「はあ疲れた・・・そう言えば明日も一日中練習だったな・・・」

 

右に左にステップを踏むようにふらつきながら校門を出たみほは、体中にヘドロのように溜まった疲労を一気に出してしまうかのように深い溜息を吐いた。

 

この直前にあんこうチームの面々には、後で自宅で集合するよう言ってある。

自分達を現在進行形で見舞っている異常事態についての分析と今後の対策について話し合いをする為だ。

 

「沙織さん、大丈夫かなあ?」

 

特に沙織は動揺に次ぐ動揺で憔悴しきっているようで気がかりだ。

角谷会長の変わり果てた顔・・・あんな事故、いつ起こったのだろう?

あんな重度の火傷を負えば当然、秘密にしておけるわけもないし、昨日までは何とも無かったから、もし火傷を負ったとすれば今日、それも練習試合の最中としか思えない。

 

戦車道では試合の最中に時たま車内で火災が発生する場合がある。

ヘッツァーの車内で人知れず火災が発生して顔面に火傷を負ったが、練習試合を中断させないように我慢していたということだろうか?

 

いやいや、あれは火傷を負ってその後回復した痕である。

火傷を負ってからたった数十分で回復出来る筈がない。

そんな事が出来たら角谷会長は人間ではない。

 

ではあれは、一体どういう事なのだろう?

それに、他の隊員達は角谷のあの顔を見慣れた様子だったのか、蚊ほどにも気にしていなかった。

 

他にも気になる事は色々とある。

例えば異様に暴力的になった隊員達に、各戦車のチーム名に応じてマーキングされたシンボルマークのデザイン・・・あ、そう言えば。

 

「・・・河嶋先輩と小山副会長はどうしたんだろう・・・?」

 

そう、2人の姿を見ていないのだ。

厳密にいえば、あの謎の爆発に巻き込まれてから一度も2人を見ておらず、声も聞いた覚えがない。

 

と、みほはすれ違う一般人達が自分に向ける視線に、これまた異様なものを感じ取った。

なんと言うか、その・・・敵意?疑惑?嫉妬?

 

とにかく、ポジティブな感じではなく、陰湿さや嫌悪、恐れといったネガティブな感情を含んだ視線で、それがまた刺すようにチクチク痛いのだ。

物理的な痛みではないが、体中の皮膚を虫の群れが這い回るような不快な感触に変わり、みほは歩きながらもじもじと体をよじらせた。

 

様々な考えが去来しては新たな疑問が夜明けのように顔を出し、その度に無数の疑問の太陽が地平線を昇って行くので、既にみほの脳内はそれらの太陽光線によって焼き焦がされそうだった。

 

ひとまず、まずは自宅に籠ってシャットアウトし、友達が来るまでゆっくりする事にしよう。

今は、何も考えたくなかった。

 

しかし思考はアクセルを目いっぱい踏み込んだ自動車のエンジンのようにフル回転して考えるのを辞めようとしない。

 

「・・・やっと着いた・・・」

 

やがて自分が住むアパートの前に辿り着いたが、まるで何十キロメートルも歩いてきたかのように疲れ果てていた。

時間的には十数分程度、距離も数百メートル足らずの筈だ。

 

鉛のように重い足をいちいち引っ張り上げるように階段を上り・・・初めて階段を恨んだ・・・自宅として賃貸している部屋の扉の前に立った。

 

何度もポケットの中で引っかけてもどかしい思いをしながら鍵を引き抜くと、それを鍵穴に差し込もうとした。

 

その直後、右から

 

「すみませーん!西住みほさんのご自宅ですかー?」

 

ハッとしてそちらに顔を回すと、巨大なボコ人形を抱えた運送業者のおじさんが立っていた。

 

・・・そう言えば、夕方の指定で特大ボコ人形の配達を頼んでいたっけ。

 

なんだか急に心が和んで、みほは笑顔で配達員に応じる。

 

「あ、はい。そうです!うわー、かわいい!」

「中に運び込みますので、すみませんがドアを開けて貰えますか?」

「はい!」

 

みほは今度こそ鍵穴に自宅の鍵を差し込み、回転させてロックを解除した。

そして、

 

「どうぞ!」

 

と言って配達員が入れるように取っ手を掴んで押し下げると、ドアを大きく開いた。

 

と、その瞬間、出し抜けに大爆発が起こり、玄関から吹き出て来た火炎が配達員を直撃し、爆風はドアを凄まじい力で枠から外してしまうと、みほごと廊下の向こう側へ投げ飛ばした。

 

おかげでみほは暫くドアの下敷きになってもがく羽目に陥ったが、どうやら近くに来ていたらしい優花里と華が爆発音を聞いて駆けつけてくれたらしく、ドアを引き起こして壁に立てかけてくれた。

 

「西住殿!お怪我は!?」

「ちょっと体が擦れたかも・・・でも大丈夫」

「でも手当をしなくては・・・何があったのですか・・・?」

「て言うかあれ、西住殿のご自宅では・・・!?」

 

華が悲鳴交じりに息を呑んだ。

 

「あ、誰か倒れています!」

 

それは特大ボコ人形を配達しに来た業者のおじさんだった。

炎に包まれており、ピクリとも動かない。

 

「急いで助けないと!」

 

秋山は近くにあった消火器を掴むと配達員に駆け寄り、消火剤を噴射して体中の炎を鎮火すると、後から走って来たみほと華に、

 

「早く!火から遠ざけて下さい!」

 

みほと華は手分けして、一方が右の脇腹の下、もう一方が左の脇腹の下を抱えて廊下を引っ張り、火災から遠ざけた。

その間、優花里はボンベ内の消火剤をありったけみほの部屋の中に噴射していたが、無くなると戻って来た。

 

「消防を呼びます」

 

華が携帯電話で119番を押して消防に通報する間、みほと優花里は配達員の容態を確かめた。

重度の火傷を負っているが、どうやらまだ息はある・・・処置が早ければまだ助かるかもしれない。

 

「西住殿・・・」

 

みほは優花里と顔を合わせたが、互いにどう言っていいか分からず、その場に立ち尽くした。

 

同じ頃、この様子を別の建物から双眼鏡で観察していたエルヴィンは、双眼鏡を下ろして悔しそうに歯ぎしりしながら小さく舌打ちした。

 

「シャイセ・・・!」

 

 

 

続く

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