ガールズ&パンツァー/鏡像世界からの脱出   作:ミハイル・シュパーギン

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侵入者と封筒

「・・・ん?」

 

外の気配に、優花里支給のブランケットを被って壁にもたれかかっていた麻子は敏感に目覚めたが、こちらの動きを悟られぬよう、目だけを動かして窓の外を窺った。

明け方とは言え、太陽がまだ顔を半分も出していないので暗闇が優勢だが、視力2.0を誇る彼女には辛うじてだが生垣を越えて庭に侵入してきた人間のシルエットを捉える事が出来た。

 

ただ、念の為に顔も動かしていないので、目の端で視認せざるを得ず、はっきりとは分からなかった。

目を動かして部屋中を確認したが、他の4人は眠り込んでいた。

沙織の順番だった筈だが・・・と思いつつ、もう一度庭の様子を窺う。

ブランケットの下には、これまた優花里支給のM24型柄尽き手榴弾のレプリカが仕込まれており、それをゆっくりと右手に掴む。

レプリカだが重さが再現されており、595gあるので鈍器になるだろう。

 

だが、人影は屈んで何かを置くと用が済んだらしく、猫のような身のこなしで再び生垣を飛び越えて姿を消した。

 

「・・・どうやってトラップを・・・?」

 

あそこにはトラバサミが仕掛けられていた筈であり、目につきにくいよう擬装してある。

相手はそれを掻い潜って何か残していった・・・ひょっとして、『この世界』における自分達の協力者か?

それとも利害が一致した者同士か?

 

それはさておき、麻子は静かに体を起こすと、壁につけて強張っていた背中の筋肉を解しながら外の様子を数秒間確認すると、窓を開けて人影が屈んだ場所を見下ろした。

するとそこには長形四号の茶封筒が置かれており、仕掛けが無い事を確かめてから拾い上げ、また静かに窓を閉めた。

 

「麻子~?」

 

後ろで沙織が目をこすっていた。「珍しく早起きだね~?」

 

「見張りが寝てどうする沙織」

「ごめん。堪えきれなくて・・・」

「ここで油断は死を招くぞ」

 

その言葉に沙織はドキリとしたらしく、あっという間に覚醒して麻子をまじまじと見つめた。

2人の会話で残りの3人も次々と目覚めたが、華と優花里はあまり回復出来なかったと見えて動きはノロノロとして遅く、欠伸したり伸びをしたりした。

まあ無理もない。

交代で慣れない見張りをしていたのだから。

 

「おはよう」

 

麻子が挨拶すると、みほが上半身を起こして顔を上げた。

 

「おはよう麻子さん」

「西住さん。よく眠れた?」

「うん。でもなんだか陰鬱・・・」

「無理もない。でも西住さん。1つ忠告があるんだ・・・まあこれは、我々あんこうチーム全員に言えるのだが」

「え?」

「何でありますか?」

「どういう事ですか?」

 

麻子は4人をじっくりと見回して注意を引くと、

 

「この状況に適応し、情報を集めるには野蛮になるしかない」

 

華が目をぱちくりさせた。

 

「野蛮・・・って、どういうわけです?」

「今日中に説明する華さん。まずは私の忠告に従ってほしい」

「えー。今説明してよ」

 

沙織が不満そうに口を尖らせるが、麻子はきっぱりと、

 

「ダメだ沙織。まだ・・・確信が持てないんだ。いい加減な事は言えない」

「じゃあ、今日中で」

 

みほが結論付けてからは朝の支度にかかり、昨夜から何も食べていなかったという事で、優花里持参のレーションで朝飯となった。

本当は沙織が料理係といったところだったが、今はそれどころではなかたのである。

 

「ところで」

 

嚙み砕いたストロベリージャム付きのクラッカーを冷蔵庫から出した紅茶で流し込むと、麻子は例の話を切り出した。

 

「実はさっき、誰かが庭にこれを置いて行った」

 

そう言って例の茶封筒を卓袱台の真ん中に置かれると、全員の視線がそれに集中される。

 

「麻子さん、見ていたのですか?」

「暗くて正体は分からなかったが、庭のトラバサミトラップを掻い潜って置いて行った。トラップの配置に詳しいらしい」

「でもどうして?」

「我々の協力者かもしれない」

「協力者・・・でありますか?」

 

麻子は優花里に目を転じた。

 

「ああ。でも、結論を出すのにもう少し時間をくれ」

「はあ」

「麻子、やっぱりもったいぶってるわ」

「そんなに簡単な話ではないんだ」

「麻子さんがそう仰るのなら、待ちましょう沙織さん」

「そうね華。私の頭じゃ分かんないし」

「いや、寧ろ混乱する方が自然だ」

 

麻子はそう言いながら立ち上がって自分の机からハサミを取って来ると、茶封筒を取って上側を細く真っ直ぐに切り取って封を開けてから、それを逆さまに引っ繰り返して2度振ると、3つに折り畳まれたA4用紙が滑り出て来た。

開いて中身を読むと、麻子の表情が険しくなり、みほに差し出した。

 

「西住さん。かなり事態は深刻だ」

「・・・え?」

 

麻子の只ならぬ様子に急いで書類を受け取ると素早く中身に目を通し、その内容に息が早くなった。

 

「みほ!?」

 

沙織が身を乗り出しかけたが、華がその腕を抑えた。

 

「これ見て・・・」

 

みほは書類を回してみんなに見えるようにした。

その瞬間、3人も絶句して映像の一時停止のように動きが硬直した。

 

そこには、

 

『澤くんを風紀委員が逮捕した。容疑は西住くんの暗殺未遂。これから尋問を始める』

 

と書かれており、その斜め下に記載のサインは角谷会長のものであった。

 

 

 

続く

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