ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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結末

分かっていた事とは言え、砲火は苛烈を極めた。

加えて聖グロ側の砲弾は実弾だ、貫通されるとただでは済まない。

 

「きゃっ!」

 

次弾をラックから引き抜こうとして2ポンド砲の直撃で揺れる車内に翻弄された沙織が悲鳴を上げた。

 

「沙織さん!しっかり!」

 

みほが気遣いと叱咤激励を兼ねて声を掛けると、沙織もすぐに動揺から立ち直って体中の力を総動員して徹甲弾を引き抜いて装填した。

 

「沙織さん、すみません」

「ゆかりんは休んでて!」

 

そうは言われても、優花里は動く右手で潜望鏡を握り、周囲を観察する。

 

「3時方向からマチルダⅡ二両!」

「よしきた!」

 

麻子が砲塔の動きの遅さを車体の旋回で補う。

華も脳内補正計算で停止と同時にマチルダⅡの片方を素早く捕捉し、『練習弾』をぶち込む。

装甲の薄い部分に当たったマチルダⅡは停止して白旗を上げる。

 

その僅か3秒後に、もう1輌のマチルダⅡも無力化された・・・乗員が車外に出ると、白旗の収容作業を行い、やがてⅣ号に『撃破』されたマチルダⅡが戦線に復帰して再び発砲してきた。

 

「これではキリがありません・・・!」

 

華のこめかみを脂汗が一筋伝い落ちる。

他の大洗車輛もみほの意思を尊重して練習弾を使っているが、同じように乗員達は白旗の収容作業をしている。

大洗側もそうはさせじと機関銃の威嚇射撃で牽制しているが、聖グロ側は味方車輛が盾になって『撃破』車輛を守り、その間に『撃破』車輛の乗員が外に出て復帰させているのだ。

 

「まるでゾンビ戦だな・・・」

 

麻子の声もさすがに動揺を隠せない。

 

みほは一瞬迷ったが、

 

「沙織さん!実弾を装填してください!」

「ええ!?みぽりん正気!?」

「勿論乗員は殺しません。考えがあります」

「分かった」

 

麻子の返答を合図に、沙織も

 

「オッケーみぽりん!」

 

と言って実弾の徹甲弾を抜いて装填した。

 

そこへ園の声が、

 

『どうすんのよ!これじゃ私達が全滅しちゃうわ!』

『みほ、どうする?』

「皆さん!実弾の使用を許可します!但し!狙うのはエンジンにしてください!乗員の殺傷は禁止します!」

『随分と簡単に言ってくれるわね・・・でもいいわ!』

「麻子さん!」

「おうよ!」

 

麻子はⅣ号を急加速させると、2輌のマチルダⅡの間を一気に駆け抜けた。

マチルダⅡ部隊も驚いて幅を狭めようとするも間に合わず、互いのフロントをぶつけ合う。

 

後ろに回り込んだⅣ号は、1輌ずつ確実にマチルダⅡの車体後部を狙って射撃、エンジンを的確に撃ち抜かれた2輌のマチルダⅡは炎上しながら停止したが、両車の乗員は全員無事だった。

 

そのⅣ号に向かって、3輌のクロムウェルが殺到していく。

 

 

「西住隊長!Ⅳ号が!」

 

ポルシェティーガーでは、索敵監視をしていた通信手がまほに妹チームの危機を知らせていた。

 

『真ん中のクロムウェルを仕留める!』

 

敵は斜め隊形でⅣ号に迫りつつある。

Ⅳ号は先頭のクロムウェルに対処しようとしていたが、その間に他の2輌のクロムウェルに包囲されそうだ。

 

「準備完了!」

 

砲手が報告したが、まほは死角から来るコメットに気付いていた。

 

「7時後方!バックしてコメットに体当たり!」

 

操縦手は体で命令に反応し、ポルシェティーガーをバックさせてコメットにぶつかって相手の向きを変えて砲撃も逸らせる事に成功した。

 

「よし・・・撃て!」

 

ポルシェティーガーの88mm徹甲弾は真ん中のクロムウェルの車体後部を側面から貫き、行動不能に陥れた。

ポルシェティーガーに気付いた最後尾のクロムウェルは、停車してポルシェティーガーに応戦しようとする間違いを犯した。

横腹を晒したままの停車はポルシェティーガーにとって的でしかなく、あっという間にこれも無力化される。

 

先頭のクロムウェルは、あんこうチームのフェイントですれ違いを起こし、素早く超信地旋回させたⅣ号が、砲塔だけ動かそうとするクロムウェルの車体後部に浣腸の要領で徹甲弾を叩き込んでしまった。

 

まほは称賛の微笑を浮かべた。

 

「さすがだ、みほ・・・」

 

 

ブラックプリンスの17ポンド砲の徹甲弾が砲塔を掠める肝が縮む思いをした後、みほは優花里に尋ねた。

 

「ポイントまでの時間は!?」

「あと50秒です!」

 

その時、ひと際激しい振動がⅣ号車内を襲い、急にみほ達は右から左にかけて襲う急回転に襲われた。

 

「何が起こったのですか!?」

 

華が言うと、麻子が

 

「右の履帯がやられた!起動輪ごとやられたかもしれない!」

 

 

その様子はまほも目撃していた。

動けなくなったⅣ号に、ブラックプリンスやマチルダⅡが弱った獲物の血の臭いを嗅ぎつけたサメの群れのように群がろうとする。

 

「Ⅳ号をポイントに戻す!行くぞ!」

 

 

「どうするどうする!?」

 

沙織が半ばパニック状態で叫ぶと、みほが沙織の肩を力を込めて掴む。

 

「沙織さん落ち着いて!」

「ブラックプリンスが来ます!さすがに厳しいです・・・!」

 

それでも履帯を狙って発砲する華だが、徹甲弾はブラックプリンスの分厚い砲塔に当たって弾き返された。

 

『みほ!ポイントに戻す!衝撃に備えろ!』

 

まほの声に左の覗視孔に目を向けると、猛烈な勢いでポルシェティーガーが向かって来るのが見えた。

 

まほは操縦手に、

 

「モーターボタン用意!」

 

それは自動車部がポルシェティーガーのモーターに過負荷を加える代わりに更なる急加速を促す赤い加速用ボタンだった。

 

「いつでも!」

「行け!」

 

ポルシェティーガーはモーターの異様な叫び声を上げながら更に加速し、撃って来たブラックプリンスやマチルダⅡの弾丸を後ろに出し抜いて一気に間合いを詰め、ブラックプリンスの車体後部を撃ち抜きながら隊列の反対側に飛び出すと、履帯が外れそうな勢いで車体を振ってⅣ号に向き直り、再び加速してⅣ号を押して元の位置に押し戻した。

 

聖グロも、ブラックプリンスを撃破されて動揺したのか、その一連の動きを傍観しているだけであった。

しかしその後、通信で叱咤されたのか隊列を組み直して攻撃を再開し始めた。

 

 

「何をしているのかしら・・・」

 

チャレンジャーⅡの攻撃をかわして応戦しながら、しほはポルシェティーガーの行動に首を傾げていた。

それは元の世界に帰す為のポイントにⅣ号を戻す行動だったが、そんな事は勿論しほに分かるはずがない。

 

「まあいいわ。チャンスね」

 

砲手に、「まずはポルシェティーガーよ。動けないⅣ号は最後にやる」

 

「了解」

 

高度に自動化された10式戦車は、発射シークエンスを5秒以内に終えた。

照準装置はポルシェティーガーに食らいついて離れなかった。

 

あとはチャレンジャーⅡ部隊の隙を突いて発砲するだけだが、その機会はあと数秒で訪れそうだ。

 

 

「みほ!準備はいいか!?」

『うん!あと20秒だよ!』

「分かっている」

 

砲手を見ると、相手は軽く頷いた。

 

 

遂にその時が来た。

 

「撃て!」

 

10式戦車の120mmAPFSDSが放たれ、ポルシェティーガーの胴体の真ん中を横から貫いた。

 

 

「ああっ!!」

 

みほの両目が恐怖と衝撃で見開かれた。

 

「嘘だろ!」

 

麻子も叫ぶ。

このままではポイントに到達しても砲弾の衝突で『あの現象』を引き起こす事が出来ない。

マチルダⅡの至近弾で揺られながら、みほは咽喉マイクに触れた。

 

 

『お姉ちゃん!お姉ちゃん!』

 

薄れかけていた意識は、妹の必死の呼びかけで引き戻された。

まほが周囲を見ると、砲手や装填手は血塗れで動かない。

まほ自身の両足も激しい痛みがあり、やはり赤く染まっている。

 

だが、上半身はまだ動く。

急いで潜望鏡でⅣ号を見ると、みほがハッチを開いていた。

 

すかさずまほは鋭く、

 

「来るな!」

『お姉ちゃん・・・』

「戻るんだ、みほ」

 

今度は優しくそう言うと、妹の体が躊躇いながら、再びⅣ号の中に消えた。

 

まほは徹甲弾の1発に手を伸ばしながら、

 

「みほ、準備しろ」

 

全ての力を結集して装填し、砲塔を動かす。

Ⅳ号の75mm砲の砲口と『目が合う』。

 

「よし・・・」

 

まほはⅣ号に通信を送る。「撃て!」

 

 

2輌の砲弾がぶつかり合い、炸裂した。

その直後、あの謎の火球がみるみる膨張し、やがてⅣ号を包み込んだ。

 

まほも薄れゆく意識の中でその現象を目撃し、満足げに目を閉じて深呼吸した。

 

 

 

どれだけ時が経ったか。

 

みほはエンジンの音すら聞こえない耳鳴りするほどの静寂に息を詰めていた。

不安になって隣を見ると、華と沙織も同じように息を詰めて様子を窺っている。

 

「華さん、沙織さん」

「あ、はい!」

「ふぇい!」

 

二人がびっくりして返答すると、みほは安堵し、

 

「麻子さん、優花里さん」

「なんだ?」

「はい、傷口は大丈夫です・・・ぐう」

「優花里さん、安静にしててね」

「すみません」

「あら?パンツァージャケットが・・・」

 

華の言葉に自分の服を見ると、長ズボンはあの白いミニスカートに戻っており、デジタル迷彩も消えて上着は紺色に戻り、二の腕部分にあった狂暴な絵柄のあんこうチームのシンボルマークの刺繡は消えて無くなっていた。

 

そう、元のパンツァージャケットに戻っていたのだ。

 

ただ、優花里の傷が残ったままなのが不安を煽る・・・まあ、ここまではさすがに無理だろうが・・・

 

みほは躊躇いがちにハッチに手を掛けると、最初は恐る恐る、それから思い切って開いて顔を出した。

 

その時、後ろから角谷の安堵と喜びの声が、

 

「おかえり、西住ちゃん!」

 

 

 

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